「さ、さっきも言ったが、娘2人がいつもお世話になって……」
「あ、いえ……こっちこそ、娘さんに度々ご馳走になって……」
「…………」
「…………」
気まずい。
何を喋ればいいのかわからない。
リビングのテーブルで向かい合う俺と平沢父は、部屋のあちこちに視線を彷徨わせ、まだ碌に話せていなかった。
たまに視線がぶつかっても、すぐに逸れてしまう。
「もう二人共、緊張しすぎだよ?」
テーブルにお茶を置きながら、憂が呆れたような笑みを向けてくる。
しかし、ここでその姿を見てしまうと、以前裸を見てしまった時の事を思いだし、ただただ申し訳ない気持ちなった。
とはいえ、このままなのもどうかと思うので、まずはこっちから話しかけてみる。
「あの……2人のライブを観たことはあるんですか?」
「え?あー、実はまだないんだよ。君も知っての通り、海外にいることが多くて、こっちにいる間も中々時間が取れなくてね」
「そうですか……」
「その……君は音楽の専門学校に通っていたらしいけど、君から見て、娘2人の演奏はどうなのかな?」
「2人共、才能は素晴らしいと思います。本当に」
「そ、そうかい……ありがとう」
「お父さん照れてる~」
「あ、当たり前じゃないか、可愛い娘2人が褒められているんだから!」
唯のからかいに、平沢父は照れ笑いで応じる。このやりとりだけで、平沢家の仲の良さが窺える。
頬が緩むのを感じていると、平沢父はオホンと咳払いし、居住まいを正した。
そのいきなりすぎる真剣な表情に、こちらもつい唾を飲み込み、背筋を伸ばす。
「じゃあ、お互いに緊張もほぐれてきたところで、本題に入ろうか」
「本題……ですか?」
何だろう?まさか、平沢父もギターを教えて欲しいとか?
平沢父は数秒間瞑目し、目を開けてから、一文字一文字噛みしめるように、ゆっくりと口を開いた。
「君は……どっちと付き合っているんだい?」
「…………え?」
「はにゃぁっ!?」
「お父さん!?」
「あらあら、あなたったら気が早いんだから」
平沢父の眼鏡がキラリと光り、唯と憂が驚き、平沢母が頬に手を当て、ウフフと笑う。
確かに誤解をされても仕方ないかもしれない。しかし、俺は2人に指一本も……は、裸は見たけど……。
とにかく俺は事実を口にする。
「あの……どちらともそういう関係ではありません」
「「…………」」
間違いなく睨まれたけど、今は気にしないことにする。
平沢父は、ふむふむと何度か頷いた。
「じゃあ、質問を変えよう」
「はあ……」
な、何だろう、次は……。
「……ぶっちゃけ、どっちがタイプかな?」