「……両親?」
「「はい♪」」
感動的な新入生歓迎ライブを終えた後、帰り支度を整えてから、平沢姉妹がやけにニコニコと笑顔で話しかけてきたのだが……
「あの、私達が江崎さんからギターを習ったり、機材を貸してもらったりしてる話をしたら、お父さんもお母さんも、お礼しなきゃって……」
憂の言葉に、俺はつい首を傾げてしまう。
……むしろ、食事を娘さんから度々御馳走になっていて、お礼しなきゃいけないのはこっちなんですが。
それに何より、得体の知れない男が思春期真っ盛りの娘の周りをうろちょろしてるとか、あまりいい顔をされない気が……いや、別にうろちょろとかしてないけど。
「江崎さんは変な人なんかじゃないよ!」
「うん、唯……中途半端に心を読むのは止めような。まあ、俺はお礼とかは別に……」
「「…………」」
やたら瞳を潤ませてくる二人に言葉が継げなくなってしまう。それは……反則じゃないかな?
「わ、わかった。じゃあ、近い内に挨拶だけ」
「じゃあ、今晩とかどうですか?」
「ああ、今晩ね……って今晩!?いきなりすぎだろ!」
「その反応だと、空いてるようですね」
「じゃあ、私がお母さんに電話しとくよ~」
「あっ、そういえば今日はバイトが……」
「「嘘つき」」
「ごめんなさい……」
こうして、平沢姉妹の両親との初顔合わせが、いきなり決定してしまった。もう少しライブの感動にじっくり浸っていたかったのだが、仕方ない。時間は流れていくのだから。
一人でうんうんと頷いていると、憂が耳元に顔を寄せてきた。
「大丈夫ですよ」
「?」
「私達の裸を見たことは言ってませんから」
「っ!」
「……か、顔そんなに紅くしないでくださいよ」
「いや、思い出させたのそっちだから」
「むぅ~~……フンス!」
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「あら~、いらっしゃ~い」
「ど、どうも……」
そのまま平沢姉妹に連れられ、もうすっかり通い慣れた平沢家の玄関の扉が開かれると、パタパタとスリッパの音を鳴らしながら、穏やかな笑みを浮かべた女性が出迎えに来た。多分、この人が平沢母だろう。
「あなたが江崎さん?うちの娘達がいつもお世話になってます」
「あ、いえ……こちらこそ……二人には……」
「まあまあ。立ち話もなんだから、早く入りなさい」
「あ、お父さん。ただいま~」
奥からひょっこり顔を出している眼鏡をかけた男性はおそらく……平沢父だろう。
心の準備がまだ整っていないが、俺は頭を下げ、ゆっくりと靴を脱いだ。
この前のステージとは比較ならない緊張感が胸を締め付けていた。