「へえ……」
数曲のセッションを見た後で、さわ子さんが感嘆の吐息を洩らす。合宿の成果が現れているようだ。特に唯のギターの成長速度がハンパない。リズムに関してはサビになると歌に集中しすぎるせいで、たまにルーズになっていたが、今日の演奏はカッチリとはまっていた。
憂もそんな姉の様子を嬉しそうに眺めている。
澪も手応えを感じたのか、手の甲で汗を拭いながら、笑顔で頷いていた。
さわ子さんが楽しげに耳打ちしてくる。
「いい感じじゃない。あんた、意外と指導者にも向いているかもね」
「いや、俺は大したことはしてませんよ。唯達のモチベーションが高いからだと思います」
「またまた~謙遜しちゃって♪生意気な!」
さわ子さんに髪の毛をわしゃわしゃとかき回される。
「ちょっ、止めてくださいよ。何してんすか」
「いいからいいから♪」
何ウキウキしてんだ、この人。
俺じゃなくてあっちにいる生徒に……
「むぅ~」
「じぃ~っ」
唯と憂がこちらにジト~っとした視線を向けている。ほら、先生お呼びですよ?
「ほらほら、唯、憂、もう一回合わせるぞ」
「そっちの方は後にしてください」
「ふふっ、二人共可愛い♪」
「やれやれ、青春しちゃって」
他のメンバーに言われ、二人は真面目な顔つきになり、再びセッションを始める。
その表情を、その演奏をこの場で見れて、本当によかった。そう思える合宿だった。
*******
「……何故にメイド服」
合宿から帰り、数日後……新入生歓迎ライブの本番前。
体育館の舞台袖。メイド服を着用した女子高生が6人、俺の前に整列している。断っておきたいのは、俺の指示じゃないということ。
「もちろん、さわちゃんが作ってくれたんだよ!」
唯がフンス!と気合いを入れながら、衣装を見せびらかしてくる。
「初めての時とは違うやつなんだよ!」
「ほらほら、江崎さん!女子高生のメイド服姿をしっかりその目に焼き付けといた方がいいですぜ!」
「え?あ、うん……わかった」
「二人共、はしゃぎすぎだ」
「本番前なんですから、気を引き締めてください!」
「新入生達も待ってるわ」
「お姉ちゃん、髪飾りがちょっとずれてるよ」
やや緊張感にはかけるが、これはこれで頼もしい。
「皆、準備はいい?」
さわ子さんがメンバーに声をかける。すると手拍子が鳴り始め、会場内のボルテージの上昇が伝わってきた。
6人の視線がこちらを向き、伝えるべき言葉を探す。
幸い、それはすぐに見つかった。
「じゃあ、楽しんで」
「「「「「「はい!!」」」」」」
彼女達は頼もしい背中を見せ、ステージへと向かった。