「江崎さん、大丈夫ですか?」
朝食のあじの開きをつついていると、澪が心配そうに聞いてくる。隣では梓も同じような表情でこちらを見ていた。
「あ、ああ、俺は大丈夫。ただ……」
「「…………」」
唯と憂がお互いにちらちらと顔色を窺っては、目を逸らす。ケンカというほど険悪でもないが、少し気まずい感じはある。
こうなった理由は今から30分前……
『お姉ちゃん、だめだよ!めっ!』
『な~に~?』
『男の人の布団の中に入るなんて!お姉ちゃんのエッチ!』
『な、な、何ですと!?』
『お姉ちゃんのエッチ!』
『う、憂だってエッチだよ!』
『どこが?』
『夜に二人っきりで話してたじゃん!』
『は、話してただけだよ!』
『むむむ……』
『むぅ~……』
『……そろそろ起きた方が良くない?』
てなわけで朝から平沢姉妹の非常に小規模な諍いが起こっている。とはいえ、このほんわか姉妹の事だから、朝食が終わる頃にはすっかり仲直りしてそうだけど。またチラ見し合っているし。
「しかし、これが後の大きな争いに火種となるのでした」
「紬、人の心を読んだ上、変なナレーションを付け加えるのは止めてくれ」
「う~ん、唯先輩と憂かあ……本当にどうなっちゃうんだろ……」
「梓?どうかしたのか?」
「え?澪先輩……まさか、気づいてないんですか?」
「え?何の話だ?」
「あはは……」
「梓、その辺にしといてやれって。どうせもう仲直りしてるし」
「え?」
律の言葉通り、ちょっと目を話している隙に、姉妹は仲良く談笑しながら朝食を摂っていた。
「ん?江崎さん、どしたの?」
「どうかしました?」
「いや……」
何事もなかったかのように二人はキョトンとした表情を向けてくる。何だろう、普段は正反対の癖に、こういう時は姉妹なんだなぁって思えてくる。首を傾げる時の角度や口の開き方が同じ所とか。
まあ、これはこれで釈然としないが、仲良き事は美しき哉って事で。
*******
朝食の後片付けを終え、練習を開始しようとスタジオの扉を開くと、見覚えのある人物が仁王立ちしていた。
「さあ、皆!今日も張り切って練習するわよ!」
「いや、さわ子さん。突然現れないでくださいよ」
冷たくあしらおうとすると、さわ子さんは俺の腕に縋りついてきた。
「何よう!私だって楽しみたいのよ!僅かな休日をエンジョイしたいのよ~!それに、か弱い教え子の中に狼を解き放ったままにはしておけないでしょう!?」
「…………」
うわぁ、すげえ殴りたい。
こうして、山中さわ子も合宿に無事(?)合流した。