ROCK-ON!   作:ローリング・ビートル

27 / 46
little by little

 憂の瞳が僅かに揺れている。

 そこには夜の星が小さく輝いていた。

 何とも言えない、はっとするような美しさに、

 どのくらいそうしていたかはわからないが、彼女の口が、続きを紡ぎ出した。

 

「す、好きな……」

「…………」

「好きな……曲、教えてくださいっ!!」

「……あ、うん……」

 

 ……何だろう、この感じ。

 別に変な事を期待していたわけじゃないけれど、物凄く肩透かしを喰らったような……やっぱり期待していたのか?

 憂は憂で、何故か頭を抱えている。

 

「何やってるんだろう、私……せっかくのチャンスだったのに……いや、でもお姉ちゃんが……」

 

 ぶつぶつ小さく呟いているが、よく聞こえない。

 すると、憂はばっと顔を上げた。

 

「そ、それで!質問なんですけど!」

「わ、わかった。わかったから!」

 

 いきなり顔が近くにきたので、つい後退ってしまう。当たり前のように、いつも一緒に食事をしていたせいか、憂の可愛さをしっかり意識する機会が少なかった。……裸は見たんだけど。

 

「……な、何考えてるんですか!もう、ばか!」

「いや、いきなり心を読まないで」

 

 *******

 

「むぅ……何話してるのかなぁ」

 

 *******

 

 目を覚ますと、そこには見慣れない何かがあった。

 

「……何だ?」

 

 よく見れば肌色のようだ。

 すぐ目の前にあるので、特に手を伸ばす必要もない。

 

「う~ん……」

 

 今度は声が聞こえてきた。

 かなり甘めなトーンで、まだ夢の世界にいるようなふわふわした声だ。

 しかし、その声は聞き覚えがあり、こっちの頭の中はすぐに覚醒し、現状を理解する。

 

「ゆ、唯?」

 

 少し目線を上げると、そこには唯の寝顔がある。

 目の前の肌色は、憂と比べて少し控え目な胸元のようだ。

 

「う~ん、ギー太~」

 

 俺の頭を抱え込むように寝ている理由は、俺をギー太と間違えているからか、目の前の肌色がさらに迫ってきて、視界を覆い尽くした。

 

「ゆ、唯!?」

「う~ん、あと一曲だけだから~」

 

 髪をわしゃわしゃとされる。どかそうにも、がっちり掴まれていて、中々離れてくれない。うっかりベッドから落としてしまってもいけない。

 

「ふわぁ……」

「!」

 

 顔全体に柔らかいものを押し当てられ、心臓がバクバク鳴り出す。この薄い布の下にあるものを思い出してしまった。

 

「んぅ……」

 

 こちらが動けないでいると、唯がもそもそと動き出す。どうやらお目覚めのようだ。

 

「おはよ~、ギー太……あれ?ギー太?」

 

 唯はぼんやりとした顔で俺の顔を覗き込みながら、ペタペタと頬に触れてくる。

 そして、ふにゃっとした柔らかい笑顔を浮かべた。

 

「……江崎さん、おはよ~」

「え、普通に挨拶?」

 

 あまりに落ち着いたその態度にこちらがテンパっていると、いきなりドアが開かれた。

 

「江崎さ……お、お姉ちゃんっ!?」

 

 合宿二日目もどうやら騒がしくなりそうだ。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。