憂の瞳が僅かに揺れている。
そこには夜の星が小さく輝いていた。
何とも言えない、はっとするような美しさに、
どのくらいそうしていたかはわからないが、彼女の口が、続きを紡ぎ出した。
「す、好きな……」
「…………」
「好きな……曲、教えてくださいっ!!」
「……あ、うん……」
……何だろう、この感じ。
別に変な事を期待していたわけじゃないけれど、物凄く肩透かしを喰らったような……やっぱり期待していたのか?
憂は憂で、何故か頭を抱えている。
「何やってるんだろう、私……せっかくのチャンスだったのに……いや、でもお姉ちゃんが……」
ぶつぶつ小さく呟いているが、よく聞こえない。
すると、憂はばっと顔を上げた。
「そ、それで!質問なんですけど!」
「わ、わかった。わかったから!」
いきなり顔が近くにきたので、つい後退ってしまう。当たり前のように、いつも一緒に食事をしていたせいか、憂の可愛さをしっかり意識する機会が少なかった。……裸は見たんだけど。
「……な、何考えてるんですか!もう、ばか!」
「いや、いきなり心を読まないで」
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「むぅ……何話してるのかなぁ」
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目を覚ますと、そこには見慣れない何かがあった。
「……何だ?」
よく見れば肌色のようだ。
すぐ目の前にあるので、特に手を伸ばす必要もない。
「う~ん……」
今度は声が聞こえてきた。
かなり甘めなトーンで、まだ夢の世界にいるようなふわふわした声だ。
しかし、その声は聞き覚えがあり、こっちの頭の中はすぐに覚醒し、現状を理解する。
「ゆ、唯?」
少し目線を上げると、そこには唯の寝顔がある。
目の前の肌色は、憂と比べて少し控え目な胸元のようだ。
「う~ん、ギー太~」
俺の頭を抱え込むように寝ている理由は、俺をギー太と間違えているからか、目の前の肌色がさらに迫ってきて、視界を覆い尽くした。
「ゆ、唯!?」
「う~ん、あと一曲だけだから~」
髪をわしゃわしゃとされる。どかそうにも、がっちり掴まれていて、中々離れてくれない。うっかりベッドから落としてしまってもいけない。
「ふわぁ……」
「!」
顔全体に柔らかいものを押し当てられ、心臓がバクバク鳴り出す。この薄い布の下にあるものを思い出してしまった。
「んぅ……」
こちらが動けないでいると、唯がもそもそと動き出す。どうやらお目覚めのようだ。
「おはよ~、ギー太……あれ?ギー太?」
唯はぼんやりとした顔で俺の顔を覗き込みながら、ペタペタと頬に触れてくる。
そして、ふにゃっとした柔らかい笑顔を浮かべた。
「……江崎さん、おはよ~」
「え、普通に挨拶?」
あまりに落ち着いたその態度にこちらがテンパっていると、いきなりドアが開かれた。
「江崎さ……お、お姉ちゃんっ!?」
合宿二日目もどうやら騒がしくなりそうだ。