「よし、休憩しよう!」
俺が手を叩きながら言うと、それを合図に全員がぐったりと床にへたり込む。
エアコンは効いているはずなんだけど、音が飛び交い、一つの曲になるこの空間の熱気にはあまり効果がなかったようだ。演奏していないこっちも汗だくになっていた。
「江崎さん……アイス」
唯はギターを抱えたまま、仰向けになっている。
「こら、唯」
「私も~」
「律まで!」
「いいよ。取ってくる」
この子らの演奏を特等席で、金も払わずに聞けているのだから、アイスを取ってくるくらい安いもんだ。
「あ、私も手伝います!」
座っていた憂が慌てて立ち上がりかけたが、それを手で制する。
「いいよ。午後からはさらに練習するから、今のうちに休んだ方がいい」
「え~!?」
「プールの時間は!?」
唯と律が立ち上がり、抗議してくる。
「ない」
「ないな」
「ないです」
俺、澪、梓がそれを一蹴し、二人は崩れ落ちた。
「あはは、お姉ちゃん……」
憂が苦笑いしながら唯の頭を撫でる。うん、やっぱりどっちが姉だかわからない。
「たまには練習しながら拝む朝陽もいいと思うんだけど……」
『…………』
俺の発言は、全員の冷たい沈黙でかき消された。あれ?おかしいな。
*******
何だかんだ言いながら、午後からも練習に対する熱は冷める事はなかった。むしろ集中は高まり、あまりの一体感にはっとするような至福の瞬間も、時たま生まれていた。
「今のすごくよかったよね!!」
唯が喜び跳ね回る。こういう事に気づくようになってきたのもいい事だ。
「よし、今の曲最初から通そうぜ~!」
律が先ほどとは打って変わった発言で、その場を仕切る。こうなってきたら走りやすいから、そこさえ注意してくれたらいいんだけど……。
「江崎さんも一緒に弾きませんか?」
「え?」
憂がそんな事を言いながら、既ににっこり笑顔でギターを差し出してきている。
「……わかった」
断る余裕などどこにもなかった。まあ、そもそも断る理由もないから別にいいんだけど。
「ほら、はやくはやく~」
律がバスドラで急かしてくる。
「りょ、了解」
俺は急いで準備し、この心地よいグルーブに混じれるよう、曲を頭の中でリピートしまくった。
*******
全員で夢中になってセッションしていたら、いつの間にか外は暗くなっていた。
「お腹空いた~」
唯が再び寝そべる。今度は本当に限界のようだ。澪と梓の真面目コンビも、その顔に疲れを滲ませている。
「じゃあ、急いで作るから待っててね」
さっきまでミュージシャンモードだった憂は、いつの間にかエプロンを身に着けていて、完全に姉の面倒を見る良き妹モードになっていた。か、変わり身早いな。
「皆さん、すぐに仕度してきます」
バイタリティ溢れるその後ろ姿を、俺達は呆然と見送った。