「俺の家?」
「うんうん!」
「ど、どうなってるんですか?」
食事中、唯と憂が身を乗り出すようにして聞いてくる。一瞬喉が詰まるかと思ったが、何とか持ち直した。
「ど、どうって……普通の家だけど」
ギターが数本と機材が置いてあるだけで、あとは普通の家と変わりはない。最近は平沢家で食事を摂る事が多いせいか、冷蔵庫にあまり物が入っていないけど……。
唯がさりに身を乗り出してくる。
「お部屋汚れてるよね!じゃ、じゃあ、今度掃除に……」
「いや、それは……」
唯が掃除とか、さらに散らかりそうだし。
「ぶ~ぶ~!」
「お、お姉ちゃん、いきなりすぎるよ……」
憂が唯を宥める。さすが憂。
「こういうのは段階を踏まないと駄目だよ?」
違った。もっと計画的だった。
「いや、別に来るのはいいけど……面白いもんは何もないよ?」
俺ばっかり平沢家にお邪魔して、ここで断るのはフェアじゃない気がする。特にここ最近は毎晩御馳走になってるし。いや、一応材料費は半分払ってるけど。
「じゃ、じゃあ明日行きます!」
「明日!?」
つい驚きがそのまま声になって出てくる。さすがにいきなりすぎやしないでしょうか。
「あ、わ、私も!何なら今からでもいいよ!」
唯もはいはいと手を挙げる。
「いや、それは無理」
「ぶ~ぶ~!」
「あはは……」
今晩の予定が決まった。
とにかく全力で掃除をしよう。
*******
「ここが……」
「江崎さんの……」
古ぼけたアパートを見ながら、平沢姉妹は呆気にとられている。まあ、無理もない。彼女達の住んでいる家に比べたら……かなりボロい。その分家賃は安いけど。
自分の部屋の前まで行き、扉を開ける。
「「…………」」
二人が固まってしまった。
「ど、どうでしょうか?」
彼女達の視線の先には、ギターや機材で埋め尽くされ、真ん中に敷かれた布団以外、足の踏み場が殆どない部屋があった。……片付けたんだけどなぁ。
とりあえず三人で布団の上に座る。
「なるほど……やっぱり音楽が好きなんですね」
「ああ、つい手放せなくて……」
「でも……不便じゃないんですか?」
「そうだよ!何も出来ないじゃん!」
「あー、もう、慣れたかな」
実際、部屋の中で走り回るわけでもないし、最近は寝るだけの部屋になっているので、特に不便はない。
「「…………」」
二人はじぃ~ッと覗き込むように見てくる。どこか責めるようなニュアンスがあるのは気のせいだろうか。
そ、そこまでひどい状態になっているのか、住めば都なんだが。
そこで唯がポンと手を打つ。
「あの、私、これ借りてもいいでしょうか!」
唯は持ち運べるくらいの大きさのアンプに抱きつく。
なるほど、そういう事か。
「いいよ」
「じゃあ私はこれを!」
憂はセミアコを指差す。お洒落な見た目がお気に召したのかもしれない。憂には似合いそうだ。
「いいよ」
どうせアパートでは鳴らせないから、ちょうどいいかもしれない。
「じゃ、今から持ってくか」
「「ありがとうございます!」」
こうして俺の部屋は少しだけ広くなった。