ROCK-ON!   作:ローリング・ビートル

22 / 46
HAPPY

「新入生の皆さん!ご入学おめでとうございます!私達は放課後ティータイムです!」

 

 唯の言葉を合図にわっと歓声が上がり、体育館の空気を大きく震わす。相変わらず物怖じしない点は尊敬の念すら覚える。

 

「えー、本日はお日柄も良く……なんだっけ?」

 

 ……物怖じしない点だけはな。

 今日は5曲のみの演奏となっている。

1.カレーのちライス

2.Don't say lazy

3.GO!GO!MANIAC

4.Cagayake!Girls

5.ふわふわ時間

 唯と澪で話し合ったセットリストの受けは比較的いいようだ。曲を知らなかった新入生があそこまで盛り上がれるくらいだ。放課後ティータイムの楽曲と演奏のノリの良さが窺える。皆の演奏も大したミスはなく、楽しんでいるようだ。その中でも……

 

「憂……」

 

 やはりこの子が異彩を放つ。彼女がカレーのちライスのギターソロを弾いたのだが、皆が息を潜め、その演奏に聴き入っていた。ただの間奏ではなく、平沢憂の演奏するギターソロとして、素晴らしい存在感を放っていた。

 他の5人もそれを無意識に察知したのか、自然と熱が入る。

 5曲で終わらせるには惜しいくらいのライブだと心から思えた。

 

 *******

 

「お疲れ」

 

 部室に戻ってきた皆に労いの言葉をかける。

 

「やっほ~、江崎さん!」

 

 唯がこっちに駆け寄ってくる。あ、お前がいきなり走ったら……

 

「わわっ」

 

 案の定ずっこけそうになりながら、とっ、とっ、と片足で何とかバランスを取り、こっちに突っ込んできた。

 予想はしていたものの、椅子に座っていたのと、唯の勢いが予想より強かった為、思いきり倒れてしまう。

 

「…………!」

「きゃっ…………ん!」

 

 椅子から転げ落ち、唯が上に乗っかってくる。

 頬に一瞬だけ湿った温もりがぶつかってきた……気がした。

 

「お姉ちゃん!江崎さん!大丈夫!?」

「あ、ああ、なんとか」

「…………」

 

 幸い痛みはそんなにはない。

 

「唯~大丈夫か~」

「まったく。気をつけないと……」

「二人共、大丈夫?」

「まったく、何やってるんですか?」

「…………」

 

 憂に続いて他のメンバーが声をかけてくるが、唯は口元を押さえて動かない。少し顔が赤いようにも思える。

 

「唯?どうかしたか?」

「あわわわ!」

 

 唯はいきなり立ち上がる。黒ひげ危機一発ばりの跳躍力だ。

 

「ご、ご、ごめんなさい!」

「あ、ああ、大丈夫」

「はい!」

 

 唯が差し出してきた手を取り、ゆっくり立ち上がる。

 その手は小さくて、ひんやりしていて、でもどこか温かい。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。