「新入生の皆さん!ご入学おめでとうございます!私達は放課後ティータイムです!」
唯の言葉を合図にわっと歓声が上がり、体育館の空気を大きく震わす。相変わらず物怖じしない点は尊敬の念すら覚える。
「えー、本日はお日柄も良く……なんだっけ?」
……物怖じしない点だけはな。
今日は5曲のみの演奏となっている。
1.カレーのちライス
2.Don't say lazy
3.GO!GO!MANIAC
4.Cagayake!Girls
5.ふわふわ時間
唯と澪で話し合ったセットリストの受けは比較的いいようだ。曲を知らなかった新入生があそこまで盛り上がれるくらいだ。放課後ティータイムの楽曲と演奏のノリの良さが窺える。皆の演奏も大したミスはなく、楽しんでいるようだ。その中でも……
「憂……」
やはりこの子が異彩を放つ。彼女がカレーのちライスのギターソロを弾いたのだが、皆が息を潜め、その演奏に聴き入っていた。ただの間奏ではなく、平沢憂の演奏するギターソロとして、素晴らしい存在感を放っていた。
他の5人もそれを無意識に察知したのか、自然と熱が入る。
5曲で終わらせるには惜しいくらいのライブだと心から思えた。
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「お疲れ」
部室に戻ってきた皆に労いの言葉をかける。
「やっほ~、江崎さん!」
唯がこっちに駆け寄ってくる。あ、お前がいきなり走ったら……
「わわっ」
案の定ずっこけそうになりながら、とっ、とっ、と片足で何とかバランスを取り、こっちに突っ込んできた。
予想はしていたものの、椅子に座っていたのと、唯の勢いが予想より強かった為、思いきり倒れてしまう。
「…………!」
「きゃっ…………ん!」
椅子から転げ落ち、唯が上に乗っかってくる。
頬に一瞬だけ湿った温もりがぶつかってきた……気がした。
「お姉ちゃん!江崎さん!大丈夫!?」
「あ、ああ、なんとか」
「…………」
幸い痛みはそんなにはない。
「唯~大丈夫か~」
「まったく。気をつけないと……」
「二人共、大丈夫?」
「まったく、何やってるんですか?」
「…………」
憂に続いて他のメンバーが声をかけてくるが、唯は口元を押さえて動かない。少し顔が赤いようにも思える。
「唯?どうかしたか?」
「あわわわ!」
唯はいきなり立ち上がる。黒ひげ危機一発ばりの跳躍力だ。
「ご、ご、ごめんなさい!」
「あ、ああ、大丈夫」
「はい!」
唯が差し出してきた手を取り、ゆっくり立ち上がる。
その手は小さくて、ひんやりしていて、でもどこか温かい。