「新入部員の平沢憂です。よろしくお願いします!」
憂が丁寧な動作で頭を下げると、5人が賑やかな拍手を送る。俺も後に続いた。
「よろしくー!」
「憂ちゃん、一緒に頑張ろうね!」
「梓に続き、真面目そうな部員が……」
「憂、入部おめでとー!」
「憂もついに軽音部か~」
皆が話しかける中、憂はこちらをチラリと見て、さり気なくウインクしてきた。不意打ちに軽く胸が高鳴りながら、俺は歓迎のティータイムの席に着いた。
*******
「すごい……」
呟いた澪が感動の溜息を漏らす。
憂のギターはもう初心者のレベルを遥かに超えていた。
ティータイムの後、ひとまず新入部員の実力を見ようと律が言い出したのだが、想定外の実力に初見のメンバーは驚きを隠せていなかった。
「憂……本当に初心者なんだよね」
「うん、そうだよ♪」
梓が少しショックを受けている。いや、見た目には
少しなだけで、実際はかなりのショックだろう。最近始めたばかりの子があれだけ弾けば、それにソロギターとかいつの間に覚えたんだよ。
「憂は歌も上手いんだよ」
唯がのんきに言う。うん、こいつは全く気にしてないな。少しは気にしような。
「じゃあ、皆で合わせない?」
紬がにこやかに提案してくる。確かに見てみたい。
「じゃあ、皆準備はじめて」
また一段と騒がしくなりそうだ。
*******
「楽しかった~」
唯がう~ん、と伸びをしながら感想を漏らす。
実際に聴いてて楽しかった。憂の繊細か力強いアコースティックギターのストロークが、音に厚みを加えるだけではなく、全体のリズムを整えてくれる。コーラスも申し分ない。この編成はバンドとしてやっていくには十分すぎる。
ただ一つ。たまに憂が浮いてしまう。ふとした瞬間に、憂がバンドのグルーヴの中心になり、どうしても主役を持っていってしまう。
要するに灰汁が強い。
それはミュージシャンとしては、大きな武器にもなり、同時に相性というものを生み出してしまう。
まあ今はまだ、相性をどうこう言う期間ではないから、このままでもいいか。
「なんか今日、いつもよりリズム安定してたな」
澪が誰にいうでもなく呟く。普段からリズムキープに細心の注意を払っている澪だからこそ、気づいたのだろう。
「いや~、憂ちゃん、歌も上手いのか~。すごいな~」
律の褒め言葉に憂は恥ずかしそうに頭を下げ、嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます!江崎さん……どうでした?」
「よかったよ」
憂は小さく、よしっと喜びながら、次の演奏の準備をする。このまま行けば、新歓ライブは上手くいきそうだ。
とりあえずセッションに俺も参加させてもらおうと、ギターを準備し始めた。