「私もライブがやりたいんです!!」
突然の憂の発言に俺と唯は顔を見合わせる。
今ではすっかり当たり前のようになってる平沢家での夕食。その穏やかな空気の中、突然箸を置いた憂がいきなり宣言した。
「ふぉふぃふぁふぉ?ふい」
唐揚げを頬張りながら、唯が尋ねる。行儀悪いぞ。あとおそらく『どしたの?憂』と言ったのだと思う。
「憂、いきなりどうした?」
唯のかわりに尋ねる。すると憂は真剣な眼差しで告げた。
「私もライブやってみたいんです!お姉ちゃん達みたいに!」
なるほど、この前のライブで音楽をやる楽しみを知ってしまったということか。まあ、あれだけやれるならそうなるのも無理はない。気持ちよくて仕方ないだろう。
「路上弾き語りでもするのか?」
「それもやりたいんですけど……」
憂はちらりと唯を見て答えた。
「私もお姉ちゃんみたいに体育館のステージに立ってみたいなぁって思って……」
「なるほど」
すると、突然唯が立ち上がり、憂の元へ駆け寄った。
「憂!」
「ど、どうしたの?お姉ちゃん?」
「入部おめでとう!」
「え?え?」
「まあ、いきなりすぎだけど、軽音部に入るのはいいんじゃないか?」
「え?」
「軽音部としてステージを使えるし、他のメンバーとセッションもできる」
「…………」
「そして何より、今度の新入生歓迎会のライブに出られる」
「入部します!!」
部員確保。
唯とアイコンタクトを交わす。
そして久しぶりに2人の裸を……
「めっ!」
「フンス!」
思い出せなかった。しかし考えてみれば、中々歪な関係が出来上がっている。この2人のご両親に申し訳ない気がしてきた。
「あ、あの!」
憂がずいっと顔を寄せてくる。
「軽音部に入ったら、江崎さんがコーチしてくれるんですか?」
「そりゃあ、軽音部のコーチだし」
「じゃ、じゃあ、これからは軽音部としてもよろしくお願いします!!」
「あ、ああ」
手を握られ、上下にぶんぶんと振られる。
「むぅ~」
唯が不機嫌そうに頬を膨らませている。
「軽音部もこれでまた賑やかになるな」
何か嫌な予感がしたので、さり気なく話を逸らす。
「そうだね~」
唯がにぱぁっと笑顔になる。ここまで余裕なのもそれはそれでどうなんだろう。
「皆で合宿に行けるねぇ~」
「私も行っていいの?」
「もちろんだよ~」
「まあ、頑張ってこい」
「はい?何言ってるの?佐藤さんも行くんだよ?」
「え?俺男だよ」
「でもコーチだよ」
「いや、色々と問題が……」
「大丈夫だよ♪」
無駄な自信があるようだ。
まあ、合宿はともかく、まずは新歓ライブを成功できるように頑張るか。指導を。いや、本当に。