「だ、だから私は言ったんだ…。普通にやろうって…」
長い黒髪の子が、涙目で顔を真っ赤にして、恨めしそうに言う。よっぽど恥ずかしかったのか、さっきからこっちを見ようともしない。…………俺が嫌われているわけではないはず。俺が嫌われているわけではないはず!
大事なことだから2回言いました。
「澪先輩の言うとおりですよ。何で初対面の男性に、軽音部がメイド服で挨拶するんですか。どう考えてもおかしいです…」
黒髪のツインテールの女の子が、チラチラとこちらを窺いながら、さっきの子と同じように、恨めしそうな声で言う。小柄ながらも、しっかり者の雰囲気がする。なんかこう……妹にしたくなるような。いや何考えているんだ、俺は……。
「ごめんごめん澪ちゃん、あずにゃん♪」
肩ぐらいまでの少しふわふわした髪に、黄色いヘアピンをつけた女の子が、外見どおりのふわふわした声で思考に割り込んできた。ごめんと言っているが、あまり謝っている印象はない。だが何故か憎めない。多分生まれ持った人徳ってやつだろう。
「いや~、いけると思ったんだけどな~」
ヘアバンドをして、おでこを丸出しにした活発そうな女の子が、アハハと笑いながら言う。何がどういけると思ったんだ。金なら払わんぞ。さわ子さんからもラーメン一杯しか奢ってもらってない。てか、この子からはトラブルメーカーの匂いがする。気をつけておこう。
「みんな~~。ひとまずお茶にしましょう」
そう言いながら、机の上のティーセットのカップに、手際良く紅茶を注ぎながら、いかにもな、お嬢様風の女の子が、穏やかに微笑んだ。上品な長い金髪と可愛らしい眉毛が特徴的だ。
「江崎さんもどうぞ座ってください。ケーキもありますので」
「え?あ、ああ……」
促されるまま、席に着く。紅茶のいい香りが、部室を満たしていく。ケーキも美味しそうだ。そうだな、ここはひと息…「こらムギ!先に佐藤さんに演奏聴いてもらわないと!」あ、忘れてた。
「え~、澪ちゃんお茶しようよ~。江崎さんに自己紹介しなきゃだし!」
ヘアピン(仮)が澪という子に甘えるように言う。いや、俺への自己紹介、絶対についでだろ。
「じゃあ、お茶飲みながら自己紹介して、その後にコーチしてもらいましょう。義昭くんもそれでいい?」
「あ、はい。大丈夫です」
さわ子さんの言うとおりにしておこう。はやくケーキ食べたいし。
「し、仕方ないな……」
澪という子も渋々といった感じで、席に着く。演奏するのが好きでたまらないのだろう。
「澪は江崎さんにはやく演奏観てもらいたいんだよな~」
「ち、ちちちち違うっ!!バカ律!!」
律という子は強めのゲンコツをもらった。結構痛そうだ。
……ていうか、仲いいんだな。