「お疲れ」
演奏を終え、汗だくで戻ってきた皆をねぎらう。会場の熱気を引きずったままの皆は、どこか虚ろな、ライブを終えた事が理解できていないような顔をしていた。 1.Cagayake!GIRLS
2.カレーのちライス
3.ふでペン~ボールペン
4.Don't say lazy
5.ふわふわ時間
これが今日のセットリストだ。
俺から見て演奏の完成度にムラのない曲から順番に選んでいった。1のソロを回すところはライブで見ていても気持ち良かったし、4の澪の歌声なんかは、練習の時より声が出ていた。客の反応もすごく良かった。
「江崎さん」
唯がにっこりと笑顔で声をかけてくる。他のメンバーもいつの間にか笑顔になっていた。
「どうだった?」
答えは決まってる。
「最高」
ハイタッチと共に賛辞を送る。
「江崎さん、私の歌どうでした!?」
「リズム走ってなかった!?」
「律先輩走り気味でしたよ」
「何だと-!?」
「私もどうでした?」
全員とハイタッチしながら、喜びを分かち合う。
彼女達を見ていると、自分がギターを弾きたくなって、体が疼いているのがわかる。
「おい、そこのヘタレギタリスト」
音無さんが声をかけてくる。てかヘタレて……いや、否定できんけど。
「あんた、今日のトリのバンドでギター弾いてね」
「は?」
「皆お疲れ~♪とっても良かったよ!!」
俺の疑問には聞く耳持たず、音無さんは放課後ティータイムを褒めていた。
「ちょっと待ってください。俺、ギター持ってきてないですよ」
「貸してやる」
「それに俺がトリに参加したら、今日のイベントの趣旨に合わないような……俺まだ音無さんほど年とって……」
「あん?」
俺の近くの壁にピックが刺さる。え、マジ?
「やるよな?」
「はい。ぜひやらせて頂きます」
「よろしい」
音無さんは踵を返し、別のバンドの方へ行った。
「江崎さん、頑張って!」
俺と音無さんのやりとりを見ていたメンバーから励まされる。まあ、最高の演奏には最高の演奏で返そう。
それがミュージシャンの流儀だ。
*******
「今日は皆ありがとう!またよろしくね!」
「「「「「ありがとうございました!!」」」」」
「音無さん、ありがとうございます。いい経験できました」
俺もメンバーも深く頭を下げる。
「いいって、いいって。それよかあんた、やっぱ上手くなったね」
「それほどでもないです」
音無さんは溜息をついて、俺の頭を撫でる。
「あんた考えすぎ。くだらない事を考えてないで、楽しんで楽ませる事に集中しな」
「……はい」
音無さんの言葉は優しく俺の胸に染みこんだ。だが、さすがに頭を撫でられるのは恥ずかしい。
「フンス!」
音無さんの手がどいた後、すぐに唯が俺の頭を撫でてきた。痛い痛い。
他のメンバーはそれを見て笑っていた。
「よーし、次は新入生歓迎ライブだー!!」
「「「「おー!!」」」」
律の声に皆が答える。それと唯、はやく手をどかしてくれ。
色々あったが、一つだけ間違いなく言える事がある。
こんなに楽しい夜は久しぶりだ。