「すぅ……」
「んん……」
「…………」
眠れない。
今俺は、平沢家のリビングで唯と憂に挟まれて寝ている。俗に言う川の字というやつだ。2人に言われるがままに、泊まることになってしまった。だがしかし、こんな状態になるのは、予想外だった。てっきり別室で1人で寝ると思ってたのに。
考えていると、窓の外が光った。また雷が落ちたらしい。すぐ後にゴロゴロと鳴り響く。少し雨が弱くなったとはいえ、当分止まないようだ。
はっきり言って心臓に悪い。雷じゃなくて、両隣の温もりが。どちらもこっちを向いているので、規則正しい呼吸が、軽く首筋にかかっている気がする。
布団は離していいんじゃないか、という俺の提案は却下された。俺だけ少し離れようか、という提案も却下された。なのでどうしようもない。いや、嬉しいシチュエーションなんだろうけど。
「江崎さん……」
右隣の唯から呼ばれる。だが彼女は寝ていた。どうやら寝言のようだ。
「もう食べられないよ……」
「…………!」
吹き出しそうになる口を抑える。嘘だろ?こんな寝言が現実にあるなんて!
「江崎さん……」
左隣の憂から呼ばれる。彼女は俺の布団に入ってきていた。やばいやばいやばい。
そして俺の布団を剥ぎ取り、転がっていった。
「………」
現実なんてくそ食らえだ。寒いよ。
どうしようもないので、起きてギターを手に、ソファに腰掛ける。エレキギターなら、寝てる人間が起きる程の騒音にはならない。はず。いつもの練習用のフレーズを弾く。
*******
「江崎さん?」
布団の方から声がする。唯の声だ。さっきの寝言とは違う響きだ。
「どうかした?」
一応、声をかけてみる。
「何してるの?」
ぼんやりした声が返ってくる。
「眠れないから、ギター弾いてた」
「私も弾く~♪」
唯が隣に飛び込むように座ってくる。寝ぼけてるようだ。
「すぅ……」
唯の頭が肩に乗っかってくる。何時間か前に嗅いだシャンプーの香りが、再び鼻腔をくすぐりだす。普段年より幼い言動が多いせいか、変なギャップがあり、落ち着かない。
ギターを弾くのを止め、引き寄せられるように、唯の頭を撫でる。柔らかな髪の感触が心地いい。
唯がこちらに寄ってくる。もしかしたら起きているのかもしれない。それでも俺は唯の頭を、髪を撫で続けていた。
「江崎さん」
「唯……」
「憂ですよ」
「………」
恐る恐る後ろを振り返る。
おぅ……憂が般若に見える。
「すぅ……」
「寝たふりしてもムダですよ!」
唯はそのままの姿勢を保っている。あれ?起きてたような……。
「江崎さん?」
「はい」
「正座」
どうやら、まだまだ長い夜になりそうだ。
雨はいつの間にか止んでいた。