「お、お姉ちゃん……」
憂は全裸の姉を見ながら、口をパクパクさせている。俺は眼を逸らそうと思っても、逸らせずにいた。
この前、似たような場面に遭遇したが、その時と違い、湯気で隠れていない。完全に見えてしまっている。
憂より少し小さめだか、形のいい柔らかそうな胸も、意外と女らしくくびれている腰も、その下も……
「憂~、ほんとに恐かったよ~」
唯がフラフラとこちらへ歩いてくる。俺には気づいていない。
「え、江崎さん、見ちゃだめ!」
憂が視界を塞いでくる。
その行動により、やっと唯がこっちに気づいたようだ。
「え?」
寝ぼけたような声が聞こえる。こちらからは見えないが、おそらく、何が起きてるかわからないような顔をしているだろう。
「え?え…………きゃあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
雷をはるかに超える爆音のような悲鳴が、平沢家に響きわたった。
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「すいませんでしたぁ!」
「…………」
「すいませんでしたぁ!」
「…………」
「あのー、唯さん?」
「…………」
平沢家のリビングを静寂が包んでいる。外では豪雨が降り続いているため、ホラー映画のような雰囲気だ。
ちなみに今、俺は土下座の姿勢をキープしている。唯はこちらに背を向けてギターを弾いているところだが、さっきからさわ子さんのバンド『デスデビル』の曲のフレーズばかり弾いているのが、何だか恐い。
「お、お姉ちゃん………、もう許してあげたら?江崎さんだってわざとじゃないんだし、それにそもそもお姉ちゃんが裸で出てきたんだし…」
「唯、本当にごめん。何でも言うこときくから」
ギターの音がピタリと止む。唯は、ゆっくりとこちらを向いた。
「フンス!」
小さな両手で、俺の顔を掴んでくる。
ガッチリとホールドされたので、強制的に唯としっかり目を合わせた状態になった。それに少し近い。風呂上がりなので、シャンプーのいい香りに包まれて、理性を持っていかれそうだ。
視線を少し下げると、就寝用のラフな部屋着が見える。今さっきこの中を……
「フンス!」
唯が指に力を入れる。
「いたたたた!!!」
この姉妹の読心術、レベル高すぎだろ!
「江崎さん」
「はい」
「今度皆をケーキバイキングに連れてって」
「は、はい」
や、やばい断れない。てか皆って誰だよ。一体何人だ。
「ありがとう~~」
俺の顔から手を離し、とろけるような笑顔を見せる唯。さよならエフェクター資金。
「それと、もう一つ!!」
「な、何でしょうか?」
「あの……いつも忙しい憂のかわりに朝ごはんお願いします♪」
……まじか。
だがもちろん断ることなどできなかった。