憂がギターを買ってから1週間。彼女は既に20曲以上、人前で弾き語れるようになっていた。とはいっても俺と唯の前だけだけど。彼女はまだライブをする気はないらしい。まあ、それはさておき、憂の何が凄いかって、覚えのはやさだけではなく、一度おぼえてしまえば忘れないところだ。今日も、俺が紹介した曲をもうおぼえてしまい、楽しそうに演奏している。
そして俺は先日の裸をまだはっきりと覚えている。
「めっ!」
そして叱られる。
「む~!」
そして唯に睨まれる。ここまでは定番。
いや、もう一つ定番化したものはある。
平沢家での食事だ。ギターの特別授業のお礼らしい。
ギターの練習を姉妹交互に見て、食事をして帰るというのが、最近の日課になっていた。
ところが今日は……
「雨、激しいですね」
食事中に降り出した雨は、もう帰ろうかという頃にも、勢いは衰えず、むしろ激しさを増していた。
「外に出られないね」
「まあ、家もそんなに遠くないし、何とか歩いて帰るよ。傘借りていい?」
唯の呟きに返事をすると、雷の爆音が轟いた。
「「っ!?」」
2人が声にならない声を上げ、俺にしがみついてくる。
「ひっ!?」
思わずこっちが情けない声を出してしまった。
「え、江崎さん?きょ、今日は帰るの無理そうだね?」
唯が右腕を締めつけてくる。普通に痛い。
「そ、そうだね……雷落ちてきたら焦げちゃうからね。危ないよね」
憂が左腕を締めつけてくる。普通に痛い。
「「帰れないよね!?」」
「は、はい…」
……何故だろう。
女の子2人に抱きつかれてるのに、喜びよりプレッシャーの方が強い。
「わ、わかった。雨が止むまでいるから……」
「「ありがとうございます!!」」
2人の顔がパッと笑顔になる。どうせ通り雨みたいなものだろう。
*******
1時間後、テレビを見ながら憂とのんびりしている。唯は風呂だ。
「すいません。恥ずかしいところ見せちゃって」
憂が照れながら謝ってくる。
「別にいいよ。俺はダラダラしてるだけだし。でも普段はこういう時どうしてるの?」
「普段はひたすらお姉ちゃんと一緒に怖がっています。でも今日は江崎さんがいたから、つい甘えちゃって…」
正直すぎる言葉に少し照れしまう。平沢姉妹は天性の人たらしの才能があると思う。
「気にしなくていいよ。どうせ家に帰っても1人だし」
「で、でも…」
「?」
「たまには……か、彼女さんとか来ないんですか?」
「いない。いたことない」
傷をえぐられた。
「い、いないんですね!」
「あ、ああ」
止めてくれーー。
「あ、あの、じゃあ………!」
「!」
憂が何か言いかけた時、部屋が真っ暗になった。停電だ。
「憂~~~!!助けて~~!!」
唯の叫び声が聞こえる。
「お姉ちゃん、待ってて!」
「ブレーカーは?」
「お、はい!すぐ案内します!」
憂はそういうと、すぐに懐中電灯を探しだし、明かりを灯し、俺を案内してくれた。
俺も憂に習い、さっさとブレーカーを戻す。
そこで事件は起きた。
「憂~」
何故か浴室にいるはずの唯がいた。
………一糸まとわぬ姿で。