「ここにユウキが居るのか。」
キリトが居るのは病院の前だった。ユウキに言っちゃマズイ事を言ってしまったのかと言う後悔で、一番頼りたくない《菊岡》を使いユウキの居場所を突き止めた。
病院の受付
「あの~、すいません。」
「はい。面談ですか?」
「はい。でも名前が分からないんです。」
はい?と顔で表しているナースだったが、仕方無いのだ。SAOサバイバーでは無いユウキは菊岡達でもリアルの名前は知らない。ただ教えられたのはこの病院では《メディキュボイド》の使用しているとの事だった。メディキュボイドとは一体何だろうか?
「ここでメディキュボイドを使用していて、名前はユウキだと思うんですけど。」
「あの、患者さんの個人情報は、」
そこまで言った所で奥の部屋から、ちょっと、と言われ受付のナースはしばらくお待ちくださいと言い、奥の部屋に入り、2、3分で帰ってきた。
「あの、あなたはALOのユーザーですか?ユーザーならプレイヤーネームをお願いします。」
「はい。キリトです。」
名前を聞くと、受付のナースはどこかで電話し、最上階まで案内して貰い、ここで少々お待ちください。と言い残し、どこかに行ってしまった。
「いやぁ、すいません。待たせてしまって。」
「あ、いえ別にそこまで待っていないので。」
「初めまして。紺野君の担当に着いている《倉橋》と申します。」
「コンノ君?」
「あ、紺野君はあなたの知っている、ユウキ君の本名です。彼女は名字は紺野で、下の名前は木綿と季節の季と書いて、《紺野木綿季》(こんのゆうき)と言います。」
「彼女は何処か悪いんですか?」
病院に居る為、こんな質問を聞くのは当たり前だが、倉橋先生は少し黙ってしまった。
「それから先は歩きながら話しましょう。」
倉橋先生はおれを連れて歩きながら、厳重そうな扉を開けていった。
「私はフルダイブ技術がゲームに応用されるのは、反対して居たんです。フルダイブ技術が医療に使用されれば、もう2、3年医療が進んでいました。」
「確かにフルダイブが医療に使えば、体が不自由な人が仮想空間で動く、見える、嗅ぐ事が出来ますからね。手術をする際には麻酔が必要無くなるかもしれ無かったんですし。」
「そう言うことです。彼女は生まれる時に帝王切開が行われました。それで予想以上の出血をし、急いで輸血をしました。と、ここから先は無菌室なので入ることはできません。」
「あ、はい。」
「キリトさん。ここまで連れて来て何ですが、あなたが今から聞くのは、後で聞かなければ良かったと思うかもしれません。」
「ユウキは一体何の病気何ですか?」
「……後天性不全免疫症候群。《AIDS》です。」
「………え?」
「ですが、AIDSは思われている程驚異では無いんです。薬を飲み、健康的な生活さえしていれば発症は防げます。産まれた時に彼女の輸血した血は、AIDSに感染していて、気付いた時にはもう家族全員が。」
「その時からもう。」
「はい。彼女はウイルスと戦って居ました、学校も休まず、成績もトップでした。これが当時の彼女の写真です。」
ポケットに手を入れると、写真を出してきた。当時のユウキの写真と言っているが、ALOの世界でも何度も見せていた輝く笑顔だった。だが、もうひとつこの写真を見ていて、気になっていた。
「似てる。」
「彼女も驚いて居ましたよ。ALOにコンバートして、自分のアバターを見た時にも凄い驚き様でした。リアルのボクが紺色の髪の毛を伸ばしたみたいだって。」
写真を見ていて、ユウキを見ている時にもうひとつ思い出した。
「あの、ユウキには姉が居るんじゃあ。」
「木綿季君の事ではないので言わなかったんですが、彼女が帝王切開を行ったのは、彼女には双子の姉の《藍子》さんが居たからです。」
居たから、過去形なのは詰まりもう彼女は、考えていることを読んだのか倉橋先生が口を開いた。
「木綿季君のご両親は2年前に、藍子さんは昨年に亡くなられました。」
倉橋先生は口を動かしながらも、手を動かし、暗かった目の前のガラスが明るくなり、大きなジェルベッドに、大きな機械があった。恐らくあれがメディキュボイドなのだろう。そして、ジェルベッドに横たわって、口元以外見えない人がいた。
「ユウキなのか?」
「彼女のウイルスが発症したのは小学4年生からです。HIVのキャリアと言う事がバレて、彼女が、家族がいじめにあい、引っ越した後に発症しました。」
「じゃあ、ユウキはいつから仮想空間に?」
「3年前からです。」
3年、SAOサバイバーでもある、おれ達が過ごしたのは2年間、あの事件からもう1年が経つが、メディキュボイドの仮想世界に3年間も居る。
「木綿季君のかかったAIDSは厄介なことに、薬剤耐性型だったのです。」
「じゃあ今のユウキの状態は?」
「現在彼女は末期です。ですからここを乗り越えられるか、無理なのかは私達にも分かりません。」
(そこまでの事を知らなくて自分の姉さんをおれに照らし合わせたのは、天涯孤独の身の自分にまだ家族が居ると思いたかったからだったんだ。知らなくても、分からなくても、それなのにユウキが自分の姉さんが帰ってきたと少しでも思いたかったんだ。)
ユウキの心に傷が残るような事を言った自分が憎かった、消したかった。気付くとおれは目の前のガラスを全力で殴っていた。
「悲しまないでキリト。」
不意に聞こえた声に驚き反射的に前を向いた。今聞こえたのは間違いなくユウキの声だった。
「ユウキか?」
「うん。キリト、向こうでも黒かったのに、リアルでも黒いんだね。それに向こうと顔が似てる。」
今使っているアバターは、ALO初期から使っていた、ツンツン頭のキリトをユイが「座りにくい」と言う意見で髪の毛を降ろした物で、アスナ達は最初、SAOのアバターを使用していると勘違いした程そっくりだったそうだ。
「先生、隣のアミュスフィアをキリトに使わせてください。」
「分かった。キリトさん。隣で私がカウンセリングで使用しているアミュスフィアを使用してください。」
「キリト、ボク達が最初にあった所に来て。」
急いで隣の部屋に入り、扉を閉め、内側から鍵をかけ、アミュスフィアを被りALOにログインした。
森のログハウス
セーブポイントのログハウスを飛び出ると、一気に24層に向かう為に全速で飛行した。
24層巨大木
「来たね、キリト。」
巨大木の下に到着すると、何故かは分からないが、鳥が慌て木自体が揺れている様に見えた。
「ボクの所に来るって、何となくだけど予想はしてたんだけど、ボクの予想が当たる事って珍しいんだ。」
「ユウキ。」
「ごめんね、キリト今すぐでも良いからボク達の事は忘れて。」
短くそう言うユウキがまた左手を動かそうとしている所を、左手を掴み、動きを止めた。
「忘れられない。ユウキ達と居るのはおれにとって、暖かい居場所なんだ。」
「……ボク達がALOに来た時は、今の6人だけど、元々は9人居たんだ。でも、その3人はもう、」
「でも何で解散なんか?」
「本当は、忙しくなって辞めるんじゃなくて、長くても3月までのメンバーが2人居るからなんだ。」
「え!?」
「だから決めたんだ、次に誰かが居なくなる時にはゲームを辞めるって。でもボク達がここに居た証を残したくて。」
「それで無茶なボスをワンパーティの撃破を。」
ユウキの反応は言葉を出さずに小さく頷くのみだった。
「ユウキ、おれがした事は知らなくても、ユウキを苦しめる事を言ったんだ。なら、おれに罪滅ぼしの為に、忘れるとかじゃなく、なんでも良いからおれに出来る事をさせてくれ。」
「う~ん、じゃあ、学校。学校に行きたい。」
「学校。」
「ごめんね、無理な事言って、じゃあ、」
「行ける。」
「え?」
「学校に連れて行ける方法が一つだけある。」
「行けるの!?」
いつもの目がワクワクし、輝く笑顔に戻ったユウキに「ちょっと待ってくれ。」と手で表しながら、口をもう一度開く。
「ただ、用意するのに時間がかかるから、準備が出来たらメッセを送るよ。」
「OK♪」
「じゃあ、今から準備するからもう帰るな。」
「楽しみにしてるよ~♪」
右手で手を振りながら、左手を動かし、ログアウトした。
病院の中のカウンセリング用の部屋
起きてすぐにアミュスフィアを頭から外し、急いで外に出て倉橋先生にある頼み後とをした。
「倉橋先生、おれが今から渡す番号をメディキュボイドに入力してください。」
「ええと?別に構わないけど、何に使うんだい?」
思わず言われた言葉に喉を詰まらす。おれが今からすることは、ある意味ではメディキュボイドと同じようにデータを取るような行為で、それがネットゲームの中に居る娘の為だなんて到底言えない。
「じゃあ、今は聞かないで置くけど、その内聞かせて貰うけど良いかな?」
「い、いえ、今すぐ言います。その番号はおれが作っている《装置》に繋がる番号なんです。その装置を使えばこれから先の医療の発展にも使えます。」
医療の発展にも使える。と言う言葉が聞いたのか、興味津々でどんな装置なのか聞いてきた。それはまぁ、相手は医者なんだから、医療の発展の言葉に弱いのは仕方が無い。
「えっと、《視聴覚双方向通信プローブ》って物です。これは仮想世界の中で別の人の肩に乗せて一緒に移動できる物で、視角、聴覚もアミュスフィア等に繋がるので、どちらも機能します。」
「おぉ!!」
興味津々所では無く、今すぐにでも見てみたいと言う心が目に写った様に輝いていた。
「あの?それで、ユウキのメディキュボイドに繋いでもいいですか?」
「どうぞどうぞ!!医療の発展にも応用出来るのなら尚更良いよ!!是非内にもその内設計図とその機械を使用させてくれ!!」
「あ!!はい!!分かりました。ありがとうございます。」
頭を下げて後ろを振り向く時にも、メディキュボイドからユウキはこのやり取りが聞こえてるし、見えている為、クスクスとユウキの笑い声が微かに聞こえた。