ユウキがキリトを選んでいたら   作:壺井 遼太郎

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依頼完了

回復用のポーションを親指で空け、一気に飲み干す。一体何度目かもわからない行動をし、シウネーのMPが危なくなると、皆の持ってるマナ回復ポーションを渡していても、そろそろポーションが無くなりかけている。

 

「皆!!もうちょっとだ!!」

 

もう2時間以上の戦闘で、全員が精神力と集中力の限界が近いのか、おー!!、と叫んだのはユウキだけだ。

 

新生アインクラッドには、ボスのHPゲージは表示されない。ボスの行動パターンから推測するしか無い。だが、最初はのそのそ動いていたボスがバーサク状態だ。恐らく残りのHPは少ない。しかし、それはこちらのMPとHP回復ポーションの数も同じだ。とは言え、捨て身覚悟で突っ込んでも削りきれなかったらそれこそ無駄死にだ。

 

「!!タルケン!!ノリ!!避けろ!!」

 

僅かにタルケンの反応が遅れ、ボスの鎖攻撃でタルケンの槍が上に飛ばされ、ボスの首の付け根にある宝石に槍が当たった。ボスが怯み腕を交差させ、鋼の様に固い防御体制に入った。

 

「ん?」

 

防御体制に入って数秒後また開き攻撃体制に変わった。もしやと思い、腰のベルトからピックを取り出し、宝石に狙いを定めてシングルシュートを打った。宝石に直撃し、またもや腕を交差させ防御体制に入った。この僅かな瞬間にユウキの横にまで移動した。

 

「ユウキ!!ウィークポイントを見つけた!!」

 

「どこ!?」

 

「ボスの二つの頭の付け根にある宝石が弱点だ!!」

 

聞くとユウキは宝石に目を動かしたが、

 

「高い!!ボクじゃ届かない。」

 

足場になる物は無いのか周りを見回すと、ノリを後ろに踏ん張っているテッチの姿があった。

 

「ユウキ!!テッチを!!」

 

「テッチ!!次の鎖攻撃が来たらしゃがんで!!」

 

テッチはこちらを振り向くと目を見開いたが、すぐに勢い良く頷いた。ユウキとおれは次の攻撃に全てをかけるために集中力を高めていた。

 

「ユウキ!!次が最後のチャンスだ!!」

 

「うん!!わかったよ《姉ちゃん》!!」

 

「え?」

 

ユウキが言った言葉に驚きながらもボスが鎖攻撃を仕掛けてきて、一気に走り出した。

 

「GO!!」

 

先にテッチを踏み台にして飛んだのはユウキ、次におれが飛んだ。

 

「はあああ!!」

 

ユウキが全力のソードスキルを発動し、一息に5連突きを宝石を中心に放った。前のデュエルで、おれに使った11連撃のOSSだ。今は彼女の黒曜石の剣が金剛石の様に見えた。11連撃全てを打ち込んだユウキはディレイがかかる。しかしボスは倒れず。

 

腕を交差させ防御体制に入ろうとした瞬間、キリトがスイッチし、片手剣が光り、高速の連撃を打ち込む。だが、動いていたのは右手だけでは無く、スキルを発動していない左手も動いていた。しかし、スキルを使っていないにも関わらず速度は右手の速度に劣らない。

 

「はあああ!!」

 

声を上げ、まだキリトの剣のエフェクトが消えない。スリーピングナイツのメンバーには、キリトが角度を変えて放つ攻撃が15連撃を越えた辺りで数えなかった。だが、見ている内に太陽のコロナの様に見え、キリトが一気に最後の一撃を打った。

 

これがキリトの奥の手。《右の剣で13回》《左の剣で14回》叩き込む、SAO時代の二刀流最上位剣技《ジ・イクリプス》

 

「ゴアアアア!!」

 

断末魔の声を上げ、ボスが一気に爆散した。

 

「や、や、やったあああ!!」

 

キリト以外の全員が叫び、キリトは疲れて後ろに倒れかけた。

 

「やった!!やったよ!!キリト!!」

 

「お疲れ。」

 

これでスリーピングナイツからの依頼が終了した。終了すると言う事は、もうスリーピングナイツのメンバーには、会えないかもしれない。それはキリトにはとてつもなく嫌な物だった。こんなにも居心地の良いギルドは《月夜の黒猫団》以来だったからだ。自分もギルドに入れてくれと言わないとチャンスは無くなる。

 

「なぁ、おれも…」

 

それ以上の言葉は聞こえなかった。後ろの扉が開き、一気にプレイヤーが入ってきた。最前に立っているのは、先程の後方軍を率いていたサラマンダーだった。

 

ボス部屋がすでに火が着かない事とポリゴン片が飛んでいるのとキリト達が中に残っているのを確認したメンバーは全て察したのだ、こいつらがボスを撃破した、と。

 

数通りの罵声を聞き、扉の外に出ていくメンバーを尻目にボス部屋の奥の階段を登っていった。

 

「着いたー!!」

 

「疲れたー!!」

 

そこは既に暗い27層ではなく、明るい28層だった。近くの主街区まで飛んでいくと、転移門をアクティベートし、27層に戻り、完全に依頼は終了した。

 

「終わったなー。」

 

「まだ終わってませんよ。」

 

シウネーに真面目な顔でこちらを向き、まだ何かあるのか!?、と考えたがまるで関係なかった。

 

「打ち上げ。しましょう。」

 

「……え?」

 

「良いじゃん!!資金なら大量にある訳だし、パーっと行こうぜ!!」

 

「場所はどうする?いっそどこかでかいレストランでも貸し切るか?」

 

「あー?じゃあおれのプレイヤーホームに来いよ。おれが手伝ったからこんくらいは聞いてくれるよな?」

 

ユウキ達が、行くー!!、と言ったが、一瞬全員の顔が見え、顔は笑っているのだが、目は何故か暗かった。

 

22層ログハウス近くの空

 

「あ!!あれ!?」

 

「ああそうだ、って!?」

 

聞くやユウキとジュンが一気に降りた。だが、降りた所は、

 

「おい!!そこは危ないぞ!!」

 

「「え?」」

 

言っても間に合わず、二人の姿が見えなくなった。嫌、厳密には落ちた。二人が降りたのは凍った湖なのだ。

 

「あの二人は!!」

 

「早く引き上げましょう。」

 

引き上げたら、二人はギャグアニメや漫画で見かける、体が氷に凍った状態だ。

 

「つ、冷たい!!」

 

「た、助けて。」

 

「二人共話を聞かないからだ!!テッチ頼む。」

 

「了解。」

 

メイスを出すと、氷を砕き始め、シウネーに寒さ無効のバフをかけて貰った。

 

「全く、中に入るぞ。」

 

スリーピングナイツを連れ家の中に入ると、もう既に料理が置かれていた。

 

「暖かい♪」

 

机の上に摩訶不思議な酒やお菓子等を積み上げると、全員が酒をついだ事を確認し、乾杯した。

 

お菓子等が無くなっていくと、本題に入った。

 

「ユウキ?おれを、おれの仲間をスリーピングナイツに入れてくれないか?」

 

実はクラインを除いた全員に、ギルドを作るか、どこか小規模ギルドに入ろう。と言う話を出された事が多かった。だが、月夜の黒猫団を壊滅させてしまった記憶があるおれはそれを先伸ばしにし、アスナ達は、キリトが入ると決めた時に自分達もそのギルドに入る。と言われていたのだ。

 

「ごめん、キリトそれは」

 

「い、嫌!!別に無理に入れてくれって訳じゃないんだ!!」

 

何故かユウキ達が暗くなると、空気が重くなりすぎるため、別の話題に切り替えることにした。

 

「そろそろ行くか?」

 

「え?」

 

「忘れるなよ、本題だよ。今頃更新されて名前があるはずだぞ。《生命の碑》。」

 

全員が忘れていたのか、驚いた様子で、早く行こう!!と言われ、転移門に飛び第一層に転移した。

 

第一層《始まりの街》

 

SAOサバイバーのおれ達にはこの場所は余り居たくない。なんせあのデスゲームが宣告された場所なのだから。とは言え、ユウキ達が尋常では無い程ワクワクした様子で居る為、自分だけ帰れる訳では無く、生命の碑に移動した。

 

黒鉄宮の中

 

「どこだろうな?」

 

皆が周りを見回し名前を探す。そして不意にユウキが見上げた状態で止まった。

 

「あった。ボク達の名前。」

 

「本当だ。」

 

ユウキが見上げている所に視線を動かすと。27層、ユウキ、シウネー、テッチ、ノリ、タルケン、ジュン、キリト。の文字を見つけた。ギルドに入っていないおれは、ギルドタグ等は表示されない。

 

「なぁ、写真撮ろうぜ!!」

 

「良いなぁ、ジュン!!」

 

ジュンが27層の石碑を背景にし、撮影用のクリスタルを使い、タイマーをセットし、皆の横に並んだ。ギルドリーダーのユウキが真ん中に居るのは納得できるが、何故おれも真ん中にされたのかは分からない。撮影が終わると、もう一度確認する為に上を見上げた。

 

「やったなユウキ。」

 

「うん、ボクやったよ、《姉ちゃん》。」

 

「ユウキまた言ってるな。」

 

「え?」

 

「おれの事姉ちゃんって、おれは男」

 

そこからおれは言葉を止めた。理由はユウキが両手で口を隠し、目には涙が溜まっていたからだ。

 

「ごめんね、キリト。」

 

「待ってくれ!!ユウキ!!」

 

ユウキはおれの言葉が終わる前に、ログアウトし、他の皆もログアウトして行った。

 

それから最強のギルド、スリーピングナイツ、絶剣ユウキは、ALOから居なくなった。


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