27層主街区
「だぁぁ、負けた負けた!!」
「これで全滅か。」
「ALOはボス部屋近くにセーブポイント無いから、主街区まで戻されるのが辛いよな。」
今は先程まで戦っていたボスにやられて主街区で皆で愚痴を言っていた。ボスとはかなり惜しい所まで行ったのだ、が、それよりもあることのを教える為に全員を一つの場所に集めた。
「皆すまない。」
「え?」
「おれがやられる前、ジュンの足下に使い魔がいたんだ。その事に気づけなくて。」
「え?気付かなかった。」
「あれは闇属性魔法の《盗み見》(ヒーピング)だ、恐らくさっき居たやつらにつけられた。あいつらは、23層以上を攻略しているギルドだ。」
「じゃあ、ボク達の頑張りは無駄になるんだ。」
落ち込んだ様子のユウキを見て、全員が落ち込んだ。ユウキの言った事は確かだった。次に勝負をすれば勝てる見込みはある。だが、それはギルド側も同じこと、行動パターンを全て見せてしまった可能性がある。だが、今は平日の昼頃、まだチャンスは一度だけ残ってる。
「皆、後最後のチャンスが残ってる。雑魚敵は全員無視して、ボス部屋に飛び込むぞ!!」
「え?あ、はい!!」
「全員、今から最高速度で飛ぶぞ!!」
全員が頷きあってから翅を広げ、一気に飛びだった。
ダンジョンの回廊
「見えた!!」
「案外出来る物だねぇ。」
「!?」
キリト達が驚いたのは、目の前で大量にいるプレイヤーだ。中にはさっきの偵察をしていたプレイヤーが見える。
「これじゃあ、」
「嫌、全員揃っていない。まだ行ける。」
前のプレイヤーを無視して進もうとした時、ノームのプレイヤーに道を塞がれた。
「悪いな、ここは閉鎖中だ。」
「そっちは全員揃っていないんだ、おれ達は先にやらせて貰うぞ。」
「つっても、上からの命令なんだ。イグシティに本部があるからそこで上に直談判してくれ。」
「そんなのもうお前達が入ってるじゃないか!!」
このALOのGMはシステム関係の事しか聞かない。詰まる所、こう言うプレイヤー同士の問題は自分達で解決しろと言う事だ。だから、今回のような事は諦めるしかなかった。しかしユウキが前に出始めた。
「ボク達がどんなに頼んでも通さないんだよね?」
「ま、そうなるな。」
「じゃあ、戦おうか。」
腰から一気に抜刀するユウキに驚くが、攻略ギルドだけあって、全員が抜刀した。
そしてノームのプレイヤーが大きな斧を振るとユウキはパリィし、《バーチカルスクエア》を一気に叩き込んだ。
「きったねぇ、不意打ちしやがって!!」
ノームにヒールがかかりつつも、全員がジリジリと距離を詰めてくる。
(おれは何を怖じ気づいていたんだ、さっきも自分で言ったじゃないか。邪魔するような事があったら、どうなるか?って、聞いたじゃないか。)
メニュー画面を開き、装備スロットに移行、新たな剣を《もう一本》装備。背中に手を回して、現れた新しい、凝った装飾品等ない、黄金の剣を取り出した。
「な!?あれは《聖剣エクスキャリバー》だ!!」
エクスキャリバー、キャリバーは人の器と言う意味。これを手に入れてからシノンに意味を聞いた後、この剣を自分一人の為には使わない。仲間の為に使うと決めた剣。今この剣を装備したのは単なるこけおどしではなく、仲間の為に戦うと決めたからだ。
伝説級武器(レジェンダリーウエポン)の中でも、最強の剣を装備したのを確認してから、距離を空けてきた。だが、その内何人かが笑った。後ろを振り向くと恐らく残りのレイドのメンバーだ。メッセージで情報を受けているのか、全員が抜刀し、後ろのメイジは、魔法を打とうとしていた。
「ユウキしばらく後ろを頼む。」
「え?」
ユウキの隣を通り抜け、一直線に走っていく。魔法が完成し、魔法が飛んできた。合計7発全てが高レベル魔法だ。剣を肩に乗せ、《デッドリーシンズ》を発動。止まって見える魔法の中心部めがけ、7連撃を放ち、全て斬った。
「うっそぉ。」
「魔法を斬った?」
「偶然じゃなくて?」
さしものスリーピングナイツのメンバーも驚きを隠せない様子でいた。それもその筈だ、今のは、おれがGGOで銃弾を剣で斬る実践経験を積めて可能になった、《魔法破壊》(スペルブラスト)だ。
「あんな早ぇやつ斬れんのかよ?」
「これだから。」
「…なんだそりゃ。」
「んー、どんな高速魔法でも、対物ライフルの弾丸より遅いからな。」
「!?陣形を組め!!」
流石にずっと止まってる訳ではなく、盾などを前に出し迎撃準備をした。だが、
「確かにお前達の仲間は多い。でもおれには、お前達に負けない極上の仲間が居る。」
「てりゃあああ!!」
後ろから一筋の彗星が見え、レイドの右側を打ち崩し、長い飛翔を終えようやく着地した。着地したのはアスナだ。アスナの後ろからリズ、シリカ、リーファが続いた。
「おうりゃああ!!俺達も居るぜぇぇ!!」
後ろから威勢の良い銅磨声が聞こえたと同時に、多数の矢がレイドに向かい飛んだ。後ろに居るのは、クライン、エギル、シノンだ。
「サンキュー皆。」
「あんたに頭下げられて断れる分けないでしょ。」
先程、ユイに送るように頼んだメッセージは、攻略ギルドの見張りと、おれのアバターで土下座をして頼み込んだ映像を送って貰ったのだ。
「後ろは任せても大丈夫だ!!」
「うん!!」
いつもの元気な声で叫んだユウキが、ソードスキルで決めるのかライトエフェクトを剣に纏わせた。ありったけの感謝を、心の中でアスナ達に送ると、おれも走った。
「全員被ダメは最小限だ!!行くぞ!!」
全員がそれぞれの気合の声を出し、一気に駆け込んだ。ユウキの対人戦の吸収力は身をもって体験していた。スリーピングナイツのメンバーも、恐らくユウキに近い強さで、対人戦は大丈夫なはずだ。
「問題はヒーラーだな。」
不意に考えた言葉を口に出していた。だが、ボスと戦うのなら、さっきの様な高メイジ型のプレイヤーが大量に居るはずだ。
「ユウキ!!誘導を頼む!!」
「了解!!」
ユウキ達が集団の中に入ると、まっすぐ視線を向けた。集団の中で最も弱い部分を瞬時に見つけ、全力でダッシュした。そして、肩に剣を乗せ、もう片方の手を前に出し、引き絞る。
「う!!おおおおお!!」
クリムゾンレッドのライトエフェクトを得た剣がジェット機めいた轟音を放ち前に進む。片手剣高位の単発重突進剣技《ヴォーパルストライク》を、最大火力で放った。だが、メイジの居る場所は8メートル、最大距離のヴォーパルストライクは5メートル。この3メートルは自力で走るしかない。通常ならば、
「まだだああ!!」
右手の《ユナイティウォークス》のヴォーパルストライクが終了する直前、左手のエクスキャリバーを肩に乗せ、一気に引き絞った。その現象に、ギルドの集団所かスリーピングナイツのメンバーが目を疑った。右手のヴォーパルストライクは終了した直前、左手の剣に、クリムゾンレッドのライトエフェクトが現れたからだ。
これがキリトのもつシステム外スキルの、嫌、システム外スキルに置いて最高難易度の、二刀流専用システム外スキル、《剣技連携》(スキルコネクト)。
これを使う条件は、ソードスキルの次に繋げる初動はほぼ一致しないと繋がらない。脳の思考を右脳左脳に分けて使うイメージ。要するに、左右の脳で別々の思考を頭で考える。もうひとつは二刀流でないと使えない。二刀流でも、両方とも片手剣のスキルを発動可能なのが重要だ。両手で持つ武器はあっても、並のプレイヤーでは片手剣をふたつ使おうとすると、片手が盾と同じ役割になる。それなら普通に盾を使用すれば良い。ALOで二刀流を使えるのは、どうやらおれだけらしい。
「な!!なんだ」
それ以上先の言葉はなかった。ヴォーパルストライクでメイジ達を吹き飛ばし、エクスキャリバーの一閃で、ピュアメイジ達のHPは全損した。
「皆一気に畳み掛けるぞ!!」
そこからの戦闘は最早、戦いと呼べなかった。メイジがやられた事で一気に戦線は崩壊。崩壊した所をスリーピングナイツのメンバーに好き勝手やられただけだ。
「全員居るな?なら行くぞ!!」
後ろを振り向くと、後方も残り数人だけだった。シノンの的確な射撃、アスナの絶妙なタイミングのヒール、エギルとクラインによる範囲攻撃、シリカの短剣のスピードによる惑わしからの攻撃、リズのメイス捌き、リーファの魔法と剣技を状況によって使い分ける攻撃に何も出来ない様子で、ギルドのメンバーは無駄に動いていた。
「ジュン開けてくれ。」
「うおっしゃー!!」
ジュンが力一杯扉を開き、一気に流れ込むみ、扉を閉めるスイッチを押すと、向こうからアスナ達が笑顔でVサインを送ってきた。その笑顔には、「絶対に勝て!!」と書いてある気がした。同じく笑顔でVサインを送り、扉が閉まりきった。
「MPとHPを全回復。」
全員が小瓶の栓を親指で抜くと一気に煽った。
「行動パターンは前の戦闘通りだ。」
「キリト?さっきの人達は?」
「おれが旅してきた世界の仲間達だ。今頃は主街区に帰ってる。あいつ達の頑張りを無駄にしない様に。これが最後のチャンスだ!!絶対に勝つぞ!!」
「「「「「「おー!!」」」」」」
全員が気合入れの言葉を叫ぶと、武器を一気に取り出し、いきなり全力の構えを取った。
「ウィークポイントは見つからなかったが、それでもこのメンバーなら勝てるぞ!!」
ボスが出現し、雄叫びを上げた。そこに全員が一気に駆け、剣を叩き込んだ。