第七章に
西暦2015年。魔術がまだ成立していた最後の時代。
社会は人間の手で構築されていたが、世界の真理を握っていたのは魔術師だった。魔術は科学では解明できない過去の人間の技術を司り、科学は魔術では到達できない未来の人類の技術を積み重ねる。彼等は決して相容れない学問の徒だが、ある一点において志を同じとしていた。魔術であれ科学であれ、それを研鑽する人間がより長く繁栄すること―――即ち、人類史の守護である。
人理継続保障機関・カルデア。魔術だけでは見えない世界、科学だけでは計れない世界を観測し、人類の決定的な絶滅を防ぐために成立された特務機関。人類史を何より強く存続させる尊命の下に、魔術・科学の区別なく研究者が集められた。
西暦1950年、事象記録電脳魔・ラプラス成功。
西暦1990年、疑似地球環境モデル・カルデアス完成。
西暦1999年、近未来観測レンズ・シバ完成。
西暦2004年、守護英霊召喚システム・フェイト完成。
西暦2015年、霊子演算装置・トリスメギストス完成。
輝かしい成果は続き、人理継続保障機関により人類史は100年先までの安全を保証されていた。
だが2015年。
何の前触れもなくシバによって観測されていた未来領域が消失。計算の結果、人類は2017年で絶滅する事が判明―――いや、証明されてしまった。
なぜ。どうして。だれが。どうやって。多くの疑問に当惑するカルデアの研究者たち。
そんな中、シバは新たな異変を観測した。西暦2004年 日本 ある地方都市。ここに今まではなかった、「観測できない領域」が現れたと。
カルデアはこれを人類絶滅の原因と仮定し、いまだ実験段階だった第六の実験を決行する事となった。それは、過去への時間旅行。術者を霊子化させて過去に送りこみ、事象に介入する事で時空の特異点を探し出し、これを解明、あるいは破壊する禁断の儀式。
その名を聖杯探索 ――― グランドオーダー
これは、人類史を守る為に過去へと介入し、未来を取り戻す物語。
第七特異点、紀元前2600年の古代メソポタミア。人類が神との決別を図り、未だに濃い神秘が残っているこの時代でグランドオーダーは行われて佳境を迎えていた。
最後に立ちはだかるのは原初の母ティアマト。メソポタミア神話における創世の神の1人で多くの神々を彼女は生み出した。原初の父であるアプスーが生み出した彼女の子に討たれ、剣は彼女にも向けられた。
生態系が確立された以上、ランダムに生命をデザインする彼女はもう不要な存在であった。生命体がこの星に準じた知性を獲得する行程において、彼女は邪魔者以外の何者でも無かったから。
ティアマトはそれに嘆き、狂い、新しい子供として十一の魔獣を生み出して神々と対決する。長きに渡る戦いの果てにティアマトと十一の魔獣は破れ、神々は彼女の死体を2つに割いて天と地を作った。
そうして世界から追放されて裏側の世界、並行世界ですら無い生命の存在しない虚数世界に彼女は追放され、以降虚数世界から元の地球に戻るチャンスを彼女は待ち続けた。
そしてこの世界に聖杯を送り込み、特異点として確立させた魔術王の策略により、ティアマトはビーストIIとして、七つの人類悪の一つである『回帰』の理を持った獣としてこの世界へと帰ってきた。
ティアマトがこの世界に帰ってきて初めて感じたのは間違いなく恐怖だろう。何せ彼女が生み出した神々しかいなかったはずの世界を
人間からしてみれば彼女はおぞましき
故に彼女は人類を殺す。『現人類を駆逐しなければ自分が殺される』という極めて原始的なシステムで稼働している。そしてそれを責めることは誰にも出来ない。人類とて人類史の中で守る為に殺すという
だがそれを許すわけにはいかない。ここでビーストIIに好き勝手をしてしまえば特異点は完成し、人類史が焼却されてしまう。それを防ぐ為にカルデアの最後のマスターである藤丸立香とサーヴァントと人間の融合体であるデミ・サーヴァントのマシュ・キリエライト。そして守護英霊召喚システム・ファイトによって召喚されたサーヴァントたちと共にビーストIIを打倒することを誓う。
ティアマトはすべての生命の母である。生命が存在していることがティアマトの存在を証明している。故に滅びない。逆説的に地上に〝まだ生きている〟生命いる限りビーストIIは滅びない。ティアマトは始まりにして終わりの女なのだから。〝ティアマトがこの地上で最後に死ぬ〟事でようやく通常の物理法則を受け入れることが出来るのでは無いかと。
そしてビーストIIを倒す為に藤丸とウルク王朝の王であるギルガメッシュはとある策を講じた。それは、
だがそれだけの犠牲を払ってもビーストIIは健在。確かにビーストIIを冥界に落とす事で最後の命とすることは出来たのだが権能はまだ残っている。自己改造のスキルにより自身の身体を竜体へと変え、生命を産み出し犯す黒泥はアヴァロンより駆けつけたマーリンの魔術により危険性は落ちたものの際限なく垂れ流され、彼女の尖兵である魔獣は無限に産み落とされる。
キングハサンこと初代ハサンがグランドの冠位を捨ててまで駆け付け、ビーストIIの角翼を切り捨てて死の概念を付与した。Dr.ロマンは通常のサーヴァントの霊基に変わり、これで完全に消滅されられると言ったが
されど神である事には変わらず。
されど産み出す母である事には変わらず。
されどその神威は変わらず。
醜悪なれど荘厳なその巨体で冥界の淵を掴み、地上へと帰ろうとしていた。藤丸らはそれを止めようとするもティアマトは体内から醜悪な魔獣、曰く新人類であるとされているラフムを大量に生産してこれを阻止していた。
「ーーーマシュ!!アルトリア!!」
「「ーーーハイッ!!」」
藤丸が名前を呼ぶ。それだけの事でマシュとアーサー王であるセイバーのアルトリアは藤丸の意を正確に理解し、死角から迫り来るラフムを迎撃する。
「落ちろーーー!!」
『ヌゥンーーー!!』
2人の撃ち漏らしたラフムはアーチャーのアーラシュが弓で射抜き、キングハサンが即死の斬撃を見舞う事で討つ。
「届かないか……ッ!!」
藤丸の心の中にあるのは焦り。あと少しの距離までティアマトの頭部に近づいたというのに無限に産み落とされるラフムがそれを阻止しているのだ。
冥界の主人であるエレシュキガルから与えられた加護があって何とか持ちこたえられているが、この無限に産み落とされるラフムの壁を突破するには足りない。サーヴァントのシンボルである宝具を使えば突破できるかもしれないがティアマトの保持しているネガ・ジェネシスのスキルがそれを妨害していた。
ビーストⅣが持つネガ・メサイアと同類のスキル。現在の進化論、地球創生の予測を悉く覆す概念結界。これを帯びたビーストIIは正しい人類史から生まれたサーヴァントたちの宝具に強い耐性を獲得する。仮にここから宝具を放ったとしてもネガ・ジェネシスに阻まれてティアマトは止まる事なく地上に向かうだろう。使うならば超至近距離でしか効果を望まない。そもそもこのラフムの大群を前にして宝具を使おうとすればたちまち群がられて殺される。
「あぁもう!!鬱陶しいわねぇ!!」
苛立ちを隠す事なく、武器である旗と剣を振るってラフムを迎撃するのはアヴェンジャーのサーヴァントのジャンヌオルタ。
「ヌゥ!?余の墓でも無理か!?」
何とか宝具を発動させることが出来たライダーのオジマンディアスだった。ティアマトを押しつぶす様にして落ちるピラミッドがラフムによって見当違いのところに落ちてしまう。
まさに数が全て、数の暴力をティアマトは意図せずに体現していた。如何に歴史に名を残す一騎当千の英霊たちであろうとも、無限に沸き、死を恐れず、疲れる事もなく向かってくる敵を相手にしたことは無い。
あと僅かな距離だというのに、それが縮まらない。藤丸の中にあるのは焦燥。ここに来るまでに多くの人間が犠牲になった。その人たちの為にもティアマトを討たなければならないというのに、目の前まで近づいているというのに届かない。
そして、ついにティアマトが大穴の淵に手を伸ばした。
妨害する者は誰もいない。このまま地上に戻り、地球の生態系を塗り替えてすべての母に返り咲く。
それを見た藤丸がマスターに与えられたサーヴァントへの絶対命令権である令呪に意識を集中させる。カルデアからのサポートにより24時間に一画回復するのだが、ここに来るまでに二画使ってしまい最後の一画になっていた。
たとえ最後の命令権だとしても切らねばならない。ここでティアマトを止めなければ、犠牲になったギルガメッシュに合わせる顔がないと藤丸はアルトリアに宝具の使用を命ずる。
「アルトリア!!令呪を持ってーーー」
「ーーー追放された存在でもう一度なんて願うなよ、萎えるだろうが」
「ーーーお前はここに落ちろよ。人類史にお前の存在は不要である」
アルトリアへの令呪が使用されようとしたその刹那、大穴の淵を掴もうとしたティアマトの頭部に
そして藤丸はラフムの群れの隙間から見た。ティアマトが手を伸ばそうとしていたところに二つの人影があることを。1人は茶髪を適当に纏めて日本帝国の軍服を着た中性的な顔付きの青年。そしてもう1人は先の青年と同じ軍服を着た黒い長髪の男性。
この場にあるはずのない格好をした2人は目の前にいるティアマトに臆する事なく、裁きを下す事にした。
「降れい神の杖!!裁きを受けよーーー」
「神鳴る裁きよ、降れい雷ィーーー」
その瞬間、これまでのグランドオーダーで培った藤丸の第六感が最大級の悲鳴をあげ、頭上に濃密な死の気配を感じた。それは第六特異点で獅子王が行なった聖槍の一撃とは比べものにならない程。
「マシュ、宝具を!!全員集まれぇぇぇぇ!!」
なりふり構わずに藤丸は指示を飛ばす。幸いな事にラフムはティアマトに無礼を行なった2人に目掛けて行ったので妨害は無い。遊撃を行なっていたイシュタルとジャガーマン、ティアマトにはたき落とされたマーリンを回収してマシュの側に急ぐ。
「ーーーそれは全ての傷、全ての怨恨を癒す我らの故郷……顕現せよ、
真名の解放とともに顕現するのは白亜の城キャメロット。円卓の騎士たちが座る円卓を盾として用いた究極の守り。その強度はマシュの精神に比例し、心が折れなければたとえ対界宝具の一撃を受けたとしてもその城壁は崩れはしない。
そして、神の裁きはここに下る。
「「ロッズ・フロォォォォム……ゴォォォォォォォッド!!!」」
ティアマト目掛けて空の遙か彼方より神の杖が降り注ぐ。それは考案だけされて実現される事は無かった超兵器。全長6.1m、直径30cm、重量100kgの金属棒に小型推進ロケットを取り付けて高度1000kmの低軌道上に配備された宇宙プラネットホームから射出される一種の運動エネルギー弾。落下速度はマッハ9.5に達し、一発が核兵器相当の威力に匹敵し、地下数百m先にある目標が破壊可能とされている。
そんな超兵器が、
「グッ、ウゥゥゥゥゥゥ……!!」
「マシュ!!頑張れ!!」
『ーーーオイオイ嘘だろぉ!?嘘だと言ってくれよ!!』
「どうしたんですかドクター!!」
『この攻撃はすべて神秘が宿っていない、ただの攻撃だ!!今の人類の兵器と変わらない!!それなのにーーー
「Aaaaaaaーーー」
そしてついにティアマトが耐えられなくなり壁から落ちた。高度2000mから落下し、そして落下しながらも神の杖の集中放火を受けて墜落する。そして墜落してから数秒してようやく集中放火は止んだ。
「……やり過ぎたか?」
「かもしれぬな。だが、彼らならばきっと笑って許してくれるに違いないだろう!!俺はッ!!そう信じている!!」
「巫山戯るなぁ!!マシュがいなかったら死んでたぞ!!」
黒髪の男性の発言にブチ切れてしまった藤丸は許される。あれに巻き込まれて笑って許せるなどどんな聖人でも無理だろう。きっとガンジーだってアサルトライフルを構えてやって来るに違いない。
『君達は何者だい!?霊基からサーヴァントだとは分かるが……こんなパターンは初めて見る!!下手をすれば
「知らないのか……まぁ、
「ならば聞けぃ!!そして忘れるな!!俺たちの事を!!」
そして彼らは役者の様にマントを翻しながら宣言する。
「第一盧生にして人類の裁定者、甘粕正彦!!」
「第二盧生にして我欲の覇道の王、時雨!!」
「「ーーー人類を救いに来た!!」」
人類史の危機に、
ティアマトに向かって挨拶代わりに戦艦落とししてからのロッズ・フロォォォォム……ゴォ↑ォォォォォォ↓ッド!!の集中放火。おっぱい肉盾がいなかったら即死だったよ……