絶望を希望に変えるバカたち   作:鎌鼬

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時雨がもし相州戦神館學園に転生して盧生になったらというif、それに伴って新しい盧生が増えています。




魔法少女を救うバカたち

「ーーーあぁ」

 

 

吹き荒れる暴風雨の中で、暁美ほむらは絶望していた。暁美ほむらは魔法少女である。キュウべぇと呼ばれる存在により願いを叶える対価として魔法少女という存在に成り果てた。

 

 

『アハハハハハーーー!!!!』

 

 

目の前で笑う影があった。それの正体はワルプルギスの夜と呼ばれる最低最悪の魔女。ほむらはこの魔女を倒す為に、そしてその先にへと最愛の友人である鹿目まどかを連れ行く為に、キュウべぇとの取引により手に入れた魔法を使って時間のループを繰り返していた。

 

 

ーーーあぁ嫌だ、認めない、認めたく無い。あんな結末なんて認められない。

 

 

ループの果てはワルプルギスの夜を打倒する為に集まった魔法少女たちが全員やられ、その者たちを助ける為にまどかがキュウべぇと取引で魔法少女になるという結末を迎えてしまった。

 

 

魔女とは魔法少女の不倶戴天の敵であり、魔法少女が絶望して成り果てた存在である。つまり魔法少女たちはこれから先の未来で自分たちが成り果てるであろう存在を倒しているのだ。こうすることでキュウべぇはグリーフシードを回収し、それで宇宙の寿命を延ばすという行いをしていた。

 

 

だが、キュウべぇはもういない。救いたかった友人も、共に戦っていた魔法少女たちももういない。

 

 

ほむらは知らなかったが、この日はとある組織から《朔》と呼ばれる日であったのだ。何が起こるのかまったく予想のつかない日であり、此度のループでワルプルギスの夜の登場と《朔》が重なってしまったのだ。

 

 

まず初めに、ワルプルギスの夜が現れた。それだけならば想定していた通りだった。

 

 

次に、ワルプルギスの夜の背後に黒い太陽が現れた。ワルプルギスの夜は嵐と共に現れるのに曇天を塗り潰す様にしてその太陽は天に昇った。そもそも、それは太陽という生命に温もりを与える存在などでは無かった。

 

 

その正体は此の世全ての悪(アンリ・マユ)、ゾロアスター教典に登場する此の世全ての悪性を司る悪神。だが朔と言えど本物の神を呼び出せる訳ではない。それは遥か太古の時代にアンリ・マユの名を押し付けられた人間だった。アイツこそが此の世全ての悪であるが故に、我らは悪ではなく善であるという傲慢により名を奪われて、悪神としてありさせられた哀れな存在。それにはもう自我などない。ただ望まれた通りに、人々にとっての悪性であろうとするだけの装置。

 

 

此の世全ての悪(アンリ・マユ)と《朔》が交わった事により、この事態は引き起こされたのだと言えよう。

 

 

『唵 呼嚧呼嚧 戰馱利 摩橙祇 娑婆訶』

 

 

空がヒビ割れて女陰めいた形で固定され、そこから黄金に輝く魔性の瞳が彼女たちを見下ろした。見えているのは目だけで天を覆い隠す程、全体がどれだけの大きさなのか想像することも出来ない。

 

 

『干キ萎ミ病ミ枯セ。盈チ乾ルガ如、沈ミ臥セ』

 

 

続いて現れたのは枯れ果てた木乃伊が貼り付けられた逆十字。天から見下ろしている魔性の瞳にも負けない程の巨大さを誇り、同様に天から万象を見下している。

 

 

『 六算祓エヤ、 滅・滅・滅・滅 、 亡・亡・亡ォォォ! 』

 

 

魔性の瞳の前に全身に古びた護符を貼り付けたヒト型が現れ、魔震を引き起こした。コンクリートで出来た建物が、大地が抵抗することも出来ずに塵へと還る。余波だけでも細胞単位で引き裂かれそうになるほどの威力なのだがこれでも魔性の瞳からすれば身動ぎした程度の物でしかない。

 

 

そして逆十字を中心として悪性の等価交換が行われた。魔性の瞳が引き起こした魔震に、奇跡的に助かった人間たちから全てを奪い取り、代わりに逆十字を蝕んでいた病魔を押し付けられた。

 

 

現れた二体の廃神が破壊と悪性の等価交換を行いながら悠々と領域を侵して行く。

 

 

それを見たまどかに、躊躇いは無かった。キュウべぇの提案し続けていた取引に応じ、魔法少女となってワルプルギスの夜を、そしてあの災害を撒き散らしている此の世全ての悪(アンリ・マユ)と二体の廃神を消し去ることを決意する。本来ならそれは不可能な願いだったが、皮肉な事にまどかを救う為にほむらがループを続けた事によりまどかの魔法少女としての素質は高められていた。

 

 

そしてキュウべぇとの取引が成立し、鹿目まどかは魔法少女となる。そして祈りと共に、暴威を振るう者らを消し去ろうとした。

 

 

『臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いーーー!!!!』

 

 

だが、その清らかなる願いすらも冒涜される。

 

 

現れたのは三つの白濁した眼光を放つ目が特徴的な褐色の肌をした少年とも言える年頃の人間。それは此の世全ての悪(アンリ・マユ)と《朔》によって呼び出された最悪最強と呼ばれる邪神第六天波旬。

 

 

唯我を渇望としている波旬は他人をまともに認識することは無い。だが自分に触れている何かがある、それを消し去りたくて堪らないのだ。そうして目を付けたのは自分には劣るもののそれなりの存在感を放っていた(まどか)。波旬は呼ばれるのと同時に(まどか)に向かいーーー踏み潰した。

 

 

それまで出ていた絶望を消し去ろうとしていたまどかは波旬の奇襲に気付くことが出来ずに踏み躙られた。武でも咒でも無く、ただ格を持って最強と称された波旬の一撃を、まどかはマトモに受けてしまい堕とされる。

 

 

そして波旬は堕ちたまどかの元に向かいーーー踏み潰した。踏み潰した。踏み潰した。踏み潰した踏み潰した踏み潰した踏み潰した踏み潰した踏み潰した踏み潰した踏み潰した踏み潰した踏み潰した踏み潰した踏み潰した踏み潰した踏み潰した踏み潰した踏み潰した踏み潰した踏み潰したーーー鹿目まどかという人間がいた存在を無かった事にするかの様に執拗なまでに踏み潰した。

 

 

それを見てほむらは絶望し、魔法を使う。それは時間の回帰。現在を否定し、まどかと出会ったあの日に戻るという時間操作。

 

 

だがそれはこの時間軸では意味を為さなかった。ワルプルギスの夜だけならば成し得たであろう回帰は、廃神と邪神により押し返された。

 

 

『何ーーーこれーーー僕らがーーー死ぬーーー?なんでーーーどうしてーーー』

 

 

全ての元凶であったはずのキュウべぇも今はもう存在していない。たまたま近くにいたという理由から波旬に指一つで掻き消されて消滅した。いつもなら殺したとしても新しいキュウべぇが現れるのだがそれが無い。最後の言葉から考えるにキュウべぇという存在ごと消滅したらしいのだが、そんなことはもうどうでも良かった。

 

 

魔女と悪神と、廃神と邪神により崩壊していく世界。それらの進撃を止めることなど誰にも出来はしない。助けたかった少女は死に果て、頼みの綱であった時間の回帰は通用しない。ほむらの内にあるのは絶望一色。

 

 

だから、ほむらの出来ることはこれしか無かった。

 

 

「あぁ……神様……」

 

 

全てに絶望した哀れな人間に出来ることは祈る事。人間よりも遥か高みにいるであろう絶対の存在に救いを乞う事だけだった。

 

 

この事態が好転するのであれば神でも悪魔でも何でもいい、求められるのであれば心臓でも差しだそう、この魂を玩具にしてくれても構わない。だからどうか、奇跡を、一心不乱にご都合主義(きせき)を乞うていた。

 

 

努力や策略などでどうにか出来る領域などもはや逸脱している。この結末を変えたいが為に、奇跡に縋ることしか出来なかった。

 

 

人間は死に絶える。

 

地球は滅びる。

 

宇宙に点在する存在全てが滅尽滅相される。

 

 

それが悪神、廃神、邪神が呼び出された時点での確定事項。少女の祈りなど通じるはずも無く、ただ滅びの時を見ることしか許されなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー救ってやろう、お前たち全てを

 

「ーーーえ?」

 

 

破滅の音が木霊する中で、そんな声がほむらの耳に届いた。顔を上げれば靴の音を鳴り響かせながら歩いてくる痩躯の男性。絶望している少女の嘆きを聞き届け、その絶望から少女を救い出す為に、封神されていた盧生(バカ)は顕現した。

 

 

「ーーーあな、たは……?」

 

「そんな顔をするなよ、どうか笑ってくれ。我が父の様に、母の様に。お前たちは幸せになるべきなのだから。俺はお前たちの幸せを願っているのだから」

 

 

酔い痴れた話し方で慈愛の笑みと共にほむらに語りかけているのは、かつて人類を救済する為に全人類を阿片の夢に沈めようとした()()()()黄錦龍(ファンジンロン)。英雄によって封神されていた彼は絶望している少女を幸福にする為に再び現世にへと舞い戻った。

 

 

人皆七竅有(ひとみなしちきょうあ)りて、以って視聴食息(しちょうしょくしょう)す。此れ独り有ること無し」

 

 

黄錦龍の詠唱と共に世界が変貌する。二体の廃神によって破壊された街が元の姿を取り戻したのだった。そしてワルプルギスの夜も、此の世全ての悪(アンリ・マユ)も、廃神も邪神も姿を消していた。戦いで付いていた傷も消えている。だが、そんな大きな変化すら些事に思える様なことがほむらの目の前にあった。

 

 

ワルプルギスの夜と廃神によって死んだはずの魔法少女たちが、そして邪神によって踏み躙られたはずのまどかが、無傷でほむらの目の前に眠っているのだ。

 

 

何をしたのか、何があったか理解出来ない。だがそれでもほむらの望んでいた光景がそこにはあったのだ。

 

 

「みん、なーーー?」

 

ーーー夢を思い描け。夢の中ではお前が勝者なのだから。お前たちの幸せを、俺はいつ如何なる時でも祈っている。

 

 

黄錦龍の夢とは《夢を見せること》。単純であるが故に誰にでも共感しうる願いを持って、彼は現実(くきょう)で生きる人々を救う為に全人類を阿片の夢に沈めようとしていた。だがそれは間違いであると諭された。そんなことをしても果てにあるのは緩やかな滅びだけで誰も救われないと言われたのだ。

 

 

己の信じていた救いが救いにならないと言われた黄錦龍は絶望し、手段を変える事にした。黄錦龍が新たに選んだ手段とはーーー夢を現実にする事。心の底から救いを求める者の描いている夢を現実とする事だった。

 

 

ほむらは心の底から望んでいた。こんな結末は認められないと。

 

 

だから黄錦龍はその望みを叶えたい。あの様な結末を無かった事にした。

 

 

「太極より両儀に別れ、四象に広がれ万仙の陣ーーー」

 

 

黄錦龍の詠唱に導かれる様にしてあってはならないと存在がやってくる。それは目視してはならぬ、混沌そのものであった。

 

 

「終段顕象ぉーーー」

 

 

夢より、その混沌は現れ出でる。

 

 

「四凶渾沌ーーー鴻・鈞・道・人ィィン」

 

 

現れたのは目も、耳も、鼻も、口も存在しない数億の触手で編み込まれた翼と獣毛の塊としか言えない冒涜的な渾沌。その渾沌の正体は人の想像の産物として生み出された架空の神格。本来ならば神格を有していない筈の渾沌であるのだが人々からの指示を受け、廃神など霞むような、それこそ第六天に匹敵する神格を有している。

 

 

かつては黄錦龍より離反した神仙であったが、黄錦龍の祈りに応じて再び現世にへと舞い戻った。

 

 

渾沌の出現によりワルプルギスの夜が、悪神が、廃神が、邪神が姿を消される。

 

 

今ここにほむらが求めていた結末がやって来た。何度も何度も、気の遠くなるような時間の回帰の果てに、彼女はようやく望んでいた結末を迎える事ができたのだ。

 

 

だが、忘れるな。まだ《朔》は終わってなどいない。《朔》であったからあれ程の絶望が生じたというのなら、《朔》が終わらぬ限りは絶望は生じ続ける。

 

 

『ーーーYpaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!』

 

 

ほむらの望んでいた世界に穴を開けて現れたのは新たなる廃神。超獣帝国が皇帝を讃える叫びを上げながら疾走する。

 

 

『ーーーあんめいえぞまりぃあ……おおおおおおお、ぐろおおりああああす!!!!』

 

 

無貌の蠅声が現れる。悪意の総称と称されるそれは此の世全ての悪(アンリ・マユ)に劣らぬ悪意を振りまく。

 

 

『ーーーSieg Heil Viktoriaaaaaaaaa!!!!!!!!』

 

 

そしてそれらを蹂躙しながら現れたのは黄金の獅子。勝利を、勝利を、我に勝利を与え給えとかつて世界に宣戦布告を果たしたナチスの刻印を背負いながら爪牙と共に顕現を成した。

 

 

周囲に腐食を垂れ流す屍人。

 

黄金の鍍金を纏った白鳥。

 

血を啜る夜の不死鳥。

 

炎と雷を放つ戦乙女。

 

黄金の獅子を引き上げる生贄の祭壇。

 

触れた存在の幕を引く(くろがね)の戦車。

 

愛しい者の足を引く水面の魔性。

 

忠義の炎にて万象を焼き尽くす列車砲。

 

屍を手繰る大淫婦。

 

獲物を絡め取る蜘蛛。

 

接触を忌諱する餓狼。

 

 

黄金の獅子が英雄と呼び、獅子に忠誠を誓った十一の爪牙が破壊をもたらす。

 

 

それだけではない。渾沌によって姿を消した筈のワルプルギスの夜が、此の世全ての悪(アンリ・マユ)が、百鬼空亡が、逆十字が、波旬が、超獣帝国の開けた穴から再び姿を現す。

 

 

それが《朔》の正体。人の身でありながら身分不相応な願いを抱いた者に絶望を与えるための時間。

 

 

「あぁ……ああ……!!」

 

 

数を増して現れた絶望を前にしてほむらは怯えることしか出来ない。魂にまで刻み込まれた恐怖を拭う事が出来るほどに彼女の精神は成熟していない。もっとも成人も果たしていない子供にそんなことを求めるのは酷と言えるのだが。

 

 

足が震え、全身から熱が奪われる。このまま膝を着いて身体を丸め、理不尽な現実から目を逸らしてしまいたい。

 

 

「ーーーならぬ!!」

 

 

そんな彼女を叱りつけたのは日本帝国の軍服を着た新たな盧生(バカ)だった。腹の底から絶望が奏でている破滅の音色を掻き消さん程の声を上げて、怯えるほむらの前に立った。

 

 

「諦めるな、諦めてくれるなよ!!諦めたらそこで終わりなのだ!!心を震わせろ、発起しろ!!一人では出来ぬというのなら、心を鬼にして殴りつけてやろう!!だからどうか、立ち上がってくれ!!お前なら、きっと立ち上がれるのだと信じているのだからーーー!!!!」

 

 

現れたのは魔王と称される第一盧生の甘粕正彦。人々の輝きを愛するが故に人々に対する試練として魔王である事を望んでいる彼からすれば、絶望で心が折れそうになっているほむらを見捨ててなどおけなかった。

 

 

諦めるな、立ち上がれ、お前ならきっと、そうしてくれると信じているから。

 

 

それが甘粕の本心、この男は心の底からほむらが再起することを望んでいる。だが、それだけでは足りない。あの絶望によって折れた心と与えられた恐怖を再起させるのにはそれだけでは足りないのだ。

 

 

故に、心を燃やす燃料を投下する必要がある。

 

 

「ーーーそれでいいのかい?お嬢さん」

 

 

意識の外、背後から優しく語りかけられた事でほむらは反射的に後ろに振り返る。そこに居たのは甘粕の着ている軍服と同じものを着ている茶髪の青年。絶望と恐怖で怯えているほむらの目を真っ直ぐに見つめながら彼は問い掛けていた。

 

 

「あぁ確かに目を閉じて、耳を塞いで、丸くなってれば楽になれるだろうさ。何せあれらは俺たちが片付けるからな。それを踏まえてもう一度聞こう、本当にそれでいいのか?」

 

「求めたんだろう?未知の結末を。望んだんだろう?あの少女の幸福を。否定したんだろう?認められない結末を」

 

「その為に時間を何度も遡ってループを繰り返したんだろ?だったら……()()()()()()()()()()()?自分の手で救いたいと願ったからやって来たんだろ?それなのに降って湧いてきた災害に絶望して、ここ一番で他人に任せて良いのか?」

 

 

青年の言葉は呪いのようにほむらの心へと染み込んでいく。それを聞いてほむらは理不尽な怒りを覚えた。

 

 

「貴方に!!貴方に何がわかるっていうの!?部外者のくせして関係者みたいな顔して!!自分は全部知ってますよみたいな態度をして!!私がまどかを!!初めての友達を助けるためにどれだけ頑張ったか知りもしないで……!!あぁもう!!煩いわよそこの獣が!!」

 

 

恐怖で折れた心を立ち上がらせるのはそれを上回る程の勇気か、恐怖を塗り潰す程の怒りかと相場が決まっている。青年の知ったかぶっている言葉に怒りを覚えたほむらは、絶望から与えられた恐怖を塗り潰し、立ち上がって帝国万歳と叫び疾走している超獣帝国目掛けてストックしていたRPGをぶっ放した。

 

 

RPGの弾頭が炸裂した事で超獣帝国の足が止まる。その身体には致命傷どころかかすり傷すら付いていなかったが、それでもほむらが恐怖を克服して立ち上がった事を知らせるのには十分過ぎた。

 

 

それを見て笑みを浮かべているのが二人。一人はほむらに熱いエールを送っていた甘粕。そしてもう一人はほむらを煽って立ち上がらせた青年ーーー()()()()の皐月原時雨だった。

 

 

「あぁそうだ!!それで良いのだ!!俺はお前が立ち上がると信じていだぞ!!お前なら、この絶望を前にしてきっと立ち上がると!!」

 

「あぁ良いねぇ、最高だ!!原始的な恐怖で心が折れながらも、それを上回る感情に心を震わせて立ち上がる姿ってのはやっぱり良いねぇ!!」

 

 

「「ーーー人間賛歌を謳わせてくれッ!!喉が枯れ果てる程に!!」」

 

 

全く同じセリフを言った甘粕と時雨の姿はどこか似ているように見えた。別人だと分かっているのに、血の繋がっている関係であるように。

 

 

「これはお前が立ち上がった事に対する祝福である!!祝砲よっ!!この満天下に降り注げ!!彼女の勇気に万歳ッ!!」

 

「祝砲を上げよう!!それが絶望を知りながらも再起した勇者に対する礼儀という物だ!!」

 

 

此の世全ての悪(アンリ・マユ)が際限無く廃神を、属性を反転させた英雄を呼び出して大地を埋め尽くしている光景を前にして二人の盧生(バカ)は恐れなど全く感じさせぬ素振りで前に立った。

 

 

「ーーーやがて夜が明け闇が晴れ、おまえの心を照らすまで、我が言葉を灯火として抱くがいい」

 

「ーーー我が身、地上の生活の痕跡は

 

幾世を経ても滅びるということがないだろう

 

そういう無上の幸福を想像して

 

今、私はこの最高の刹那を味わい尽くすのだ

 

時よ止まれ おまえは美しい 」

 

 

「ーーー終段顕象ォォォォ!!!!」

 

 

「出い黎明ッ!!光輝を運べーーー明けの明星ォォォォォ!!!!」

 

「無間大紅蓮地獄ぉぉぉぉぉぉぉぉくッ!!!!」

 

 

甘粕に呼び出されて現れたのは光り輝く聖性を纏った最高位の大天使。その正体は廃神として召喚されている蠅声の堕天前の存在。

 

 

時雨に呼び出されて現れたのは日本を覆い尽くす程に巨大な人型の上半身の巨大な蛇神。

 

 

蠅声と黄金の獅子、そして第六天が僅かに蛇神の出現に反応を見せたのだがそんなことは御構い無しに二人の盧生(バカ)は動き出す。

 

 

「神鳴る裁きよ!!降れい雷ィーーーロッズ・フロォム・・・・ゴォォォォォォォッド!!!」

 

「シーク・イートゥル・アド・アストゥラ ーーーセクゥェレ・ナートゥーラァァァァァァァァァァムッ!!!!」

 

 

大天使の聖光と衛星兵器ロッズ・フロム・ゴッド、そして蛇神から剥がれ隕石の様に落ちた鱗による絨毯爆撃で此の世全ての悪(アンリ・マユ)によって呼び出された廃神と英雄らを蹂躙する。

 

 

「ーーーやれやれ、やり過ぎだぞ二人とも。これでは私たちの出番が無いではないか」

 

「まだ残ってるだけまし。この二人なら全部掻っ攫って行ってもおかしくなかったから」

 

 

現れたのは綺麗な女性と少女だった。豪奢な金髪と翡翠の瞳の女性と透き通る様な白髪と血の様に紅い瞳の少女。

 

 

女性と少女ーーー()()()()クリームヒルト・ヘルヘイム・レーベンシュタインと()()()()皐月原五月雨はあからさまにやり過ぎている甘粕と時雨の所業を見て恐るどころかいつも通りだと呆れている様に見えた。

 

 

「さてお嬢さん、名前はなんと言う?」

 

「えっ?あ……あ、暁美ほむら……」

 

「そうか、ならば暁美ほむら!!第二盧生である《俗物》の名において眷属の許可を与える!!願い、焦がれる程に求めよ!!さすれば得られん!!」

 

 

時雨がほむらを指差すと、ほむらに夢の力が与えられる。

 

 

「ーーー欲望の盧生(バカ)二号!!」

 

「ーーー試練の盧生(バカ)一号!!」

 

「ーーー差別の盧生(バカ)三号」

 

「ーーー死神の盧生(バカ)五号!!」

 

「ーーー薬中の盧生(バカ)六号」

 

 

上から順に時雨、甘粕、五月雨、クリームヒルト、黄錦龍がそれぞれポーズを戦隊物のようなポーズを決めて名乗りをあげる。ほむらは付いていけず唖然とするしかないが、彼らの立ち位置の真ん中が空いている。そこに自分が入れと言うのか?出来れば遠慮したいと思っていた。

 

 

「さぁ来いよ真打ちーーー英雄の盧生(ハゲ)四号!!」

 

「ーーー誰がハゲだ!!」

 

 

時雨にツッコミを入れながら現れたのは汚れ一つないインバネスを翻す軍装の青年。その青年の事をほむらは知っていた。その男は近代で最も新しい英雄として知られている、第二次世界大戦を回避したとされている大正の英雄。

 

 

「柊、四四八……!?」

 

「違う!!英雄の盧生(ハゲ)四号だ!!」

 

「いい加減にしないと犬江親兵衛仁叩き込むぞ……!!」

 

 

時雨の言葉に額に青筋を浮かべる四四八の姿は同い年の人間と変わらないように見える。だが、それでも彼が英雄である事には変わらないのだ。

 

 

自分を落ち着かせる為にか四四八は溜息を吐き、目の前に広がる絶望を見据える。

 

 

ワルプルギスの夜

 

此の世全ての悪(アンリ・マユ)

 

百鬼空亡

 

逆十字

 

第六天波旬

 

超獣帝国

 

蠅声

 

黄金の獅子とその爪牙

 

 

あぁ、確かにこれは絶望的な光景なのだろう。だが()()()()()()()で折れる者などここにはいない。折れた少女ですら立ち上がったのだ。トンファーを構える四四八に追従する様に、五人の盧生(バカ)と眷属となったほむらが立つ。

 

 

「ーーー行くぞ、お前ら!!」

「「「「「「応ーーー!!!!」」」」」」

 

 

絶望を打ち倒し、未来を切り開く為に、六人の盧生が絶望に立ち向かった。

 

 




やっちまったぜ


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