・頼智の年齢を高3→高2
・林檎の年齢高1→中3
・シャロの年齢も高1→中3
また、シャロの通う白凰中学校は白凰高校にエスカレーターで上がれる付属校というオリ設定も一応ここで説明させて頂きます(本編だと出せるか分からないため)
では、どうぞ
金欠少女の長く辛い闘いが終わり一週間と少しが経ったある土曜日。
「シャロちゃん新しいバイトもう決まっちゃったの…」
「…う、うん」
ここはお茶と和菓子をメインに据えて営業している喫茶店、その名も甘兎庵。出す商品が和風な事もあり、店内は木造りで客席は畳が敷かれた座敷になっている。
そんな洋風な街には少し似合わぬ店で、二人の少女が談笑していた。一人はつい先日までこの甘兎庵でバイトをしていた林檎、もう一人はーーー
「そう言えばシャロちゃん、早速面接で弄られたって言っていたけど本当?」
「…かなり、いじられてた」
「そうなの…気が合いそうね…」
「…!?」
林檎が辞めたことで、この甘兎庵の唯一の看板娘となってしまった少女。宇治松千夜である。
「そう言えば私、フルーチェハウスには行ったこと無い…どんなところなのかしら?」
「…果物のジュース。あとデザートを出す…所、かな」
「流石にもうちょっと情報が欲しい…そうだわ、林檎ちゃん!そのオーナーさんについて詳しく!」
その言葉に林檎は戸惑ってしまう。
実は林檎の実家であるフルーチェハウス、両親不在の現在のオーナーは頼智と林檎の祖父なのだ。既に70を越しているのにも関わらず元気に厨房に立ちデザートを作っている。性格は竹を割ったようにサッパリとしていて情も厚く、更に地元の老人会ではちょっとした有名人らしいとも林檎は八百屋のおばさんから聞いたことがある。
「…最近白髪が増えてきた。あと、有名人」
取り敢えず林檎は本物のオーナーの方で答えることにした。…それにしても情報が所々抜けている感はあるが。
「白髪…という事はもう50歳は超えていそうだわ…それに有名人?…もしかしてハリウッド!?」
「…それはない」
「そうよね〜」
ハリウッドと有名人がなぜ等号で結ばれてしまったのかはともかく。千夜はお茶を飲み、一旦心を落ち着かせる。年中落ち着いている気もするがそれも置いておく。
「…暇だわ〜」
「…暇」
現在土曜日の午後二時、どちらも本日は非番であるために甘兎庵でお茶をしているのだが、自分の分の食べ物飲み物が無くなってしまうと結局は暇を持て余してしまってしょうがないらしい。それもそうだ、この木造りの洋風な街にはゲームセンターもカラオケもボーリング場も無く、他に休日に出来る事と言うとかなり限られてくる。
一応近くにある温水プールやショッピングなども選択肢にあるが、今日の二人の気持ち的にはもっとゆっくりしていたいらしく、よってこうして昼下がりの甘兎庵でお茶を飲みながら寛いでいるのだ。もうお茶は飲み終えてしまったが。
そんな中、千夜は何か閃いたのか目をカッと見開く。
「…そうだわ!フルーチェハウスに行きましょう!」
「…うちに?」
「考えてみればやっぱり、友達が二人も働いてるカフェなのに一度も行ったことないのは少しおかしいわ!これは早々に解決しなきゃいけない事案よ!」
「そう…なの?」
その力強い千夜の言葉に林檎はコクリと首を傾げる。友達の職場に行っていないのがおかしい、という千夜発の訳の分からならない理論だが、友達というものを殆ど知らない林檎にとってはそれも判断が付かない。
「…んじゃ、うち来る?」
「行きましょう!常世の果てへと!」
「…うちは、そんな奈落の底みたいな場所には無いよ?」
ーーーこうして、千夜の言葉によって二人がフルーチェハウスに行くのは最早必然だったのかもしれない。
「…ところで、いつもお店の中央の小さな丸机にいる……あんずは?」
「あんこ、よ?またどっか行っちゃったみたいね…」
「…困り者…」
「林檎は何時になったらあんこの名前を覚えるのかしら…」
「…果物の名前に改名するまで、かな…?」
「あらまあ…」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
時間は少し遡って、フルーチェハウス。
「客、来ないわね…」
「暇、だね」
そこにはカウンターで寛ぐ頼智とシャロの姿があった。頼智は本来なら今日は厨房でデザートやドリンクを作らなければならないのだが、何故か客が全然来ないのでカウンター席に座ってコーヒーを飲んでいる。
「…アンタ、そんな堂々とサボっててもいいの?」
「いいよいいよ、どうせこの感じだと3時くらいまではそこまで人来なさそうだし」
そう言いつつコーヒーを啜る頼智。恐らくこの頼智とシャロの感覚の違いは、頼智が今まで両親の個人経営店で働いていたのに対しシャロは大規模チェーンの喫茶店で働いていたからだろう。
チェーン店は基本的に規則に厳しく、マニュアルも細かく決められているので多少の店員同士の会話は合ってもサボる、なんてことはあまりできない。だがフルーチェハウスのような個人経営の喫茶店はある程度自由が効いてしまうのだ。特に、店主の息子という立場もそれに拍車をかけているのかもしれない。
「…そうだ、シャロちゃんもコーヒーいる?」
「いや私はまだ仕事中だし…それにコーヒーはちょっと…」
「コーヒー、もしかして苦手だったり?」
「いや、その…私、カフェイン酔いしちゃう体質で…」
「カフェイン酔い!?」
「だからコーヒーを飲むと、何か気分が高揚しちゃって…」
因みにカフェイン酔いというのは正確には、気分が悪くなったり吐き気が出たりする症状のことである。
それはともかく、
「…なんか逆に見てみたい気もするけど…そうだね、じゃあイチゴジュースで良い?このくらいはサービスするよ」
「…本当に良いの?じゃあ1つ…」
「了解」
そう言い頼智はカウンター裏に回り込むとすぐに戻ってくる。
「はい、おまたせ」
「早い!?」
頼智はシャロにジュースを渡すと、自分の席に座り直し少し冷えてしまったコーヒーを一口飲む。その姿を見たシャロは手渡されたジュースを一瞥すると、ストローを使って口に含む。
「あ、そこまで甘くない」
シャロは驚いた顔をしながら手元のジュースを思わず見る。そのジュースの色はピンク色で、どこかいちご牛乳を頭に思い浮かばせる色だったので相当甘いのだろうとシャロは思っていたのだが、どうやらそんな事もなかったようだ。
「まあね。控えめの甘さもこのジュースの売りだから」
「なるほど…確かに病みつきになる味だわ」
「まあね。うちのメインメニューだし」
「たのも〜!」
そんなほのぼのした時間を台無しにするように、ドアがバタンと勢い良く開かれる。そこに立っていたのは白いシャツの上に緑のカーディガンを着た、長い黒髪に前髪がぱっつんの可愛らしい少女だった。
「…千夜!?」
激しく見知っているその姿を見たシャロは、思わずジュースを吹いてしまう。何をするつもりなんだこの天然和菓子は、とついシャロは考えるが天然だから分かるはずもないと思い直し、考えるのを止めた。
「ただいま」
「あ、林檎。おかえり、なんかジュース飲む?」
「飲む」
一方、道場破りの後ろにいた自分の妹を確認した頼智は早速ジュースを入れに厨房へと行く。
「…それで、何で千夜がここに来たのよ…?」
思考を何とかリセットして再起動させたシャロは、ドヤ顔で仁王立ちする千夜に一番の疑問を投げかける。
「いやほら、私ってまだフルーチェハウスに来たこと無かったじゃない?」
「そうね、…でもそれが?」
「やっぱり友達の働くカフェに行ったことがないのは失礼かな〜って」
「失礼じゃないから!むしろ別に率先して来なく良いわよ!」
「えー」
「えーじゃない!」
「ほら林檎、りんごジュースだよ」
「ありがと」
厨房から戻ってきた頼智は林檎にジュースを渡すと、再び先ほど座っていたカウンター席に腰を掛ける。
(この娘が林檎の元バイト仲間かな…?)
そう考えていると千夜も頼智に気付いたのかカウンターまで近付いてくる。
「初めまして、貴方が頼智くんね?林檎ちゃんから良く話は聞いてるわ♪」
「うん、こんにちわ。確か…千夜ちゃん、だよね。僕もシャロちゃんから良く話を聞くよ」
「えっ?」
「ちょちょちょちょちょっと頼智!」
「シャロちゃん、事あるごとに千夜ちゃんの事を話してくれるんだよ、とても大切な友達なんだね」
「あらまあ…私もシャロちゃんのこと大切よ♪」
「…今なら野良ウサギの群れにも飛び込める気がするわ…!」
シャロは顔を赤らめながら下を俯く。その様子を見た千夜と頼智はノルマ達成とばかりにほっこりとした表情になる。
その顔をお互い見つけ、少しの間見つめ合うと頼智と千夜の背中に雷が落ちたかのような衝撃が走る…!
(この娘…なんか凄い仲良くなれそうな気がする!)
(林檎ちゃんのお兄ちゃん…何だか私と同志の気がするわ…!)
お互いにお互い、似通った気を感じ取ったのだろうか。千夜と頼智はお互いに右手をだし、熱い握手を交わす。
「これから宜しく、千夜ちゃん!」
「ええ!頼智くんも宜しく!」
そんな光景に嫌な予感がしたのだろうか。既にいつも通りに戻っていたシャロの背筋に一筋の寒気が走る。
(この二人…絶対会わせてはいけなかった気がするのは何故なの…!?)
シャロは思わず自分の肩を抱きしめる。まだそこまで被害は受けていない、はずなのに足は自然に後ろへと下がっているのはなぜだろうか。
その答えが出るのはもう少し後のことである。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「じゃあ、そろそろ注文しようかしら」
「じゃあはい、これがメニュー表よ」
頼智は千夜と、ついでに林檎も席に案内すると厨房に戻った。ので、現在シャロが林檎と千夜の注文を取っている。
「意外とメニューが多いわ…迷っちゃう…」
「…おすすめはりんごジュース」
「じゃあそれをお願いできるかしら」
「…私も同じの…」
「林檎はさっきも飲んだでしょうが!…まあ分かったわ」
そう言うとシャロは林檎の飲み終えたジュースを持って厨房へと軽やかに歩いていく。
そして2分と経たず、シャロは林檎ジュースを2つ持って千夜と林檎のところへ戻ってくる。
「おまたせ、千夜、林檎」
シャロはコトッ、コトッと千夜と林檎の前にりんごジュースを置いていく。
「このジュース、匂いはなんか普通のりんごジュースと違うみたい。色も綺麗だし、まるでお酢みたい♪」
「変な例え方しない!」
「…これで酸っぱければ完璧」
「林檎も悪ノリしない!」
「おーいシャロちゃん、今間違えてりんごジュースじゃなくてお酢入れてなかったー?」
「頼智も変な冗談言わない!…ってえ?それ本当?」
「ごめんー!冗談だよー!」
「…もう疲れたわよ」
そう言ってシャロはガクリと肩を落とす。
「シャロちゃん、これ少し飲む?」
「…うん、飲む」
そんな姿を見た千夜は少しやり過ぎてしまったと反省したのか、りんごジュースをシャロに渡す。無気力にそれを受け取ったシャロは、ストローに口をつけるとーーー
「ちょっと待ってぇぇー!シャロちゃん本当に間違ってた!!それりんごジュースじゃなくてじっちゃんの角ハイボール!!」
「…えっ?」
ーーーそのまま吸い込んで、飲みこんだ。
「…あ…れ………私…なにを……立てない…?」
「ちょ!?シャロちゃん!?」
次の瞬間、ハイボールを持ったままバタンッ、とシャロは床に前のめりに倒れる。右手から落ちたコップから、ハイボールが床に満面になく広がっていく。
「…頼智くん!急性アルコール中毒かもしれないわ!?早く救急車を!」
「いやそんなまさか…シャロちゃん立てる!?」
「…む…り……」
「……まだ意識はあるし、急性アル中の初期症状、だと思う。まずは暖かくして、誰かが様子を見ながら部屋に寝かせるべき」
「よし!じゃあ運ぶから手伝ってくれ千夜ちゃん!」
「分かったわ!」
「…私はお客が来ても良いよう店番する」
「頼んだよ林檎!」
…と、こんな訳で。
千夜によるフルーチェハウス初訪問は散々な感じになってしまった訳である。
〜〜後日談〜〜
「あの後結局、千夜ちゃんが一日中シャロちゃんのことを見てくれたんだよね」
「…あの二人、やっぱり仲が良い」
「…ところでさ、林檎」
「何、お兄ちゃん」
「なんで急性アル中の対処法なんて知ってたんだ?」
「…実は、甘兎庵で働く前に居酒屋でバイトしたことがある。その時に教えてもらった」
「ええ!?でもどうして!?」
「…中学二年の職業見学の時に、体験先を居酒屋で希望出した。興味あったから」
「…林檎って何か時々少し不思議なところあるよね……」
「…???」
次回予告
6月と言えば梅雨!梅雨と言えば雨!雨と言えば鬱!鬱といえば定期試験!
そんな感じのテーマでお送りさせていただくかもしれません。
あと意見感想があれば気軽に送ってください!執筆の活力になるので!
…にしても、一向にrabbit houseの方々が出る気配しないなぁ…