本丸 第1部隊の庭-
「鬼ごっこするぞ!」
1代目「大倶利伽羅」のその言葉に、2、3代目は「は?」と言った。
「1代目、今日は鍛錬するって。」
「だから、鍛錬だ。本気で鬼ごっこなんてしたことないだろう。今まで。」
「本気で鬼ごっこ?」
「そうだ。死ぬ気でやってみたら、これが結構きついんだ。いい鍛錬になる。」
3代目が、ぞっとしたような表情をした。
「死ぬ気って?」
「もちろん、殺し合いじゃない。捕まった奴に罰を与えるんだ。あるいは、捕まえられなかった鬼にね。」
「どんな罰?」
2代目のその問いに、1代目はにやりと笑って言った。
「「女装」してもらおう。」
……しばしの沈黙……
「はあああああっ!?」
2、3代目が同時に声を上げた。1代目が真面目な表情で言った。
「負けた奴が「女装」だ。」
すると、3代目が「あ、楽勝」と言った。1、2代目は「え?」と3代目を見た。
「草刈りなら、俺得意です。」
「それは「除草」だっ!何を、現実逃避してるんだお前は!」
1代目が怒鳴りつけた。2代目が頭を抱えながら言った。
「うわー…女装なんて、死んだほうがましだっ!」
「お、2代目、よく言った。それが聞きたかった。」
1代目が、そう言って笑った。3代目が尋ねた。
「もちろん、1代目も入るんですよね?」
「当たり前だ。2人きりでやらせて何になる?」
1代目が、笑いながら答えた。2代目が眉をしかめ「1代目の女装?」と呟いた。
しばしの沈黙の後、2、3代目が、同時に言った。
「見たくないような見たいような…」
「なんで、俺が負ける体(てい)なんだっ!」
1代目が怒鳴った。
……
数時間後-
大倶利伽羅3人共が、芝生に寝っころがり息を切らしていた。
「なんだ、結構スタミナねーなお前ら。」
1代目が、ゆっくり起き上がりながら言った。2代目が寝転がったまま、両手で顔を塞いで言った。
「うわーー俺が女装かああああ!」
「大丈夫。お前なら似合う。」
3代目のその言葉に、2代目は「それ、褒めてない!」と言い返した。
1代目がにやにやしながら、2代目を見下ろして言った。
「絶対、やってもらうからな。明日にでも乱(みだれ)んとこ行け。」
乱とは、短刀「乱籐四郎」の事だ。常に少女姿でいる異色の付喪神だ。
「えっ!?1代目本気!?」
「だから本気だって言ってるだろう!今度の第1部隊の宴会で披露してもらう。」
「!……」
絶句している2代目の横で、3代目が突然飛び起きて言った。
「乱んとこ行くの!?俺も行く!」
「えっ!」
……何か、違う空気が流れた。
……
翌日-
「だから、なんでお前まで来るんだよ?」
第1部隊宿舎の廊下を歩きながら、2代目はついてきた3代目に言った。
「乱ちゃんに会いに。」
「乱…ちゃん?」
「初めて見た時、ジョークで口説いたんだ。」
「はああああっ!?それでっ!?」
「ノリがよくて面白かったよ。」
「ノリがいい?」
2人の前の障子が、いきなり開いた。
「うるさいわねぇ。何を人の部屋の前で…きゃあ!3代目君!お久しぶり!」
少女姿の乱が3代目に抱きついた。3代目も自然に抱きしめている。2代目が驚いて、2人を交互に見た。
「おはよう、乱ちゃん。今日も可愛いよ!」
「やぁねぇ3代目君、いつも口がうまいんだから。」
「うまくないよ。ほんとだって乱ちゃん、一番ここで可愛いよ!」
「もぉやだぁ!3代目も一番、かっこいいよぉ!」
乱は、3代目の腕にぐりぐりと人差し指を押し付けている。…ついていけない2代目が後ずさりした。乱が、やっとその2代目に気づいた。
「あら、倶利伽羅2代目君連れてどうしたの?」
3代目が、乱を見下ろしながら言った。
「それが、冗談抜きで助けて欲しいんだ。」
「冗談抜きで助ける?」
「うん。大変なことになってさ。」
乱は、いきなり3代目を突き放した。3代目は気にしない様子である。
「なんだ、それを早く言えよ。まぁ、中へ入れ。」
突然の乱の変わりぶりに、2代目が、さらにずりずりと後ずさりしている。
3代目が振り返ると2代目の姿がない。見ると、2代目は遠くの柱にしがみついていた。
「おーい2代目!なんでそんなに遠くに離れてるんだ!お前が主役だろうが!」
2代目は、首を振った。
「おい!早く来い!これでも、気ぃ短いんだ!!」
乱にそう怒鳴りつけられ、2代目が、慌てて駆け寄ってきた。
……
第1部隊の宴会は、またいずれ(あるのか?(^^;))