Fate/Zero Gravity   作:色慾

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第8話

「あ゛ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 

飛び散る臓物の匂い、ぐちゃぐちゃにすり潰され、混ざり合った血と肉であったそれを見おろしながら、かつて人であった者たちは、互いに溶け合い、犇めき合いながら慟哭していた。死ぬことすら許されず、永久に苦痛が続く地獄。薄汚れた地下水道内で、その「芸術的な」景色を作り上げた青年は、一人首を傾げる。

 

「どうしてかなぁ…なぁんだかうまく行かないんだよね」

 

「ふむ。発想は良いのですが、これは基幹部の設計をもう少し見直すべきですね、龍之介」

 

「あぁっ、旦那もやっぱりそう思う?あーあ、こいつも失敗作か……材料の無駄遣いになっちゃったなー」

 

「良いのです。失敗は成功の母とも謂うべきもの。もとより芸術とは、浪費のもとに作り上げられるもの。貴族の美徳なのです」

 

「そっかぁ!まあそうだよね!!大事な約束があるんでしょ?いってらっしゃーい」

 

無邪気に手を振り、返り血を浴びたままの青年は破顔する。既にその脳裏には次の「作品」の構想が浮かんでいた。送り出された男もまたカエルのように跳び出た瞳を細め、にっこりと慈愛の笑みを浮かべる。

 

「それでは、また後で」

 

 

 

 

 

 

 

「ギルガメッシュ、読んで」

 

「またか、近頃お前はそればっかりだな、白野」

 

「お願い!私じゃ読めないもの」

 

仕方あるまい。そう一人呟いて、ギルガメッシュは膝の間に陣取った少女のために、各種取り寄せた新聞を読み聞かせた。情報収集は大事だと教えた記憶はあるが、まさか月の裏側でもこの世でも、ここまで読み物に執着心を魅せるとは思わなかった。

 

「あ、そうだ。これっ」

 

「全く。飽きぬやつよ」

 

きらきらと琥珀の瞳を輝かせながら、メタルフレームの眼鏡を渡される。何故かこれを掛けると、白野はまるでまたたびに酔った猫のように、涎を垂らさんばかりの勢いで大はしゃぎするのだ。可愛い雑種の心を引き付けるのは良いが、毎朝これでは、さすがに飽きるというもの。

 

「魔術師による神秘は秘匿される。新聞を読んでも仕方あるまい」

 

「そうだけど…」

 

「まあ良い。そこまで言うなら読んでやらんでもない」

 

5,6社分の一面を朗読し終えたところで、白野はギルガメッシュを止めた。どうしても気になることができたのだった。

 

「ギルガメッシュ、過去一週間分の新聞、まだ取ってあるよね?」

 

「お前が捨てるなと言うのでな。ほれ、あそこに積みあがっておろう」

 

「ちょっと待って」

 

そう言って、白野はパタパタとベッドの横に積まれた大手新聞社の紙面から、過去一週間分の紙面を持ってきた。それをサイドテーブルに並べて、ギルガメッシュに見せる。

 

「ほら、やっぱり多すぎるよ」

 

「死人の数か?どの時代に置いても狂人は居るものだ。別に不思議でもあるまい?」

 

歯牙にもかけない様子でギルガメッシュは言う。答えはすでに得ているのだが、これを機に白野に考えさせるのも一興だ。あくまで気づいていないように装って、白野を促す。

 

「ううん。日付を見て。ギルガメッシュが迎えに来てくれた日がこれで……これより前は、多くて2,3人同じ家の大人と子供を殺していた。けど、この後からは住む場所がばらばらの子供ばっかり死んでいる。一人でやるには難しいと思う」

 

「ならば共犯者を偶然得ただけであろう。何の証明にもならん。人数の着眼点は良いが、決定的なものを見逃しているな」

 

「ついていった数が多いんじゃなくて、一気に死んでいるのが変?」

 

「それだけではないが、及第点だ。お前の言う通り、この前後で一回当たりで殺された人の数は、一人の人間が処理しきれる数を優に上回るようになった。仮に数人いたとしても、ここまで汚らしくまき散らすには、相当な時間と労力が必要なことは、いうに能うまい?」

 

「けどまだ捕まっていない。魔術を使ったから?」

 

「それか、サーヴァントに命じたか。古来より秘術は贄と血と切り離せぬもの。お前はお前の魔力を持って我を維持しているが、凡百の魔術師の誰もが自力でできると言うわけではなかろうな」

 

「人を殺して……餌にしている」

 

鷹揚に頷いて、ギルガメッシュは押し黙った。孤児院での一件が頭を過ぎり、思わず床にへたり込む。震えが止まらない。だってあの時死にかけたのだ。きっといつか乗り越えて、前を向いて歩こうって思ったばかりなのに。そんなことをする人がまだいたなんてーー

 

「やれやれ、手のかかる雑種だ」

 

ひょいと体が持ち上げられ、ギルガメッシュの腕に戻される。

 

「穴熊を決め込むか?もとよりマスターであるお前が態々前線に立つことはあるまい?」

 

からかう様な声色に、握りしめた拳に力が籠る。

 

「……行く!私も。私だって、ギルガメッシュの隣に立って、最後まで見届けたい」

 

「フッククククククク…ハハハハハハハハハハハハハハハハ!裁定者たる我と並び立つか?そこまで堂々と欲するとは、さすがに想定外だ。だが面白い。我が裁定を観測する役割は、誠お前にだけは相応しかろう」

 

「お願い、ギルガメッシュ。こいつだけは、許せない」


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