Fate/Zero Gravity   作:色慾

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第7話

「ディルムット・オディナ。お前はかのフィオナ騎士団の一番槍とも謳われた男だ。先の戦いの失態は一先ず良しとしよう。あの娘について、どう思う?あれには一体何が見えていた?」

 

「我が主。あの娘はまだ幼いですが侮れません。本日狩り損ねた弓兵に指示を出していた時の()は、まるで知者ファーガス・フィンヴェルや、千里眼にして我が朋友のディアリン・マクドバのようでありました。早いうちに摘み取らねば、必ずや我々にとって災いとなる花を咲かせましょう」

 

「……ほう。貴様、あの小娘が私より優れた魔術師だとでも言うつもりか?」

 

「滅相もない!」

 

己の失言を恥じ、麗しい容貌をした槍兵は頭を垂れた。興味をなくしたように頬杖を突き、掌に集約した月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)を弄んだ。

 

「お前のいう事も分からなくはない、ランサー。お前から取り出した戦いの記憶は繰り返し見た。ここで腑に落ちない点が二つある。一つ、あのサーヴァントは何者か?あれほど多くの宝具を所持した男は、神話上ただ一人しかあり得ん。二つ、私の推察通りだとして、なぜあの娘が宝具を使えた?バーサーカーの攻勢を防いだ神話の盾を展開したのは、間違いなくあの娘の方だ。

 

アーチャーとて阿呆ではない。あれが容易に縊り殺せる器だったら、みすみす戦場まで連れては来ないだろう。あの娘の魔術回路を解析する限り、魔力量こそ多いものの、属性も回路の数も凡庸そのもので見どころがない。私の仮定が正しいとすれば、あの娘があそこまで力を発揮できるには、サーヴァントの能力(スキル)のせいか、それともサーヴァントから何らかの強力な礼装を預けられているかだ」

 

「おお……」

 

ディルムット・オディナは顔を伏せたまま瞠目した。今生こそ騎士の誓いを貫こうと仕えた主は、これほど天才的な頭脳の持ち主であったか。主君の慧眼をもってすれば、誰も敵にはならないだろう。

 

「実を言うと、礼装の正体には既に心当たりがある。我々は未だ工房に穴熊を決め込むとして…ランサー。お前はあの娘に張り付き、隙を見てあれの持つ鍵を強奪して来い。あれは聖杯戦争抜きにしても貴重なものだ。学術的にも興味がある」

 

「はっ」

 

 

 

 

 

 

 

ヴィマーナから降り立ち、拠点のスイートルームへ戻った頃には、ゆうに零時を超えていた。岸波白野は疲労と眠気でふらふらとベッドへ向かうが、途中で子猫を捕まえるように、英雄王の腕に抱きとめられてしまった。

 

「これ、寝台に上がる前に風呂に入れ」

 

「だって…ギルガメッシュ、も……眠いよぅ……」

 

「やれやれ。特別だぞ、雑種。王たる我に側使いの真似をさせようなど、本当に厚顔なマスターだ」

 

ブツブツと言いながらも、嬉しそうに風呂を沸かし、ギルガメッシュは岸波白野を抱えて風呂場へ向かった。腕の中の少女は魔力消費が激しいのか、うとうとしながら何とか意識を繋ぎ止めている様子だった。腰まである長い髪を洗い、たっぷりと香油を刷り込み、小さな体にも泡立てた石鹸をつける。

 

「……ギルガメッシュ?」

 

「いや、何でもない」

 

幼い体の中心に刻まれた令呪に、言いようのない幸福を感じ、思わず手を止めてしまった。泡のついた手で目を擦ろうとする白野を止め、抱き寄せたまま泡を流してやる。ジャグジー付きの豪奢な風呂に沈む頃には、岸波白野はは完全に安心しきった様子で眠りに落ちていた。

 

「ええい、起きんか白野。逆上せても知らんぞ?」

 

「ん…ぎる……がめ…しゅ」

 

思わず叱咤するも、寝言で愛しそうに名前を呼ばれてはそれも叶わない。結局黄金の王は頃合いを見計らって少女を風呂から引き上げたのだった。

 

 

 

翌日、岸波白野はギルガメッシュとルームサービスのモーニングティーを楽しみながら、窓際のテーブルを囲っていた。サイドテーブルのサンドイッチを摘みながら、白黒の盤面に向かう。チェスである。しかし、普通のチェスではない。各々の駒が持ち主が定義した性質を表すというシロモノで、今は聖杯戦争の人達を模していた。余談だが、持ち主が与える条件さえ揃えば、盤面自体も今実際にいるフィールドを示せるという戦局俯瞰用のものだ。

 

「どう見る、白野?」

 

戦闘指示については、身体が覚えていたため、何となくギルガメッシュに出すことができたが、戦略自体を5歳児に練ろと言うのは無茶だと思ったが、ギルガメッシュはその部分についても、全力で鍛える気らしい。パステルピンクのワンピースのまま、お行儀悪く椅子の上に膝立ちになって、岸波白野は唸っていた。

 

「どこから手を付ければ良いか分からないか?まずは分かっていることからで良い。情報は多いに越したことはない。お前が覚えている限りを盤面に並べて、取捨選択するが良い」

 

「分かった。まずセイバーはここ。アイリスフィールを庇っていたから、多分マスター」

 

チェス盤の中央にクイーンとキングを並べると、それぞれが男装の麗人と、白髪の美女の胸像へと変わった。ついで、その横にナイトを並べる。

 

「これはランサー。マスターは見えなかった。そしてライダーとマスター。乱入してきた人。ライダーは強いけど、マスターは慣れてる人じゃない。あと、バーサーカー。ギルガメッシュの剣を掴んだ人」

 

「良い。では次に各々のについて分かっていることをまとめよ」

 

「セイバーは強いけどランサーに押し負けそうになっていた。アイリスフィールを庇っているから、かな?ランサーはバーサーカーとギルガメッシュが戦ってた時、私を狙ってきた。ライダーは何を考えているのか分からない。バーサーカーは怖い。ギルガメッシュの剣を掴めるから。でもセイバーを見て変な風になってた」

 

「上々だ。ならば自ずと何をすべきか見えてこよう」

 

「キャスターを探し出す。こっそり何かされたらやだもん」


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