Fate/Zero Gravity   作:色慾

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第6話

「待って。何かくる!」

 

現れたのは、漆黒の影を身にまとったフルプレート・アーマーの騎士だった。何かの影響で、ステータスすら見えない。これはギルガメッシュと相性が悪い。どうしてそう思ったかはわからないが、白野の本能はそう告げていた。マスターの姿はない。正面で当たるしかないのか?

 

「誰の許しを得て俺を見る?狗。せめて狂犬らしく、散り際にて俺を興じさせよ」

 

「ダメ!アイギス!!」

 

止めるよりも早く、ギルガメッシュが宝具の一角を黒い男に一斉掃射した。咄嗟にアイギスを展開する。生身の人間が展開できる盾の威力などたかが知れていたが、白野は必死だった。何かに力を吸い取られるような感覚と、寸でのところでそらされた槍が髪を一房攫って行く感覚。怖い。死が差し迫り、思わず涙が滲む。

 

「その薄汚れた手で我が財を害するか、狗!!」

 

「閉じて!王律鍵(バヴ=イル)!!」

 

思わず真名で呼びかけ、強制的にギルガメッシュが準備していた兵装の第二陣を消す。追撃をしようとする黒騎士をひらりと躱し、金色の王は再び飛行船に降り立つ。

 

「どういうつもりだ、白野。」

 

「投げるのはダメッ!全部あいつに掴み取られちゃう。近くで戦わなくちゃ、負ける!」

 

「フッ……慢心を捨てろと言うか。特別だ。今宵のみは貴様と同じ地に立とうぞ、狂犬」

 

そう言って、ギルガメッシュは雷の形を模した細身の剣を二振り下げ、セイバーを次の標的に見据えた狂戦士へ駆けだした。神話の再現ともいうべき戦いに目を瞠り、チャリオットの後部座席で少年は、ただ目を凝らすしかなかった。

 

「おい坊主。お前、マスターだろ。あの黒いのは一体どうなってやがる?」

 

「それが、見えないんだ。全部靄がかかってる。あいつ…バーサーカーだよ」

 

「ほう、バーサーカーか。理性を失っているにしては、えらく芸達者なやつよな」

 

「えっ!?」

 

「なぁんだ。お前気づいてなかったのか。アイツはな、あの金ぴかが飛ばした剣を掴んで、続いて飛んできた槍を払ったんだ。おそらく掴み取ったものを宝具にする力だ。一筋縄では行かんぞ、ありゃ。いや、それよりも見どころがあるのは、むしろあの娘の方だが…」

 

「あの時の『掴み取られる』…まさかあの()!?」

 

「ああ。完全に読み切っていたんだろうよ。でなきゃ二回も金ぴかの攻勢を止めたりはしない。加えて投げずに近づいて戦えとまで指示していた。まだ粗削りだが、ただ子供にしちゃ、随分と良い目をしてやがる」

 

ライダーに言われて、再びウェイバー・ベルベットーー先の少年は、金と黒の英雄の戦いに目を戻した。剣技は明らかにバーサーカーが上だったが、まるでその動きを読み切ったようにギルガメッシュは難なく攻撃をかわす。岸波白野もまた、王律鍵を握りしめ、額に汗を浮かべながら、二人の戦いを見守っていた。

 

天の鎖(エルキドゥ)!!」

 

幼い声に呼応するように、天より伸びる鎖が戦士を拘束する。黄金の王の猛追に、一瞬だけ晒した隙を、白野は見逃さなかった。追い打ちとばかりに双剣の切っ先がバーサーカーの胸へと吸い込まれる。だがその瞬間、岸波白野は再び強い予感に、背後を振り返った。

 

「ギル…あれ!」

 

バーサーカーに背を向け、ギルガメッシュは躊躇いなく飛行船へ舞い戻った。跳躍の間につなぎ合わされた双剣は、今や一張りの優美な大弓へと姿を変えていた。白野をかばうようにして弦を引き絞り、光の矢を撃つ。轟音が響き、破魔の槍にて奇襲をかけようとしたランサーの体が吹き飛ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

「見たか?綺礼。あの娘、やはりあの場でさっさと始末しておくべきだった」

 

「ええ、我が師。この短期間でここまでの技量を身につけるなど、あれは正常(まとも)ではない」

 

聖堂教会の地下深く、ワインを片手に遠坂時臣は言峰綺礼とともに、サーヴァントの監視に遣ったアサシンの視界から、一部始終を見ていた。

 

「正直英雄王一人だけだったら、まだ望みはあった。だが今はそうも行かない。あの娘――ギルガメッシュ縁の人間とは言え、聖杯戦争に慣れ過ぎている。しかも、あそこまで完璧にあの傲慢な王を御しているとは。あれは、我々にとって脅威だ」

 

「いかがいたしますか?師よ」

 

「引き続き監視を。まだこの段階では、我々が生存していることを、知られてはいけない」

 

 

 

 

 

 

 

「どういう事だ、ランサー。お前にはセイバーを倒せと命じたはずだが?」

 

「申し訳ございません、主」

 

ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは丁寧に撫でつけた金髪を乱し、額に青筋を浮かべながら、忌々し気に歯ぎしりをした。ケイネスは事実聖杯戦争に何も求めていなかった。参加理由はただ一つ、家名に箔をつけることだけ。ところがこの(ざま)はなんだ。そもそもの間違いは、どこぞの不届きものに聖遺物を盗まれたところからだった。かのマケドニアの王は寄りにもよって歯牙にもかけなかった劣等生の教え子に渡り、こちらと言えば急きょ呼び出した次善のサーヴァントと戦うことを余儀なくされた。とは言え、ランサーという三騎士の一角でありながら、使い勝手の良いクラスだ。ところがこれは愚直のあまり時期を見て主に勝利を捧ぐことも知らぬでくの坊だ。いくらセイバーのクラスを頂いていようとも、あのような小柄な女一人縊り殺せないとは。加えてソラウまでが……。いや、やめておこう。我が魔術工房は完璧だ。一先ずここに籠れば、積極的に出撃せずとも、そう易々と打倒されることはあるまい。

 

「ソラウ、外してくれ。ランサーと少し話したいことがある」

 

「あら、つれないわね。私がディルムットの魔力源だと言うのに?」

 

「すまない、ソラウ。これは君を守るためでもあるんだ」


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