Fate/Zero Gravity   作:色慾

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Triangle
第5話


夜が来る。

 

黄金とエメラルドで構成された絢爛たる飛行船(ヴィマーナ)。そのただ一つ用意された玉座の上に、岸波白野とギルガメッシュは居た。正確には、玉座に腰を掛けたギルガメッシュの膝の上に、岸波白野が抱かれているだけなのだが。オープンカー式といえばそれまでだが、夜風がさらさらと髪を撫でて心地よい。

 

「ギルガメッシュ、あそこ!」

 

少女が指さす先のコンテナでは、すでに青の騎士と二槍の兵が刃を交わしていた。昼にデパートで迷子になった自分と一緒にいてくれたセイバーとアイリスフィール。相対するは最速のクラスを持つサーヴァント、ランサーだ。ランサーのマスターは見えない。技量は互角か、それともセイバーが優勢か。だが、生身の人間一人をかばい立てているセイバーの方が、今は劣勢に見えた。

 

「フッ、既に始めたか。どうする、白野?加勢するか?それとも、息の根を止めるか?」

 

「止める。どちらも傷つけさせない」

 

「ほう。それがお前の願いか。なるほど欲深なものだ。だがそれは、少し遅かったようだぞ?」

 

ギルガメッシュの手がポンと頭に置かれた。視線の先をたどると、戦の(とき)を上げた大男が、(いかずち)の轍を残して、チャリオットを駆けて行った。あれは、ライダーだ。マスターである少年を後部に乗せている。

 

「追って、ギルガメッシュ」

 

「良かろう」

 

夜の闇を切り裂くようにして、黄金の飛行船は静かに加速した。

 

 

 

 

 

 

 

「アッラララララララララララーーーーーーイ!!王の御前である!双方、刃を納めよ!!」

 

戦車を曳いた牡牛を空中に留め、半ば挑発するように言い放った。新たに表れた敵にセイバーは警戒を深め、ランサーは戦いに水を差されたせいか、涼し気な一瞥を遣っただけであった。双方の顔を見て、岩壁のような胸を張って、ライダーは更に声高に宣言した。

 

「我が名はイスカンダル!此度の戦ではライダーのクラスをもって現界した!うぬらと矛を交わす前に問うておきたいことがある!うぬらが聖杯に何を求めるかはわからぬ、だが今一度考えてみよ。その願望、天地を喰らう大望に比してもなお、まだ重いものであるのかどうか!!」

 

豪放に笑う男に対し、呆れるもの、驚くものと反応はそれぞれだ。なぜならば、聖杯戦争において真名の秘匿は不可欠。それを自ら晒すとは、よほどの馬鹿者か、あるいは相当な実力者か。ヴィマーナを近くのビルの屋上に停止させ、岸谷白野は双眼鏡で一部始終を見守っていた。ギルガメッシュは不満そうにしているが、当初の目的である、「争いを止める」という点ではライダーが代わりに遂行してくれたので、もう少し静観しておこうと思ったのだ。

 

「とどのつまりなぁ。ひとつ我が軍門に降り、聖杯を余に譲る気はないか? さすれば余は貴様らを朋友として遇し、世界を征する愉悦を共に分かち合う所存でおる!!」

 

「なっーー!?」

 

あまりに不遜な物言いに、その場にいた各々が、口をあんぐりと開けて驚愕した。さすがにこれははっきり断っておかないと、背後の王様がもっと不機嫌になってしまうだろう。近くにもう一つなんらかの力を感じるのが気になったが、岸波白野はこのタイミングで介入することとした。というよりも、白野とてギルガメッシュを差し押さえて王を称する人がいることに、腹を立てずには居られなかったのだ。結果――

 

「我を差し置いて王を称するとはな?よほど不埒の輩と見えた」

 

「難癖つけられたところでな。イスカンダルたる余は、世に知れ渡る征服王故な。貴様こそ王を称したいなら、名乗りを上げたらどうだ?」

 

肌を刺すような威圧感を遠慮なくまき散らし、岸波白野を腕に抱いたまま、原初の王が戦場へ降り立つ。その重圧に誰もが大地に縫い付けられたように動くことができない。唯一征服王を称したイスカンダルだけは、悠然とギルガメッシュに答えた。それを鼻で笑い、更に反論しようとするより先に、気づけば白野は叫んでいた。

 

「勝手なことを言わないで!王様はただ一人だもん!」

 

「フッハハハハハハハハ!あれが言っているのは、そういう事ではないが、まあ良い。天上天下に王たるものは我一人だ。間違いではない。そら、膨れるな。お前は飴でもなめて見ていろ」

 

なんだかとてつもなく馬鹿にされたような気がして、咄嗟に出た一言だというのに、当の本人に窘められては形無しだ。素直に飴を受け取り、口に放り込む。ほんのりとした甘みに、ざわついた心が少しだけ落ち着きを取り戻した。

 

「随分と威勢が良い嬢ちゃんだ。なんだぁ?聖杯戦争にはお遊戯をする子供までいるのか?」

 

「今なんと言った?雑種ごときが。我が主を侮辱したからには、生きては返すまい」

 

そう言って、ギルガメッシュが片手を上げると、その背後の空間に金色の波紋が波打ち、ありとあらゆる武器の原典が、姿を現した。重火力を持った一斉投擲の構えだ。その時、岸波白野の心が大きく鼓動し、何かが頭の中で警鐘を鳴らした。孤児院での出来事の直前に感じたのと同じ胸騒ぎに、思わず首からかけた王律鍵(バヴ=イル)を握りしめた。

 


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