Fate/Zero Gravity   作:色慾

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長らく空きました。すみません。言い訳をするのも無粋なので、まだ引き続き頑張ります。


第19話

奇妙な闖入者が現れたのは、そんな時だった。

 

「あー、平時なら貴様らも一杯飲むかと誘うところだが、これは……まあいい、飲みたければ降りてこい、盃を受け取れば友としよう」

 

飲み会開催場所もといアインツベルン城中庭を囲う暗殺者たちにまず気づいたのは、酔いどれどもの中で比較的に正気を保っていたイスカンダルだ。とはいえ、ヒゲなどを三つ編みにされ、片手で英雄王を手伝って吐き戻した幼女を介抱している途中なので、全く格好が付いてない。ギルガメッシュは未だしがみついてくる白野の世話で両手が塞がっており、セイバーに至っては完全に出来上がってて無茶を言う始末だ。

 

「なんだ、アサシン!おい、アッサシーン!貴様ら遅いゾォー!駆けつけ3杯!!!一人当たり3杯れすよぉー!!!」

 

「やめろっ!ハサンに大盤振る舞いする酒などっ……おい白野、いつまで吐いておるか!」

 

「まあそうケチケチするな!ほれ、誘った覚えはないが混ざってもいいぞ。この柄杓の酒を飲み干せ。これは貴様らの命と同等よ」

 

返答はなく、髑髏顔の暗殺者はただ一閃、刃の投擲で柄杓を折った。瞬間、芳醇な香りを漂わせながら、赤い雫が宙を舞った。赤ら顔のウェイバーはいつの間にか警戒しながらイスカンダルの背後に隠れている。

 

「おいっ、ライダー!」

 

「あー、分かってるさ坊主。嬢ちゃんもあの様子だ。早めに済ませるに越したことはない」

 

「ふっ、手は貸さんぞ。白野、両手を上に上げろ。ほら、バンザーイ」

 

「バンザーイ」

 

やれやれと立ち上がったイスカンダルが、武装を整える。その瞳はすでに万国を征服した王のそれだった。ギルガメッシュが応えるように笑い、我関せずと白野の汚れた服を脱がせるが、背には既に終末剣を負っている。セイバーも酒気は抜けないものの、油断なく剣を構え、黒服の暗殺者たちに相対した。甚だ締まりのない空気ではあるが、ようやく各々が戦の準備を整えた様だ。

 

「最後に一つ問おう。セイバー、王とは孤高なるや?」

 

「おうであれば、ここーう以外の、なんだっていうんれす?」

 

「やはりダメだな。で、あるからこそ、余がここで王のなんたるかを示さねばなるまいて」

 

高らかに宣言したイスカンダルがその逞しい両腕を広げた途端、敵も味方も荒涼たる平原に立たされていた。巻き起こる砂埃の中、アイリスフィールが思わず白野の背をさすっていた手を止め、感嘆の声をあげた。

 

「固有結界!?」

 

「見よ、我が無双の軍勢を!」

 

万を越す大群が鬨を上げ、敬愛する王に付き随う。その傍らにはいくつもの戦場を共に蹂躙した名馬ブケファラスの姿もある。立地上その姿を丸裸にされた髑髏仮面の暗殺者たちは、己が命運を悟ったのか、唯呆然と立ち尽くした。

 

「肉体は滅び、その魂は英霊として『世界』に召し上げられて、それでもなお余に忠義する伝説の勇者たち。時空を越えて我が召喚に応じる永遠の朋友たち。彼らとの絆こそ我が至宝! 我が王道! イスカンダルたる余が誇る最強宝具――王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)なり!!」

 

なおも口上は続き、ブケファラスに跨ったイスカンダルが己の臣民に号令をかけた。

 

「王とはッ――誰よりも鮮烈に生き、諸人を魅せる姿を指す言葉!すべての勇者の羨望を束ね、その道標として立つ者こそが、王。故に――!王は孤高にあらず。その偉志は、すべての臣民の志の総算たるが故に!」

 

「「「然りッ!然りッ!然りッ!!!」」」

 

腰に配した宝剣を抜き出し、切っ先を敵陣へ指す。雄叫びと共に、イスカンダルを首魁とした軍勢が一つの生き物のように暗殺者たちを呑み込んだ。呆然とその光景を見つめていたセイバーは、王格の違いにただ慄くばかりであったが、やがて意を決して武装すると、千鳥足のまま左手に握ったボトルを飲み干した。

 

「ここーでなにがわるい…ボッチでなにがわるーーいーーーーすとらいくううううううーーエアアアアアアアアアアアアーー!!」

 

最大出力の風王結界が砂塵を巻き起こしながら、混戦中の大群から逸れたアサシンたちを一掃する。黒衣が宙を舞い、風の彼方へと消え果てる。

 

「どうれふかぁ?あいりぃー」

 

「えっ!?ちょ、ちょっとセイバー!」

 

左腕をアイリスフィールの首に巻きつけ、まるで酔っ払いオヤジの様にセイバーがドカリと再び腰を下ろす。鼻歌でも歌いそうなほど、爽やかな表情の彼女に、アイリスフィールは戸惑いを隠せない。

 

 

 

だが暗殺者たちを屠るのに忙しい面々は気づかない。岸波白野の身に、別の何かが忍び寄っていることに。固有結界の僅かな綻び。無数の目が蠢き、少女を見つめる。天性の勘の良さに振り向いた白野だったが、その時既にに「眼」より発された紫電の光が眼前に迫っていた。瞬間、光輝かんばかりの黄金の翼が三対展開され、白野の小さな体を包み込む。直後、終末剣(エンキ)の弦を傍らの王が躊躇なく引き、放たれた光と共に不気味な敵影は虚空へと吸い込まれた。

 

喧騒は瞬く間に去り、アインツベルンの庭が映し出される。宴の名残り深い征服王と騎士王は相変わら舌鋒にて小競り合いをしている様だが、その何の声も白野には届いていなかった。残されたのは、生き物の根源を揺さぶる不快感と恐怖だけだ。

 

アレハ、アレハナンダッタノカ

 

「帰るぞ、白野」

 

唯一己の魂を賭けて契約したサーヴァントであり、幼い白野にとってただ一人王と称せる存在が、彼女の意識を繋ぎとめた。両脇を支え、抱き上げた逞しい腕の体温が愛しい。生まれて初めての酒はすっかり醒めた。産毛がまだ逆立っている。白野は思わずギルガメッシュに強くしがみついた。

 

「何だもう帰るのか。連れないなぁ」

 

「興が削がれた。再びそなたら雑種と雁首揃えて酒を酌み交わす機会もないであろう」

 

「おっとといきやがれれすよーー」

 

「セイバーっ!」

 

引き止めるイスカンダルに振り向かず、ギルガメッシュは黄金の飛行船に乗り込む。その背中にセイバーが盛大に野次を飛ばし、アイリスフィールが窘めるのを聴きながら、一筋の光を残して、二人は去っていった。




第一回泥酔グランプリの優勝者は、アルトリアだよ!

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