Fate/Zero Gravity   作:色慾

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第12話

混沌の闇の中それはただそうあるべくしてそこにあった。

 

はるか古の時の枠すら超越した星雲の果て。

 

エントロピーの増大を逆にたどった先にそれは存在していた。

 

何の意思も概念もない空間にただ一振り。

 

故にそれは永劫に孤高であり、不変なるもの。

 

ーー原初を語る。元素は混ざり、固まり、万象織りなす星を生む。

 

 

 

 

 

 

 

白野が目を覚ましたのは、太陽が空に昇りきってからだった。午後の暖かな日差しが心地よい。起きようとして、気づく。お腹あたりにギルガメッシュの腕が回されている。こっそりと抜けようと試みるも、拘束が強まるばかりで、一向に動けやしない。前に英霊は寝る必要がないと教えてもらったことがある。あれは覚え違いだろうか。

 

「起きて、起きて。ギルガメッシュ」

 

何とか寝返りを打ち、傍らの男を揺り起こそうとする。だが、熟睡しているのか、今度は足まで加わった。岸波白野は終ぞ諦め、されるがままに二度寝する事にした。最も、その微睡みもまた、直ぐに終わるのだが。

 

「書信をお持ちいたしました」

 

誰かが扉を叩く音に再び意識が覚醒する。涼やかな女の声とは裏腹に、傍でのそりと身体を起こしたギルガメッシュは、至極不機嫌そうに眉をひそめていた。

 

「アインツベルンが何用だ?王の午睡を妨げるとは、万死に値するぞ!」

 

あ、と思った瞬間にはもう遅かった。止める間もなくギルガメッシュは全裸のまま、勢いよく扉を開けた。アインツベルンのメイド2人を引き連れたセイバーが顔を真っ赤にして立っていた。

 

「な、な、なっ……!?」

 

絶句している。しかも自分とギルガメッシュを見比べてる?何だか巻き込まれているようだが、寝ぼけ頭では理解が追いつかない。はて?と小首を傾げる。一方の騎士王といえば、茹でたこのように真っ赤になったり、次の瞬間には紙のように真っ白になったりと忙しい。そしてついにはワナワナと震える指をギルガメッシュへ向け、噛み付かんばかりに吠えた。

 

「仮にも王を自称するものが、こんないたいけな子供まで慰み者にするとは、犬畜生にも劣るわ!!!」

 

慰み者の意味はよくわからないが、取り敢えずギルガメッシュの行動が何か気に障ったらしい。ギルガメッシュもまた困惑気味に首を傾げ、ついでニタニタと人の悪い笑みを浮かべた。

 

「なんだ、我が至宝の裸体に照れたか?セイバー。何、恥じることはない。貴様のような生娘が我の寵愛に浴したいというのであれば、手慰みに我が寝所へ招いてやろう」

 

流れるようにセイバーの顎を掴み、ギルガメッシュが言い放つ。相変わらずセイバーは1人で百面相している。どうもギルガメッシュがセイバーをいじめているようにしか見えない。取り敢えず、寝所、と聞こえたので、白野はおずおずと声をかけた。

 

「一緒に寝るの気持ち良いよ?裸の付き合いって言うんだよね」

 

だから、セイバーもーー。そう言いかけて、バタンと扉は閉ざされた。

 

 

 

そして今岸波白野は再びアインツベルン城を訪れ、アイリスフィールの向かい側で紅茶を啜っている。どうやら手紙の通り、本当にただの茶会の誘いだったようだ。切嗣と呼ばれた男や、やたら鋭い目をした黒服の女性は今日いない。何やら仕事で出払っているらしい。そして円卓を挟んで、左手にはニヒルな笑みを浮かべ余裕綽々のギルガメッシュと、右には今にも噛みつかんばかりのセイバーが座っている。

 

「昨日はごめんなさいね?ちゃんとしたおもてなしもできなくて」

 

「ううん。今日はご招待ありがとう」

 

「切嗣もいつもはああじゃないんだけど、近頃少し気が立っているみたい」

 

困ったように眉尻を下げ、アイリスフィールは微笑む。子供心ながら、これが良妻というものかと思った。事実、岸波白野はあの衛宮切嗣という男が、そこまで悪人だとは感じられなかった。冷たい人では間違いないが、どこか努めて冷たくあろうという面が感じられた。

 

「気にしてないよ。ケーキ、美味しいね」

 

「ふん、この程度の粗末な食べ物で美味などと、貴様の舌は余程鍛錬が足りぬと見た。こちらへ来い。飴をやろう」

 

横から伸びた腕に、ひょいと身体が持ち上がる。瞬く間に白野は今は現代の服装を身に纏う王の足の間に落ち着いた。所謂、いつものポジションだ。それを見て黙っていなかったのが、セイバーだった。

 

「こちらへ来なさい。あの男は獣だ」

 

そう言っていつの間にか側に来ていたセイバーに抱えられ、今度はセイバーの膝に乗せられる。向かいのギルガメッシュは皮肉気な笑みを浮かべこちらへ腕を伸ばした。

 

「何だ。白野が気に入ったか?こやつは我の財ゆえくれてやることは出来ん。だが、まあーー我に付き従うというのであれば、共に愛でてやっても良いのだぞ?」

 

「寄るな、変態!」

 

パシンとギルガメッシュの手を叩き落とし、セイバーは毛を逆立たせた猫のように威嚇する。思わずその頭を撫でながら、精一杯の慰めを口にした。

 

「大丈夫。ギルガメッシュは痛いことしないし、一緒にいて気持ちがいいんだよ?」

 

「やはり手を出していたのか、この外道!」

 

火に油を注いだようだ。ギルガメッシュは再び笑いこけている。何だか今日はやたらと上機嫌だ。今は右横にいるアイリスフィールに両手を握られる。

 

「ちょっと、良いかしら?」


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