Fate/Zero Gravity   作:色慾

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まさかすぐに反響いただけるとは思いませんでした。感想、誤字報告誠にありがとうございます。5歳児にしてははくのんが賢過ぎかもしれませんが、そこは前世アビリティと金ぴかの英才教育と言うことでご容赦を。


Diable
第10話


冬木市郊外の深い森の奥に、アインツベルンが保有する城はあった。貴族どころか、どこかの王族の離宮のようなそれに居心地の悪さを感じながら、岸波白野は緊張した面持ちで場内へと入った。傍らに立つギルガメッシュは慣れたもので、ウルクにある自らの城と比べたらまだみすぼらしいのなんの言っているが、白野と言えば完全に場の空気に呑まれていた。

 

キャスターとの邂逅後、マスターたちは教会へと招集された。冬木の一連の異様な連続殺人、その首魁がキャスター陣営であること、また、これが最早教会だけでは秘匿できないことを告げられ、過去の聖杯戦争で余った令呪を褒賞に、聖杯戦争の一時中断およびキャスター討伐の依頼は為された。殆どのマスターは使い魔が代理で教会へ出席したが、岸波白野とアイリスフィールだけは、直接その場から教会へ赴いたため、此度の監督者と直接対面するに至った。そしてその帰り、セイバーらの有無を言わさぬ気迫を押され、半ば拉致するように城へ招かれたのであった。

 

 

 

「どういう事だアイリ。なぜアーチャーとそのマスターを連れてきた?」

 

衛宮切嗣は愛する妻、アイリスフィールの型破りな行動に、やや苛立っていた。アーチャーのマスターはまだ魔術師未満の子供だ。だが、だからこそ大人が思いもつかない方法で裏をかかれる可能性がある。幾つもの戦場を渡り歩き、少年兵相手に苦い思いをした己にとっては、ある意味最も拠点へ近づかせたくない相手だ。

 

「それはアイリスフィールのせいではありません、切嗣」

 

「君か、セイバー」

 

「ええ。この二名はキャスターについて何か知っているように見えた。だから尋問のために連れてきたまでだ」

 

気難しい主と漸く目を合わせて討議する機会に恵まれたことに喜びつつも、高潔な騎士の王は勇んで主に己の意見を告げた。

 

「だったらボロボロになるまで傷つけて、猿ぐつわに縄でもかけて連れてくるべきだろう。五体満足の敵を、そのまま自陣に招き入れるなんて、正気の沙汰ではない」

 

「あ、貴方は私がアーチャーよりも弱いというのか!」

 

自分たちを差し置いて言い争いを始めてしまったセイバー陣営に、岸波白野は淹れられた紅茶を前に、ただでさえガチガチになった体を震わせていた。戦闘時ならばいざ知らず、基本的に子供である彼女は大人同士の怒鳴り合いには慣れていない。横の椅子に座っている己のサーヴァントはと言うと、狼狽した様子の自分を見てクツクツと笑いをこらえている。だが、背に腹は代えられない。頼れる相手は、この場でギルガメッシュだけだ。白野はこっそりと王の袖を引っ張り、涙をこらえながらその耳に唇を寄せた。

 

「あのね、ギルガメッシュ…」

 

「緊張で厠を借りたいだと!ハーハッハッハハハハハハハハハ!!さすが我が雑種は愉快千万だな。おい、アインツベルン…ククッ……言いたいことは後だ、うちのハサンを厠へ案内してやってくれ」

 

「な、何でばらすの!」

 

「ハァ。アイリ、連れていってやってくれるか」

 

涙を大きな瞳に溜めたまま、あっさりと乙女の沽券に関わることをばらされた岸波白野は、茹蛸状態で顔を覆った。隣の王様は相変わらず腹を抱えて大爆笑だ。ハサンの意味は分からなかったが、とにかく凄く馬鹿にされたことだけは分かった。ギルガメッシュは時々、デリカシーがない。切嗣はと言うと、完全に毒気を抜かれたのか、あきれ顔でドアを引いた。

 

「着いていかなくて良いのか」

 

煙草を吹かせながら、切嗣が問う。今ギルガメッシュとそのマスターは引き離されている。始末するには、絶好の機会だ。だと言うのに、目の前の男は全く慌てた素振りを見せない。なんとも不気味な限りだ。

 

戯言(たわごと)を。大方配下の女に狙撃でもさせているのだろう?だが無駄だ。我に殺す気があれば、貴様らすでに死んでいるぞ」

 

「チッ…戻れ、舞弥」

 

目の前の男は狙撃手を女だと断じた。大よそこちらの手の内などばれている様なものだ。衛宮切嗣は、二本目の煙草に火を付けながら、相棒に帰還を命じた。面倒なやつと関わり合いを持ってしまったものだ。セイバーは先ほどより言葉を発さず、後ろに控えている。

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ話してもらおうか。君たちの知見とやらを」

 

「あ…ぅ……」

 

「どうした白野。ここはお前が主役だ。存分に語ってやるがよい」

 

少し緊張は解れたものの、未だに委縮したままの白野に対し、王はいつになく容赦ない。死んだ魚のような目をした男は、どう見ても危険な人だったが。きっと話すまでは返してもらえないだろうと、そんな予感がした。

 

「キャスターが近頃の殺人者だと気付いたのは、三日前くらい。死んだ人が多すぎるから、ギルガメッシュに調べて貰ったの。最初は、サーヴァントの餌にしているかと思っていた。でも、多分、違う」

 

未だに容易に想起される惨劇を思い浮かべながら、ギルガメッシュの手をぎゅっと握りしめた。

 

「あれは、きっとおもちゃにするために、殺しているんだ。じゃなきゃ、あんなあべこべに体を繋ぎ合わせたり、無理やり生かしたりはしない。だから、キャスターは誰かに見せる為に、殺しているんだと思う」

 

「確かにどうせ死肉になる餌を生かしておくのは無駄なコストと言える。だが、僕達にはそれを正だと判断する術はない。話にならん」

 

バッサリと切り捨てる切嗣に、思わず言葉に詰まる。助けを求めるようにギルガメッシュを見ると、いつも通り余裕たっぷりに頭を撫でてくれた。

 

「あまり虐めてくれるな。白野の話が正鵠を射ていることは、貴様のサーヴァントが一番分かっておろう。先の遭遇で何を言われたか、思い出してみろ」

 

「確かに、奴は神への怒りとともに、私のことを『ジャンヌ』と呼んでいた。それから、私があの男を思い出さないのは、神のせいだとも。だからと言って一体なんだ?奴の正体が何であろうと…」

 

「違うよ、セイバー。そういう事じゃない。キャスターはセイバーがジャンヌで、キャスターのことを思い出せないのは神様のせいだと言っていた。私はキャスターが何を考えているかはわからない。でも、キャスターが怒りをぶつける先は神様だ。今まで子供を変な風に殺して、そうしてきた。でもその怒りはちっとも神様にも、セイバーにも響かなかった」

 

「まさか…」

 

「きっと、キャスターはもっと殺すし、それを、セイバーに何度も見せに来るんだと思う」




次回更新は来週末予定です。

※日間3位…だと!?今気づいたよママン!うれしすぎて胃が…うっ……
 とりあえず完走目指して頑張ります。

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