メテオリウム─翠晶眼の傭兵─   作:影迷彩

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 早速、投稿が一週間ほど遅くなりました。
 今まで一週間単位で投稿できていただけに、私自身も残念です……

 その分でしょうか、今までより文字数が多くなりました。 
 より派手になった戦闘シーン、頭を空にして「ハーハッハッハッハ!!」と笑いながら読んでもらえれば嬉しいです。

 


──加速する日本刀──

 ツキカゲは背中の大太刀を構え、戦場を音もなく走る。 

 ある程度は土煙などで汚れているものの、肉体へのダメージは一切ない。

 負ったものといえば、負荷に耐えきれず崩壊したもう一本の大太刀だけである。

 

 (まぁいい……これだけあればもう一体と翠晶眼ぐらい倒せるか)

 

 敵アジトの教会へと向かうツキカゲ。 教会は既に目の前であった。

 

 「……あ?」

 

 教会から何者かが出てきた。 大柄でボロボロなコートを着た男性であり、その様はまるで牧師のようであった。

 ツキカゲはその場で立ち止まり、教会前に立ちはだかる相手を見据える。

 

 「アンタか、ここの用心棒は」

 

 背中の大太刀を引き抜き、刀身の先を相手に向けツキカゲは臨戦態勢をとる。

 相手も背中の得物を構える。 大きく四角い得物はまるでギロチンのように上下に刃物が添えられていた。

 その状態で両者は互いに距離を積める。

 

 「貴方は神を信じますか」

 

 両者の距離は5mに縮まったとき牧師風の男性は口を開いた。

 

 「別に、何も信じてない」

 

 ツキカゲは大太刀を構えたまま動かない。

 

 「アンタは用心棒か、それとも牧師なのかよ」

 

 「前者は副業と言っておきます……まぁ最近は本業なりつつありますが」

 

 牧風の男性は首にかけた十字架を弄る。

 

 「「……」」

 

 両者は睨み合う。

 その眼は両者とも結晶のような翠色であった。

 

 「エクスプリースト、それが俺の名です」

 

 片手で十字架を胸に掲げ、片手でギロチンを構えて牧師風の男──エクスプリーストは名乗る。

 

 「ランクは5、この任務でランク6に昇格できる」

 

 エクスプリーストの眼が爛々と輝きだす。

 

 「任務内容は邪魔者の排除、こなさせてもらおう」

 

 

 僅かにエクスプリーストが動いた瞬間、ツキカゲはその懐に飛び込もうと動いた。

 

 「Praaaaaaaaayer(祈りなぁぁぁぁぁぁぁぁ)!!」

 

 エクスプリーストの構えたギロチンが展開された。 ギロチンは3m越えの刀身を持つ大剣と変形し、ツキカゲの胴体を狙う。

 

 「ハッ!!」

 

 ツキカゲは大太刀で翠色の刀身を受け止め、そのままエクスプリーストの懐に直行しようとする。

 

 「──!?」

 

 ツキカゲは体を深く倒して地面を滑り、刀身を受け止めていたところの反対側から襲いかかった刀身(・・・・・・・・・・・・・)を避ける。

 刀身は関節機構から折れ曲がり、ギロチンのごとく大太刀を挟み込んだ。

 

 「"エグゼスカッター"から避けるとな!!」

 

 大太刀を挟んだまま、刀身──エグゼスカッターはツキカゲに振るい落とされた。

 

 「praaaaaaaayer!!」

 

 地面を揺るがす大きな衝撃と砂ぼこりが舞う。

 そしてエグゼスカッターが地面に当たった瞬間、挟まれた大太刀を離したツキカゲが懐に入り込んだ。

 

 「おらよ!」

 

 ツキカゲは腰の鞘から抜刀した太刀を、エクスプリーストの胴体に斬れ込まれた──

 

 「bless(加護)!!」

 

 エクスプリーストの胴体が太刀に沿って結晶に包まれ、太刀を受け止めた。 

 エグゼスカッターを持ってない方の手が強く握られ、巨大な結晶となってツキカゲに襲いかかった。

 それをツキカゲは振るった太刀を納刀し、素早く避ける。

 

 「硬化か……」

 

 胴体と腕の結晶が砕け、大太刀を離したエグゼスカッターを構え、エクスプリーストは十字架から出た針を首筋に打つ。 内部に仕込まれた潤滑剤が、変異能による消耗を回復させた。

 

 「ふん、近接型にとっては、直接的には破壊不能と言われるメテオリウムの加護は難敵でしょう」

 

 エクスプリーストの眼に翠色の光が戻り輝く。

 

 「貴様の変異能は身体能力の強化でしょうか? 見たところ身体自体は細いようですが」

 

 エグゼスカッターを斜めに構え、エクスプリーストは挑発する。

 

 「安心しなさい、祈ってれば直ぐに終わります」

 

 一方で退いたツキカゲは、地面に突き刺さった大太刀を引き抜き構える。

 

 「祈るのはアンタでいい。 俺がその時間を与えてやる」

 

 改めて両者は睨み合う。 その眼は爛々と輝き、互いに敵意を眼から溢れ出した……

 

 

 

 

 

 

 カヨウは椅子の片隅で泣きながらうずくまる。

 ガタガタ震え、ジャケットのフードで顔を隠している。

 

 (あ……あの人たちは……)

 

 そっと、フードを被ったままカヨウは窓を見つめる。

 外では銃撃音が全く止まずにいる。 その半分はこちら側から鳴らし撃っているのである。

 下には、多数の兵士が倒れており、一部は全く動かなかった。

 全て、この輸送船の少女と女性がやったことである。

 

 (ローさん、サバイバさん……)

 

 

 「11人」

 

 抑揚なく、ロングバレルのライフルを構えてローは状況について報告する。

 

 「ハーハッハッハッハ!! あと数人かねぇ~ツキカゲが倒した人数を含めると、あと5人程度かなぁ~」

 

 カーチスは衝撃でズレた眼鏡を整える。 相変わらず顔は笑顔から変わらない。

 

 「さぁてと、どぉんどん撃っちゃいなさぁい!」

 

 「反応なし、敵兵潜伏」

 

 ロングバレルの銃口を建物に向けたままローは報告する。

 カーチスは握りしめて上げた手を落とす。

 

 「あららぁ~……やっこさん共は臆病になって、建物から出なくなったかぁ」

 

 『よし、俺がミサイルで建物ごとノックアウトさせてやんよ!!』

 ローの耳に取り付けられた通信機から男勝りな声が響く。

 

 『待ってな、今サブアームにミサイル積むからよ!』

 

 「問題ない、サバイバ」

 

 ローはロングバレルライフルを椅子の下のケースにしまう。

 代わりに別のケースから、何かを出した。

 

 「レイヴン、側面、狙い撃つ」

 

 『あいよ!』

 

 ローは懐から潤滑剤を取りだし首筋に射した。

 ローの獣のような鋭さを持つ眼に、翠色が灯る。 

 翠色の眼は建物を凝視し、展開した全長2mほどのスナイパーライフルの銃口を目線と合わせて建物に向かせる。

 

 「Found it(発見)

 

 ローの眼が、壁裏でランチャーにロケットを装填している敵兵を捉えた。

 壁裏から朧気に見える敵兵は、ロケットを装填し終えた。

 

 『了解!!』

 

 輸送船が向きを変え、ローが構えている扉を建物に向ける。

 

 「Lock on (標敵を撃つ)

 

 ロケットを装填し終えた敵兵はランチャーを構えて窓から撃ち込もうとした。 

 だがロケットランチャーを構えた瞬間に、ローの持つスナイパーライフルからメテオリウム製の弾丸が発射された。

 弾丸は窓から覗きに出たロケットに当たり、その場で爆発を引き起こした。

 

 「14人」

 

 淡々と、抑揚なくローは報告する。

 

 「おぉう、綺麗に飛び散ったねぇ~ハーハッハッハ!!」

 

 カーチスが拍手しながら笑い声をあげる。

 

 『前方、デカブツが来るぞ!!』

 

 輸送船の目の前に、こちらに向かってローラーで移動してくるロボットがいた。

 

 「Mt・A、グリーンゴーレム」

 

 『一世代機かぁ~……ギリギリ倒せそうだ!』

 

 逃げることも臆することもなく、輸送船──アームドレイヴンはロボットと向かい合う。

 

 「GO、サバイバ」

 

 『おう! あとアシスト頼むぜ!』

 

 「了解」

 

 ローはスナイパーライフルを構える。

 サバイバはコクピット画面に浮かぶ武装項目から[Mt・Sm]を開いた。

 アームドレイヴンの前面にサブアームが展開される。それはコンテナを装備していた。

 

 『食らいなぁデカブツ!!』

 

 コンテナのハッチが開き、数発もの小型ミサイルが目の前のグリーンゴーレムに襲いかかった。

 グリーンゴーレムは腕に装備されたライフルで応戦し、何発か撃ち落とすも全部は撃ち落とせず被弾した。

 被弾とともに煙が上がり、辺りを見えなくさせる。

 グウォォォォォォン……!!

 モノアイを光らせ、腕のクローで煙をはらい、グリーンゴーレムは目の前に何もいないことに気づいた。

 グリーンゴーレムがハッとした様子でモノアイを上に向けた瞬間、上空を飛んでるアームドレイヴンの扉から乗り出したスナイパーライフルがグリーンゴーレムの後部動力炉に銃口を定めた。

 

 「Lock on (標的を撃つ)

 

 銃口からメテオリウム製の弾丸が発射され、上を向いたモノアイからコクピットを通して腰関節を貫通した。

 貫通したモノアイは光を失い、上にかかげた腕のライフルを落とし、腰から順に倒れた。

 

 『ワンショ~ット!! 高得点だなロー!!』

 

 「称賛、返す」

 

 スナイパーライフルを収納状態に変形させ、ローはそれを椅子の下にしまった。

 

 「あ、あの」

 

 カヨウはこの光景を戦慄しながら眺めていた。

 

 「あれ……人、乗ってるんですよね。 死んじゃ──」

 

 「死んだ」

 

 ローは断言した。

 

 「コクピット貫通、パイロットも貫通」

 

 ローは冷淡に答える。

 

 「殺……すこと……」

 

 カヨウは吐き気を催しながら泣きじゃくる。

 ローはそれを獣のごとき眼で見つめ、何も言わなくなった。

 

 「こん……なの……」

 

 「ま、暴れたやっこさんらが悪いからねぇ~、死んでしゃーない」

 

 カーチスは煙草をふかし、煙を外に出して答えた。

 

 「やっこさんらだって俺達が来るまでに何人もの立ち向かった相手を殺してんだ。 死んで文句言うんじゃ勝手すぎねーかい?」

 

 カーチスは無慈悲なことを言い、そしてけたましく笑う。

 

 「ま、奇跡的に弾道が逸れて肩だけ貫通ってのもあるかもねぇ~」

 

 「可能性0、狙い正か──」

 

 「ロ~ちゃん♪」

 

 反論したローの頭を、グレイは近づいて撫でる。

 

 「あうっ!?」

 

 「少し、カーチスに喋らせといてね」

 

 笑顔でグレイはローを諭す。

 一方カーチスは煙草を外に投げ出し、戦慄で泣きじゃくるカヨウに嘲笑う顔を向けた。

 

 「アケヨちゃんが何処の出身か,そういや聞いてねぇが空の上(・・・)みてぇによっぽど平和な所だったんだなぁ~、ホント何処だか気になるぜ」

 

 アケヨ──カヨウはどきりと心臓がはねた。

 図星を突かれたようなカヨウを気にせず──あるいは気にしていて、それで無視するように──手を広げロッカールームに向ける。

 

 「怖いなら、あちらで待機しときな。 座り心地はすげぇ最悪だが、外の音とか遮断されて落ち着くぜ」

 

 涙で顔をグシャグシャにしたカヨウは、扉を向いた。

 

 「つーかそうしてくれ、俺らの職場に一々泣くヤツがいちゃー、ヤりにくてしょうがねぇや」

 

 カーチスは笑顔のまま、目を細めた。 

 その目はまるで、イライラするから黙れよと言ってるようだった。

 

 (私は……)

 

 外を知りたい。 がんじがらめに縛られるアソコ(・・・)から抜け出して、外を走りたい……

 そんな幻想を抱いてスカライズ(アソコ)から逃げ出し、偶然にも地表に降り立つことができたのに……

 

 (私は……知らない世界を、見たくて……あの中でただ生きる自分に嫌気がさして……)

 

 そう思いながら、カヨウは半分開けた扉の前で立ち止まる──

 

 

 

 

 

 

 ──教会の前では常人を越えた戦闘が繰り広げられていた。

 大太刀でエグゼスカッターを受けとめ流すツキカゲ、的確にツキカゲの太刀筋を結晶化して防ぐエクスプリースト。

 

 「Praaaaaaaaayer(祈りなぁぁぁぁぁぁぁぁ)!!」

 

 上からエグゼスカッターが振るい落とされる。 襲いかかるエグゼスカッターを大太刀で横に反らし、隙のできた胴体をツキカゲは蹴り上げた。

 

 「bless(加護)!!」

 

エクスプリーストは胴体を結晶化して耐える。 防御された蹴りを引っ込め、ツキカゲは距離をとり大太刀を構える。 

 

 「はぁ……はぁ……」

 

 「はぁ……貴様、変異能を使わないのですか?」

 

 同じくエグゼスカッターを構え、首筋に十字架型注射器を打つエクスプリーストは、翠色の眼をツキカゲに向ける。

 

 「あるいは、私の潤滑剤切れを待っているのですか?」

 

 潤滑剤を注入し終えたエクスプリーストは十字架型注射器を指で揺らす。

 

 「そう考えると貴様の変異能は一撃必殺……」

 

 眼をツキカゲ一点に捉え、エクスプリーストはエグゼスカッターを構える。

 

 「……私の潤滑剤も切れかかってます。 そろそろ決着にしましょう」

 

 ツキカゲは大太刀を構えた。 両者は何度目かの睨み合いをする。

 

 

 

 ──上空から、ジャイロのローター音が向かってきた──

 

 

 

 

 ローター音が響いた瞬間、ツキカゲは潤滑剤を打ち、そして加速した。

 

 「Praayer(祈りなぁ)!!」

 

 エクスプリーストはエグゼスカッターを下ろす。

 エグゼスカッターと大太刀の刀身がぶつかり合い──

 

 パリンッ

 

 刀身が双方とも砕け散った。

 

 「bless(加護)!!」 

 

 エクスプリーストは胴体を結晶化した。

 ツキカゲは崩壊した大太刀を捨て、腰に懸架した鞘を構える。

 

 「──アクセル・クラップス(崩壊よ、加速しろ)

 

 鞘の中に仕込んだ薬莢が爆発して太刀を押し出した。

 高速で押し出された太刀を掴み、ツキカゲは太刀により加速を加える。

 完全に結晶化するよりも速く、翠色眼にすら捉えられない速さで、太刀はエクスプリーストの胴体を斬りあげた。

 

 「グハッ!?」

 

 結晶化した部分が砕け、胸に大きな斬り跡をつけ、翠色の血を流す。

 

 「ハァァァァッ!!」

 

 潤滑剤の効力で怪我が治る前に、ツキカゲはより加速し太刀を振るう。

 

 (いけるか──)

 

 十字に、ツキカゲはエクスプリーストの胴体を斬り上げた。

 斬り上げた瞬間、太刀は砕け散った。

 

 「チッ、浅い!」

 

 ツキカゲは退いた。

 

 「Confeeeeeession white!!(懺悔しろぉぉぉぉ!!)

 

 残った力でエクスプリーストは腕を結晶化し、ツキカゲに襲いかかる。

 ツキカゲに武器はない。 生身でやり合うには分が悪すぎる。

 

 

 「ツキカゲさん!!」 

 

 

 上空から、あの少女の声がローター音に混じって聞こえた。

 

 「あぁ……!」

 

 ツキカゲは結晶化した腕を跳んで避け、それを踏み台にして更に上に跳んだ。

 

 「なぁぁぁんです!?」

 

 エクスプリーストは上を向く。

 上空から、日本刀が落ちてきた──

 

 

 

 ──数分前──

 

 扉の向こうへ消えようとするアケヨを無視し、カーチスは外の戦場跡を眺めた。

 

 「まぁツキカゲがなんと言──あぁそうだぁツキカゲ!!」

 

 思い出したように、カーチスは耳の通信機を着けた。

 

 「あぁツキカゲ、調子はどうだ~……チェッ、アイツ切ってやがらぁ」

 

 直後、そこそこ近い距離の建物周辺が突然崩れ落ちた。

 

 「おぅおぅあっちで戦闘中かぁ~」

 

 アームドレイヴンは敵アジトである教会の近くの建物に移動する。

 

 「よぉし俺に着いていく人ぉ~」

 

 手を上げるカーチス。 彼以外は誰も手を上げなかった。

 

 「……今本気でしょげたぜ俺。 しゃーない俺だけでも向かって──」

 

 「あの、ツキカゲさんは!?」

 

 半分開いた扉の前で、涙を拭ってカヨウは振り返った。

 

 「今戦ってるツキカゲさんは……大丈夫なんでしょうか?」

 

 「さぁねぇ~」

 

 カーチスはへらっと笑いながら肩をすくめた。

 

 「まぁツキカゲの変異能は消費激しいからねぇ~、触れてるもの全て壊しやがんの」

 

 カーチスは窓の向こう、現在戦闘継続中のツキカゲの方を振り向いた。

 

 「あの甘ちゃん、ひょ~っとしたら武装全て切らしてるかもなぁ~」

 

 さほど心配してない様子でカーチスは憶測を言う。

 

 「誰か……誰か助けに行きは……しないのですか?」

 

 カヨウはツキカゲの実力の強さ、そして不安定さを既に見ていた。

 それ故に、カヨウはツキカゲをとても心配した。

 

 「ま、アイツが苦戦したらなぁ……死ぬことねぇだろうが、さっきみたいに重症負っちゃ、次の任務に支障が出るしなぁ」

 

 カーチスは頭をかき、そしてコクピットに顔を向けた。

 

 「サバイバぁ~」

 

 『あぁわかってるぜ』

 

 短い会話めいたのをしたあと、カーチスは再度カヨウに顔を向けた。

 

 「奥にしまってる太刀、ほぼ全部重たいぞぉ~」

 

 カーチスは指を扉の奥のロッカーに向けた。

 

 「わ、わかりました!」

 

 カヨウは弱気を捨てた声で返事をした。

 

 「んじゃ、俺は行ってくるわぁ~。 アケヨちゃん、ツキカゲよろしくなぁ~」

 

 ローを手招きしながら、カーチスはカヨウに頼んだ。

 ローは頭を撫でるグレイから離れ、先に建物に降りた。

 

 「カーチスも、気をつけて行ってらっしゃい」

 

 呼び掛けたグレイの額に口づけし、カーチスも建物に降り立った。

 アームドレイヴンは二人を下ろした建物から離れた。

 残ったのはパイロットのサバイバ、照れた顔で額を押さえるグレイ、顔を真っ赤にしてロッカーへと行くカヨウだけだった──

 

 

 

 

 ──ロッカールームへ行き、鞘を一本出したカヨウは、それを太刀を全て無くしたツキカゲに向けて投げ下ろした。

 跳んだツキカゲは、空中で日本刀をキャッチし鞘から引き抜く。

 太陽に照らされ反射する刀身は銀色であり、今の時代の武装ではお目にかかれないものであった。

 

 「Old Sword(古き刀)……貴様!?」 

 

 エクスプリーストは、振るい落とされるその刀身を眼で見た。

 

 ──斬跡三日月 影不残速刃──

 

 エクスプリーストは刀身に刻まれた漢字の群を眼で捉え、だがその意味を理解できず、ただ背中から刀身を突き刺されるだけであった。

 

 「──グアァァァァァァァァァ!!」

 

 胴体を日本刀で貫かれたエクスプリーストは断末魔をあげる。

 

 「あぁそうだ、俺の名前を言って無かったなぁ──」

 

 ツキカゲは日本刀を引き抜いた。

 

 「──ツキカゲ、所属はクランチェイン」

 

 そのまま後ろに、背中を蹴り上げて降りた。

 

 「ツキカゲ……ランク7の噛み砕き屋(クランチャー)!?」

 

 断末魔をあげたあと、日本刀を引き抜かれたエクスプリーストはそのまま倒れた。

 

 「ふぅ……」

 

 ツキカゲは刀身を振るい、翠色の血を振るい落とした。

 

 「あぁ、こちらツキカゲ」

 

 ツキカゲは通信機を繋いだ。

 

 『おぉツキカゲ、無事かぁ?』

 

 嘲笑う顔がツキカゲの頭に写った。

 

 「まぁた全部消費したんじゃねーだろうなぁ?」

 

 「あぁ消費した、ところでコイツを落としたのは誰だ?」

 

 日本刀を握るツキカゲの表情に怒気が混じる。

 

 『あぁアケヨちゃんだぜ、お前の依頼人の女の子よぉ』

 

 「……あぁそうか」

 

 ツキカゲの表情は複雑な心境に変わった。

 

 「……刀を変える、一旦戻っていいか?」

 

 『一旦つーか、俺とローが向かったから、お前は帰還でいいぜ』

 

 通信機に耳を澄ますと、微かに知らない声が聞こえた。

 

 『あぁうんうん……金?地位?魅力的だが、すまねぇけど仕事なんでねぇ~』

 

 懇願する声、隣で銃弾を装填する音。

 

 『あぁん?ここの土地神が黙っちゃいない?ハーハッハ!! いいさぁ、邪魔するものはぜ~んぶ砕くのが俺らクランチェインだ』

 

 カーチスは冷淡に告げる。

 

 『ま、冥土で神様に今回捧げた生け贄でも出しときなぁ、行ってらっしゃ~い♪』

 

 パンっパンっパンっパンっパンっパンっ

 

 銃声が6発聞こえた。

 

 『たくっ神様ねぇ、ホントにいるなら今回の紛争引き起こして、どれだけクソ野郎なんだかなぁ~……』

 

 カーチスの愚痴が始まる。

 

 「カーチス」

 

 ツキカゲがアームドレイヴンから垂れ落ちた縄梯子に掴まる。

 

 「任務、完了」

 

 『あぁ任務完了だ』

 

 掴まったツキカゲは上へと昇る。

 下には動かなくなったエクスプリースト、その側には十字架とは別の潤滑剤を落としていた。

 

 

 

 昇るツキカゲはポケット内のペンダントに触れる。 ツキカゲの身体と同じく、損傷は一切なかった。

 縄梯子に掴まったツキカゲはそのままアームドレイヴンへと搭乗する。

 

 「ツキカゲさん!」

 

 扉の近くで戦闘を見届けていたカヨウが、ツキカゲが入った途端に椅子から立ち上がった。

 

 「大丈夫ですか……」

 

 「次からコレは出すな」

 

 ツキカゲは納刀した日本刀をカヨウの目の前に掲げた。

 

 「他の刀とコレは全く違うものだ、壊したくない」

 

 ツキカゲは日本刀を下ろす。 カヨウは俯いた。

 

 「ご、ごめんなさい……一番強そうでしたので……ごめんなさい……」

 

 カヨウは俯き泣き出す。

 

 「あぁと……アンタ、どうする?」

 

 泣いた顔のカヨウに、光を失った眼を近づけてツキカゲは尋ねる。

 

 「え、どうする……ですか?」

 

 「スカライズに帰るかどうかだ」

 

 ツキカゲはカヨウに近づいて離す。 グレイは後ろで医療道具の用意をしており、周りには誰もいない。

 

 「この世界が綺麗じゃないのはわかっただろ、どうするんだ?」

 

 近づくツキカゲに顔を赤らめ、それでいてカヨウは真っ直ぐな目で答える。

 

 「……もっと知りたいです」

 

 両手を握りしめ、カヨウはツキカゲに頼み込む。

 

 「エニマリー、翠晶眼、争い……今この地表で起きていることを、より見て知って、自分を変えたいんです」

 

 カヨウは深々と頭を下げた。

 

 「御願いします、引き続き私に同行し、この世界を教えてください」

 

 頭を下げるカヨウを、ツキカゲは見つめる。

 

 「……こっちの任務は完了じゃねぇか」

 

 ツキカゲはポケットからペンダントを出した。

 

 「これを俺が持ってる限り契約は続行、アンタが契約終了と言うまで任務は続く、いいな?」

 

 「はい!」

 

 カヨウは頭を上げ、ロッカールームに向かうツキカゲに返事をした。

 

 「あぁあと……」

 

 グレイと入れ替わりでロッカールームに入る直前、ツキカゲはカヨウに振り返った。

 

 「……一応、感謝ぐらいはしとく」

 

 そう言った瞬間にツキカゲは扉を閉めた。

 

 「感謝……」

 

 赤らめた顔で、カヨウは扉をボーッと眺めた。

 

 「そう、ツキカゲの感謝」

 

 グレイは傷のある顔で優しく微笑む。

 

 「あとでアケヨさんの分も増やしますね、ツキカゲからのお礼として」

 

 カヨウは照れた様子で笑顔になった。

 

 「あ、ありがとうございます!」

 

 カヨウはロッカールームへ向かう。

 

 (地表は怖い、皆も厳しい──)

 

 扉を開け、日本刀を閉まったツキカゲを見ながらカヨウは笑顔でおもった。

 

 (だけど皆強い。 私も……もっと成長したい!)

 

 「ツキカゲさん、よろしくお願いいたします!」

 

 ツキカゲは一瞬驚き、そして鋭い風貌でうなずいた。

 

 

 

 

 




 いかがだったでしょうか。
 カヨウの家出は始まったばかりです。これからもクランチェインと共に泣いて笑って行くでしょう。お嬢様の家出はこれからです!

 なお、次は更に投稿期間が空いてしまいます。恐らく確定事項です。
 カヨウやクランチェインの旅を楽しみに、気長に待っていてください。
 読んでくださる読者がいれば、続きは必ず投稿します。
 

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