メテオリウム─翠晶眼の傭兵─   作:影迷彩

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 亀投稿になると言いつつ、結構近い間隔で投稿しております。 一週間以内に投稿する習慣?がついたようです……
 アニメみたいに、毎週楽しみにしてもらえれば、とても嬉しいです。
 (なお、遅くなりそうなときは本当に遅くなりそうですので、御了承を……)


──第二話 地表という戦場──
──明け方の集い──


 (“戦闘鬼”)

 (“アサルト・サムライ”)

 (“噛み砕き屋(クランチャー)”)

 

 (うん~呼び名が増えてきましたなぁ。齢15にして、既に数多の傭兵に名を知られる戦士、ウチの看板剣士さんよぉ!!)

 

 (アァ? もっと何だって! 俺から離れて戦うだぁ?)

 

 (そりゃ無理だって。おい暴れるなよ! 何でだと? シンプルだ、お前は戦うだけだ。ただカタナを振って戦うんだよ!! そんな内は、お前は俺の)

 

 「ツキカゲさん?」

 

 ツキカゲは眼を醒ます。

 色のない眼の前に、彼を心配してカヨウが覗きこんでいた。

 

 

 

 ─明朝、上空にて─

 

 朝日が昇る空、地表よりはるかに上の雲のまた上にて飛んでいる輸送船。

 鋭く剣のようなフォルムには、まるで巨大な翼のような二対のジャイロが音をたて回転している。

 まるで巨大な鳥のごとく、輸送船は存在感を見せつけ飛んでいる。

 その輸送船内の中央部、広いスペースが設けられたその場所に、四名の男女が固定椅子に座っていた。

 

 「……カーチスっ」

 

 ツキカゲは眼の前にいるカーチスを睨みつける。

 

 「おいおい、起きて早々ガンを飛ばすなって~! 大変だったんだぜぇ、年頃な体重のお前を運ぶのはよぉ」

 

 カーチスはツキカゲに睨みつけられながらも笑みを全く崩さない。

 笑顔が張りついたようなカーチスの顔が、カヨウに向かれた。

 カヨウは心臓がドキリと跳ねた。

 

 「ところで? へぇへぇ、コイツは中々の可愛い嬢ちゃんだな~」

 

 カーチスは目の前の、か弱い容貌の少女をにやにやと眺める。

 

 「肌も中々に透き通って艶々で……出身地が気になるぐらい、綺麗な顔立ちじゃねぇか~」 

 

 カヨウはどう答えればいいかわからず、うつむくばかりである。

 

 「んん~、もしかして照れてるぅ?」

 

 「質問脱線、本題要請」

 

 カーチスの隣に座る、スレンダーな容姿の少女が注意する。

 

 「おぉっとっと~、意外にこの嬢ちゃんが気になるかーい、ローちゃんよ?」

 

 少女──ローちゃんはカーチスを無視してカヨウを眺める。

 その眼はまるで獲物を探る獣の目つきであり、何より──

 

 (ろーちゃんって女の子……ツキカゲさんと同じ眼だ)

 

 「お隣さんがシビレを切らしたところで質問だ、嬢ちゃんは一体なんなんだい?」

 

 「えぇと私は──」

 

 「俺の雇い主(クライアント)だ」

 

 カヨウや答える前にツキカゲが答える。

 

 「奴隷と間違えられ、輸送船に乗せられたらしい。 故郷に帰してくれるよう、俺に依頼してきた」

 

 ツキカゲは微妙に正直な嘘を吐く。

 カヨウの正体は天空都市"スカイカントリー"の"スカライズ"と呼ばれる住人、その中でも上流階級の貴族の家の次女である。

 そんなカヨウの出した依頼は「任務中止を言い渡すまで、地表を案内してほしい」という内容だ。

 

 「ツキカゲさ──」

 

 ツキカゲはカヨウに目線を向けた。

 

 ──余計なこと言うな、話を合わせろ──

 

 そう言ってる眼であった。

 

 「俺に、ねぇ~」

 

 カーチスは怪しい笑顔をツキカゲに向ける。

 

 「あぁ、俺に依頼してきた任務だ」

 

 目線を前に戻し、ツキカゲは答える。

 

 「違反」

 

 ツキカゲの返答に、ローは無表情で抑揚なく注意を入れる。

 

 「任務、エニマリーパーティー、共有」

 

 「いやぁ決まりってわけじゃねぇ、雇い主にそれ相応の報酬(・・・・・・・)が払えればいい」

 

 報酬の部分をやや強調して、カーチスはツキカゲに笑顔を向けたまま注意に注意を入れた。

 

 「ま、ローちゃんはそんなのあったことない新人だからね~」

 

 「任務内容、共有、成果上がる」

 

 ローはカーチスを無視し、ややむすっとした表情で発言を続ける。

 

 「一人任せる、効率最悪」

 

 「それはそうだぜツキカゲ、テメーだけでこなせる任務内容じゃねぇと思うが?」

 

 カーチスとロー、二人の言葉がツキカゲを襲う。

 

 「あいにく輸送船の行き先は俺が決めてるからなぁ、嬢ちゃんの故郷に行くかはわからねぇ」

 

 カーチスは笑顔のまま、威圧感を放つ。

 

 「残念だが嬢ちゃん、ツキカゲにだけ頼んでも、コイツだけじゃなんも出来ないぜ」

 

 カーチスの鋭い笑顔を向けられて、カヨウの目線は前に止まる。

 

 「だけ……?」

 

 「"ツキカゲだけ"じゃなく我ら"クランチェイン"に任務を要請すれば、すぐに故郷に行けますぜ」

 

 カーチスは人差し指を天井に向ける。

 指の先にカヨウが目を向けると、そこにはでかでかとマークが描かれていた。

 ドクロ、鎖……そのマークデザインは、とても退破的で無法的であった。

 

 「ちょっと近ければ報酬は安くしますぜ、どうだい」

 

 「え、えと……」

 

 「あぁ大丈夫だぜツキカゲ、テメーにも報酬は分けてやらぁ」

 

 カヨウはツキカゲに目を向けた。

 カーチスを睨んでいたツキカゲは、カヨウの目線に気がつき視線を向けた。

 その視線は何も言わない。 

 カヨウは思った、このまま話が進めば、自分はクランチェインという組織の手に落ちると──

 

 

 「──すみません、私はツキカゲさんと契約しております」

 

 カヨウは首筋に手を当てる。

 そこに本来着けているハズのペンダントはない。

 ペンダントは契約証としてツキカゲに預けているのだから。

 

 「私のことは後回しで構いません、ただ置いてくれるだけで結構です……」

 

 カヨウは前に目線を据え、しっかりと見つめる。

 

 「だからこの仕事は、ツキカゲさんに任させてください」

 

 カヨウそう言って頭を下げた。

 

 (そもそも任務内容自体正反対なんです……)

 

 内心そう思いながらカヨウは頭を上げる。

 目の前のカーチスは笑みを絶やさないが──気のせいか目だけは鋭く吟味すかのようであった。

 

 「そうかい……つまり俺らにとっちゃ雇い主じゃなく居候なんだな」

 

 カーチスの口調が慇懃無礼になる。

 

 「そうだとしたら嬢ちゃん、テメーに出せるサービスは全くないぜ」

 

 のんべんだらりとした体制で座り崩し、カーチスは怯えるカヨウを鋭い目で見て笑う。

 

 「食事から何まで……嬢ちゃんでテメーの面倒を見なきゃならんぜ」

 

 カーチスは笑みを浮かべたまま言葉を突き刺す。

 カヨウはあたふたする。全部一人というもは初めてなのだから。

 

 「わ、私が……!?」

 

 「おかしいか? 全部自分で生計立てるだけだぜ、地表じゃ珍しくないだろ?」

 

 カヨウは戸惑う。

 カヨウは召し使いに全てを任せて生活していたので、全くピンとこないのと不安でいっぱいなのだ。

 

 「……がんば──」

 

 「俺が見といてやる」

 

 ふいに、横からツキカゲの制止と発言が出てきた。

 

 「コイツがいる間、俺が全部面倒を見てやる、それでいいだろ」

 

 ツキカゲはカーチスを睨む。

 

 「食事に生活費、全部立て替えてやる」

 

 カーチスの動きが止まり、カヨウがドキリとした顔をする。

 一瞬の静寂が生まれる。

 

 「──ハーッハッハッハッハッハッハッッハーーーーーー!!」

 

 カーチスが大袈裟に笑い転げ、静寂が破られる。

 

 「おいおいツキカゲぇ!テメーにしてはよぉ!思いきりの良すぎる言葉だなぁ!ハッハッハッハッハ!!」

 

 ツキカゲは睨んだまま、カヨウはどうすればいいかわからずに、腹をかかえ笑い転げるカーチスを眺める。

 

 「笑える、か?」

 

 ローは怪訝な顔で訪ねる。

 

 「そりゃ笑えるさぁ!ツキカゲが、冷酷無慈悲で有名なあのツキカゲがだぜ!自分が全部面倒見るだとよ!」

 

 カーチスは椅子の上でひたすら笑いまくる。

 

 「コイツは録音ものだ!ツキカゲが!人の面倒見るとさ!ハーハッハッッハ!!」

 

 カーチスは椅子の上で笑い転げながら、ローの肩を叩いた。

 ローは立ち上がり、カヨウの目の前に立つ。

 

 「あの、なんでしょう……あの」

 

 そのとき、カヨウにポインターが照射され、照準が額に写された。

 カヨウは驚き背筋を緊張させた。ポインターにだけでない、ポインターを放つローの3本目の腕(・・・・・)に驚いたのだ。

 

 「あのっ!? あのっ!? はうっ!?」

 

 「ローガン!! テメェ!!」

 

 ツキカゲも立ち上がり、ローの背後から伸びた3本目の腕を掴む。その腕は金属製であり、掌にはセンサーが取り付けられていた。

 

 「データ照合……“UNKNOWN”?」

 

 「“UNKNOWN”だって? じゃあ奴隷じゃねぇか、住民票もねぇらしいが」

 

 「テメーら、勝手に手を出すんじゃねぇ!!」

 

 ツキカゲの怒声が船内に響いた。

 それに対するカーチスは、せせら笑う怪しい表情のままだ。

 

 「いやぁね、乗せるならせめて素性確認しなきゃねぇ。とりあえず素性は……まぁうんツキカゲに任せるぜ、彼女と共に一夜過ごしたんだしさぁ。ハーハッハッハ!!」

 

 「カーチぃス!!」

 

 ローの3本目の腕を掴みながらカーチスを睨むツキカゲ。

 ツキカゲに対し笑い顔を保ったまま睨み返すカーチス。

 ツキカゲに腕を掴まれていることに苛立ちを積もらせるロー。

 三人それぞれに注目され、あたふたと慌てるカヨウ。

 

 

 『自動運転(オートパイロット)、運航システム移行』

 

 険悪なムードの船内を、アナウンスが遮った。

 

 「たくっテメーら、朝っぱらから騒がしいんだよ!! 一体今度はどうしたんだ!?」

 

 向かい合う四人の前のドアがアナウンスと共に開き、浅黒い肌の一人の女性が顔を見せる。胸元を大きく開けた制服と擦る度に金属音を鳴らす装飾品、少なくなくとも多くないピアスを着け、額にはゴーグルをかけている。

 

 

 「ハァ、おいおい……カーチスにツッキー、またテメーらか。今度はどんな挑発をし合った?」

 

 女性は部屋の空気を察し、呆れてため息をついた。

 

 「すまねぇなぁサバイバ──ハーハッハッッハ!!」

 

 謝罪しつつカーチスはうるさく笑う。

 

 「ダメだコイツ……あとロー、テメーまた検索かけたのか!?」

 

 サバイバという名の女性は剣幕を立てて、ローの頭を小突いた。

 

 「ウッ! だ、だって……」

 

 「だってじゃねぇだろが!! 人見知りは悪くねぇが、いきなり検索は大概にしやがれってんだ」

 

 ローの小突いた頭をはたき、サバイバはカヨウの側へと向かう。

 

 「すまなかったなアンタ、俺の所の身内が失礼してよ……ローに悪気はねぇんだ、初対面は信用しねぇ性格でよ。アッチの二人は見た通りだ。普段から喧嘩してるバカ共だから気にしないでくれ」

 

 サバイバは荒々しく、しかし真心のこもった謝罪をする。

 

 「ん、そういやこの客人って誰なんだ?」

 

 「うぅっ……雇い主、ツキカゲ専属」

 

 頭を押さえ、頬を膨らませながらローが答えた。

 

 「へぇツッキーがかい、中々珍しいことじゃねぇか」

 

 サバイバはカヨウに顔を向けた。

 

 「アンタの出した任務、拠点占拠か何か?」

 

 「きょ……きょ?」

 

 「故郷探索」

 

 いまいち用語がわからないカヨウの代わりにローが答える。

 

 「故郷探索? そうなのかいロー? へぇ、ツキカゲがか!」

 

 ツキカゲはウンともスンとも言わず顔をサバイバに向けるのみである。

 

 「そういう任務は俺にふさわしいんじゃねぇか、この俺サバイバ・キャリーが!」 

 

 サバイバはドンと胸を叩き、豊満な胸を揺らす。

 肉がややついてる以外は中々の美人、しかし男勝りな口調が彼女を女性だと思わせず、暑苦しいオッサンのようにも見える。

 

 「多少近ければ割引するがどうだい?」

 

 「カーチス、発言済み」

 

 「あ、そうなのかい……」

 

 サバイバはしゅんとした挙動を見せる。

 

 「あ、はい……私のことは後回しで構いません……」

 

 カヨウじゃ申し訳ない気持ちで対面する。

 

 「そうかいそうかい……ま、どっちにしろ俺がお前さんを運ぶのは決定済みだがな」

 

 しゅんとした態度を颯爽と消し、サバイバは胸をはる。

 

 「場所が近ければ言いな、任務ついでに運んでやるよ」

 

 「あ、ありがとうございます!」 

 

 「頭上げろって……あとわざわざ言うことじゃねぇが、ツッキーで大丈夫なのかよ?」

 

 サバイバはカヨウに耳打ちする。

 もっとも声が大きいので、カヨウの隣のツキカゲには丸聞こえなのだが。

 

 「ツッキーは一応実力は相当高いいんだがな……いかんせん仕事の効率が──」 

 

 「離れろサバイバ」

 

 ツキカゲはサバイバを睨む。

 

 「おぉっと怖い顔すんなや」

 

 ホールドアップの体勢で、サバイバはカヨウから離れる。

 

 「ま、しばらく宜しくな──あぁと、なんて名前だ?」

 

 思いついた質問をサバイバはカヨウに投げかける。

 

 「名前、不明」

 

 「そういや聞いてなかったなぁ嬢ちゃんの名前を」

 

 ローと、いつの間にか大人しくなった(相変わらず笑ってるが)カーチスもカヨウを向いた。

 

 「な、名前ですか、アケ──」

 

 「おはようございます、ご飯ですよ~」

 

 後ろのドアが開き、おっとりした声と共にまた新たな人物が部屋に入る。臼翠の混じった白衣の上にはエプロンを着ており、両手で鍋を抱えている。

 

 「皆の分のスープですよ~……うん?」

 

 エプロン姿の女性はカヨウに気づく。

 長くサラサラとした灰色の髪、優しげな目の顔がカヨウに向く。儚いように透き通った彼女のスタイルを、カヨウは美しいと思うと同時に戦慄した。

 何故なら、彼女の全身には傷痕が走っていたからだ。顔だけでない、露出した胸元や首筋、手首などにも様々な傷痕が見え隠れしていた。その儚い容姿と合わさって、その傷痕は痛々しさを物語っていた。

 

 「お客様、ですか?」

 

 「うんまぁそんなもんかな」

 

 カーチスが気だるげに返答する。 まるでカヨウより優先するものを見つけたがごとく。

 

 「より飯だぜぇ飯!腹ぁ減ってきたんだよねぇ~」

 

 「カーチス、無行動」

 

 「確かにカーチスだけなんもしてねぇな」 

 

 室内の半数は鍋に集まる。

 完全にそっちのけにされたカヨウにツキカゲは近づいた。

 

 (偽名を使え、知らないことに関わるな、カーチスの言うことにはウンと言うな)

 

 そしてそっと素早く、要点をまとめてカヨウに耳打ちする。

 

 (フエッ!?)

 

 突然ツキカゲが近づいたことにカヨウは顔を赤くする。 何故かサバイバが近づいたときには何も感じなかったハズなのにである。

 

 「あの~」

 

 赤面のカヨウに女性が近づく。両手にはお椀をそれぞれ持っている。

 

 「スープです。ツキカゲ君のも」

 

 両の手のお椀が二人に差し出される。 中身は普通の味噌汁であり湯気がのぼっている。

 

 「さっき潤滑剤を打った、俺は別に──」

 

 ツキカゲに差し出されたお椀は戻されない。

 差し出す女性の顔はニコニコしたままである。

 

 「──あぁわかった」

 

 ツキカゲは仕方なげにお椀を貰う。

 

 「ではコチラの女の子にも──」

 

 「あ、いえ、私には──」

 

 「そいつの分はいらねーよグレイ」

 

 スープをイッキ飲みしたカーチスは告げる。

 

 「ツキカゲが面倒見るんだってさ、食事もコイツが出すことになってる」

 

 カーチスは意地悪な笑顔をする。

 

 「ん~……そうなんだ」

 

 女性──グレイは少し迷ったあとカヨウに出したお椀を引っ込める。

 

 「はいツキカゲ♪」

 

 そして口をつけようとしたツキカゲのお椀の中に、二杯目を淹れた。

 

 「「!?」」

 

 「ハーッハッッハ!!」

 

 ツキカゲとカヨウは目を丸くし、カーチスはまたけたたましい笑い声を上げる。

 

 「さっき聞いたけどツキカゲ君遭難したでしょ?遭難から頑張ったご褒美だよ」

 

 ツキカゲは溢れ出そうなお椀を見つめ……

 

 「…ったく」

 

 空になったお椀にスープを戻し、それをカヨウに差し出す。

 

 「あ、ありがとうございます!」

 

 カヨウはあたふた受け取り、こぼしそうになりながらもスープを行儀よく持ちスープを口にした。具も味も故郷の料理とは比にならない粗末さである。

 

 「丁寧で、暖かいお味です」

 

 だが、とても安心できる味であった。

 その味を、カヨウは心から称賛した。

 

 「ありがと♪ 私はグレイ、何かあったら呼んでねぇ~」

 

 グレイは優しく笑い、傷だらけの頬を緩ませた。

 

 「さってと! じゃあ毎朝の連絡事項の前に、部外者に一言!」

 

 カーチスはスープを飲み物のように一気に飲み干した。

 ツキカゲは睨んだまま、ローがすました無表情、サバイバは部屋の空気を読み、グレイは微笑んでいる。

 

 「嬢ちゃん、ウチのメンバーは全員揃った。これが地表屈指の問題児の集まり“クランチェイン”だ」

 

 カヨウは一同を見渡す。

 会ってから一度も笑みを崩さない不気味なカーチス。

 機械のような口調と、3本目の腕を背中に取り付けたロー。

 褐色肌の、男のように荒々しいサバイバ。

 美しく、だが傷だらけな姿の包容的なグレイ。

 そして、刃物のような威圧感を放つ(恐らく)同年代のツキカゲ。

 

 「えぇ改めて名乗ろうか。俺はカーチス・ハーディー。当団の責任者を務めます」

 

 カーチスは大袈裟に腕を広げ、そして頭を下げて礼をした。

 

 「好きなことは人付き合い、あと仕事~。嫌いなのは、身の程知らずなバカ野郎だねぇ!!」

 

 「うわ、胡散臭っ!」

 

 サバイバはカーチスに呆れ、そしてカヨウに向き直り快活な笑顔に戻った。

 

 「さっき言ったが、俺はサバイバ・キャリー、地表一の運び屋だ! 好きなものはコーヒーにレーズンパン、嫌いなものは愚痴と文句を言う野郎だ!」

 

 サバイバは自己紹介をし終え、隣にいるローの後ろ越しを「ホラっお前の番だ」と言っている風に軽く小突く。

 

 「うっ……ローガン・シモン……うるさい、嫌う」

 

 簡単な自己紹介を終え、ローはカヨウから眼を背けた。

 

 「えぇっとね~私かなぁ? フルネームはニレイナ・グレイ。看護とカーチスの愛人担当~。好きなのはカーチスとツキカゲと皆~、嫌いなのは威張りんぼうと私ぃ~」

 

 ふんわりとした柔らかい態度でグレイも自己紹介した。しかし何処か毒気の含まれた挨拶に、カヨウは面食らい震えた。

 

 「…………俺はいい、面倒だ」

 

 一同の視線を集めながら、ツキカゲはそう答えた。 

 

 「ツキカゲぇ! 好きなものは戦場に戦闘に(いくさ)だろう! 嫌いなものは……俺かなぁ?」

 

 カーチスは両手の人差し指を自分の頬に指した。

 

 「面倒だと言ってるだろが」

 

 ツキカゲとカーチスが互いに詰め寄り睨み合う。

 カヨウはカーチスの目から感情が読み取れないことに気づいた。

 口には怪しい笑みを浮かべている。だが、目だけは闇のように暗く、見るもの全てを空虚に定めているようであった。

 そして、その目はまるで、疲れているときのツキカゲの眼のようであった。

 

 「まぁ嬢ちゃん、アンタのことはツキカゲが一任するからよ。コイツの眼の届く範囲で動きな」

 

 カーチスはツキカゲから顔を逸らす。ツキカゲはカーチスを睨みつけたまま、カーチスの向く方向へ、カヨウと目を合わせてしまった。

 その鋭さ、殺気にカヨウは背筋を震わし目を逸らした。

 

 「ハーハッハ!! うまぁく使ってみな、ウチの看板傭兵をよぉ!!」

 

 カヨウはツキカゲから逸らした視線を元に戻す。ツキカゲは窓の方を向き、雲の上を飛んでいる風景を眺めていた。その横顔は鋭さを残したまま、殺気を消していた。

 

 「そういやサバイバ、今日は何処に向かっているんだぁい?」

 

 ひとしきり悪趣味に笑ったあと、カーチスはサバイバに尋ねた。

 

 

 「確か山抜けて……ってカーチスが定めたルートに進んでるんだからな」

 

 額に指を当てサバイバは考え込む。

 

 「山抜けて……ん、そこの地域って確か」

 

 「ちょっとコクピット行ってくれねぇか?」

 

 カーチスは親指をコクピットに向ける。

 

 「……そういうことかよ、へいへい」

 

 何か思い当たったかのように、サバイバはコクピットに戻る。

 

 「さて、泣き顔の可愛い嬢ちゃん、アンタの名前も可愛いかい?」

 

 カーチスは怪しい笑みをカヨウに向ける。

 

 「エグッ……は、はい、名前はアケ──」

 

 そこでカヨウの泣きはしよう止まる。

 皆イイ人っぽい……だけど……

 

 ──偽名を使え──

 

 (ツキカゲさん……!)

 

 カヨウはツキカゲに顔を向ける。

 ツキカゲの表情は変わらず、その眼は鋭かった。

 

 「──えぇと、"アケヨ"です」

 

 咄嗟に思いついた名前をカヨウは口にした。

 

 「ふ~ん……"アケヨ"ちゃん、ねぇ~」

 

 カーチスは定めるようにカヨウ、そしてツキカゲに鋭い目を向ける。

 

 「は、はい、アケヨです……」

 

 カヨウを身を縮ませ再度答える。

 

 「あぁ一回でいいぞ答えるのはよぉ」

 

 カーチスは納得したかのように目を閉じる。

 

 「へぇ~、"ツキカゲ"に"アケヨ"ねぇ~」

 

 片手で両目を隠し、カーチスはせせら笑う。

 

 「すっげぇ面白い組合せじゃねぇ?ホント合わせたか(・・・・・)のようなさ~」

 

 指のすきまから、カーチスは二人を見比べる。

 

 「何が言いたい?」

 

 ツキカゲはカーチスを睨んで言い放つ。

 

 「いやぁ特になにも~……ツキカゲよぉ」

 

 カーチスはぴょんと立ち上がりツキカゲに顔を近づけた。

 

 「イイ値の報酬入るといいなぁ~、俺から離れる分のよぉ(・・・・・・・・・・)

 

 カーチスは邪悪に笑う。

 

 「それぐらい貯めてるさ、カーチス」

 

 ツキカゲは殺気を放った。

 

 「ツ、ツキカゲさん……?」

 

 カヨウは何を言えばいいかわからず戸惑う。

 

 「まぁた始まった。もう俺知らねぇからな」

 

 「あらら~今日何回目かしら?」

 

 サバイバは涼しげ、グレイは心配そうに二人を見る。

 

 「おいカーチス!」

 

 異様な空気を破ったのは、コクピットから出たサバイバであった。

 

 「……エニマリー派遣の要請だ!近場の紛争を止めてほしいとさ!」

 

 「ハーハッッハ!やっぱりきたかぁ!」

 

 カーチスは笑いながらコクピットにサバイバと共に入る。

 グレイは口に手を当てて外を眺め、ローは取り出した弾薬をじゃらじゃら揺らす。

 

 「えぇと、ツキカゲさ──」

 

 ツキカゲは椅子から立ち上がり、部屋を出る。 その顔は無表情であった。

 

 「任務だ、戦場だ」 

 

 カヨウはツキカゲを心配そうに、そしてこれからこの船が何処へ行くか不安に思いながらツキカゲについて行った──




 いかがでしょうか?

 今回は主要メンバーの紹介のみで、戦闘シーンはありませんでした。
 戦闘のような派手さがなくとも、登場人物の特徴で目立つ感じになりました。

 笑って睨んで笑ってカタコトで笑って男っぽくて笑って優しく笑って……

 ホントに笑ってばかりでしたねコイツ(笑)

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