設定の齟齬を確認しただけで悶絶しております。
考えついた末に、しばらくはシチュエーション重視で書いていこうかと思います。
私の趣味全開の物語、どうかよろしくお願いします。
「私の名前はアケミジン・カヨウ、スカライズ3番地の貴族"アケミジン家"の次女です」
カヨウは悲痛な表情で、己の素性を明かす。
カヨウの告白に、ツキカゲは驚く。推測が当たっていたとはいえ、本人の告白を聞くとやはり戸惑う。
「……とりあえず、ここから離れるぞ。話はそこでだ」
獣はまだ呻いている。早くツキカゲとカヨウが動かなければ、彼らに襲いかかるだろう。
「少なくとも、朝までは動けないだろうがな……増援が来る前に行くぞ」
「わかりました、行きます」
「あぁ、あと──」
ふと思い出したように、ツキカゲは紺色のジャケットを脱ぐ。
下に着ていた防護スーツが露になり、彼の細くも整った身体をスーツ地の上から見せた。
「──とりあえず、これを着ておけ」
カヨウの濡れて肌に張りついた服をできるだけ見ず、ツキカゲはジャケットを手渡す。
「あ……ありがとうございます……」
カヨウは顔をとても赤くして、そのジャケットを羽織った。
獣達を倒した場所から離れたところ、湖に続く木々の開いたら道で、ツキカゲは歩くのを止め、後ろを歩くカヨウに振り返る。
「何でスカライズから離れて、あの船なんかに潜んでた?」
まずは理由を聞く、この少女は場合によれば盛大なお荷物になりかねない。
とりあえず、この貴族の話を聞かないうちには、今後の行動の指針は何も決まらない。
「は、はい……本来はあの輸送船で、別のスカイカントリーまで行くつもりでした……」
船に潜り込めば、別の飛んでいるスカイカントリーに行ける、だから船に乗ってたのか……だから翠晶眼は、カヨウがわからなかったのか。
今になれば、あの翠晶眼の妙な発言にも納得できる。
だとしても何故潜んでたか、何故わざわざスカライズという楽園から離れたのか……
「とりあえず、俺はアンタをどうすれば──」
「
カヨウはうつむき気味の顔を上げた。
「私をここに……この地上に置いてください!」
「……ハ?」
カヨウは泣きそうに、必死に頼み込むような表情をして、ツキカゲの顔を見る。
「なんで地上に? なんで、こんな地上に降りようとする?」
「訳は話します! 何でもします! お願いいたしますエニマリーさん!」
ツキカゲは何かを言いたそうに、そして何か違和感に気づき黙る。
「……エニマリーさん?」
「──一応言うが、それ俺の名前じゃないからな」
二人の空気が静まる。
「……え?」
「職業名だからな」
「え!? あの……その、すみませんでした!」
カヨウは顔をとても赤くして、泣きそうな顔で謝罪した。
「申し訳ございません! 私、大変な失礼を……」
「……ホントにお嬢様なんだな」
ツキカゲは珍しいものを見たような、呆れたような表情を片手で隠す。
「まぁ、何でも屋の傭兵ってところだ」
「何でも屋……?」
「あぁそうだ、報酬さえ貰えれば何だってする、誇りも何も持たねー野郎の入る職業だ」
「何だって……する……」
ふと、カヨウは考え込んだ。
「今回は密輸品の回収だったんだが……アンタをどうするかはカーチスに決め──」
「報酬さえあれば……どんな仕事も引き受けてくれるんですね?」
突然カヨウは訪ねる。
「何が言いたい?」
ツキカゲはうっすらと、涙目で赤くした顔の、か弱い女の言うことがわかった。
ツキカゲは望んだ、どうか今度は予想が外れますようにと──
「私をこの地表に住ませ……そして私と同行してくれますか?」
カヨウは先ほどよりも懇願する表情で、ツキカゲに頼みこんだ。
ツキカゲはやっぱりと言いたげな、辟易とした表情をする。
「おい待てよ、同行って──」
「私に、この地表はどんな世界か……教えてください、お願いします!」
両手を握り、カヨウはツキカゲに頭を下げた。
「それを引き受けて……アンタはどんな報酬を払うんだ?」
カヨウはピタリと止まり、そして顔を上げツキカゲの顔と合わせた。
「報酬は……何でもします」
その発言に、ツキカゲは戸惑った。
「アンタ、それってつまり──」
「お金でも何でも……私ができる範囲で、貴方の望む報酬を出します」
カヨウは顔を上げたまま、困惑するツキカゲを見る。
その目は純粋に「お金や財産なら払います!」と言いたそうな表情だった。
「アンタ、自分が何言ってるか──」
ツキカゲは考え始めた。 相手は上流階級の人間だ、それなりに満足させれば帰るだろう、そうなれば金が入る、少なくとも決して安い報酬じゃないだろう、それなりに遊べるぐらいは得られるかもしれない──
(そのぐらい金があればアイツを……カーチスを黙らせられる!)
「ええと……あの……」
「報酬の件はあとで考える」
ツキカゲは答えた。
先程までの焦った表情は無くなり、普段の冷静な顔に戻っている。
「で、では引き受けてくれるんですか!」
「ま、そういうことだ」
ツキカゲはカヨウに背を向け歩き出す。
「詳しい契約はあとだ、ウチの輸送船に戻る」
「あ、ありがとうございます!」
カヨウの深いおじぎに目もくれず、ツキカゲは歩く。
「あ、あとお聞きしたいことが!」
カヨウはツキカゲを追いかける。
「貴方のお名前、できれば教えていただきたいです……」
ほんのり頬を赤くして、カヨウは質問した。
「ダメ、でしょうか……」
「ツキカゲ」
ツキカゲは立ち止まり振り返る。
「それが俺の名前だ、名字は無い」
ツキカゲの顔が月光に照らされる。
鋭く端正な顔立ちは日本刀を連想させ、眼は先程とは違い翠の輝きを失っている。
「ツキカゲ……ツキカゲさん……」
カヨウは顔を赤らめ、はにかみながら復唱する。
「さっさと戻るぞ、もうすぐ夜が明──」
フラッとツキカゲはよろめき倒れた。
慌ててカヨウが近くに寄る。
「ツキカゲさん!?」
駆け寄ったカヨウはツキカゲの腕を見て驚く。
なぜなら先程噛まれた腕の傷跡には、傷を覆うように結晶が張られていたのだ。
「……!?」
「……クソ…」
ツキカゲは呻きながらカヨウを見つめる。
「ツキカゲ……さん?」
カヨウの感情は未知への恐怖、そしてツキカゲへの心配が両立していた。
「て、手当てはいりませんか!?」
「いい、放っときゃ治る体質だ」
ツキカゲはドサッと座り込む。
「これなら潤滑剤を少し多めに持ってくんだった……」
カヨウは思い出す、あの時獣に襲われるところだったカヨウを助けに来たツキカゲを。
あれほど離れた所にいたハズのツキカゲが、ほんの一瞬でカヨウに駆けつけたことを。
(ツキカゲさんって一体……)
「輸送船が落ちた方向はどっちだっけ?」
ツキカゲは腕を押さえながらカヨウに訪ねる。
「えぇと……確か……ごめんなさい……」
ツキカゲは怒りも呆れもせず空を見上げる。
数分前と違い今は地上、下に浮いていた雲は夜空を覆い隠している。
「突然だし仕方ねーか……こりゃ遭難か」
「遭難ですか!?」
カヨウはまた泣き出しそうな顔になる。
「アイツらが探しにくればいいんだが、どうやら輸送船を優先したな……」
ツキカゲは多少フラフラしながらも立ち上がる。
「とりあえず歩くぞ、まだ獣はたくさんいるしな」
ツキカゲは片腕を押さえ、先頭を切って歩く。
「あの、その腕……」
カヨウはツキカゲの腕の結晶を不安げに見る。
心なしか、先程より広がっている。
「傷が治るだけだ、あんまり見るな……」
腕をさすりツキカゲは答える。
「……いや初めてか、こういうのを見るのは」
ツキカゲはカヨウに目を向ける。
その眼の瞳孔は色を失い、まるで死人のようだった。
「"翠晶眼"。俺は、そう呼ばれる生物さ」
ツキカゲは腕の結晶を見せつけて言う。
「すいしょうがん……?」
「あぁ、」
ツキカゲの腕の結晶が突然パリンと割れた。
割れた結晶は塵となり消える。
「結晶を体内に伏せ持つ、人間じゃないバケモノさ……」
腕の結晶跡は傷も何もなく綺麗な肌であった。
その腕をカヨウは驚愕した表情で見る。
「久しぶりに見たな、そんな表情」
「え、あの……ごめんなさい!」
「いやいい、そんなのは慣れた」
ふと、ツキカゲは足を止めた。
「ありゃ民家か……」
「民家、ですか!?」
二人が森を抜けたところには、民家が何件か建てられていた。
「少し泊まって休むか」
「と、泊ま!?」
「行くぞ」
あたふたした様子のカヨウは、ツキカゲについていく。
やはりというか、民家には誰もいなかった。
民家にはこれといって何もなく、簡素でボロボロな家具しか置いてなかった。
ツキカゲはテーブル近くの椅子に座り、それに向かうようにカヨウも椅子に座る。
カヨウはそわそわした様子で辺りを見回し、そして時たまツキカゲを見つめる。
「あぁと……どうした」
カヨウはツキカゲからの問いにビクッとなる。
「ごめんなさい! 誰かと一緒に夜を明かすのは久しぶりでして……」
赤面でカヨウはうつむく。
「……綺麗なんですね、地表は」
話題転換なのか、カヨウは窓の外を眺めて言う。
窓の外には少し開かれた道と結晶の生えた木々が見えている。
「綺麗か……ホントにお嬢様なんだな」
椅子に腕をかけ、ツキカゲは態度悪く座わっている。
「ここが何もないから言える……他は結晶のせいでひどいぞ」
口調も悪態をついてるが如くツキカゲは話す。
「アンタの出した任務。アンタに同行しつつ、この世界を教えてだっけ?」
「は、はい。 頼めますか?」
「報酬による、アンタはいつスカライズに帰る?」
ツキカゲは膝の上で腕を組みカヨウの顔を見る。
「えぇと……報酬でしたらカードで──」
「カード? 地表では全て現金なんだよ」
「!?」
「そういうことだ、どうせアンタ現金なんか、ほとんど持って来てないんだろ?」
カヨウの呆然とした顔を見るまま、ツキカゲは質問を投げつける。
「ほぼ全ての傭兵が金で動く……アンタはどう払う?」
「~!……!……」
カヨウじゃ声を出さずに、どう答えたらいいか答えを模索する。
「……戻る気はないんだな」
その一言で、慌てふためいた様子はピタリと止まった。
顔をうつむかせ、膝の上の手を合わせ握りしめる。
「戻り……たくありません」
カヨウの表情がどうなっているか、ツキカゲには見えない。
ツキカゲは窓を見つめる。
綺麗な景色、そしてその先にある世界──
「じゃあこうだ、アンタが任務の中止を言えば、アンタは自分の家に帰り俺に報酬を渡す」
カヨウはハッと顔を上げる。
「報酬はそうだな、一日につき何円か……」
「分かりました! 報酬量はその時に好きなだけ頼んでください!」
カヨウは椅子から立ち上がり、ツキカゲに対して頭を下げた。
「おい待て好きなだけって、俺が財産全部くれっていったらどうすんだよ……」
「それほどの報酬量を所望ですか……で、では……」
「いや待てそこまでは!」
泣きそうな顔で首を下げようとするカヨウをツキカゲは慌てて制する。
「エニマリーの規則"報酬量は、その仕事にみあった働き分のみ"」
ツキカゲは冷静になり詠唱した。
「財産全部は貰わない、どれほど長くアンタと同行したか、それで報酬量は決める」
ツキカゲはゆっくりと結論を言う。
「分かりました……では、同行をお願いいたします、ツキカゲさん」
深々とカヨウはおじぎをした。
「あぁ……あとは契約証だがどうしようか……」
「契約証……ですか」
「そうだ、アンタが俺を雇ったという証明、エニマリーはそれを持ってることで仕事ができ、そしてそれを返すことで任務は終了となる」
カヨウはウンウンとうなずいた。
「普通や紙切れで済むんだが……他の野郎に見せたくねーしな……」
ツキカゲはカヨウの衣装を改めて見つめる。
先程渡したジャケット以外には、余分な物を持っていない感じであった。
「ホントにカードだけしかないのか……」
「あとは現金を少々……多くはありませんが」
ツキカゲ申し訳ないように手を繋ぎ目線を下げる。
表情を下げたカヨウの首にはペンダントが着けられている。
「……そういえば、そのペンダント」
ツキカゲはペンダントを指差した。
「アンタが唯一着けてるその装飾品か……」
「あ、えぇと……こちらは……その……」
カヨウは口ごもる。
恥ずかしいのではなく、大事なモノをどう答えるべきか迷っている風であった。
カヨウはペンダントを優しく労るように持つ。
「アンタに失礼なのはわかるが──」
ツキカゲはカヨウが大事に持っているペンダントを見つめて言う。
「──それを契約証代わりにしていいか」
カヨウは当然ビクッとした。
「ダメならイイ、別のを考える」
「……………………わ、わかり、ました……」
カヨウはペンダントを外し、ツキカゲに手渡す。
ツキカゲはそれを優しく受け取った。
銀色で細かな装飾が施されたそのペンダントは、売ればそれなりに金が入る程の美しい出来映えであった。
「これが壊れたら、報酬は無しでいい」
月明かりに、ツキカゲとカヨウ、ペンダントが照らされる。
装飾が煌めくペンダントを、ツキカゲは軍服めいたズボンのポケットに入れる。
「契約完了、任務遂行」
そう言ってツキカゲはドサッとテーブルの上に頭を置いた。
「ツキカゲさん!?」
「体力が落ちただけだ、しばらくすれば問題ない」
テーブルの上でツキカゲは頭を抱えツップする。
「アンタはいいのか、少しでも寝なくて」
大丈夫という風にカヨウは頭を振った。
その目はウトウトしている。
「とりあえず、朝まで休め。いいな?」
「で、では……」
カヨウはそれを聞き、大人しくテーブルに顔を置いた。
「……よろしくお願いいたします、ツキカゲさん……」
「あぁ、必ず報酬は貰うからな」
こしゅーっと寝息をたてて、カヨウは眠りについた──
─木々の上にて─
「おいおーい、迷子のツキカゲは見当たりませんか~?」
鋭利なフォルムの、両側のジャイロがまるで巨大な翼のような、空を飛んでいる輸送船。
ジャイロの近くの扉は開いており、一人の少女が身を乗りだしている。
「
少女──ローと呼ばれていた少女は抑揚なく答える。
「近場、獣、倒れていた」
「へぇ、コイツは相当暴れてんな~」
その奥、カーチスは煙草をくわえ座っている。
特に心配していないような、むしろツキカゲの状況を楽しんでいるような笑顔であった。
「輸送船は墜落させるわ、自分は遭難するわ……今日のツキカゲ、見てて笑えるなぁ~♪」
ハハハハッ!!とカーチスは高笑いを上げる。
「そこだけ、同意」
そう無表情に応えながら、ローは森林を観測する。
昇り始めた太陽に反射し、木々に生えている結晶が煌めく。
「明るい、反射邪魔、クソ」
口調の中にやっと感情を見せながら、ローは肉眼で外を凝視する。
「困難、捜索中断、要請」
「おいおいフザけたこと抜かすんじゃねぇよ。ツキカゲがいなけりゃ、ウチは困るんだぜ」
笑顔のまま口調を下げ、カーチスは窓越しに外を眺めた。
「アイツはウチの稼ぎ代表、あれほどのエニマリーから目を離すかよ」
カーチスは窓からローに顔を向ける。
「冗談はな、ツキカゲの任務達成率を追い越してから言えな……」
カーチスの口元は笑ったままだった。
「まぁローちゃんには無理かなぁ!! ハッハッハッハ~!!」
「承知、理解、うるさい」
人をバカにした笑いをカーチスは高らかに上げる。
ローは嫌な顔をしながらも、外を観測することを続ける。
「──
「え、マジで!?」
カーチスは窓に張りついた。
「どこどこどこだよ~?」
「民家内、あと」
ローは顔と手をカーチスに向けた。
「ライフル」
さっさと持ってこいという風にローは手を振る。
ローの眼は、辺りの森林と同じように
─民家内にて─
「……!?」
ツキカゲは外の気配に気づき、身を隠して窓から外を眺めた。
外には体の一部に結晶が覆われた獣が二匹、そしてそれらより大柄な二足歩行であり、鬣のようなものを生やした獣が一匹いた。
(再生しやがったか……しかもボスまで連れてきて……匂いを追ってきたか……)
ツキカゲは己の状態を確認し、そして"武蔵"を確認した。
(腕は問題ない、太刀もまだ斬れる……)
獣のボスが先頭となり扉に近づく。
(やることは一つ……)
ボスは結晶の爪を生えた前足でドアを突き破った。
(また倒せばいい!!)
扉が突き破られた瞬間、後ろで待機していたツキカゲは"武蔵"を抜刀し斬りかかる。
予期せぬ攻撃に対処できず、ボスは"武蔵"に腹を斬られる。
『オォォォォォォォォウ!!』
ツキカゲは斬りつけざまに、ボスの胴体を掴む。
「っウオラぁぁぁぁ!」
そしてツキカゲの眼が翠色に染まった瞬間、ツキカゲはボスを勢いよく投げ飛ばした。
ボスは民家より離れた所まで飛ばされ、刀傷と打撲でうずくまる。
『『ガルゥゥゥゥゥゥ!!』』
一瞬遅れて、両側から二匹の獣が襲いかかる。
「ハァッ!!」
ツキカゲは"武蔵"を扇状に振り、飛びかかった二匹の胴体をを斬りつける。
『『オォォォォォウ!!』』
血を胴体から流し、二匹は倒れ込む。
「どうされましたか!?」
カヨウが起き上がり扉に駆け寄ったときにツキカゲの姿はなかった──
──民家より離れたところでボスが起き上がる瞬間、駆け寄ったツキカゲが"武蔵"をボスの肩に突き刺す。
『ガルァァァァァァァァ!!』
素早く"武蔵"を引き抜き、ツキカゲはボスのもう片方の肩にも"武蔵"を突き刺した。
そして"武蔵"をまた引き抜くと同時に足を斬りつける。
『ウォォォォォォォォォォォン!!』
大きな彷徨を上げたボスをツキカゲは蹴り倒す。
為すすべなくボスは倒れこみ動かなくなった。
「カヨウ、ここから離れ──」
ツキカゲは民家に振り向き、扉から出たカヨウを見た。
その横で、一匹の獣が弱りはてながらも最後の力でカヨウに飛びつこうとする──
──「ツキカゲさん!!」
カヨウは離れた所で、大柄な獣を倒したツキカゲに声をかける。
「離れるんですか──」
横で何かが動くのに気づいて顔を動かした瞬間、目の前に一匹の獣がカヨウに襲いかかろうとした。
「助け──」
フッと、目の前にツキカゲが現れた。
全身にほのかな翠の光を撒き散らし、ツキカゲは"武蔵"を獣に斬りかかろうと──
パリンッ
"武蔵"の刀身が、突然割れて塵となった。
("崩壊"しきったか──!)
振った"武蔵"は刀身を無くし空振りする。
そのまま大口を開けた獣は、ツキカゲの首筋に噛みついた。
「グハァァッ!!」
ツキカゲは獣に押し倒される。
「ツキカゲさん!?」
カヨウは何もできす立ち尽くすのみであった。
獣の爪がツキカゲの翠の眼に襲いかかる──
──ズドンッと音がした。
音と共に獣の頭が吹き飛ぶ。
「……え?」
恐怖で泣きじゃくんでいるカヨウは顔を上げた。
空に何かが飛んでいる。鋭利なフォルムの、まるで巨大な鳥のような輸送船がこちらに向かってきている。
「……チッ……やっと……か……」
眼の光を失った虚ろな表情で、首筋の噛み跡を手で抑えるツキカゲ。
輸送船がツキカゲとカヨウの上で止まり、バサリと縄梯子が垂れ落とす。
「……引き上げ……」
「あ、はい!」
カヨウはツキカゲを抱きかかえ、縄梯子に掴まる。
スルスルと縄梯子が二人を運んで回収される。
涙と恐怖で顔を一杯にしたカヨウは、離れる地表を呆然と眺めた。
絶命した獣にもう一方の獣が寄り添い、四肢をやられたボスが雄叫びを上げる。
『ウォォォォォォォォォォン!!』
引き上げられたカヨウは泣きじゃくる。カヨウは改めて自分が降りた世界を感じた。
「あらら~? 誰だいこの小娘」
カヨウは涙を拭い目の前の男性を見る。
着崩したスーツ、乱雑に縛ったオールバック、煙草をくわえた口は歪んだように笑っている。
人のいいカヨウでも、この人物の第一印象は"悪い人"であった。
「おーい、ツキカゲー、生っきてまっすかー」
軽い口調で安否の気遣い(?)をしながら、眼鏡をかけた男性は取り出した注射器をツキカゲの首筋に刺した。
「ほいほーい、大事な栄養ですよ~」
呆然と何をしていいかわからないカヨウに目を向けず、男性はツキカゲの頬をペチペチ叩いたりする。
「ツキカゲさん!?」
ツキカゲの首筋が突然結晶に包まれる。
「はいはーい、ちょっと安静にしてな」
そして首筋の結晶が割れ、何事もなかったかのように無傷な様子を見せた。
「ツキカゲ……ツキカゲさん!!」
カヨウは大泣きしながらツキカゲに抱きつく。
「ちょっ……待て……」
「あらら~遭難中に女を作ったんですか~?」
ツキカゲはハッとして男性に眼を向けた。
「カーチス……!」
「俺ちょっと知りたいねぇ、お二人の馴、れ、初、め♪」
いかがだったでしょうか。
一気に書き上げたせいか、会話や擬音語が多すぎたと思います……
今回で一つの区切りをやっと終えることができました。
少し近況が忙しくなるので、もしかしたら投稿に空白期間が生まれるかもしれません……
私の趣味全開の物語を読んでくださり、そして楽しみにしてくださってる読者の為にも、これからも精進して執筆していきます。