メテオリウム─翠晶眼の傭兵─   作:影迷彩

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 投稿して1ヶ月以上……何をしてたかは活動報告に書きます。

 お待たせしてすみません、では最新話です! タイトル通り一夜だけの話です!


──忠告時の抗争前夜──

 「たくっ、あのバカ……」

 

 「ん、アケヨさんのこと?」

 

 ライトのみ点いた薄暗い部屋、ツキカゲは未だにベッドの上から起き上がれずにいた。

 

 「ツキカゲ君、起きてたらアケヨさんを止めていた?」

 

 「当たり前だろ、アイツは動くと何するか分からん」

 

 明かりの下、ツキカゲの隣ではグレイがメモを取っていた。 メモには簡単な文字形式と絵でツキカゲの容態が記されている。

 

 「ニャア……」

 

 グレイの傍らではWAAC・Nが落ち込んだ様子で寝ていた。 どうやらサバイバに置いていかれたらしい。

 

 「そういう意味では、すぐトラブルを起こすのってクランチェイン(わたしたち)らしいね、フフッ♪」

 

 グレイはツキカゲの様子をカく(・・)のを止めて、己の傷のある方の頬を撫でて微笑む。。

 

 「チッ……ふざけるなっ、アイツは依頼人、大人しくしてりゃいいのに……何でエニマリーになりたいって言い出したんだか」

 

 グレイとは反対に、ツキカゲは己の身体が殆ど動けない事、そしてカヨウの事を考えて苛立ち出す。

 

 「う~ん……見てると確かに、アケヨさんって意外に思い切りがよ過ぎるね」

 

 微笑んだ表情のまま、グレイの目つきがやや淡々となる。

 

 「まるで自分から動けるだけで気持ちいい(・・・・・・・・・・・・・・・)……みたいな?」

 

 ツキカゲはグレイと向かい合う方向と反対の方向に顔を背けた。 グレイがいつの間にか、ツキカゲの顔を覗き込んでいることに気づいたからだ。

 

 「……何が言いたいんだ、グレイさん?」

 

 グレイには向けられないもの、ツキカゲは鋭く睨むような表情で尋ねた。

 

 「私が言いたいんじゃないよ、カーチスが言いたいこと」

 

 そしてツキカゲの表情を察したであろうグレイは、しかし穏和な表情を一切崩さず答えた。

 

 「そういや、アイツは何してんだ?」

 

 ふとツキカゲはカーチスの怪しい笑顔を思い浮かべ、話題を逸らす目的もあって彼について言及した。

 

 「カーチス? 今回のサバイバさんやローちゃんの任務でちょっと支障があったらしくてね、今コクピットで無線中よ」

 

 「支障?」

 

 ツキカゲはそのことが気になって尋ねた。 まず第一にカヨウが思い浮かべられたからだ。

 

 「あぁうん、何でも依頼者のね──」

 

 

 

 「依頼者、マツヤ一派──」

 

 ローはコーヒーを少しずつ飲みながらサバイバに小声で問う。

 夕暮れの今、サバイバとローは"カフェ・バドビーンズ"の外で銃器を構えている。

 また何時、マツヤ一派に乗り込まれるか分からないからだ。

 

 「──だったハズ?」

 

 「あぁそうだな、ローの言う通り今回の任務はマツヤ一派の用心棒(・・・・・・・・・)……まぁ実際は今日みたいな脅迫が殆どだろうがな」

 

 ローと向かい合ってサバイバは肩をほぐしながら頷く。 

 サバイバの表情は普段の陽気さを潜めている。

 

 「まぁちっとばかしあってな、依頼主を変更することになった。 カーチスには既に知らせてる」

 

 「……こっち、報酬、高い?」

 

 「いや全然。 マツヤの所の半分もねぇ金額に割引券程度だ」

 

 「……傭兵、来る要素、(ゼロ)

 

 ローは目を細めてため息をついた。

 

 「サバイバ、負け組選んだ、何故?」

 

 「そらぁ俺だって選ばないさ普通は。 このまま普通に通ってたら、あの時襲ってたのは俺らかもしれねぇ……」

 

 ローは店内を覗く。 意気揚々と高まった士気で銃器を用意し手入れする老人達の間を、エプロン姿のアラビカとカヨウがコーヒーの置かれたトレイを運んでいた。

 

 「……受付、終了?」

 

 「まぁそういうところだ、ちょうど受付した時に別のパーティーがS.C.L(※衛星通信回線)受付で割り込んだらしくてな──"Gale the rampage crazy"、アイツらが乱入したせいで高給がオジャンとなったのさ」

 

 サバイバの顔が曇り、憎々し気な感情を目に表す。 サバイバがこのような表情をするのは、WAAC・Nがアームドレイヴン内の壁を引っ掻いて以来だ──とローは思った。

 

 ("暴れ狂う疾風(ゲイル・ザ・ランペイジ・クレイジー)"? どっかで聞いたことある名だな……確かサバイバが前に──)

 

 「サバイバさん、ローガンさん、交代です!」

 

 ローが記憶を探り始めた時、スイングドアを開いてカヨウが飛び出すように現れる。 彼女の唯一の私服であるワンピースの上は紺色のジャケットではなく相済茶色のバリスタエプロンを来ていた。

 

 「了か(ラジ)──」

 

 「おう、ローと交代宜しくな!」

 

 「な!?」

 

 サバイバはいつもの陽気な表情に戻り、驚いたローの背中を押す。 ローは返事する間もなくコーヒーと火薬の匂いでたちこめる店内へ入れられた。

 

 「何じゃ、ワシは出なくていいかいな?」

 

 「爺さん達は整備よろしくだぜ!」

 

 「何故、ローガン、サバイバ!?」

 

 「戦場前の、士気に溢れるイイ雰囲気。 いいねいいね、こういう時こそお前の出番だ、銃器の手入れ手伝ってやれ」

 

 サバイバはローを頼っているように優しく頭を撫でた。 

 戸惑うローであったが、撫でられるうちに元の無表情に戻る。 その表情はまんざらでもない様であった。

 

 「……ドジ、踏むな、アケヨ」

 

 「は、はい!!」

 

 ローは入れ違いに外へと出るカヨウに淡々と鋭い眼を向けた。

 それに一瞬怯えたカヨウであるが、すぐに真っ直ぐな返事をローにする。

 

 (意外と悪くない格好……ま、格好だけよくてもね)

 

 カヨウの顔、そしてエプロン姿を数秒見つめたローは、その視線を店内の銃器へと移動した。

 

 (役に立たなきゃ……意味なんて持てない)

 

 

 

 店内へと戻ったローと代わり、カヨウがサバイバの隣へ立った。

 

 「さてと、んじゃ一時間程周りを見渡しますか!」

 

 「えと……サバイバさんはこのままで大丈夫でしょうか……?」

 

 「ヘヘッ、こういうのに慣れてるから問題ないぜ。 なんなら一日中だって問題無しさ」

 

  疲れも不満も出さず小さく笑い飛ばすサバイバ。 このように軽く陽気な雰囲気を常に持っているサバイバに、カヨウはツキカゲの次に安心感を抱いていた。

 

 「そうですか、先程の柔道を含め、サバイバさんは強いのですね」

 

 「いや~ヘヘっ。 俺程度の戦闘技術なんて、"本部"には何百といるぜ」

 

 謙遜するように話ながらも、サバイバは両手を腰にあて鼻を伸ばす。

 

 「俺なんて、ちょいとの戦闘力……そして地表一番(ナンバーワン)の運転操縦操作技術を持ってるだけだぜ!」

 

 サバイバは親指を己の顔に向ける。 その表情は明るく勇ましく、カヨウの知っている大人の女性像には当てはまらなかった。

 

 「か……格好いいですサバイバさん」

 

 「え?」

 

 カヨウはサバイバを憧れた表情で見つめた。 

 

 「い、いやさ、なんだ、その……照れるからそれ以上キラキラして見ないでくれ!」

 

 そんな表情のカヨウに見つめられ、サバイバはニヤケついた顔を気恥ずかしさに染める。

 

 「格好いい、ねぇ~……ツッキーはどうなんだい?」

 

 「はいっ!?」

 

 カヨウは顔を一瞬で真っ赤にさせ、体全体であたふたと慌て出す。

 

 「アイツを雇った身でさ……アイツの働きぶりってはどうだい?」

 

 「働きぶり……戦闘のことですか!?」

 

 「あーうん分かった、アイツの護衛の仕事っぶりはよぉく分かった……あとでとっちめるか」

 

 サバイバは腕を組み、ツキカゲに何と言おうか思案し始める。

 

 「なぁアッキー、お前から見てツッキーってどうなんだい?」

 

 カヨウはツキカゲを考え、ふと夜空を見上げた。 

 空には相変わらず雲がかかっており、月明かりに照らされ黄色く輝いている。

 

 「はい、とても強くて、戦ってるときは迷いなく真っ直ぐという印象で──」

 

 カヨウは月明かりからサバイバへと顔を向け直した。 その顔は気恥ずかしさ故か少しばかり紅い。

 

 「──正直怖いです、だけどその勇ましさに尊敬し、とても憧れます」

 

 カヨウは頬を紅く染め、自覚している限りのツキカゲへの想いを言葉にした。  

 

 「へぇそうかい、そういうことかね……それでツッキーの助手になったんだっけか、初めて聞いたときは驚いたぜ」

 

 サバイバはそんな彼女の純粋無垢な目を見て陽気に笑って見合った。

 

 「……それでだ、アッキーはツッキーの助手から、正式なエニマリーになろうとするのか?」

 

 「え、えと……」

 

 「まだ考えてないんだったらいいぜ、その理由だとエニマリーになるのは二の次だろうし」

 

 サバイバはしどろもどろになりつつあるカヨウの頭を撫でて落ち着かせた。

 

 「ただまぁ、正式なエニマリーなった方が仕事しやすいだけだな。 ちなみに、ツッキーとローも助手からの正式採用だぜ」

 

 サバイバは窓から店内の様子を覗きこむ。 店内ではぶっきらぼうな様子のローが老人達に囲まれながら、彼らの銃器を手入れしていた。

 

 「まぁローは俺の相棒、ツッキーはカーチスの懐刀ってのがしっくりくるな……とりあえず、エニマリーになるかどうか、考えるのは今のうちだぜ」

 

 サバイバは笑みをなくし、任務時の冷静な表情を顔に浮かべた。 

 

 「一度この職業に就くと後戻り出来ねぇぜ……前回みたいなこともある、色々しては恨みを買う、命の保障なんて()え──」

 

 ハァっとサバイバは一息ついた。 疲れた末に溜まったものを吐き出すように。

 

 

 「なぁアッキー、俺の意見として、お前はエニマリーに向いてないぜ」

 

 

 「えっ──」

 

 続いて出されたサバイバの忠告に、カヨウは茫然として固まった。

 

 「お前は優しい。俺が知ってる人の中で最もってぐらい優しく、それがお前の長所だろう──そこが心配なんだ、この職業は嫌というほど荒れ果てた世界を見ちまう……」

 

 サバイバは憂いを含んだ目で、狼狽えるカヨウを優しく見つめた。

 

 「ツッキーの話を聞くに、お前は成り行きでこうなっただけだろうし……無理になる必要もないんだ、今ならまだ引き返せる」

 

 「そ、それはっ──」

 

 「それに多分アケヨってさ、本当は家出だろ。 しかもある程度の地位にある家から」

 

 カヨウは目を見開いて口を閉じた。

 そんな彼女の様子を、サバイバは表情を変えずに確認した。

 

 「やっぱし図星か、ローと相談したことあってさ……言ってくれれば目的地まで一っ飛びだってのに、アケヨったらツキカゲにまるで守られるかのように離れねぇし」

 

 「わ、私は──」

 

 「悪いこた言わねぇ……アケヨ、この任務終わってからでも家に帰った方がいいぜ」

 

 サバイバはしどろもどろになりつつあるカヨウの肩に手をかけた。

 

 「地位があるってのは地表で生き抜くには大きなアドバンテージだ……お前の性格だ、運悪く失うまでには恨みなく裕福には暮らせるだろうよ」

 

 ヘヘッとサバイバは陽気に笑い、カヨウを怖がらせ脅してしまわないように気をつけながら忠告を続ける。

 

 「家出したら戻るのは結構大変、離れ離れに帰った先に家族がいるってのはス~ッゴく幸運なんだぜ、一度会えなくなったら数年会えないかもだ……」

 

 "家族"という言葉に罪悪感があるように、カヨウは顔を俯かした。

 だがその言葉を発したサバイバも、何処か悲しく寂しげな笑いへと変わっていた。

 

 「それにウチはエニマリー屈指のロクデナシな集団(クラン)だ。 特にツキカゲはアケヨ、お前が憧れるには勿体ねぇ野郎だぜ」

 

 ツキカゲと聞いた瞬間、カヨウは思わず顔をあげて驚いたような表情で反応した。

 

 「……えっと、まぁ俺の(なっげ)ぇお節介はおしまいだ、ちっと説教臭くなっちまったな、すまんなアッキーハハッ!」

 

 サバイバはすぐに表情を元の陽気な笑顔に戻す。

 

 「あ、いえ私こそ申し訳なく……サバイバさんの言葉は正しいです!」

 

 カヨウは慌てながらサバイバを肯定した。

 

 「こんな私のことを考えてくれて…ありがとうございます!」

 

 「え、いや、そんないい事言ってないぜ、ハハハッ! だから改まんなくたっていいぜ、」

 

 サバイバは笑い飛ばしながらカヨウの肩をポンポンと軽く叩いた。

 

 「えと、そういえばサバイバさんはどうしてエニマリーになったのですか?」

 

 「あぁ、え!?」

 

 サバイバはカヨウの肩から手を離し、腕を組んで理由を考え出す。

 

 「あーっとな……まぁ成り行きみてぇなもんでな、運び屋って職業にエニマリーが最も適してただけだな」

 

 「成り行き……ですか」

 

 「あぁ、その辺はアッキーと変わんねぇかな……今思い出すと結構苦い記憶だけどな」

 

 苦笑するサバイバ。 彼女の目は雲で覆われた夜空に向けられた。

 

 「あとはまぁ、金がいる。 それも一時的じゃなく数年程ずっと必要なんだ……その為ならなんだってするさ、しなきゃいけねぇ──っ!!」

 

 サバイバは懐から即座にMt・Hg"M1911"を抜き、銃口を店の前へと定めた。

 

 「サバイバさん!?」

 

 「コソコソしてねぇで出てきなよ、いるのは分かってんだ」

 

 サバイバは薄暗い夜闇に向かってMt・Hg"M1911"を構える。

 すると夜闇の中で人影が揺らぎ、その全貌をサバイバ達の前に現した。

 

 「あ、貴方はっ!」

 

 「あぁっと……確か"ロブ"だっけ、部下達がそう呼んでたねぇ」

 

 「よく覚えてたな、俺みたいな下っぱみてぇな悪役を」

 

 自虐的な口調と共に夜闇からあらわれたのは、昼間に"カフェ・バドビーンズ"を脅しに来たマツヤ一派の一人であるロブと呼ばれていた青年であった。

 

 「まぁアンタだけ他と違ってたしな……で、なんだ、奇襲か?」

 

 「いや、今回は俺だけだ、他にいねぇのは約束する」

 

 金髪をかきむしりながらロブは苛立たしげに──そして何処か懇願するように"カフェ・バドビーンズ"を観る。

 

 「最後の警告をしに来た──っと言いたいが、店の中では皆自分の銃器を弄くってる最中だろ?」

 

 「そうだな、明日辺りにアンタらをぶっ潰す為にな」

 

 「サ、サバイバさん!?」

 

 お互いに敵意を剥き出すロブとサバイバ、それらに怯えながら視線をキョロキョロ動かすカヨウ。

 

 「お前らも残念だなエニマリーのオバサン、老人共しかいねぇ陣営についちまうなんてな」

 

 「オバサン、ねぇ~……よし、お前から潰すとすっかね!」

 

 一種即発、何時ここで決闘が起きてもおかしくない雰囲気である。

 そんな空気の中、先に諦めを宣言したのは──

 

 「……まぁお前らが降伏すれば済む話をしに来ただけだ、争う気はねぇ」

 

 両手をあげてロブは戦う気が無いのを示す。 

 

 「今しかねぇんだ降伏するチャンスは……ウチのボスは明日に向けて兵を集めてやがる、加えて今日の撤退だ、兵を増強して襲い掛かってくるぞ!」

 

 ロブは早口に己のついている陣営の情報を漏らす。

 己の陣営への恐怖と、何とか説得を試みる必死さから、彼の表情には汗が流れる。

 

 「マツヤ・モルガン──アイツを知ってるヤツなら、その兵力の恐ろしさが分かるハズだ……二倍だぞ! アンタらの! "LbCM"の兵士も大勢いる!」

 

 「あぁうん、まぁ調べてみたが経歴ヤベぇよな確かに……ガトボーレラと並んだことあるジジィだってな」

 

 敵陣営の情報を聞いても、サバイバの表情は変わらず冷静である。

 側にいるカヨウは己には分からぬ情報、そして敵陣営の恐ろしさを感じて怯えるしかなかった。

 

 「俺に言えることはこんぐらいだ……あとはこの地を手放すようアイツらに説得を──」

 

 「昼間の返事、聞かなかったかしら?」

 

 カヨウは突然現れた声に驚き後ろを振り向いた。 そこには冷めた表情のケニーがドアに寄りかかって立っていた。

 

 「ケニー……っ!」

 

 「ホント昔から人の話聞かず強引に進むんだから……私たちは降伏しないよ、ロブ」

 

 ロブとケニーは互いに相対する位置に立っている。 その間にはカヨウもサバイバも誰も立ち入れない空気が立ち籠っていた。

 

 (御二人とも……知り合いでしょうか?)

 

 (気づくの遅いぜ! 昼間の雰囲気で分からなかったんかい!?)

 

 「アンタみたいなバカには久し振りの親切心と情けだろうけど……敵であるアンタを信用して武器を捨てろって?」

 

 「グッ……」

 

 「んで、私達が泣いて土下座して謝れば皆無事に済むって保証はある?」

 

 「それはっ──!」

 

 「それに、この土地は手放さない……私の何代も前から、結晶戦争をも生き延びて今ある土地よ、それを単なる商売用の土地としか考えず売り払う下衆な野郎に明け渡して逃げるかっての」

 

 「いつ潰れるか分からねぇ錆びれた土地だろうが! 今だってこうして狙われてる! そんな土地と心中してどうするんだよ!」

 

 ロブは激昂し、焦りながら捲し立てる。

 

 「マツヤに従えれば安全なんだよ! 裏でやることが汚かろうが、そうしなきゃ地表で生きてけねぇだろ! 空中農園があるとかいうスカライズとは違うんだ! ここは地表だ、他の土地みてぇに強いのに従って生きてくしかねぇんだよ!!」

 

 「……ロブ、アンタが見てきた外の世界はそんなだったのね」

 

 対するケニーは顔色を一切変えない。 だがその目は柔らかくなっており、必死になるロブを思って労ってるようでもあった。

 

 「……だけど私達は平穏に、平和に生きたいの、誰かに支配されて怯えて暮らすよりも、あぁして和気藹々として……アラビカにもずっと笑って暮らして欲しいの」

 

 「……娘か」

 

 「えぇ、私の娘、今年で五歳よ」

 

 ロブは何か言いたそうに口を開け、そして店内から溢れる光と笑い声を聞いて黙る。

 ケニーもこれ以上言うことがないような様子で話すことを止めた。

 

 ((気、気まずいっ!!))

 

 そしてカヨウとサバイバは大量の冷や汗を流しながら、二人の立ち位置からゆっくりと遠ざかった。

 

 「……どうなっても知らないぞ」

 

 ロブは一言呟き、夜闇へと姿を消した。

 それを見送ったケニーは大きく息を吐いた後に顔を覆った。

 

 「エニマリーの皆さん、ゴメンなさいね」

 

 「いえいえー、全く俺達の出る幕じゃなさそうでしたしー、ははははーっ!」

 

 サバイバは何とか陽気に笑って場の空気を和まそうとする。

 

 「サバイバ、アケヨ!?」

 

 ひとしきり笑い終わると同時に、ドアを蹴り店内からローが銃を構えて飛び出して来た。

 

 「あぁダイジョーブ大丈夫、俺がやられるかってんだ」

 

 「ローガン、戦闘担当。 サバイバ、戦闘助手。 戦闘、ローガン任せろ」

 

 「いや助手はお前だろ! 2年前まで俺がいなけりゃ任務受けれなかったってのに!」

 

 「昔、今、違う、今のローガン、エニマリー」

 

 「最近ようやくランク4になったばっかだろ! お前は俺がいなけりゃ移動手段ねぇのに生意気言っちゃって!」

 

 そう言いながらサバイバはローの頭を軽く小突く。

 

 「あうっ!……サバイバ、無理しない、運転集中」

 

 「ハイハイ分かってるっての、俺の本業は乗り物、それらに付属の兵器担当がお前だろ」

 

 そしてサバイバはローの肩を勇ましく、己を預けるように叩いた。

 

 「──だから明日はお前に一任するぜ、"嗅ぎつける弾丸(ハウンドブレッド)"ローガン・シモン」

 

 「……了解(ラジャー)

 

 ローとサバイバはお互いの手を叩き合った。

 

 「御二人とも……"相棒"ってものなのですね」

 

 カヨウは二人の光景に微笑みがこぼれ呟いた。

 

 「家族に相棒……か、色々あるな俺ら」

 

 「……サバイバの、娘?」

 

 「あぁそうだな! ローガン・R・クラッカー! 俺の次女(・・)ってことで登録しとこうか!」

 

 「いらん世話」

 

 二人の掛け合いは軽く、だが信頼が確実にある。

 カヨウはそんな関係を、少し羨ましく思って見つめた。

 

 (相棒……家族……アレ?)

 

 カヨウは何か引っ掛かるものを感じた。

 

 「えぇと……サバイバさん、次女(・・)……ですか?」

 

 「あぁ、登録したらそうなるぜ」

 

 「待て、サバイバ! その……」

 

 ローは顔を赤らめ、カヨウは恐る恐るとした表情となる。

 

 「……長女、は一体──」

 

 「そりゃ俺の子だろ」

 

 「……えっ?」

 

 「あぁまだ言ってなかったな」

 

 呆然とするカヨウに、サバイバは照れながら頭をかいた。

 

 「俺、子供一人いるんだわ、さっき言ってた家族のことだな」

 

 「そ…………そうなのですかぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 とても意外だという顔でカヨウは声を上げた。

 

 「……最初にローに言ったときと同じだな」

 

 「奇声、叫んでない」

 

 「あぁ、静かに『えぇぇっ』て連呼してたな……そんなに意外かオイ!?」

 

 顔を赤くしてサバイバをやっと女性と見始めたカヨウ、そんなカヨウに呆れるロー、そして気恥ずかしく首をかくサバイバ。

 三人が落ち着いたところで、ケニーの口が開く。

 

 「……皆様にお願いが──」

 

 

 

 

  「(いて)ぇぇよぉぉぉっ!!」

 

 とあるアジトにて、壊れた義腕を医師にナオしてもらっているココ。

 神経接続する"LbCMシステム"タイプの義腕は、取り外しや修理の時に激痛が走るのだ。

 

 「あのエニマリー共、絶対(ぜってぇ)許さねぇ……お、ロブじゃねぇか! 何処へ行ってた?」

 

 ドアを開け、室内へと疲れはてたロブが入り込んできた。

 

 「何処だろうが勝手だろうが」

 

 「おぅおぅ、さては女だな!」

 

 下品に笑うココを背にして、ロブはベッドへと倒れこもうとした。

 

 「へ~、明日の虐殺前に営みね~」

 

 既に先客がいたらしい、ベッドの上の暗闇から甘ったるい声がした。

 

 「──ウィンドウだっけか? 疲れたからベッド変われ」

 

 「あら~連れないわね、何なら私と射たれ撃ち合いでも──」

 

 「テメェみたいなアバズレトリガーハッピーと誰が寝るか、」

 

 「ヒッドい言い方ね、そう思わない、ジー?」

 

 「そうだね! ロブのお兄さん、せっかくお姉ちゃんが誘ったのにヒドイね!」

 

 どうやらもう一人いたらしい、まだ幼い少女の声が室内の面々に似つかわしくなく響く。

 面々──ロブやココ、ウィンドウやジーと呼ばれた少女以外にも数人の悪漢共が、それぞれ銃器を携えながら酒や女に明け暮れる。

 

 「なんならこいつとセットで寝ようじゃないか、コイツったらスッた金をすぐに使いきったらしくてな~慰めて欲しいとよ」

 

 「ロブのお兄さんはコーヒー作りウマイんだからさ! お姉ちゃんと飲んで朝まで過ごしたら! アタイはさっさと朝になるまで寝てるから!」

 

 「いいねぇ夜明けのコーヒー、明日たっくさん撃ち殺した後にブン採る豆で作りなさいよ!」

 

 室内の喧騒に負けない程、二人の女の会話をしてるようでしていない、軽快な笑い声が響く。

 ロブはそんな彼女らを恐れた、己のボスが雇ったエニマリー集団は狂っているのだ。

 

 「夜に射たれ撃ち合い朝にも撃たれ射ち合い♪」

 

 「刻んで刻んで好き放題♪」

 

 「ヤられて殺った後は風のように去るのさあ~」

 

 ベッドで喚くように歌う二人から逃げるようにロブが去ろうとした時──

 

 「グハアッ!?」

 

 「ロブっ!?」

 

 ココは驚き恐怖した。 何故ならロブの背から血飛沫が飛んだからだ。

 その後ろにはベッドから飛び上がって着地したジーが一人。

 異形なのは床に手を着けた腕であり、手から肘にかけて翠色の湾曲した刃が生えていた。

 

 「なっテメ──」

 

 「ねぇちょっと! 無視しないでよ! ベッドの上で聞きたいことあるんだよ! さっき何処へ行ってたとかさ!」

 

 倒れたロブの背中を、傷口に合わせて足に装着されたローラーで踏みつける。

 

 「ジーと話さないとダメよ、この娘ったら無視されることが大嫌いだからさ~」

 

 「グァァァッ!!」

 

 「ワシも聞きたいものだ、貴様が敵地で何をしに来たか」

 

 室内の奥からしゃがれた老人の声が大きく響く。 威圧的であり、ロブに対して激怒しているようであった。

 

 「昼間の時点で交渉は決裂している、ならば最早敵対勢力に用はないハズだ」

 

 杖をついて老人がロブに近づく。

 

 「敵地は貴様の故郷らしいな、ワシらの情報を盗んだのではあるまいな?」

 

 「何をっ!? 俺のようなグハッ末端には何も言うことは──」

 

 「偶然知った、そして敵軍に己の安全を取引したとも考えられる!!」

 

 老人は杖を杖を高く振り上げ、ロブの傷口に勢いよく降り下ろした。

 

 「アグッウ!!」

 

 「無能が、事故の利益の為に裏切りおって!! そんなヤツらのせいで結晶戦争時に我が軍は山岳地帯への撤退時──」

 

 「あぁうんうん残念だね! だけどそんな話つまんないよ! アタイ達は聞くじゃなくて切り刻みたいの! ねぇ! ねぇ! ねぇ! ねぇ!」

 

 ローラーで踏みつけ、両腕の刃で事切れそうなロブを切り刻むジー。

 その眼は翠色であった。

 

 「早く明日になってよ! 切り刻んで奪いたいよ! 特に昼間会ったお姉ちゃん! 何で財布の中ないの! イライライライライライラするぅっ!!!」

 

 「どうジー、スッキリしてきた~? あ、ついでにバーンっ!」

 

 ズドンと銃声が鳴り響き、ロブの身体を大きく震わした。 

 

 「あーうんスッキリ! だけど足りない! 明日はもっと切れるかなっ!!!

 

 「二度と単独で行動するでないっ! 次は軍法会議だ!──ジーフェンにウィンドウ、それから外のハリー……君達の活躍には期待してるぞ」

 

 動かなくなったロブを蹴り捨て、老人は憤怒と狂気で染まった目を二人に向けた。

 

 「我らが兵と共に……戦地を、完璧な殲滅を始めようじゃないか、ゲイル・ザ・ランペイジ・クレイジー!!」

 

 「アイア~イ♪」

 

 「アイアイサー!!」




 如何だったでしょうか?

 お待たせした割にボリューム不足かもしれません……足りなかった分は次話にて!

 次に投稿できる日もまた投稿期間が空くかもしれません……だけど最新話を楽しみに待つ読者がいるならば、必ず書き上げます!

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