メテオリウム─翠晶眼の傭兵─   作:影迷彩

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 一ヶ月も間を空かせてしまった!! 全てはいつも以上の遅筆と、リアルのゴタゴタ故です……


 タイトル通り、今回は何でも屋稼業"エニマリー"になることを選んだカヨウ/アケヨの初任務、果たしてどうなるか……


──第五話 お嬢ちゃん、働き始める──
──世間知らずの初任務──


 曇り空の下、翠色の結晶に覆われた大地、森の木々には結晶が散りばめられてるかの如く翠色に光り、海は翠色の光を反射してキラキラと輝いている。

 そこから続いている野原の草は結晶の如く翠色の光を煌めかせ、裸足を痛々しく切り裂く。

 逆に荒野の続く地平線にも、ところどころにサボテンめいて結晶が生えており、殺伐とした荒野を翠色に照らしている。

 

 時折、翠色の眼をした獣を目にする。 見た目が普通の生物と変わらず大差ないものから、全身から結晶を生やしたバケモノ同然のものまで、様々な見た目の生物が徘徊している。

 

 

 あらゆるエネルギーに返還でき、あらゆる素材に加工可能なメテオリウムが地球に降って40年近く。 メテオリウムの撒き散らす結晶粒子によって地表は結晶で覆われている。 バリケードで覆われた町の外では、未だに未知な世界とされている。

 何が起こるか分からず不確定だらけの外であるが、それはバリケード内の町も変わらない。 どの町も常に権力争いや犯罪などで荒れている。 

 町の中だけではない、町同士を往き来する為の空なども、時として町を越えた戦場に変わる。 

 

 地表に絶対安全、そして平和などない。 富、権力、そして戦場を求む者供が常に争いあっている。

 

 

 そんな世界でカヨウは決めていた。 そんな世界で生き抜く為に誕生した"エニマリー"という職業に就くと。

 

 

 (そう言いましたし……責任者のカーチスさんの許可も頂きましたが……)

 

 ロッカールーム内で、カヨウは物思いに耽っていた。 

 

 ──へぇ、自分の知りたいこと、できる範囲を広げる為に、エニマリーに就きたいねぇ~♪……じゃなくて、ツキカゲの隣にいたいの間違いじゃねぇよな?──

 

 エニマリーになりたいと言ったときの、カーチスの煙草を吹かしている顔が思い出される。 

 その質問に、カヨウは何も答えられずに俯いてしまい、気づいたらロッカールーム内のケースに座りながらボンヤリしていたのだ。

 

 (ツキカゲさん……ですか。 あの人は……)

 

 ケースの上に座っているカヨウは、ツキカゲの得物である太刀を収納しているロッカーを見つめる。

 ツキカゲは今アームドレイヴン内にいない。 

 

 ──ここの採掘場からの依頼だ……一人で十分だ、アンタはここにいな──

 

 たったこれだけの会話をして、ツキカゲは行っていった。 

 

 ──何か手伝えること、か……じゃあ、アンタは大人しくここで待ってろ、出る幕なしだ──

 

 寂しそうな顔をしたカヨウに向けるツキカゲの顔は、いつも通りに鋭く淡々とした目つきであり、ネコと対決した時の顔と変わらなかった。

 

 (戦闘鬼……噛み砕き屋(クランチャー)……)

 

 ツキカゲの二つ名、それを聞いただけで、ツキカゲの任務が戦闘を中心しているのが分かる。

 

 (私も、そんな任務にこれから──) 

 

 ──故郷に帰るまでエニマリーになりたい? あぁ構わないぜ。 資格など?いらねぇよそんな物。 まぁ免許無しじゃ正式な依頼は引き受けできねぇし、物資支給や確実な報酬なんて出ねぇが……只のお手伝いさんに、免許なんざぁ必要ねぇだろ~♪──

 

 (まずは免許無しから始まり……ですか)

 

 エニマリー(免許無し)としてお手伝いできる。

 だけど現状は何もすることがなく、ボンヤリとカヨウは待機室に移動した。

 

 「あっアケヨさん、おはようです~♪」

 

 待機室の真ん中では、グレイが饅頭を載せた皿を置いていた。

 そして椅子では、ローが銃器の点検をしており、その反対にはカーチスが煙草を吹かしながらタブレットPCででニュースを調べていた。 タブレットPCの画面には"[速報、私達がが掲載する週刊エニウェア・テイルの本社が何者かに爆破されました。 幸いにも死傷者はいない為、来週の掲載に支障は──]"と出ている。

 

 「おぉうまそうな饅頭があるじゃねぇか~頂きま~す!」

 

 皿が置かれた瞬間、カーチスは片手に煙草を挟み取って、饅頭を一度に三個掴んで頬張り食った。

 

 「カーチス、貴方のはこれで最後です~」

 

 「へっ!?」

 

 饅頭を呑み込んだカーチスは、ニコニコとした優しい笑顔のグレイに目を向けた。

 

 「一人、三個です、おかわりは残念ながらありませんですよ~♪」

 

 「ありゃりゃ~……もっとじっくり、味わえば良かったかぁ~」

 

 「う~ん……じゃああとで特別に♪」

 

 「お、嬉しいね~期待しとくぜぇ」

 

 グレイと談笑しているカーチスは、キョトンとしているカヨウに気づいた。

 その目は一瞬細められ、口角が歪むように上げられた。

 

 「どったのアケヨちゃん? すげぇ暇そうにして~」

 

 カヨウは気がついたように、こちらを目を向けるカーチスと見合う。

 カーチスの表情はいつも通りの怪しい笑顔であり、カヨウを値踏みしてることだけが感じられた。

 

 「ツキカゲだったら、半日は帰ってこないぜ」

 

 カヨウが一瞬考えたことを、カーチスはすかさず答えた。

 

 「ツ、ツキカゲさんは……その……」

 

 「あーそっか、アケヨちゃんにとって、ただの引き受け人でしかなったなぁ~♪ わざわざ話題に出す必要もなかったね~♪」

 

 カーチスは顔を赤くしているカヨウに目を向けたまま、からかうようにニタニタ笑い煙草を吹かす。 

 

 (先程の質問への答え……!?)

 

 先程の質問の答え、カヨウが答えられなかった答えをカーチスは提示した。

 

 「…………」

 

 ツキカゲという単語に反応し、オロオロし始めたカヨウをカーチスは細目で計らう。 その目は張り付いたような笑顔と反対に無感情であり、その瞳の奥を読ませることはしなかった。

 

 「まぁツキカゲのことはあとにして……ちょっと頼まれくれるかなぁ?」

 

 カーチスは笑顔のまま瞳を細めカヨウを怪しそうに見つめ、指をパチンと鳴らした。

 するとグレイが頭を下げ待機室から退室した。

 

 「え、仕事ですか!?」

 

 カヨウは手を合わせて声を上げた。 その声色は、どこか嬉しげであった。

 

 「今ちょっと物資が不足しててね~、金は渡すから、銃弾やら食い物やら買ってきてってよ」

 

 グレイが入室し、カヨウに封筒を手渡した。 

 

 「余ったら好きなの買っていいからなぁ~♪ んじゃ~、頼みましたぜ」

 

 封筒を貰って退室しようとするカヨウに、カーチスはいつも通りの軽い口調と表情で手を振った。

 

 「は、はい! 頑張ります!」

 

 カヨウは顔を意気込みに輝かせ外へと走り出ていった。

 

 「あぁハイハぁイ~……ヘマすんじゃねぇぞ(・・・・・・・)♪」

 

 

 

 

 「ここが統制外町……曰く"村"ですか」

 

 "統制外第07区域"

 今まで立ち寄った町と違い、住居は石造りではなくバラック造りで出来たものが多数を占めていた。

 

 (なにか……今までの町と違う景色です……)

 

 バラック小屋を初めて見るカヨウは、その荒廃しきった町並みに身を竦めた。

 

 「いえ、任務なら恐れず入るのみです!」

 

 カヨウは自分を鼓舞し、購入リストを確認する。

 

 「えぇと……メテオリウム製の弾倉を3本で値段が7800……食材が合計2500……日本刀、あれば一本……大体15000……中々出費するのですね、エニマリーというのは……」

 

 購入リストを懐にしまい、カヨウはそれらを売っていそうな場所を探した。

 

 「それで……何処に売ってるのでしょう……?」

 

 だがどこも似たような廃れた外観の建物であり、カヨウはその場を右往左往するしかなかった。

 

 (それに……人気のない町並みです……)

 

 建物と呼べる廃棄物の固まりに人の気配はない。

 今まで立ち寄った町以上に殺風景な雰囲気に、カヨウは背筋が震えるような恐怖を感じた。

 

 (採掘場……メテオリウムによる結晶汚染率が高いと言われる……)

 

 カヨウはフードを目深に被った。 少しでも外気から身を守るために、こういった場所ではフードなどを着用するべきということを最近知った。

 

 (メテオリウム……実物は見たことなく……メテオリウムから生み出された結晶粒子によって姿形を変えられた森や突然変異生物……翠晶眼しか見たものは……)

 

 地表に蠢く、結晶粒子に似たようなもので生きる動植物。 ただ唯一と言っていい程に、人間以外で結晶に汚染されずに原型を留めている生物はいないという。

 

 (……そんな世界に、私は迷いこんだのですか……)

 

 カヨウはただ思考し、そしてそのまま道に迷っていた。

 

 「地図などもなく……自力で探せということですね!」

 

 購入リストを再度確認しながら、カヨウは使命感を持つように片手を握りしめた。

 

 「アンタ、エニマリーの旅人かい?」

 

 バラックの側に腰かけているローブ姿の人物がカヨウに話しかけた。 フードに隠れて見えないが、しゃがれた声は女のようであった。

 

 「は、はい! すみません、お聞きしたいのですが、銃弾や食材が売っている場所はどこでしょうか?」

 

 「……あぁここだよ。 もっとも、大した物などないがね……」

 

 カヨウは「失礼します」と一声言って、扉らしき板をめくった。

 

 (空っぽだ……)

 

 バラック小屋の中には何もなく、、地面に敷かれた暖簾の上に銃弾や食材が置いてあった。

 

 「え、えぇと……銃弾が3本と……これは食材なんですか?」

 

 カヨウは林檎らしきモノを見た。 青色の果実には、端々に翠色の結晶らしきものが生えていた。

 

 「食材さ、もちろん食える……嬢ちゃん、まさか"翠染食"は食ったことないのかい?」

 

 そう言って女性はケタケタと顔を片手で抱えて笑った。

 

 「!?」

 

 カヨウはその腕を見て驚いた。 ローブからはだけた女性の腕には、細かな結晶が生えていたのだ。

 

 「嬢ちゃん、食道器官は生態接続機かい? あるいは、まさか翠晶眼(エメリスタリー)かい?」

 

 結晶の生えた林檎を掲げ、女性はケタケタと笑った。

 

 「クハハハ……嬢ちゃんの表情、今まで会った客の中でも久しぶりに見る顔だねぇ……」

 

 カヨウはそう言われ、自分の顔を思わず触った。

 

 「あと何年か分からない身体に対しての"同情"でも"偏見"でもなく……うーん」

 

 しばし顎に結晶の生えた手をかけ、女性は言葉を探した。

 

 「……あぁそうだ、純粋な"恐怖"だね」

 

 カヨウは口元を手で覆った。 言われて初めて、自分の女性に持つ感情を理解し、そんな自分に動揺したのだ。

 

 「なんだい嬢ちゃん、そう珍しいことじゃないから気にしないでいいさ、未だに汚染された人間から移るなんて迷信を信じてる輩は大勢いるんだ」

 

 「おせ……貴方は、何故、一体──」

 

 パァァァァァン!!

 

 と、銃声が一発鳴り響いた。

 

 「!?」

 

 「始まったね……」

 

 突然の銃声に驚き、カヨウは周囲を確認した。

 

 「一体何が!? 抗争ですか!?」

 

 「いーや、抗争が起きるほど勢力はないさ……」

 

 銃声に驚いて振り返ったカヨウに対し、女性は上の空のような雰囲気で話す。

 

 「……"見せしめ"だよ、普通の食材を盗んだばかりにな」 

 

 「見せしめ!?」

 

 「あぁ見るのが見せしめ、処刑さ、地主の為の作物をネコババしたのだからな……」

 

 「盗むだけで……処刑ですか!?」

 

 「当たり前さ、地主に楯突く、あるいは役立たずになった時点で処分される」

 

 「役立たず!?」

 

 パァァァン!!

 

 轟く銃声に、カヨウは耳を傾けず女性の動きを見つめた。

 銃声が轟く度、女性の身体は小刻みに震えていた。

 

 「……!」

 

 カヨウは一瞬どう声をかければいいか迷った。

 

 「ここに最近ついた地主は高慢でねぇ……私たちを徹底的に働かせて、周辺のメテオリウムや防護畑内の稲を刈らせて……酷使し続け使い物にならなくなったら暇潰しにな……今は用心棒も雇ってる、その腕を試してるんだろうさ……」

 

 そして一瞬の躊躇の末、一言震える女性に提案した。

 

 「"見せしめ"を……止めないんですか?」

 

 「そんな力が、私たちにあると?」

 

 そう言ったフードの下は、虚空を見つめる無表情であった。

 

 パァァァァン!!

 

 「今の銃声で、もしかしたらウチの娘が撃たれたかもな……それが分かったところで、私には何もできないが……」

 

 銃声の鳴り響く中、カヨウは呆然とした表情で女性を見つめた。

 

 「あの……私──」

 

 「……エニマリー、か?」

 

 そう言い、女性は品物に目を通した。

 

 「……"見せしめ"を止めれば、ここにある品物は粗方くれてやる。 どうせ買い手はつかんだろうし……」

 

 女性はフードの奥の目をカヨウに向けた。 その目はどこか暗く、それでいて淡い希望に全てを託そうとしていた。

 

 「嬢ちゃんがエニマリーだったら御願いだ、見せしめを止めてきてくれないか?」

 

 

 

 「ん、アッキー何処に行ったよ?」

 

 コクピットから待機室へ、ゴーグルを外してサバイバが入ってきた。

 

 「ちょっとおつかいをねぇ~」

 

 「ハ? おつかい?」

 

 サバイバは町へと走っていくカヨウを見送りながら、カーチスの言葉に違和感を感じた。

 

 「……なんか買うものあったか?」

 

 サバイバはカーチスに振り向いた。 その目はカーチスに猜疑心を向けていた。

 

 「銃弾なら足りてるハズだが? そりゃ前回かなり撃ちまくったけどよ、ロッカー内を探せばまだあるハズだよな? 食材だって、まだ貯蔵してるハズだ」

 

 腕を組み、サバイバは座っているカーチスを見下ろし睨み付ける。

 

 「……今回、俺達が請けた任務はアレだよな?……カーチス、テメェはもしかして、アケヨを任務に巻き込む気じゃねぇだろうな!?」

 

 「それはアケヨちゃん次第だねぇ~ただ俺が出した任務をこなせばいいだけだしなぁ~!」

 

 激昂するサバイバを気にせず、カーチスは窓の向こうを見つめた。

 

 パァァァァン!!

 

 窓の外で銃声が轟く度、カーチスの顔は愉悦に歪んだ。

 

 「あぁそうだ、ただこなせばいいんだ……ツキカゲの邪魔をしないようになぁ~♪」

 

 

 

 カヨウは走る。 銃声の轟く方向へと走る。

 その途中、ドスンと歩いていた人と肩をぶつけてしまった。

 

 「ご、ごめんなさい!」

 

 「いえいえ、あっしの方こそ、お忙しそうな貴女に気を向けてやれず、申し訳ございやせん」

 

 肩をぶつけてしまった人物──黒いスーツに身を包み、黒い手袋で尖ったトップの帽子の唾を掴み、それで表情を隠す190程の背丈の男性は、謝った後に走り去ったカヨウを見届けた。

 

 「あの道、ウチの野郎を置いてった場所だねェ……」

 

 隠している表情を笑みに変えながら、彼は黒い手袋の上にコインを出現させ、それを宙に投げた。

 宙に跳んだコインは落下し、彼の黒い手袋に掴まれた。

 

 「裏っと……まぁ見逃しやそう。 あっしの用事は別でやしたからねェ」

 

 

 

 パァァァァン!!

 

 銃声は人混みの向こうから聞こえていた。

 

 「今日はどれだけ、このワシを苛立たせる人が出れば気がすむんだ!?」

 

 人混みの向こうから、銃声と共に怒鳴り声が聞こえた。

 

 「イヤッハァァァ!! テメーら全然撃ち合い楽しみきれねーからなぁ、ウヒャヒャヒャッハァァァァァ!! 少しはその顔歪ませてよ、俺を楽しませやがれよなぁ!! キャァハハッハァァァァァ!!」

 

 カヨウは人混みを掻き分け、柵の向こうを見てしまった。

 そこには弱々しい腕を手錠で繋がれ、柵の真ん中に集まっている民、足元には既に動かなくなったもの、そしてその向こうにはガードに囲まれた白いスーツの中年男性、その隣にはホッソリとした体躯で猟銃を構える男性がいた。

 

 「ほぉれほれ、苛立つこのワシという地主であり炭鉱長の怒りを沈ませろ、盗人に役立たず共が!!」

 

 「おいおぉい、俺のクライアントは怒りを沈ませたいんだとよ、ウヒャヒャヒャッハァァァァァ!! 俺も腕慣らししてぇから、もっと泣きわめいてにげろよな、俺様の"ラフライフル"からよ!! キャァハハッハァァァァァ!!」

 

 高圧的な態度をとる中肉中背の男性と、猟銃を片手で振り回す男性は、固まる民達を見下すようにして次々と発砲した。

 

 「ん~、無駄なものが無くなるってのは気分がいいの~ラフライフル先生!」

 

 「イヤッハァァァ!! あぁいいなぁダンナ! こっちもよぉ、この弾を撃ちたくてウヒャヒャヒャッハァァァァァとウズウズしてんだ!」

 

 狩猟ライフルを片手で振り回しながら、男性──ラフライフルは下卑な笑い声をあげ、空いている手で人頭サイズのメテオリウムを取り出した。

 

 「イヤッハァァァ!! さぁてと、ショウに使う道具も残り少なくなりました! ウヒャヒャヒャッハァァッァァァァァ!! 観客にして労働力共、最後にとっておきのウヒャヒャヒャッハァァァァァな一発をぶちまけてやるから、目ぇかっぽじって見ろよな! 俺の弾を食らいたくなければなぁキャァハハッハァァァァァ!!」

 

 ラフライフルはダミ声で大きく叫び、猟銃の銃口をまだ生きている標的に向けた。

 

 「俺様自慢のぉ"ラぁフラぁイフル"!!」

 

 ラフライフルの眼が翠色に灯った瞬間、猟銃の銃身周りからラフライフルの下品な笑いに呼応するようにメテオリウムが粒子状に分解され、猟銃の銃身を這うように取りつき結晶化した。

 

 「イヤッハァァァ!! 俺が触れる猟銃は、見た通り俺のようにイカした形状にウヒャヒャヒャッハァァァァァとなる!!」

 

 全体に結晶が生え、シルエットを大きく歪ませて奇怪な形状となった猟銃の銃口を真っ直ぐ向け、ラフライフルは泣き震える民にそれをユラユラと突きつけた。

 

 「イヤッハァァァ!! さぁさぁ最後の一言を言いなよウヒャヒャヒャッハァァァァァ!!」

 

 「わ、私たちが悪かった! もうしねぇ! だから命は──」

 

 「うるっせぇぇぇぇェェ!!」

 

 変化した猟銃から弾丸が命乞いした民に向かって放たれた。

 後ろで大爆発が起き、銃口から軸線上にある地点にて命乞いしていた男性の胴体は消し飛んでいた。

 

 「ラフライフル先生! あまりこの場を壊されては、ここの採掘場や防護畑を──」

 

 「イヤッハァァァ!! んなこたぁ別に聞きたくもねぇよ! もっと俺を楽しませるようなさぁ……奴隷になるとかな!!キャァハハッハァァァァァ!!よしそうしよう、そこの少女!!」

 

 ラフライフルは一番近くに腰を抜かしていた少女の顔を掴んだ。

 ラフライフルを見る少女の目は、憎悪も嫌悪もなく、空虚で暗い瞳であった。

 

 「イヤッハァァァ!! いいなぁその目!! 何も考えること止めて、大人しく抗うことを止めたその目だよキャァハハッハァァァァァオラァッ!!」

 

 少女を地面に投げつけ、ラフライフルは猟銃の銃口をせ少女の首筋に押し付けた。

 

 「キャアアアア!!」

 

 「イヤッハァァァ!!いいね人間、その鳴き声よぉ!!キャァハハッハァァァァァァァァァァァ!!」

 

 

 パァァァン!

 

 

 民達は一瞬その音がラフライフルの猟銃から放たれたものだと思い目を瞑った。

 だが目を開けて見えた光景は、猟銃を弾き飛ばされのたまったラフライフルと、柵を飛び越えて少女に向かうカヨウであった。

 

 「お止めください!!」

 

 

 片手をおさえるラフライフル。 少女から逸らした翠の眼は、少女の前に立つカヨウに向けられた。

 

 「なん、なんなんですか……これは!?」

 

 カヨウは弱々しく震え、それでも両足で体を強く支え少女を両腕で庇った。

 

 「盗みなんて一度も見たことありません……だからホントにどれほどの重罪か分かりませんが……果たして、これほどの罪に値することなのでしょうか!?」

 

 ラフライフルは痛みに耐える顔を、すぐさまカヨウの体型をパッと見、下品な表情の翠の眼を向けた。 

 

 「おいおぉい~笑えなさそうなペチャパイよぉウヒャヒャヒャッハアアア!! オイ、テメェ何様だオイ?」

 

 カヨウは既に逃げ出した少女を庇いながら、目の前の猟銃を構えるラフライフルに恐怖するも──

 

 「私はエニマリー、貴方たちを止めに依頼されました!!」

 

 己の勇気を振り絞り、カヨウは毅然と答えた。

 

 ──怖い、怖い、私がここにいるのは間違ってるだろうか──

 

 そう思いながらもカヨウは、任務遂行と少女の為に立つ。 

 

 「へぇそうかい止めるというのかい、つまりは俺に歯向かうと、更につまりは俺の後ろの地主のダンナに歯向かうと~?」

 

 カヨウの威勢は空しくラフライフルに効かず、むしろその態度を調子づかせる結果となった。

 

 「イヤッハァァァ!! 泣きそうな顔してよ、か弱そうなチンケな女一人が、俺様のライフルに敵うと!?」

 

 カヨウは咄嗟にコルトガバメントを取り出し構えようとする。

 が、ラフライフルがカヨウを蹴り飛ばし、カヨウの顔面に隠し持っていたMt・Hg"USSR マカロフ"を突きつけるのが先であった。

 

 「な!?」

 

 「イヤッハァァァ!! 威勢がいい女だなウヒャヒャヒャッハアアア!! さっきのガキよりは楽しめそうだな!!」

 

 カヨウはコルトガバメントを構えることができず、ラフライフルの"USSR マカロフ"に恐怖するのみであった。

 

 「わ、私は……貴方達を止めな──」

 

 「まーだ言ってるのかウヒャヒャヒャッハアアア!!」

 

 "USSR マカロフ"の下部でラフライフルはカヨウを殴りつけた。 

 

 「アウッ!!」

 

 「止めるだとウヒャヒャヒャッハアアア!! 他愛もないなーキャァハハッハァァァァァ!!」

 

 

 「任務、開始」

 

 

 カヨウが殴られたその時、何者かが柵を跳び越えた。 

 空中を回転した彼は、前に向けている大太刀の鞘から電磁ネットを飛ばす。 

 

 「「「「グワワァァァァァ!!」」」」

 

 電磁ネットは地主の周囲を囲むガードに一発ずつ巻きつき、高圧電流を流してガードを無力化させた。 

 続いて彼は腰に構えた鞘内部を炸裂させて"武蔵"を抜刀し、炸裂した薬莢の勢いをのせた"武蔵"をラフライフルの猟銃を持つ手に投げつけた。

 

 「あぁいったぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 手に深く武蔵が突き刺さり、ラフライフルは甲高い声を上げて"USSR マカロフ"を手放す。

 

 「ツ……」

 

 カヨウは頬をおさえながら、自分の前に立ち"柳生"を抜刀し構える彼を見上げた。

 

 「ツキカゲさん!!」

 

 

 

 

 「潜伏してたローからの通信だ、アッキーが対象の前に出たせいでツキカゲが突入、段取りがメチャクチャになっったって激怒してるぜ……チッ、しかも援軍要請まであるぞ!」

 

 サバイバが通信端末を片手に、デスクに脚をかけて座っているカーチスに呆れながら報告した。

 

 「あーあ~ヘマしちゃったのかなぁ~、おつかい以外なーんにも頼んでねぇってのに、ツキカゲ達の任務に突っ込んで引っ掻き回したかぁ~」

 

 カーチスは外の状況を聞いても、ただケラケラと笑うだけであった。

 

 「アケヨちゃん、大丈夫かな~♪」

 

 グレイはクスリと笑い、そして手に頭を乗っけてくつろぐカーチスに優しげな目を向けた。

 

 「何となくこうなるだろうと思ってカヨウを外に出したでしょ、カーチス?」

 

 カーチスはその言葉に一瞬呆けて、そして高笑いをあげた。

 

 「ハーハッハッハ!! 俺はどうでもいいぜ、アケヨちゃんがツキカゲに怒られようが嫌われようがなぁ!! アケヨへの任務はねぇ別にいいや♪ それにツキカゲがこの程度の任務を邪魔されてしくじっただけで終わることはねぇしなぁ……」

 

 カーチスは爆炎の上がる外に目を向けた。 その色は赤く、今日初めて心のそこからの狂笑を見せた。

 

 「ハーハッハッハ!! どうだ初めて正真正銘の当事者としての戦場ってのはよぉアケヨちゃん!! テメーが出しゃばったせいで、今回の任務"クーデター"がメチャクチャだぜ! そんなお邪魔野郎をどうするよ、ツキカゲェェェ!!」

 

 




 いかがだったでしょうか?

 メテオリウムはどの場面を見ても自分にとって初めて書いたジャンルです。 今回もまた、今まで書いたことない雰囲気です。 私にとってこの作品は、カヨウ視点と同じく未知の領域です……

 まぁ単なる設定不足なだけですが……そういえばメテオリウムについて何も触れてない!

 次もまたいつになるのやらです……年末までに書きたいのが数話あるので、それらを書ききれるように頑張っていきたいです。

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