メテオリウム─翠晶眼の傭兵─   作:影迷彩

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 某国際展示場で戦場を渡り歩き、そのあと某サンシャインシティにて最新ガンプラや映像を堪能し、そのあと某秋葉原にてプラモや同人誌を買い漁っている間に書き上げた九話。
 
 感想欄やメール等ではキャラの動きに関して評価がイイみたいですので、今回もその辺りを入念して執筆してみました。 相変わらず世界観についての言及は少ないですが……
 アクションやギミック、キャラの関わり合いを楽しんでいただければ幸いです。

 どうでもいい話ですが、私の目標はコミックマーケット出品。 それができるまで、このサイトにて腕を上げることができるよう精進します。


──第四話 傭兵の任務、戦法、心情──
──迷える追跡者──


 

 高くなけれど、重厚な雰囲気を持つ城めいた建物の、荘厳な和室の奥。

 正座し頭を下げる白服達の前の高座に、正座をしている女性が黒服達を見下げていた。

 

 「それで、アレから5日も経って、カヨウは見つからないと?」

 

 長く淑やかな黒髪の女性は、その透き通った美女の顔を扇子で隠していた。

 その表情は扇子越しにも、非常に不機嫌であることは明白であった。

 

 「申し訳ございません。 我ら1番隊の力を持ってこの第三都市をくまなく探しつくしましたが……」

 

 「その捜索力を持ってしても、いまだにカヨウが見つからない……とな?」

 

 屈強な白服達の前で臆することなく、むしろそれ以上の威圧感を漂わせ女性は高圧的な言葉を連ねる。

 

 「アケミジン・ミナモ様、もはや残る可能性は、外以外にありません……」

 

 白服の一人が恐る恐る意見を出した。

 女性──ミナモは目を細め、黒服達を睨み付ける。

 

 「カヨウは、他の都市にいると?」

 

 「……否、この五日間で他都市に運航した輸送船を調べつくしましたが……」

 

 白服の一人は、何とか威圧感に気圧されぬように調査結果を述べる。

 

 「数はたった二隻……少なくとも衛兵の乗船確認で、お嬢様らしき人物は見かけておらぬと言います」

 

 ミナモは本格的に顔を嫌そうに歪めた。

 

 「……何が言いたいのです?」

 

 白服の一人は躊躇いながらも、しかし言えることはこれしかなかった。

 

 「……お嬢様は、恐らく地表の輸送船に乗ったのかと」

 

 ミナモは扇子を閉じた。 

 白服達の前に現された顔は、氷のように冷たく鋭い目つきであった。

 

 「カヨウは地表に降りたと……なぜ?」

 

 ミナモは鋭く威圧的な口調で聞いた。

 

 「何故あんな危険で薄汚い地表人共の暴れまわる、結晶と翠晶粒子(・・・・)に覆われた世界に降りるのですか?」

 

 はなっからその可能性が信じられないという顔で、アケミジン様は言葉を連ねる。

 

 「この都市ではアケミジン家の富や名声があるというのに……カヨウは何故地表に降りるという愚行をやらかすと?」

 

 白服達は黙っている。 確かにスカライズから降りるという馬鹿げたことする人なんていない……そんな答えがこの場を埋め尽くそうとした瞬間。

 

 「だが少なくとも、可能性として考慮するのも悪くなかろう」

 

 ミナモの隣に座る老年の男性が、今の推測を肯定した。

 

 「しかし、地表に送れる部隊なぞおるのかな?」

 

 老年の男性は顎に手をかけ白服達に聞いた。

 

 「……一部隊、地表に降り立っても優秀な成果を上げれる部隊を知っております」

 

 白服の戦闘に座る隊長格の男性が答えた。

 

 「地表の探索は彼女(・・)らに任せましょう」

 

 隊長格の男性は自信ある……そしてそれ以外の感情も多少交えて答えた。

 

 「ほう、楽しみにしておるぞ……これでよいかな、殿下」

 

 老年の男性は、隣で不機嫌そうに周りを見下すミナモに顔を向けた。

 

 「……まぁよい、早くカヨウを探し出せ」

 

 ミナモは扇子を広げ、前にはらった。

 白服達は深々と頭を下げ、全員立ち上がり退室した。

 

 「良き成果が上がるよう期待しましょう」

 

 老年の男性はミナモに話しかけ、あるいは呟くように言った。 

 

 「本当にどこへ行ったのだ、カヨウ……」

 

 ミナモは自らの長く淑やかな黒髪を撫でて呟く。 

 

 

 

 

 

 

 「はい、できたよ♪」

 

 空港の駐機場に着陸してあるアームドレイブンの隣。

 カヨウは椅子に座り、体を布で巻き、唯一出してる頭を後ろで鋏を持つグレイに託していた。

 

 「切られちゃった分に合わせて、程よく切っといたからね」

 

 グレイはカヨウの頭を優しくはたき残った髪を落とす。

 

 「あの……ありがとうございます。 わざわざ切って頂いて」

 

 カヨウは浮かない顔でお礼を言った。

 

 「いいですよ~、こういうケアが私の存在意義(・・・・・・)ですから♪」

 

 ニコニコした顔で、グレイは腕の袖を捲って入り込んだ髪の毛を落とす。

 その腕には切り傷や火傷跡などが、薄くも痛々しく残っていた。

 

 「ん~どうしたのです?」

 

 「あ、すみません……ジロジロ見てしまって」

 

 グレイは嫌な顔などせず、優しい笑顔でカヨウに巻いた布を取る。

 

 「大丈夫ですよアケヨさん、笑顔です笑顔♪」

 

 布を外され、立ち上がったカヨウにグレイは笑顔を向けた。

 自分の頬に薄く刻まれた傷跡さえ打ち消すような、満面の笑顔であった。

 

 「船に戻りますよ、皆にその可愛い顔を見せなきゃです!」

 

 

 

 アームドレイヴン内のロッカールームにて、ツキカゲはハンモックの上で寝そべりながら、ぼんやり天井を眺めていた。

 思い出すのは、買い物から帰った時のカヨウの状態。

 ボロボロに服、ざっくり切られた長い黒髪、泣きはらした目……

 そしてその手に握る自動拳銃……

 

 「……持った方がいいよな、そりゃあ」

 

 純粋無垢の優しい笑顔が、銃弾で粉々になる。

 今まで見た可憐な笑顔が崩れ去る。

 

 「……いつまで一緒にいればいいんだ?」

 

 あれから5日、任務内容の一つである"地表について教える"は……その身で分かっただろう。

 あとは帰らせる方法だ。 そこが一番問題であった。

 

 ──カードが……あの焼け跡の中!?──

 

 ──拐われた時に取られてしまって……今思い出しました……──

 

 オロオロ泣き出して狼狽えるカヨウの顔を思い出す。

 ツキカゲはそれを思い出しながらポケットからペンダントを出した。

 現時点で、カヨウがスカライズだと証明できるのは、この美しいペンダントのみであろう。

 

 「……なんなんだろうな、アイツ……俺も」

 

 ペンダントを優しく握り、そのままポケットに入れる。

 ハンモックから降り、ツキカゲはロッカールームを去ることにした。

 

 (アイツと話して、これからの任務をどうするか決めなきゃ……)

 

 カヨウが離れる。 

 あの笑顔が、天空へと帰る。

 

 (不自由なしの幸せな世界へ帰る……イイ結末じゃねぇか)

 

 そう思いながら扉を開け、待機室へと入った。

 

 「……あぁ、おいアケ──」

 

 入室した瞬間にツキカゲが目にしたのはカヨウであった。

 ザックリ乱暴に切られた髪は首元まで綺麗に揃えられ、それに合わせて横なども同じ長さに整えられていた。

 カヨウの髪型は程よくサッパリし、ちょこんと丸くなった髪は小動物的な可愛さになっていた。

 

 「ヨ……!?」

 

 「ツキカゲさん!……えと……」

 

 自分の両手を絡ませ、カヨウは顔を赤くしてツキカゲと向かい合う。

 

 「あぁ?……そうだな、まぁ──」

 

 「俺は今のアケヨちゃんがいいねぇ~」

 

 待機室に乗り込んだカーチスがカヨウを見て、いつもの怪しい笑顔で答える。

 

 「前のあのピッタリした長髪、あれさぁ正直地味に思ってたんだよねぇ~! 今の髪の方がサッパリしていい感じじゃねーか、可愛い顔もよく拝見できるしよぉ」

 

 カーチスは捲し立てながら椅子に座る。

 その後ろからサバイバとローも続いて乗り込んだ。

 

 「へ~中々可愛いじゃんアッキー!」

 

 「……ふーん」

 

 二人はそれぞれ似たような反応をした。

 カヨウは三人からの反応を受け止めながら、その短くなった髪を思わず抑えた。

 

 「ありゃぁ言い過ぎたかなぁ~? せっかくイイ散髪(・・・・)になったのによぉ。 なぁツキカゲ?」

 

 カヨウを見続けているツキカゲに、カーチスは言葉を投げる。

 ツキカゲはハッとしてカーチスに睨み顔を向けた。

 

 「……俺にどういう反応を期待してるんだ」

 

 「いやぁ別に~。 ただテメーが反応するだけで楽しいからさぁ♪」

 

 カーチスは人を小馬鹿にする笑顔で返答した。

 

 「……あぁそうだよ俺が髪を切らせたんだ、認めればいいんだろ」

 

 ツキカゲはカーチスにありったけの苛立ちをぶつけた。

 一瞬周囲の空気が冷える。

 

 「そうだよなぁ~グレイちゃんに切らせたんだ(・・・・・・・・・・)よなぁ~。 それでいいじゃねぇか」

 

 カーチスは受け止めながらも笑みを崩さず、すぐ側でこの空気に心配するグレイを肩に寄せた。

 

 「さっすがグレイちゃんだぜ。 お前の腕のおかげで、元々可愛い顔がこの髪型でより映えてるじゃねぇか」 

 

 照れ顔になったグレイから離れ、カーチスはカヨウに向き直った。

 

 「アケヨちゃんも可愛いぜ、長髪に拘る(・・・・・)ことなくさぁ」

 

 長髪の部分を強調し言いながら、カーチスは天井を展開してデスクを引き出した。

 ツキカゲはただその様子を睨みつけるのみであった。

 

 「アケヨちゃんの話はこのぐらいで。 さぁてっと、テメーらに当てる任務だ」

 

 カーチスは上着の懐から、依頼状数件をデスクの上に置いた。

 

 「今あるのはこのぐらい。 サバイバとローは好きに選びなぁ」

 

 サバイバとローは依頼状に目を通す。

 

 「ツキカゲ、テメーにお似合いの任務があるぜ~」

 

 カーチスは依頼状をツキカゲの座る席に向けて置いた。

 ツキカゲ、そしてサバイバやカヨウも、その依頼状を見た。

 

 [猫を一匹探してください]

 

 依頼状の任務内容欄にはそう書かれていた。

 

 「ん、ちょっと待てカーチス。 こんな小さい仕事がツキカゲ向き?」

 

 サバイバはその任務内容の、あまりの簡単さに思わず声を上げた。

 

 「あぁツキカゲがこなせそう(・・・・・・・・・・)な任務だからねぇ~、このぐらいなら成功するだろ」

 

 カーチスは嘲笑うような笑顔をツキカゲに向けた。

 

 「できるだろう甘ちゃん(・・・)よぉ」

 

 「……受けりゃいいんだろ」

 

 ツキカゲはカーチスを睨みつけたまま、依頼状を受け取った。

 

 「んじゃ、あとは好き勝手に行ってきなぁ~。 イイ結果待ってるぜぇ、はい解散!」

 

 カーチスはポン☆と手を叩いた。

 

 「俺はここでゆったり待ってるぜ。 あとは──」

 

 「あ、あの!」

 

 カヨウは勇気を出して声を上げた。 

 カーチスは笑顔のまま目を細める。

 

 「ツ、ツキカゲさんは優秀で強いです……な、なのでもっとツキカゲさんの能力に見合った仕事があるかと……」

 

 おずおずと俯きながらも、カヨウはツキカゲを弁護しようとする。

 

 「前回は私が勝手に彷徨いた故に、後ろから襲われ拐われただけです……ツキカゲは──」

 

 「部外者は黙っててくれないかなぁ」

 

 カーチスの鋭い一言でカヨウは黙ってしまった。

 

 「それにしても意外だなぁ~」

 

 カーチスはカヨウに目を向けた。

 

 「きちんと過ちに気づくとはねぇ(・・・・・・・・・・・・・・)

 

 カーチスの目を見て、カヨウはやっと気づいた。

 嘲笑いを浮かべたカーチスの目の奥は、目の前のものを破壊尽くしたそうなドス黒い感情で満ち溢れていた。

 

 (最初から……カーチスさんに、私は攻めらていた……!?)

 

 カヨウは思わず身を一歩引いた。

 

 カーチスはすぐさまカヨウから目を離した。

 一瞬見せた目の奥は、既に心の読めないものに戻っていた。

 

 「そうだそうだ、今度はアケヨちゃんを置いていこうか?」

 

 カーチスはツキカゲに提案した。

 

 「安心しな、一人ぼっちにはさせねぇよ。 俺が話し相手になってやらぁ(・・・・・・・・・・・・・)

 

 それを聞いてカヨウは身震いした。 別にカーチスが嫌なことが理由ではなかった(苦手ではあるが)

 何か……カーチスとずっと二人きりでいると、自分の何かが変わってしまいそうで怖いのだ。

 

 「あぁ……」

 

 ツキカゲはそんなカヨウと目が合った。 鋭く睨む目と、弱々しく怯え目。

 

 「……今度は目を離さなきゃいいんだろ? だったら俺が面倒見てやる」

 

 ツキカゲはカーチスに顔を戻し、鋭く言い放った。

 

 「……ペット探しに嬢ちゃんの面倒かぁ、抱えてるなぁ色々とよぉ~」

 

 カーチスは笑みを全く崩さず、それでいて一切感情を見せずツキカゲと向かい合う。

 

 「……場合によっちゃあ、自分を捨てること(・・・・・・・・)になるぜぇ。 気ぃつけな」

 

 カーチスは席を立った。 依頼状を選択したサバイバとロー、ツキカゲも席を立ちアームドレイヴンの外へ出る。

 

 「おい、アケヨ」

 

 俯くカヨウにツキカゲは手で招く。 カヨウは顔を上げた。

 

 「そういうことだ全部……とりあえず行くぞ」

 

 「は、はい!」

 

 

 

 

 

 

 "第三都市直轄管理下スカライズ警察統制区域、シー・バルバス"

 前回訪れた街よりも大きな都市。 大太刀のみを背負いサングラスを着けたツキカゲと、ジャケットのフードを被ったカヨウは任務遂行のために歩いていた。

 

 (任務内容は"数日前から姿を消したウチの所のネコを回収(・・)してきてほしい"、依頼者は"D・ヒゲドム──)

 

 ツキカゲはカヨウと距離を離れすぎたことに気がついた。

 

 「……おい、アケヨ?」

 

 「ツ、ツキカゲさん!」

 

 はぐれてしまう寸前で、カヨウは手を振り居場所を示しながらツキカゲに向かった。

 

 「すみません、道が入り組んでいて……」

 

 「たくっ、キョロキョロするな、行くぞ」

 

 そう言ってツキカゲは歩き続ける。

 

 「──前回と変わらずボロボロだろ、建物が高いか低いかの違いだけだ」

 

 ツキカゲはただ前を、全く舗装されていない道を歩く。

 

 「確かにそうですが……ですけど」

 

 カヨウは周りを見渡した。

 この都市は大勢の人で道溢れていた。 子供を連れて歩く母親、和気あいあいとしながら歩くグループ、店を開いて客を呼び掛ける店長……その他大勢の人達が都市でせわしなく動いていた。

 そんな人たちを、カヨウはフードに隠れた可憐な笑顔で眺めていた。

 

 「活気があって、皆元気そうにしていて──」

 

 ドガァァァァァァァァァン!!

 

 そう言った直後、遠くでから爆発音が響いた。

 けたましいサイレンが多数、同じく遠くで響く。

 周りの人は変わらず動き続けるか、あるいは隠れて様子をうかがうか、またあるいは面白そうだと遠くに向かって行った。

 

 「また銀行が何処か襲われたか……って!?」

 爆発に驚きよろけたカヨウをツキカゲが受け止めた。

 

 「……フアッ!? えぇと……ありがとうございます……」

 

 顔を赤らめ、カヨウは体勢を直してツキカゲに向かい合う。

 

 「……あぁ元気に溢れてるな。 強盗団やらマフィアやらの犯罪集団、あるいはそれらに雇われたエニマリーが元気に仕事していてな」

 

 ツキカゲは冷淡に言いながら、また歩き出した。

 カヨウもおずおずとツキカゲの後に続く。 先程までの笑顔は消え、怯えた感情しか見せなくなった。

 

 「け、警察部隊などは……助けてくれないんですか!?」

 

 カヨウは遠くで燃え上がる爆炎を見つめながら質問した。

 

 「さっき駆けつけただろう治安維持局か? アイツら大抵の犯罪は無視してるよ」 

 

 ツキカゲは通りすぎる武装車に目もくれず答える。

 

 「スカライズは……上から地表を眺める我々は!?」

 

 「更に上にいるスカライズなんか、最早虫けら以下にしか思ってねぇだろうな」

 

 ツキカゲは淡々と答えた。

 

 「誰も、守ってくれないのですか?」

 

 カヨウは、荒れた建物を眺めながら質問した。

 

 「……そうだな、守ってくれるのは己の腕だけだ」

 

 ツキカゲはカヨウに向き直った。

 

 「戦わなきゃ死ぬ、負ければ死ぬ。 地表はよ、普段からそうやって銃弾が飛び交う世界なんだよ」

 

 カヨウは困惑し怯えた顔を上げ、ツキカゲのこちらを向くツキカゲの眼を見つめた。

 ツキカゲのサングラスの奥の眼は、いつも同じく光がなく無感情であった。

 

 「平和なんてない、あるのは生きるか死ぬかしかない」

 

 ツキカゲは立ち止まり都市を──この地表を眺めた。

 

 「ここだけじゃない、外に出れば翠眼の猛獣が暴れまわってる、加えて結晶化の危険性すら世界中を覆ってる」

 

 カヨウはツキカゲを、ただ見つめることでしか反応できなかった。

 

 「どこへ行っても死の連続、生きたかったら戦うしかない」

 

 ツキカゲはカヨウ──否、カヨウの着ているジャケットの奥の自動拳銃を見つめた。

 

 「それを撃てば地表の住人だ。 一人殺せば地表人の仲間入りもできる」

 

 ツキカゲは振り返り、再び歩き出した。

 

 「殺せば……殺し尽くせればヤツらと同じになれる」

 

 その呟きをカヨウは聞き逃さなかった。

 

 (そう……でしょうか)

 

 カヨウはツキカゲの話を理解した。

 だけどツキカゲを見てると、何だか信じられないような気持ちも残っていた。

 銃弾が飛び交うというなら、ツキカゲのつけている武装は日本刀のみ。 今まで見た中でも、ツキカゲが銃器を持ったことは一度もなかった。

 そして人の生き死にが普段の世界と言ったツキカゲの表情は──

 

 (何故だか……悲しく、そして異質と捉える表情でした)

 

 ツキカゲのその異質でしかないような風貌を眺めながら、ふとカヨウは路地裏を眺めた。

 

 

 

 

 一方ツキカゲやカヨウより遠く、爆発があった建物の中から、数人の大柄な男がありったけの金を入れた袋を担いで、近くに停めてあったバンに乗り込んだ。

 

 「どんどん入れちまえぇぇぇ!!」

 

 「よし、車を出すぞ!!」

 

 バンは治安維持局の運転する武装車を振り切って逃げる。

 

 「今日も大量だぜぇぇぇ!!」

 

 「あれだけ金を貯めれば、しばらく遊ぶのに困らないぜぇぇぇ!!」

 

 「バッカヤロぉぉぉ!! チューンしたあとに、もっと暴れるんだよぉぉぉ!!」

 

 「あったまイイぃぃぃ!!」

 

 下らない会話を繰り広げながら、バンの扉を開けて男達は追ってくる武装車を確認する。

 

 『そこのギャング共! 停まらないとそのバンを──』

 

 「こうするってかぁぁぁ!!」

 

 男の一人が腕を前に出す。

 鉄製の腕が変形し、ハンドガトリングガンが前に出された。

 

 「俺たちからの、札束分のお礼だぁぁぁ!!」

 

 重量92.9㎏をシリンダーで支え、3本の銃身が回転しながらメテオリウム製弾丸を撃ちまくる。

 治安維持局の武装車数台は、かつての歴史で使われたAPDSと同じ威力の弾丸を撃ち込まれ呆気なく爆発した。

 

 「ざまぁねぇなぁぁぁ腐れ保安官!!」

 

 高笑いを響かせながらバンは走る。

 

 「ヒャッハハハハハ──!?」

 

 運転していたサイボーグ運転手は思わず高笑いを止めた。

 一瞬、何者かに見られた気がした。

 それはまるで、探していた獲物を捉えたような視線……

 好機と見て襲い掛かる獣の眼……

 

 「な、なんだったんだ……!?」

 

 ギャングはサイドミラーを見た。

 サイドミラーに写っているのはワゴン車一台。 かなりの速さでこちらに向かっている。

 

 「な、なんだ?」

 

 ワゴン車のハイルーフが開き、一人の人物が身を乗り出した。

 細い線の体躯に灰色のジャケットを着ており、一見貧相な肉体は一方で余計な力を入れていない獣のようであった。

 顔は真っ直ぐバンを捉えている。 ショートヘアの頭にバンダナを巻き、口には牙を模したマスクを着けていた。

 眼はバイザーに隠れて見えないが、その視線は真っ直ぐこちらを狙っていた。

 

 「──?」

 

 出て数秒経った瞬間、人物の背中から突然ライフルの銃口が起き上がり、上げた手にはトリガーが握られていた。

 

 「なぁぁぁ!?」

 

 起き上がったスナイパーライフルの銃口を前に向け、人物は呟いた。

 

 「Hunting(狩り)start(開始)

 

 直後、バンの荷台から顔を出していたサイボーグギャングの眉間に穴が空いた。

 

 

 「イエーイ、まず一人!」

 

 ワゴン車を運転しているサバイバが口を吹いた。

 後ろの座席、上半身を出しているローは反応することなく展開式長距離狙撃銃"Coil up snake"の引き金を引く。

 

 「いやぁ、アジトを探している途中で出くわすったぁ運が良いぜ!」

 

 「射的場所、探す準備、不必要」

 

 「車に乗りながら狙撃できるからなぁローは~。 とりあえず依頼状に載ってる人数分の野郎を、全員撃って一件落着だ!」

 

 「タイヤ、狙いにくい、直接、止めたい、右回り」

 

 怒り声を響かせ、前からハンドガトリングガンの弾丸が襲い掛かる。 サバイバはハンドルを回して右側の道路にに避ける

 

 「あぁ了解……って、この弾丸嵐の中を、もっと近づけってか!?」

 

 「GO(行け)

 

 「うっわぁ危ねぇ頼みだなオイ!」

 

 ハンドガトリングガンの届かない死角を回り込もうとした時、前から弾丸と共に爆弾が降ってきた。

 

 

 ドガアアアアン!!

 

 バンの後ろで爆弾が爆発し炎を上げた。

 その中にサイボーグギャング達は次々と弾丸を撃ち込んだ。

 

 「ヒャハハハ!! これだけ撃ち込めば──」

 

 サイドミラーを覗いた運転手の視界の脇にワゴン車が写り込んだ。

 ワゴン車はバンの前の道をふさいだ。

 ハイルーフに身を乗り出す人物──ローは右手に"Coil up snake"構え、左手のMt・Hg"ベレッタM92"は運転席に向けられていた。

 その顔、バイザーの奥の眼は翠色に輝いていた。

 サイボーグ運転手が気づいた瞬間には、その顔には既に風穴が空けられていた。

 サイボーグ運転手を失ったバンはスリップし、タイヤを撃ち込まれていたことで前に盛大に転げ出した。

 

 「Nice shot、ロー」

 

 爆弾を撃って宙で爆発させ、前に回る寸前にタイヤを撃ち抜き、続けざまにサイボーグ運転手を撃ち抜いたローに、サバイバは称賛の言葉を送った。

 そんな言葉を送りながら、サバイバはハンドルを回してブレーキを踏み、ワゴン車を横にして停車した。

 

 「つーことで、あと宜しく頼むぜ……俺はもうダメのようだ……」

 

 素早く降りたサバイバは、ワゴン車を盾にして身を隠した。

 同じくローもワゴン車から降りた。

 

 「……車使えない、サバイバ、役立たず」

 

 「う、うるせぇぇぇ!」

 

 ワゴン車に弾丸が次々と撃ち込まれ、爆発した。

 

 

 

 

 (あぁたくっ、最初からそうやって話せば良かったよなぁ)

 

 ツキカゲは歩きながらそう考えた。

 

 (それだけ教えりゃ楽だったな……襲われもしなかっただろう) 「……さん」

 

 ツキカゲは上を向いた。 曇った空は日の光、そして雲の上の存在を見せない。

 

 (殺して生きる世界……か) 「ツキカゲさん」

 

 ツキカゲの表情は変わらず、だが内面は渦巻いていた。

 

 (……コイツを世間知らずというなら、俺は──ん?」

 

 「ツキカゲさん、こっちです」

 

 ツキカゲは思考を一旦止めて振り返った。

 恐らく先程からだろう、カヨウが路地裏の前にしゃがみこんで、ツキカゲを小声で呼んでいた。

 

 「あぁ、どうした?」

 

 ツキカゲも静かに──普段の任務(・・・・・)で使う忍び足で──周囲に気づかれないようにカヨウの側に移動した。

 カヨウは路地裏を指差していた──否、正確には路地裏のゴミ箱の上で丸くなっている生物を指差していた。

 

 「ニャア~」

 

 それは小柄な四足歩行型の生物であり、可愛く転がっていた。 シマ模様であり、白い体に灰色の縦線が刻まれていた。 

 

 「……まさか?」

 

 ツキカゲは依頼状に添付された写真を見た。

 モノクロで撮られた写真には一匹のネコが写っていた。

 ツキカゲは目の前のネコと、写真のネコを見比べてみた。

 幾らか大きくなっているものも、体躯に模様と全部を見ても両者はそっくりだった。

 

 「おぉ……よく見つけたな」

 

 ツキカゲはカヨウに一声かけた。 カヨウの顔に照れた笑顔が浮かんだ。

 

 「ニャア……シャアアアア!!」

 

 ネコは人の気配に気づいて路地裏の道に着陸し、目の前で驚いているカヨウと、鞘を構えたツキカゲを威嚇した。

 

 「……チッ、そういうことか……!」

 

 威嚇し、眼を見開くネコの眼は翠色に光っていた。 爪や牙もも同様に、鋭く翠色に灯っていた。

 

 「翠晶眼のネコってことかよ……何がお似合いだよ、カーチス!」

 

 ツキカゲはベルトのホルスターから筒状の物を取り出した。

 これをさっさと撃つべきか……あるいは、変異能をもつことを考慮して最悪抜刀するか──

 ツキカゲが状況を分析し対応しようとした時だった。

 

 「ごめんなさい! 攻撃するつもりはないんです……」

 

 カヨウが謝りながら、ネコに手を広げて抗戦の意が無いことを示した。 

 

 「だ、大丈夫です、痛くさせるつもりはありません」

 

 攻撃(攻撃ではないが)されたため用心し威嚇するネコに対して、カヨウは優しい笑顔で片手をさしのべた。 

 

 「あ、あとこれですネコさん」

 

 カヨウはジャケットの懐から缶ヅメを取り出した。

 

 「グレイさんから貰った、魚の缶ヅメというネコさんの好物らしいですよ~」

 

 缶ヅメを片手に持ったまま……カヨウは困り顔でツキカゲに顔を向けた。

 

 「これは……どうやって開けるのでしょうか?」

 

 「あぁ……ちょっと貸せ」

 

 カヨウは缶ヅメをツキカゲに手渡した。

 ツキカゲは受け取った缶ヅメを上に投げ、大太刀を抜刀し振った。

 そのまま大太刀を納刀した瞬間、キャッチした缶ヅメの蓋部分が綺麗に切り取られた。

 

 「おい、餌だ」

 

 ツキカゲもしゃがみこみ、魚の臭いを漂わせネコをおびき寄せようとした。

 

 「シャア!……シャア!……シャア?」

 

 威嚇しながら、ネコは魚の臭いをかいで少し大人しくなった。

 

 「シャア……シャア……」

 

 ネコはツキカゲの鋭い雰囲気を感じて近づかない。

 

 「やっぱりお前が持っとけ、この缶ヅメ」

 

 ツキカゲはカヨウに缶ヅメを手渡した。

 

 「ほらほら、魚の缶ヅメですよ~」

 

 ネコはカヨウの顔を見た。

 恐る恐る接するが、その顔に異端なものを見るような目はなかった。

 その目は少し、ツキカゲに向けられていた。 ツキカゲは鞘を構えたまま動かない。

 

 「だ、大丈夫ですよ~」

 

 ネコは恐る恐る、優しい声といい匂いに釣られそうになった。

 

 「痛くさせるつもりはありません。 ただ、持ち主の元へ……」

 

 「フニャアアアアア!!」

 

 少し近づいたネコは、"持ち主"と言った瞬間より大きな鳴き声を上げて逃げ出した。

 

 「チッ待ちやがれ!」

 

 そう言ってツキカゲは立ち上がり、ベルトのホルスターから取り出した筒状の物を、背中に背負った大太刀の鞘に装填した。

 装填した瞬間、大太刀の鞘を前にせり出し照準機を展開した。

 ツキカゲは鞘の横に展開されたトリガーを引いた。

 引いた直後、鞘の先端部から筒状物が発射され、宙でそれは捕獲用ネットに開いた。

 捕獲用ネットは直線に飛び、ネコの足を絡め捕ろうとした。

 

 「ギニャアアアア!!」

 

 足を絡め捕られた瞬間、ネコは捕獲用ネットを爪で切り裂いた。

 

 「あわわ!?」

 

 「あぁ!?」

 

 「シャアアアアアア!」

 

 ツキカゲは次弾を装填した鞘を構えながら考えあぐねた。

 通常眼(ノーマル)の熊ですら捕獲できるこのネットを切られたのだ、再度撃ったとしても再度ネットを切られる……

 

 「チッ、とりあえず行くぞ!」

 

 路地裏の奥に逃げ込んだネコを追ってツキカゲは鞘を戻して追いかけた。

 カヨウは変形した鞘に──そしてツキカゲが飛び道具を使うことに思わず驚いたが、すぐにツキカゲの後を追った。

 路地裏を曲がった所にネコはいなかった。 ツキカゲは上に顔を向けた。

 ネコは路地裏の塀に上り、そして近くの階段の手摺に飛んで上に上がっていた。

 

 「ネ、ネコが上に!」

 

 カヨウは階段の手摺を登って上がるネコを眺めて言った。 ネコはとんでもない速さで上がり、屋上に登りきる寸前だった。

 

 「ちょっと待ってろ──いや、面倒くせぇな」

 

 突然ツキカゲはカヨウを片手で抱き、荷物のように担ぎ出した。

 

 「キャッ!? ツキカゲさん!?」

 

 「あまり動くんじゃねぇぞ」

 

 ツキカゲはそのまま壁を次々と蹴って、ネコと同等の速さで上に登った。

 

 「フニャーーー!?」

 

 カヨウは叫び出す。 叫び終わった時には既に屋上にいた。

 

 「見つけたぞ、ネコ野郎」

 

 「シャアアアアッ!!」

 

 構えるツキカゲと、同じく威嚇するネコが向き合う。

 両者の眼は翠色に、両者を見つめあっていた。

 

 「アワワ……」

 

 驚きと恥ずかしさで顔を赤くしているカヨウは、そんな両者をただ傍観していた。

 ツキカゲとカヨウのネコ捕獲は始まったばかりであった。

 

 

 

 

 ツキカゲとカヨウが入り込んだ路地裏の前、全員や珍しいものを見ているという住民の中を、数名の白服めいた軍服コートを着た集団が通った。

 

 「なんなんだここは……薄汚い匂いだ」

 

 先頭の若いながらも、厳しい表情をした金髪女性が口元を抑える。

 

 「少しだけしか滞在しない場所ですよ、耐えましょうね」

 

 その隣の、青っぽい髪で眼鏡をかけた女性が苦笑いをしながら言った。

 

 「そもそも我々がここにいること自体間違えておるのだ……早くお嬢様(・・・)を探し出さねばな」

 

 そう言って、リーダー格の女性は手を広げて群衆の前に名乗りだしす。

 

 「我が名はエイリーン・ソウマ! 我らはスカライズ警察3番隊! これよりこの都市を調べ尽くす!」

 

 

 

 

 




 いかがだったでしょうか。

 今回は、感想欄やメールでよく説明不足と指摘される故に、世界観の説明について注意して書いてみました……
 結果はボロボロ、また分からない単語やらを出してしまったことには申し訳ない気持ちです。 なんと言いますか、世界観説明の回は早くて11話以降になってしまいそうです……一応説明できる余裕あれば説明をねじ込もうとしてはいます。

 キャラも文字も多くなったため、今度もまた投稿速度はスロウリィになりそうです……
 あと、説明不足の解消方法として、設定集などの投稿も予定しております。
 設定の書き方についてアドバイスあれば、感想欄やメールなどで送っていただければ助かります。

 では、ツキカゲ&アケヨとネコ(名前確定済)の追いかけっこ、続きを楽しみにしていてください。


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