メテオリウム─翠晶眼の傭兵─   作:影迷彩

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 投稿日付を確認して一言「……俺に速さが足りてる!?」

 最近遅かった反動か、たったの4日(しかも書き始めたのは一昨日)で投稿できたのは私自身驚きです。
 仕事が一段落したとはいえ、情熱思そ(略)そして何よりも速さが足りず基本遅筆な私が、どうしてこんな速く投稿できたか私自身分かりません……

 世界観をより細かく描写できたのが楽しかったのか……徐々に増えるUAやお気に入り数に感動したか……

 先に言いますが今回は血なまぐさいです。 今までより細かく描写した分ダーティーな雰囲気になったかもしれません。 あるいは技術不足でチープな出来映えか……

 それでも読みたい世界があるんだぁー!といって読んでくれたなら、その雰囲気に慣れず辛いところもあった執筆の甲斐があります……


──怒れる戦闘鬼──

 "第3都市管理下九番街自治法下区域、エル・ゼパルス"

 

 その路地裏からサバイバとローは出て、近くに置いていたスポーツタイプのレンタカーに乗った。 

 

 「怖いわ……こんな可憐な女性に目をつけるなんて」

 

 サバイバは両腕で自身の豊満な胸を抱き、甘い声を出した。

 その片手にはサプレッサーを取り付けたMt・Hg"M1911"を握っていた。

 

 「奴ら、目のつけどころ最悪、このガサツ女」

 

 対してローはいつにも増して冷ややかにサバイバを見つめた。

 

 「あぁたくっ分かってるよ! ちっとも俺に似合わねぇ役だぜ……」

 

 一瞬にして素をさらけ出したサバイバはハンドルに手をかけた。

 隣に座っているローはサプレッサー付きのMt・Hg"ベレッタM92"を握り、背中には収納状態に変形させた狙撃銃"Coil up snake"を背負っていた。。

 

 「だけど口説かれるぐらいには可愛いってことじゃん? アイツらにされても嬉しかねーが」

 

 そう言ってサバイバはレンタカーの後ろの路地裏にMt・Hg"M1911"を向けた。

 路地裏には倒れている男性が数人。 全員、息はしていない。

 

 「見る目なし、口説きに戦闘、ただの素人」

 

 無感情に路地裏を無視し、前を見つめるローの眼には色がない。

 

 「翠晶眼(お前ら)から見たら、人間の戦闘は素人だろう……そんなに俺って美人じゃないかい」

 

 サバイバはMt・Hg"M1911"をダッシュボードにしまい、地図を出してハンドルにかけた。

 

 「処理、どうする?」

 

 「依頼人からやってくれるだろうさ」

 

 ローはポーチから依頼状を出した。

 

 「まぁこんな依頼出したんだ、今ごろ目をつけられてズドンだな」

 

 「後ろに組織、報酬受け取れる」

 

 サバイバを地図を確かめ、周辺のルートを確かめた。 

 既に路地裏への興味をなくしていた。 

 

 「それにしても自分らのシマなんだろ? 自分らで何とかすりゃあいいのに」

 

 「近年弱体化、だからつけ込まれる、反撃できない」

 

  淡々と依頼状を読みながらローは会話する。

 

 「武装している、捨てゴマにできる、エニマリー(私達)、適任」

 

 レンタカーを走らせながらサバイバは愚痴を言った。

 

 「そりゃエニマリーには住民票や戸籍が無いからなぁ。 ここを出れば幾ら殺そうが裁けねぇし、死んでも後腐れがねぇ……」

 

 エニマリー(何でもする傭兵)は基本的には自由に活動が許される。

 だがその一方で特定の町に住むことはまずない。

 

 「だから便利、基本的、扱いやすい」

 

 「まぁ依頼してきた組織の事情はどうでもいいや。 こういうのに文句を言うのアイツ(・・・)ぐらいだろうし……」

 

 サバイバはアクセルを踏み、レンタカーを走らせた。

 

 「とりあえず、絡まれついでに聞き込んで(・・・・・)アジトが分かったんだ、さっさと帰って酒飲んで風呂入ろうぜぇぇぇ!」 

 

 「賛成、GO」

 

 そして走り出したレンタカーは、前から突然飛び出した、如何にも悪そうな人相の男性と衝突した。

 停止が間に合わず、男性はそのまま吹っ飛ばされ、レンタカーの前へと転げ落ちた。

 

 「グワッ!?……おいお前! ちゃんと右左見て道に出ろ! 危ねぇだ──ん?」

 

 男性は衝突と関係ない傷を負っていた。

 まるで長大な刃物に斬られたような傷であった。

 

 「グハッ……トウヨウガタ・ソード……ガキ……」

 

 男性はそう言い残し、意識を失った。

 それを聞いたサバイバとローは顔を見合わせる。

 

 「……なぁロー、トウヨウガタ・ソードを使うガキ、知ってる範疇で何人だ?」

 

 「1人、バカのみ」

 

 「……なぁにしてんだアイツ!?」

 

 サバイバは倒れた男性を避けながらレンタカーを走らせた。

 

 「たくっ嫌な予感しかしねぇぞ……!」

 

 「あのバカ、またトラブル起こした」

 

 「まさかアッキー絡みか……たくっ!」

 

 悪態をつく2人を乗せて、レンタカーは討伐対象へと向かっていた。

 

 

 

 (チッ、どうしてこうなった……!)

 

 ツキカゲは走っていた。 彼はある場所を探していた。

 カヨウが囚われてるらしき場所を。 先程から話しかけられた(絡まれた)時に質問(・・)しても、明確な答えが見つからない。

 

 (危なくなったらここに入ればいい? あの平和ボケした女にそんな判断ができるか!)

 

 ──ツキカゲさん達は優しいです。 そんな人と買い物ができて嬉しいです──

 

 (何が優しいだクソっ!)

 

 可憐で純粋無垢な優しい笑顔が、ツキカゲの頭にちらつく。

 ツキカゲにとって、それは初めて見る笑顔であった。

 

 ボロボロになり、渇いた笑顔。

 苦痛から逃れる為に無理矢理作る笑顔。

 恐怖から道化を演じる笑顔。

 

 (ハーハッハッハ! 笑えよツキカゲ、最高じゃないかぁ、この光景よぉ!!)

 全てをバカにし、破壊を楽しみに向かう嘲笑顔。

 

 「黙れよテメぇぇぇー!」

 

 ブブブ! ブブブ!

 

 ポケットに入れた通信端末が鳴った。 任務以外で使うタイプのものである。

 サバイバ呼び出し用に使うそれをツキカゲは取り出して開く。

 

 「なんだサバイバ? 今忙──」

 

 『町外れ、北東の空き住宅地……Badass(荒くね者共)の巣窟ってのが正しいか。 そこでこれから無許可の人身売買グループ"ラウズロ一味"を討伐する』

 

 通信開始ざまに、サバイバは用件をまくし立てた。

 

 「アンタ何言って──」

 

 『アッキーどうした?』

 

 「──!?」

 

 『その反応当たりだな。 俺達の任務に付き合えば後で探すの手伝うぜ──いや案外、討伐対象にいるかもな』

 

 ツキカゲは顔をしかめた。ツキカゲは基本的に誰かの助けを受け入れないからだ。 

 

 『説教は後。だがこれだけは言わせてくれ……。何してんだぁ!! このバカが!!!』

 

 サバイバの大きな怒声に、隣にいたローが思わず身を縮めた。

 通信端末越しに怒鳴られたツキカゲは、歯を食い縛り己に憤る。

 

 

 『よし! とりあえず撃つから、それ追ってこいツッキー!!』

 

 ツキカゲは路地裏に入る。

 入った瞬間、路地裏の壁を次々に蹴りあげ建物を上った。

 

 パァァァンッ!

 

 屋根に蹴り上がった瞬間、近くで銃声が鳴った。

 ツキカゲは屋根の上を駆け、屋根へ屋根へと飛び、銃声の鳴った方向へ向かった。

 

 任務が出来なきゃ、ただの役立たず。カヨウには、俺の求める報酬を与えることが出来る。

 だから、何がなんでも、アイツから離れてはいけなかったんだ。

 

 ツキカゲの眼は、昂る感情と呼応し燃えるように翠色に灯った。

 

 

 

 レンタカーは走る。

 大通りを、隙間ギリギリの路地裏を。

 基本は最高速度、路地裏ではギリギリ通れるぐらいの速さ、曲がる寸前にハンドルを切ってドリフトし目的地へとレンタカーは向かう。

 

 「アウッ!……心地最悪、遅め頼む」

 

 「アッキーがいるかもなんだぜ、遅く走ってられっか!!」

 

 最短ルート突き進み、ものの数分で目的地の目の前まで来た。

 

 「所要時間10分、制圧を開始しな!」

 

 サバイバは片手に持った通信端末を顔に掲げ、近くの建物の屋根を駆けるツキカゲに命じた。

 

 『……了解』

 

 

 

 

 

 「先ほどの銃声は……ボス?」

 

 「気にするんじゃねぇよ、俺らに楯突くバカ共はもういない」

 

 かつてはパブであった古い廃屋、そんな外観に似合わず悪趣味な色合いのインテリアをした室内。

 8人の体格のよい側近に囲まれた真ん中のデスクには、ジャラジャラした悪趣味な飾りを着けた男性が座っていた。

 

 「ボス、持ってきました」

 

 側近の1人が入り、デスクに袋を置いた。

 それは1個のボールほどの大きさであった。

 

 「そして楯突いた奴はこうなる。 これから来るであろうエニマリーも同様にな」

 

 ボス──ラウズロは袋に唾を吐いた。

 

 「捨ててこい、邪魔くっさい」

 

 袋を持ち側近が部屋を出た。

 

 「武器も買い占め、商品もこれだある。 当分はこの町で好き勝手に出来るだろうよ」

 

 そう言って目の前の大きな窓を眺めながら、ラウズロは手に持った鎖をジャラジャラと揺らした。

 鎖に繋がれているには首輪を着けられた数人の女性。 いずれも目は虚ろであった。

 

 「ムグッ……ムグッ……」

 

 その反対には両手両足を後ろに縛られ、口も縄で縛られたカヨウが床に倒されていた。

 ラウズロはカヨウの長く淑やかな髪を引っ張って卑しい顔を近づけた。

 

 「それにしてもいいの拾ってきたじゃねぇか! そこらの臭い女と違ってイイ髪の匂いするしよ!」

 

 そう言って鎖を引っ張り、売買予定の女性達は床を引きずられた。

 それらを含めて、側近達も下品な笑みを浮かべた。

 

 「ムグッ!ムググッ!」

 

 カヨウは必死に顔を反らそうともがく。

 

 「大丈夫だよ~一時間も遊べばすぐ売り出すよ~可愛く上玉ぽい嬢ちゃん~」

 

 カヨウの顔は涙でグシャグシャに濡れていた。

 

 「ムググググぅーーーッ!!」

 

 「いいねいいね!見るからに処女臭く、楽しみがいがある泣き顔だ─」

 

 ラウズロはカヨウの髪を押し、床に転がせた。

 

 「もっと嗅ぎたいな……オラよ!」

 

 ザクリと、ラウズロはバタフライナイフを振った。

 握られた髪が切られ、カヨウの後頭部や背中に髪が降り注ぐ。

 

 「この匂いで味付けして、ゆっくり楽しんでやるぜぇぇぇ!!」

 

 

 

 

 

 

 パリィィィィン!!

 

 窓ガラスが割れ、飛んできた一本の太刀が窓の近くにいた側近2人の足に突き刺さった。

 飛来してきた太刀は二本ともくだけ散った。

 

 「グワァァァッ!?」

 

 「1人、2人」

 

 直後に飛来してきた、翠色の蒸気のようなものを吹き出している人物が、側近2人を蹴りあげ壁にぶっ飛ばした。

 人物の腰にはもう2本納刀しており、サングラスを真っ直ぐ前に見据え、全身から放たれる雰囲気は得物のように鋭い戦意、そして怒りに満ちていた。

 

 「……テメー何者だ? どこの(グループ)の者だ? 目的はなんだオラァ!」

 

 ラウズロは起き上がり、Mt・Hg"USSR マカロフ"の銃口を向けた。

 

 「ツキカゲ、所属はクランチェイン、依頼人の奪還」

 

 ツキカゲの周りの蒸気が消え、淡々とした鋭さのみが残った。

 

 「ツ、ツキカゲ!? クランチェインの、あの"噛み砕き屋(クランチャー)"、"戦闘鬼(バトルオーガ)"……!?」

 

 側近の1人が、恐怖に満ちた声で呟いた。 

 

 「戦闘鬼だか何だか知らねぇが──」

 

 

 「残り6人以上か……制圧開始」

 

 

 「う、撃てぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 両者が口を開いた途端、室内は戦場となった。

 1つのグループ 対 1人の少年

 

 (ツキカゲさん!?)

 

 側近達のMt・Hg"USSR マカロフ"から、翠色の銃弾が放たれツキカゲを襲おうとする。

 一瞬姿が揺らいだかと思うと、一番近くにいた側近1人の懐にツキカゲは入り込んでいた。

 側近が対応しようとした瞬間には、抜刀した太刀によって側近の体は切り裂かれていた。

 

 「3人」

 

 側近を蹴りあげ、手から離れたMt・Hg"USSR マカロフ"を斬った直後に再度翠色の銃弾が襲いかかる。

 それらを壁を走って避け、壁を蹴りあげて2人の側近の懐に入り込んだ。

 横一文字に流れた刀身は、側近2人をMt・Hg"USSR マカロフ"ごと両断した。

 

 「4人5人」

 

 ツキカゲは倒した側近の後ろに置いてあった黒塗りのソファーを蹴りあげた。

 蹴りあげた向こう、突っ立った側近2人は驚いてMt・Hg"USSR マカロフ"を撃った。

 

 「ムグッ……!」

 

 テーブルの下に倒れていたカヨウは、テーブルの上を駆けるツキカゲを目にした。

 翠色の銃弾は中々ツキカゲに当たらない。 ツキカゲの周りを飛び交うかのように振り回される太刀に阻まれるか、ツキカゲの読めない足さばきに翻弄されて照準が定まらないかのどちらかであった。

 

 「アクセル」

 

 羽毛を撒き散らして突き抜けた翠色の銃弾ごとソファーを一文字に斬り、ツキカゲはそれを通って側近2人の首筋近くをMt・Hg"USSR マカロフ"ごと切り裂いた。

 その動きは、常人にはまず追えなかった。

 

 「6人、7人」

 

 壁を蹴りあげ着地するツキカゲ。 放り投げた太刀は砕け散った。

 側近が倒れる直前、側近2人の腰に納刀されていた太刀を二本ごと引き抜いた。

 

 パァァァァンッ!

 

 銃弾でツキカゲのサングラスが吹き飛んだ。

 

 「……チッ」

 

 銃弾の放たれた方向へツキカゲは振り向いた。 

 その眼は翠色に、燃えるように爛々と輝いていた。

 

 「え、翠晶眼(エメリスタリー)!!」

 

 叫んだ瞬間に、懐に入り込まれた側近は斬り裂かれて倒れた。

 

 「8人……コレで全員か?」

 

 翠色の刀身の一本を下に構え、もう一本は目の前のソファーに向けられた。

 

 「いやまだなんだなぁぁぁ!」

 

 ソファーに隠れてラウズロの声が聞こえた。

 ドダダと扉から、Mt・TSmg"M1928A1"を持って更に側近が4人入り込み、盾のようにラウズロの前に並んだ。

 

 「殺せぇぇぇぇぇ!!」

 

 ツキカゲに向かってMt・TSmg"M1928A1"が1秒五発のメテオリウム製フルオート射撃を食らわせる。

 

 「アクセル」

 

 ツキカゲは銃弾を跳んで避けた。

 そのまま天井を蹴りあげ、ツキカゲは側近達に接近した。

 そしてMt・TSmg"M1928A1"の銃身が天井に持ち上げられる瞬間、着地する寸前に二振りの太刀でマガジンや指ごと斬り落とした。

 

 「「「「グワァァァァァァァァァ!?」」」」

 

 「クラップス」

 

 二本の太刀は砕け、投げ捨てられた。

 直後に隙ができた側近1人の腹を蹴り飛ばし、その側近が納刀していた太刀を抜き取り、その翠色の刀身を横一文字に流した。 

 側近3人が胴体を切り裂かれて倒れた。 蹴り飛ばされてインテリアにぶつかった側近も腹を抱えて、血を吐きながら踞る。

 

 「12人……あとは1人か?」

 

 「近寄るなぁ!」

 

 ラウズロはMt・Hg"USSR マカロフ"を構えた。

 銃口は、首を絞められ持ち上げられてるカヨウに向けられた。

 

 「ムグッ……」

 

 髪を乱暴に切られた顔は涙でボロボロになり、目は虚ろ寸前であった。

 完全に奴隷の目になるには、目の前のツキカゲが消えることのみであった。

 

 「近づいたら、この女を撃ちころしちゃる!」

 

 そう言った瞬間、ラウズロの顔スレスレに太刀が飛び、壁に突き刺さった。

 ビクッとしたラウズロ、一瞬にしては激昂した。

 

 「コイツの命は、俺が握ってるんだぞぉぉぉぉ!!」

 

 ツキカゲはただ、爛々と輝く翠の眼を前に向けるのみ。

 カヨウとツキカゲの距離は約5m。

 

 「お互い様だ。 アンタの命もこの切っ先だ」

 

 ツキカゲは鞘を持ち、柄を前に向けた。

 カヨウはその構えに、全てを託していた。

 

 「テメー何様だ─」

 

 鞘の内部の薬莢が爆発し、柄を前に飛び出させた。

 高速で押し出された柄はラウズロの顔面に当たり、鼻と歯と顎を砕いた。

 

 「ポゲバッ!?」

 

 「アクセル・クラップス(崩壊よ、加速しろ)

 

 ラウズロはカヨウを離し、その手で壊れた顔を抑えた。

 咄嗟に片手に持ったMt・Hg"USSR マカロフ"を前に向け引き金を引いた。

 ラウズロが顔に手を当てた瞬間、ツキカゲは翠色の銃弾を避け懐に入り込んでいた。

 飛び出した柄を握り、縦一文字にラウズロを斬り裂いた。

 

 「フパッ!?」

 

 「俺は……バケモノ様だよ」

 

 そのままツキカゲはラウズロを蹴り倒し、その能力で砕け散った太刀の代わりに、壁に突き刺さった太刀を引き抜いた。

 そしてもう片方の手で、放されたカヨウのジャケットフードを持った。

 

 「……選択させてやる」

 

 引き抜いた太刀を構え、ラウズロの片手に突き刺した。

 

 「フガァァァァァーッ!!」

 

 「──2分以内にここから出て、街を立ち去れ。 あるいは死ぬぞ」

 

 冷淡な、死神が出すような声でツキカゲは選択肢を掲げた。

 壊れた銃器と呻き声に満ちた室内の中で、その選択は唯一の助けであった。

 それを聞いた瞬間、数人の側近は流れ出る血と斬り傷の激痛を抑えながら、我先にと外へ飛び出した。

 

 「あと1分だ」

 

 ツキカゲは既に気絶したカヨウを担ぎ、窓に向かって走った。

 残された数人の側近とラウズロは、ただひたすら罵りるのみであった。

 

 「フガァァァァァーッ! ヒねぇフソハキ(死ねぇクソガキ)! ヘエフタリーほハヘモノ(翠晶眼の化物)! ホボエヘロ(覚えてろ)! ヘエーほ(テメーの)ほのハオハナハズ(その顔必ず)──」

 

 

 

 ツキカゲが廃屋の下で待ち構えていたレンタカーの屋根に着地し、すぐさま中の座席に乗り込んだ。

 それと同時にローが、上の室内にそれ(・・)を投げ込んだ。

 

 「ほんじゃあ走るぜ!」

 

 レンタカーが走り出した。

 その途端、廃屋が爆発した。 手榴弾による上の爆発から始まり、下のフロアも爆発しだし、廃屋は炎と共に崩れ去った。

 

 「いやぁ楽だったぜ! 上に注意取られている隙に、これだけ盗んで設置できたからな」

 

 サバイバはサイドミラーで廃屋だったものを眺めながら言った。

 

 「邪魔物はローで十分な数だったし、ツキカゲのおかげで想像以上に楽な仕事だったぜ!」

 

 ツキカゲは後ろを眺めた。

 隣ではカヨウが目を閉じたままだった。

 

 「……出た数は11人、多分商品が7人とボロボロの売人が4人」

 

 「……あっそうか」

 

 「……お前の戦闘、無駄にさせてすまん」

 

 「逃げなかったアイツらが悪い。 見た数の商品は全員逃げたらしいしな」

 

 サバイバは呆れたように、後ろのツキカゲをバックミラーで見た。

 

 「まぁお前の戦闘は理解できんからな。 "ムサシ"や"ヤギュウ"のみで戦うだけならまだしもさ……なぁ"戦闘鬼"、ただし実戦は──」

 

 サバイバは出来るだけ非難せず、ただ呆れるような感じに言い放つ。

 

 「俺は強い。 だったら文句ねぇだろ」

 

 それに対し、ツキカゲは淡々と、だが鋭く返した。

 

 「……まぁ強いんだったらいいぜ、それより買い物はどーした?」

 

 「……」

 

 「たくっ、戦闘鬼が聞いて呆れるぜ……ほいよ」

 

 サバイバは懐から金を出し、後ろに手で渡す。

 

 「ツッキー助太刀の分、これで幾らか買っとけ」

 

 ツキカゲは金をただ見つめるのみであった。

 

 「さっさと貰え、あとでカーチスのネコババ頂く。 それに──」

 

 ローがポーチからジャラジャラしたアクセサリーを出した。

 

 「これで幾らか元が取れるしよ♪」

 

 サバイバが悪い笑顔をした。

 空き住宅地から離れ、レンタカーは停車する。

 

 「アッキーは俺らが面倒見るからよ、さっさと買って行きなツッキー♪」

 

 既に責めるような顔をせず、サバイバはウィンクした。

 ツキカゲは下車し、車は走り去る。

 曇り空からオレンジ色の光を漏れだし、時刻が夕刻を教えていた。

 

 「……戦闘鬼だ、俺は……」

 

 鞘を掲げ、ツキカゲは呟く。

 無表情に、その眼も光を無くし何も表さない。

 

 「強ければいいだろ……師匠……」

 

 頭にちらついたのは、快活に笑う晴れ空のような笑顔──

 

 「強ければ……強いなら、その笑顔なんていらないよな」

 

 

 

 

 

 「ツキカゲ……さん?」

 

 レンタカーの中で、カヨウは目を覚ました。

 

 「お、目を覚ましたかアッキー」

 

 バックミラー越しにサバイバと目が合った。

 

 「ハァ……ここは──ウゥッ!」

 

 先ほどまでの恐怖が蘇り、カヨウの目から止めどなく涙が溢れ出す。

 

 「フゥッ、エグッ、ウゥッ……」

 

 「あぁー、ツキカゲがバカをやらかして申し訳ない」

 

 涙を押し留め、カヨウは思い出したように頭を上げた。

 

 「ウッ……そういえばツキカゲさんは!?」

 

 「罰として、1人で買い物させてる」

 

 「罰、ですか……私が悪いんです、何となく誘いを受けて……ツキカゲさんは悪くなく──」

 

 カヨウは静かに、それでいて必死にツキカゲ弁護しようとした。

 

 「いやいや、今回はそもそもツキカゲの態度が原因だぜ」

 

 レンタカーを走らせながら、サバイバはバックミラー越しにカヨウの泣き顔を見つめた。

 

 「アイツは基本『自分で対処しろ』つってよ、他人とは任務以外であまり関わらねぇ」

 

 サバイバは荒く、それでいてカヨウに優しい目を向ける。

 

 「日常ではともかく、アッキーと常に一緒な任務で、あのバカの態度は失格同然なんだぜ」

 

 「ツキカゲ、基本スタンドプレイ。 任務時、周りより先、制圧完了」

 

 ローは完全に苛ついた顔をしていた。

 

 「……だけど、ツキカゲさんは私を助けてくれました」

 

 カヨウは、ツキカゲの怒りをはらんだあの姿を思い出す。

 

 「本当に私をどうでもいいと考えてるなら……あんな感じではありません」

 

 カヨウは、ツキカゲの欠点を突きつけられても尚、自分を責めていた。

 

 「曲がりなりにも任務だしな……まぁツキカゲは根っからそういう性格だ。 だから──」

 

 サバイバは困ったように頭をかいた。

 

 「──だからあんまり責めないでやってほしい。 今回の件も、ツキカゲに深く響いただろうしよ」

 

 サバイバはクラクションを鳴らし、歩行者をどかして道路を通った。

 

 「自分1人で色々抱えた末に、少しは態度を改めるだろうし、その時は優しい笑顔で対応してほしい」

 

 「……はい、分かりました」

 

 目の周りは涙で赤くなっていた。

 その顔で、カヨウは笑顔になった。

 

 「なぁ、これ一応持つか?」

 

 サバイバはダッシュボードから取り出したモノのトリガーをカヨウに向けた。

 

 「見た目古いが中身は最新技術だぜ。 通称"コルト・ガバメント"、デザインと機構の元の名前らしいぜ」

 

 カヨウは恐ろしげに、その拳銃を受け取った。

 

 「襲われたら眉間に撃ちな。 そうなった時は──」

 

 サバイバは悪い笑顔、ローは獲物を狩るような獣の眼をカヨウに向けた。

 

 「俺達が歓迎してやる。 安心しな♪」

 

 カヨウは思わず顔を反らし、窓の外を眺めた。

 窓の外の空は暗くなっており、エニマリーの1日が終わったことを告げていた。

 

 

 




 いかがだったでしょうか?
 こんな世界観に慣れず無理だという読者様には申し訳ございません。
 私自身辛い箇所の執筆部分がありましたが、書きたい主軸として「日本刀のみで戦場を渡り歩く」ストーリーにするには仕方がないと思って書き進めました。

 今回はメールでよく批判される部分を反省し、ある程度実在の銃器を調べて、それを元にして書いてみました。 案外調べると銃器の渋さに惚れます。
 私は日本刀など近接武装好みですが! でもガン=カタも大好きー。

 また今回多用した"Mt"という用語ですが、意味は「メテオリウム製~」という意味です。 サラッと書きましたが、この世界の銃器は実在の銃器よりも桁外れという設定を一応置いて書いてます。 所為トライガンのプラントの生み出す素材で出来た銃器という設定です。 
 まぁ、現実味ない!って言われたときのカウンター設定ですが実際は……

 この調子で執筆できれば、次の投稿も速くできそうです。
 今回で打ちのめされてなければ、是非とも楽しみにしていてください……
 次の話は"楽勝"な可愛い任務の予定ですから……では!

 



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