結局のところ、完全体への進化が可能になったのは事実で喜ばしいことなのだ。なのだが、釈然としないものがあるのも確かである。というかマフラーぐらいしか繋がりがないだろうに、何故……
悩んでいても仕方がないこともある。とにかく僕らは前に進むしかない。その前に町の人たちに事情説明をする必要があったわけだけど。
といっても目の前で実際に起きた光景ではあるし、信じがたいのも事実ではあるが彼らも反転や堕天といった自称については知っていたため思ったよりも早く事態を飲み込んでくれたけど。
「すいません、まさかピッドモン様がデビモンになっていたとは……」
「いえ、こちらもいきなりあのような形で暴くことになってしまい、おどかせてしまってすいません」
「驚いたというよりは、堕天については我々も知っておりましたし、その……それはそれで対応が穏やかだと思ったから戸惑っていたのです。最初はウィルスハンターさんのお仲間かとも考えておりましたが、違ったようで……ストライクドラモンがいらっしゃったので、もしかしたらとは思っていたのですが」
「なんだ、そのウィルスハンターってのは」
ストライクドラモンが名前を出されたため、代理の町長の言葉に反応した。
僕も気にはなるが……そのウィルスハンターってのは何なのだ?
「世界を回りながら、ルーチェモンの軍と戦っているとあるデジモンのことです。どのようなデジモンかは知りませんが、ウィルス種に対して強い攻撃性を見せ一切の容赦なく消し去るデジモンだと」
「なんという物騒な……」
「俺でもそこまでぶっ飛んだことはしねぇぞ」
ストライクドラモンの特性ならそのウィルスハンターってのと間違えても仕方がないが……どうやらそのウィルスハンターってのはこの地域ではそれなりに有名らしい。といっても、森の方を中心に動いていたそうでストライクドラモンたちの町までは話がはいってこなかったようだが。
「そんなデジモンがいるのねぇ、ストライクドラモンと話があうんじゃないの?」
「俺と一緒にするな。いい迷惑だぜ」
「……ウチ、最初に会った時襲われたんだけどなー」
「うぐっ……それを言われると痛いんだが」
バツの悪そうに呻くストライクドラモン。まあ、最初はいきなり襲い掛かってきたからなぁ、マキナに殺気向けて。流石にあれは擁護できん。結局、この日は夜も遅くなったため一泊することに。僕達も疲れていたからさすがん休養は必要だったのもある。
デビモンが情報を持ち帰っているだろうし、明日の朝には出発しないといけないなぁ……
◇◇◇◇◇
朝日が登った。意外だったのはストライクドラモンがものすごくきれいな姿勢で寝ていたことである。反対にライラモンは少しズボラだった……半分とはいえ、デジモンとなっている影響なのか性差というものをかなり意識しなくなっている。
人間界に帰ったあと大丈夫か少し不安になるな。現に今までもマキナとも同じテントで寝ていたし。
「互いに、そこら辺の知識はあまりないから仕方がないとも言えるけど」
「んみゅぅ……もう朝?」
「日の出だ」
「うへぇ」
まだ眠いのか、マキナはすぐにまた寝てしまう。ドルモンたちはしばらく起きそうにないな。ぐーすか寝ていやがる。となると、少し暇だな……外に出て進化できないか試してみよう。
静かに外に出ていき、手頃な空き地まで歩いて行く。
日の出と共に起きるのは少数だし、あんまり騒がしくならない程度に体を動かしてほぐす。
「疲れは大丈夫……昨日の感覚を思い出して、進化のイメージ」
体の奥から力が湧き上がってくる感じ。いや、デジコアが急速に稼働するあの感覚。
一度覚えれば、あとは意外と簡単だ。僕も普通のデジモンとは違うからか、この姿が基本となってパートナーデジモンたちと同じように進化は一定時間しか持たないらしい。感覚でだが、何となく分かる。
もしもマキナが今後進化できるようになっても同じ感じになるかもしれない。人間としてのデータも持っている以上、大きく姿を変える事はできないのだ。デジコアの作用で一時的に上書きのようなことはできるのだが、根本的な書き換えはできない。対応した基本となる姿は変えようがないみたいだ。
「つまり、僕はアイギオモン。マキナはシスタモンが基本となる。それ以下の段階には退化はできず、進化は可能であっても一定時間が限度」
デジタルワールドなら時間も長いだろうが、人間界ではそもそもアイギオモンの姿になれるかも微妙だな。
そこら辺は事件が終わったら考えればいいか。とにかく、今は進化できるかできないか――いや、できるにはできそうであるが……普通に進化してもまたパンダモンになりそう、っていうかなるな。
「でも僕もドルモンと同じで、進化先が決定されているってわけじゃない」
なんとなく、究極体の姿に思いあたりはあるのだが、それはそれで違和感もある。また、別の姿が頭にも浮かんだが……人型の影だけが脳裏に焼き付いている。あれは、どこで見たんだっけか?
記憶をたどるが、どうにも思い出せない。
「考えていても仕方がない、か」
現在の自身が取得しているDNAは、聖、暗黒、獣、竜……パンダモンは方向性を意識しなかった結果だろう。となるとデータ配分を調節できれば別のデジモンに進化できるかも知れない。
しかし、それはそれで難しいな。自分で進化できるようになってわかってしまった。
「配分を間違えると、汚物系に進化する可能性がある――――ッ」
そう、こうして自分がデジモンになってわかってしまったのだ。汚物系は、そこら辺の調整のミスみたいな事が起きて進化する姿だと。つまり、育成失敗的な…………
「それだけは阻止せねば」
シミュレートと調整を重ねないとパンダモンなんか目じゃないほどのすさまじい何かになってしまう。そんな戦慄とともに僕はみんなが起きる時間まで調整を重ねることになるのだった。
結果? とりあえず、変な方向に進化しそうになったらパンダモンになるように体に魔法式を入れておいた。安定はしていたし。
その後は起きたみんなと共に町を出た。お礼にということで食料ももらえたし次の集落へ向けてすぐに出発したのだった。
◇◇◇◇◇
目的地の深緑の森までは順調にすすんだ。
特にルーチェモンの部下も現れず、すこしゆったりとしたものだったが無事に深緑の森までたどり着いたのである。で、この森の奥に目的地の木の神殿があるわけだが…………
「森っていうか樹海だよな」
「迷ったら死ぬよね」
「燃やしてつきすすむか?」
「ストライクドラモン、そんなことしたら植物系デジモンとして私は本気であなたと戦うわよ」
「冗談だよ、流石にそんなことしねぇよ」
言っていい冗談と悪い冗談があるのである。今回の場合は後者だ。その為、結局わかっているなら言うなとライラモンにしばかれるストライクドラモンなのであった。プロットモン、鼻で笑うな。
「遊んでいないでとっとと行こうよ。デジヴァイスで大体の方向はわかるんでしょ」
「流石にここまで来て迷わせるつもりもないみたいだな」
エンシェントワイズモンのおかげだろうが、デジヴァイスにつけておいたコンパス機能とリンクして神殿の方向を示してくれる。といっても、矢印を示すだけだからどのくらい離れているかはわからないんだけどね。
地図データも完璧じゃないから、未だに性格な位置はハッキリしない。大体の位置がわかっているだけマシだけど。まあ、先へ進むしかないわけで、僕らは森へとはいっていった。
「薄暗いよぉ」
「あんまり離れて動くなよ。この森、結構デジモンが潜んでいるから」
「そいつら強いのか?」
ストライクドラモンとしては、腕鳴らしに戦いたいようである。こいつ、結構なバトルジャンキーなんだよな……道中、組手と称されて少し付き合わされたけど、吸収率が良いからあんまり手合わせしたくない。
体力を使いすぎるわけにもいかないから、軽くにしておいて良かったよ。
それはそれとして、森の中のデジモンたちだが……
「セピックモンか、遠くにはアロモンも見える。どっちもアーマー体だな」
「強さは?」
「それほどじゃない。完全体のライラモンがいるから迂闊には近づかないようにしているっぽいよ」
「なんだか傷つくんだけど」
「これは失敬」
しかし、お陰で助かっている。大きな羽音もしているためこのような狭い場所でアイツと戦うのは嫌だし。クワガーモンって結構どこにでもいるんだよね。
でも珍しいデジモンの姿も見える。妖精のような姿をしたデジモンや見たこともない植物型デジモンがいたりなど。そういえば、僕らの時代よりもだいぶ過去だし、未来じゃいなくなったデジモンもいるのか。
古代種と呼ばれるようになった彼らはこの時代でないと見ることはできない、と。
「……」
「カノンくん、どうかしたの?」
「いや、ちょっとさびしいなって」
もしかしたら、アポカリモンの中にはそんな残らない種の寂しさもあったのかもしれない。そんな、感傷的なことを考えつつ森を進む。
この森にいるデジモンたちを記憶に焼き付けるように。
会話も少なく、険しい森を進んでいくと――やがて、開けた場所へとたどり着いた。ここへ近づいていく都度にデジモンたちの姿は見えなくなり、やがて僕らだけになったが…………胸の奥で、デジメンタルが反応するがわかった。どうやら、デジメンタルの力がこの場所へと引き寄せているらしい。
「たどりついたな」
「木でできた祠ね。ここが木の神殿?」
「伝説の十闘士サマがいるにしては、随分とこじんまりした場所だな」
たしかに闇の神殿に比べたら、小さい神殿だが、木を象徴するからこそこの起きさなのだろう。それによく見ろふたりとも。確かに神殿は小さく見えるが、どこに作られているんだと思う?
「どこに? それは――おい、この祠…………後ろの木とつながっているのか?」
「あ、本当だ!?」
そうなのだ。ストライクドラモンたちが驚いているとおり、祠は木とくっついており、大きな木がまるごと木の神殿となっているのだ。この祠はただの入り口だろう。
自然の象徴である、木の神殿らしいといえばらしいのかもしれない。
「この中に入るのかぁ……大丈夫だよね?」
「神殿にははいったことないからな。とりあえず、開けてみよう」
扉を開けようとすると、デジメンタルが体から飛び出して強い光を発した――そして、ガチャンと鍵が開く音がして扉がひとりでに開いていく。どうやら、このデジメンタルは鍵の役割をはたしてもいるらしい。
さて、エンシェントワイズモンたちの話の通りなら試練を受けなくてはいけないらしいが…………扉の奥は、黒い空間が広がっている。っていうか、この感覚覚えがあるんだが。
「カノン、ミラージュガオガモンの封印されていた遺跡と同じ感じがするよ」
「ああ。どうやら同じタイプの封印らしいが…………」
となると、あの遺跡は何のためにあったのかが気になるところなのだが、今それを知る術はない。
「俺達としてはお前がデジメンタルを持っていたことに驚きだけどよ。珍しいもんでもないが、使わないでとっておくのか?」
「これは特別製で、十闘士の神殿を周るのに必要なもの――そういえばこの時代だとデジメンタルは普通にあるのか。すっかり忘れてたわ」
となるとドルモンのアーマー進化もできるかもしれない。普段使っているのが使えなくなったのなら、この時代で調達すれば良いのか。まあ改造が必要になるから、話に聞く機械都市までいかないといけないだろうなとは思うが。ここからだとどれ位距離があるのか……地図を見ると、そこそこ離れているな。そっちに行くよりも先に雷の神殿に向かうほうが早い。
「…………まあ、チャンスがあったらだな」
「今更アーマー進化使うのって感じだけどね」
「備えあれば憂い無しと言うだろうが。保険だよ保険」
プロットモンに対応したデジメンタルも作れるかもしれないし。暴走の危険もあるから色々と調べておきたいこともあるんだ。
横道にそれた話はそれぐらいにして、とりあえずいい加減に神殿の中に入ろうか。
「カノンくん、わざとそらしていなかった?」
「…………悪い、少しトラウマがあるんだよ」
「右に同じく」
生身で究極体と戦わされた思い出があるんだ。この手の封印ポイントには。
それに今回は最初から究極体が中にいることがわかっている。せめて、心の準備はさせてほしい。
「いいから黙っていきなさい! ウチたちも一緒に行くから!」
「ああああ!?」
「そんなご無体なッ」
マキナに押される形で、僕らは神殿の中に入ってしまった。
そして、十闘士の試練が始まる。僕達に課せられる、最初の試練が。