マキナたちが行った宿屋に行く少し前。僕たちはピッドモンに化けている……ってのも実は語弊があるのだが、とにかくアイツを倒すための布石を色々と打っていた。
というか全員で戦えば普通に倒せるし、ドルモンも完全体になればあっさり倒せてしまうのではないのか? とまで思える。成熟期なのは間違いないし。
問題は暗黒の力がどんな影響を与えるかなんだけどね。
「しかし地味な作業だなぁ」
「しょうがないよ。何も知らせずにアイツと戦えば、この町の住人を敵に回すハメになる」
そのため、僕らはこの町に集められたデジモンたちがその後どうなったのか、他にも色々と情報を得るために調べ回っているのだが……なんとも胸糞悪い話が出て来る。
住人たちは気がついていないが、ルーチェモンの軍と戦うためにより大きな町へと行く道中の休息所がこの町――という建前で、集められたデジモンたちを少しずつ殺すか、はたまた暗黒の力で取り込んでいるか。
「少しづつってのがミソだ。一気にやったら周りの集落にも気が付かれて計画が瓦解する」
「計画ってのはなんだよ」
「多分、天界を崩すつもりなんだろうな」
現に、この町にいるのは天界に住むデジモンたちばかりらしい。こうやって降りてくるのも稀で、普段は上からバランスを取るために動いているのだが……ルーチェモンの復活に際して表立って動き始めたのか。
まあ、僕にできるのはこれ以上の被害を食い止めるだけだ。あいにく、目的が違うから同行はしないし。
「それに光で全部照らして解決する問題でもないだろうに」
「?」
そうでなければ、あのピッドモンやルーチェモン、バグラモンのようなデジモンは誕生しないのだ。
光あるところにまた闇もある。どちらから片方だけに偏った存在は、簡単にバランスが崩れる。
「そのわりにはこの作戦、力技じゃないの?」
「時間は短縮したい。それに、ターゲット以外には疲労回復効果として現れるんだから大丈夫だ」
とまあ、そんなわけで色々と布石を打っていたわけなのだが…………
◇◇◇◇◇
なぜに君は発砲するかね、マキナくん。
「ご、ごめんなさい」
というわけでようやく宿屋に到着したわけだが……おいお前ら、目をそらすな。
「だって、カノンくんが周りのことを考えて準備しているだなんて」
「今までは基本的に余裕がなかったからだぞ。時間との勝負なのに周りを気にしていられるか」
今回はむしろしっかり準備しないとドツボにはまる状況だからこうやってチマチマと作業してきたってのに……それに、この作戦は僕ではなくプロットモンとクダモンの力が必要だ。
「プロちゃんたちです?」
「別に反対するつもりもないが……大丈夫なのか?」
「大丈夫大丈夫。ちょっと町全体に増幅したホーリーリングの力を打ち込むだけだから。そのための回路は作っておいた。町の住人たちは聖なる力を持ったデジモンたちばかりだし、暗黒系でもなければダメージはないよ」
町の住人たちにも張り巡らせた回路のことは伝えてあるし、中央広場にピッドモンを連れてきてくれとも言ってある。サプライズにしたいと言ってあるのでピッドモンには伝わらないようにしているが……まあ、知られてももう止めようがないが。
「ってすぐに戦闘になるの!? 相手が強かったら……」
「大丈夫。あのピッドモン、成熟期なのは同じだから」
僕がそう言うと、クダモンは目を見開いた。どうやら、ハッキリとわかったらしい。
まあ、もともと色々な知識はあるし気がついてもおかしくないが。
「まさか堕天か!?」
「その通り。もともとピッドモンだから違和感なく変化できていたけど、こっちはデータを直接読む反則技だからな。ごまかされないよ」
以前にノイズデジモンを見ていなかったら、看破できなかったかもしれない。あと、ピエモンのように変身能力を持つデジモンについて知っていてよかった。
「となると、あのデジモンは……」
「ああ。デビモンだよ」
「デビモンって、悪魔の姿をしたデジモンだよね……それが、どうしてもともとピッドモンだったってわかるの?」
「デジモンには分類で言う悪魔型デジモンはいない。大体が堕天使型なんだよ」
もしくは魔人型か。魔王型もいるが、悪魔型なんて分類はいない。
「つまり元は同じ存在ってわけ。光と闇は釣り合っていなくてはいけないってね。バランスが崩れれば、簡単に堕ちる」
「それじゃあ、あのピッドモンは……」
「元々は光の存在だったとしても、今は違う」
被害が出ている以上、このままにもしておけない。
そろそろ作戦結構時間になる。みんなには所定の位置についてもらい、すぐに奇襲をかけられるようにしてもらうが……マキナは、大丈夫だろうか。
「マキナ、気にしているなら……」
「ううん。大丈夫だよ。ウチが気にしているのは、どうしてそんなに簡単にひどいことが出来るようになっちゃうんだろうって思っただけ」
「……別に、光も闇も変わんないよ。どっちも、強すぎれば被害しか生まない」
闇は全てを飲み込み、光は全てを焼き尽くす。
僕と他のえらばれし子供の間で妙な距離感がうまれるとしたらそこだろう。デジヴァイスXに聖なる力が宿っていないことともそれを示している――光も闇も関係なく、ただあるがままに。
「さてと、それじゃあ……いっちょやりますか!」
◇◇◇◇◇
「ぐおおおおおおおおおお!? 貴様ら、何をしたぁ!?」
周りのデジモンたちが、ピッドモンさまが!? そんな、なんでデビモンがなどと叫んでいるが……正直、こちらとしては予定調和過ぎた。
それもそのはずだ。ザンバモンを倒した今、成熟期相手だと……こう、言ってはなんだが拍子抜けする。
「もうアレだから正直に言うけど、一目見たときからモロバレだったぞ僕の中では」
「それ、カノンだけだよ」
ストライクドラモンも気が付いていたじゃないか。
「俺は違和感だけだ」
「これは手厳しい」
「貴様らの会話から、我が軍に何らかの動きがあったとは思っていたが……クソッ、連絡を取り合うべきだったか」「もしかして、彼は孤軍奮闘という奴なの?」
「黙れ! この俺様がそのようなみすぼらしい動きをするか! 俺様は、天界に潜り込み奴らを全滅させるためのエージェントよ! すでに楔は打たれた! この世界はもうおしまいだ!」
フハハハハと高笑いさえ上げているが……正体がばれた途端にネタバレとか、古い――いや、実際にこの時代ならむしろ最新のトレンドどころか未来を先取り的な……話が脱線するからやめておこう。
とりあえずやるせない気持ちになりながらも戦闘開始。町の住人達には下がってもらい、デビモンを取り囲むように僕らが動く。被害が出ないように中央広場に呼んだんだ。
「動きを制限すれば、人質をとられるなんてこともない!」
「クソッ、小賢しい真似を!」
奴の腕、デスクロウという伸縮自在な腕による攻撃が迫ってくるが――正直なことを言おう。何度もネオデビモンと交戦する夢を見たせいで、あれより遅い攻撃だと、その……うん、ダメだ苦戦すらしなさそうな感じがある。
マキナも師匠たちより遅すぎるとか言っているし、ストライクドラモンたちでさえ簡単に避けている。
唯一苦戦しそうだと思っていたプロットモンもバリアーを張れるから攻撃は弾けるし……
「コイツ、僕たちとの相性最悪だぞ!」
もちろんデビモン側が僕たちに対してだ。
「うるさい! お前ら――八つ裂きにしてくれる!!」
そういうと、体から一気に闇の力を放出させた。
体を取り巻く瘴気が膨れ上がり、奴の外見をさらに禍々しくさせていく。
これは煽り過ぎたか? そう思った時だった。奴の眼が、僕たちよりも後ろを狙っているのに気が付いた。
そして、僕たちを攻撃する振りをして、人質をとろうとしている。奴の顔が歪んだ歓喜を表し――、ちょっとキレた。体中の力を爆発させ、デビモンの腹に一撃を喰らわせる。
「――ッ!?」
「この期に及んで、町のみんなに手を出すってか……今まで、どれだけのデジモンを殺してきたよ」
「ふ、ふはは――そんなの数えきれんなぁ」
「ッ!!」
体中から力があふれてくる。光の粒子が体を取り巻き、腹の底から何かが湧き上がってくるようだ。
その様子をみたデビモンは驚愕に顔を歪ませ、翼を広げて飛び立とうとしていた。
「この、冗談じゃない――俺様がこんなところでやられるわけにはいかんのだよ! すでにルーチェモン様の計画は動いている! 天界だけじゃない! デジタルワールドの向こう側すらも我々は創りなおさねばならないのだ!」
「それで、多くの命を犠牲にするのか……いや、それだけでなく世界すらも破壊しようというのかッ!!」
「か、カノン君――?」
「これは……」
体から力がほとばしり、僕の体を包み込んでいく。
感じる。この力が進化――デジモンとなった今だからこそわかる、力が増大し、出来ることが増えていくこの感覚。身をゆだね、自らの変化を受け入れていく。
脳内にアイギオモンから別のデジモンへと変化するデータが展開され――ちょっと、違和感を感じた。
なんというか、方向性が定まらないというか、僕自身の意識と体の力の方向性の不和というか……体の変化は止まらない。確実に、僕の体が進化を起こしている。
「え、ちょっとまって……なんかこれ――」
光が収まると、なんかファンシーな腕が見えた。マフラーはそのまま残っているが……なんだこの着ぐるみっぽいのに生身な感触は。
すっごいもふもふしているんですが……
「なあマキナ、この姿……」
「えっと、とってもかわいいよ?」
しかしこの場の凍った感じ。デビモンも唖然としているぞ、悪い意味で。
ドルモン、目をそらすな。ストライクドラモンは何に受けたのか笑いをこらえている。ライラモンは元気出してね、って感じだし。
自分のデータを見ると、完全体……パンダモン。
「もんざえモンと同系統じゃないかぁあああああ!?」
◇◇◇◇◇
あまりの状況に、カノンの意識が逸れた。その隙にデビモンは逃走を図るが、すぐにカノンが跳躍してデビモンを叩き落とす。
こんな外見でも完全体のデジモン。それに、意外と肉弾戦には強かったらしく何度も殴りつけてデビモンをぼこぼこにしている。若干、八つ当たりも入っていた。
「なんでこんなんなんだ! 系統が違うだろうが系統が!」
「ぱ、パペット型は突然変異と同じく、系統は関係ない」
「知っているよッ!!」
それでも叫ばねばならぬことがある。そう言いながらデビモンを殴り飛ばした。律儀に答えるあたり、彼も根はピッドモンという天使型のデジモンなのだ。反転してはいるのものの、ネタバレしたことと言いルーチェモンへは忠誠を誓っているあたりといい真面目なのかもしれない。
それはそれとして、上に殴り飛ばしたことによりカノンの追撃が止まった。
「――あ」
「こんなところにいてたまるか! 俺様は貴様らの報告もかねて逃げさせてもらう!」
そう言って逃走する――その後ろから、マキナが発砲して追撃したが。何発かヒットはしていたが、それでも残った暗黒の力で速度をかなり上げたらしく逃げられてしまった。
残念と言いながら、マキナが銃を下ろし――カノンの進化も解けて元のアイギオモンに戻ってしまう。
「よかった、ファンシーな姿から元に戻った……あのままだったらどうしようかと」
「せっかくパペット型でお揃いだったのにぃ」
「勘弁してくれ」
たぶん、何かの間違いか方向が定まっていなかったんだと思って、アレは気にしないことにしようとカノンは決めた。それにデビモンは逃がしてしまったし、このまま町にいるのも危険かもしれない。
事後処理というか住人達への説明もあるし……
「これは、説明して夜を迎える感じかな」
「なんだか戦いの後が疲れるよ」
そうそうに強い相手とぶつかることもないはずなのだ。この時代では。
むしろザンバモンが特殊だったと言える。そのため、拍子抜けすることになったが……
「今後は油断しないようにしよう」
流石に油断し過ぎた。
今回の失敗は次に生かせばいい。それに一応は進化も出来たのだ。
まだまだやることは多いなと、カノンは疲れからかあくびを一つかいた。
3章見ました。
なんかもう、遺伝子螺旋が見えたあたりでアイツが黒幕なんじゃないかと思いますが……そもそもカノンの役割の時点でリブートが起きないし。
というわけで、tri.は独自ルートもしくは最終章に組み込みとなるかな。