デジモンアドベンチャー BLAST   作:アドゥラ

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96.旅は道連れ

 戦いも終わり、静けさが戻ってきた。

 一応防御プログラムとして町全体を覆うバリアーを用意しておいたのだが……結局使わなかったな。まあ、今後狙われることもあるかもしれないしそれはそれでいいのかもしれない。

 

「ドドモンもお疲れ様」

 

 疲労も凄まじいらしく、眠ってしまっているが……まあ無理も無いだろう。

 究極体相手は流石に疲れる。今までの戦闘経験がなかったら危なかった……周りを見回すと、とりあえず勝利したってことでいいらしい。パンジャモンたちも一息ついた風だ。

 しかし、なかなかに厳しいものだったが……そこで、この前は気が付かなかったものが見えた。

 

「あれって、線路か?」

 

 近づいてみるとやはり列車の線路だ。

 鉄のラインが二本、よく見るタイプのものだが……随分と使われていないようにも見える。

 

「…………」

「どうかなさいましたか?」

 

 そこで、パンジャモンが近づいてきた。彼も体中ボロボロであったが、大きな怪我はないらしい。とにかくお互い無事で良かった。

 勝ったというのに、僕が考え込む顔をしていたから話しかけてきたのだろう。

 

「いや、この線路が気になって」

「ああ……ロコモンの線路ですか。そういえば随分と長い間彼を見ていません」

「ロコモン?」

「ええ。乗り物系デジモンの一体で、完全体のデジモンです。昔はこの線路を運行していたのですが……随分と長い間、彼を見ていません。この町にも駅があったのですが、私が旅に出る前は彼を見たのですが、この町に帰ってきた頃にはもう……」

 

 どこか寂しそうにつぶやくパンジャモン。少しだけ話しを聞いたが、成熟期に進化してすぐに旅に出ていたらしい。その後、帰ってきてから長になったと聞いた。

 ロコモンか……今も運行していたのなら、移動が楽になったのだけど、そううまくはいかないか。それにライラモンが生まれるよりも前の話らしいし、結構長い時間が経っているのかもしれない。

 

「ルーチェモンの軍勢が台頭してきましたからね、彼ももう……」

「結局、大元をどうにかするしかない、か」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 すぐにでも出発するべきではあったのだが、僕も含めてだいぶ疲労が溜まっていた。

 ドルモンも現在はドドモンにまで退化してしまっているため、戦力的にも心もとないしもとに戻るまで待つべきなのだが……僕らがいつまでも滞在するわけにもいかない。

 

「というか、カノンくん……食料はどうするの?」

「その問題もあったか。この町で補給しようと思っていたからなぁ……こうなったらまじで土から錬成して」

「それだけはやめて」

「流石に冗談だよ……」

 

 まあ言っている場合でもないけど。

 とにかく身支度だけは済ませておこう。荷持があるというわけでもないが、とにかく準備だけはしないといけない。目的地の木の神殿まではそれなりに距離もある。

 

「まあ、森の方へ行けば食料もなんとかなるだろう」

「それしかない、か」

「ならば準備を整えてさっさと出発するべきだな」

 

 クダモンの言うとおりなのだが、慌てても余計に時間がかかるだけということもある。

 とりあえずパンジャモンに挨拶してから目的地へ行くとしよう。

 ドドモンを抱えて借りていた家を出る。この前と同じく町はまだ壊れたままだ。でも、住民には活気が戻ってきている。目下の問題が片付き、精神的にも前へと向き始めた。

 

「……まあ、この分なら大丈夫だな」

 

 パンジャモンのいる建物へと向かうと、妙に静けさというか変な空気を感じた。

 悪い気配ではなかったから建物に入ると、ストライクドラモンとパンジャモンが何かを話し合っている。その様子を、不機嫌そうにライラモンが見ていたのだ。

 会話の間にはいっていいものか悩んでいると、パンジャモンがこちらに気が付き駆け寄ってきた。

 

「すいません、お出迎えもせずに」

「いえ、こちらが勝手にやったことですし……それに、そろそろ僕達も出発します」

「ではやはり、十闘士の神殿に?」

「ええ。各地の神殿を回るのが第一になりますから」

 

 一応パンジャモンには旅の目的というか、何をしているかは簡潔にだが話してある。

 彼も旅をしていたということで有力な情報がほしかったのだが、そもそも神殿にはデジモンたちはあまり近づかないらしい。

 

「そうですか、この有様ですから物資も渡せずに、すいません……アレほど助けていただいたというのに」

「いえ、気にしないでください――」

 

 と、そこでストライクドラモンがこちらに歩み寄ってきた。

 また戦うことになるのだろうかと、少し身構えていると彼は僕に向かって頭を下げる。

 

「? えっと、どういう……」

「たのむ。その旅に俺を連れて行ってくれ」

「すいません、止めたのですが聞かなくて」

 

 話があまり見えてこないが……

 

「お前たちについていけば、俺はもっと強くなれる。そう思ったんだ…………それに、俺達の世界が大変な事になりつつあるのに、黙ってみていられない。お前たちについていけば、どうにかできそうな気がするんだよ」

「……」

 

 少し顎に手を当てて考える。マキナが不安そうに僕の腕をつかみ、クダモンは何かを思案した表情だ。

 ドドモンはなるようになると静観しており、プロットモンは興味ないと言わんばかりにあくびを――っておい、お前らも少しは考えろよ。

 

「カノンくん、どうするの?」

「…………正直な話、戦力的にはまだ仲間がほしい」

「それじゃあ――」

「でも、これから先の旅でウィルス種あいてに暴走を起こすと厄介だぞ」

「ぐ、それは……」

 

 ストライクドラモンもわかっているのだろう。今回はなんとかなったが、それがいつまでも続くというわけではない。あと、後ろで不機嫌そうにしている子のことも考えたほうがいいだろう。

 

「――ああもう! じれったい!」

 

 と、そこで何を思ったのかライラモンが大声を上げた。

 ストライクドラモンの背中を叩き、彼女も頭を下げる。

 

「悩んでないで動け! それに私も悩むのはやめた! お願いします、私もついてきます!」

「あ、それは助かります」

「うん、ウチも話が合いそうな子がいてくれると嬉しい!」

「なんで俺の時とは違って悩まないんだよ! 喜ぶんだよ!」

 

 暴走しない完全体。暴走する成熟期。当たり前の反応だと思う。

 それにマキナは今まで同年代の女友達(相手デジモンだが)がいなかったし、良いことだ。

 ストライクドラモンの暴走のストッパーとしても期待できる。

 

「というわけで、ふたりとも連れて行くことになりますけど……大丈夫ですか?」

「ええ。お礼というわけでもありませんが、どうぞこの世界のため、頑張ってください」

「なんなんだよ、すんなり見送ってくれるのにこの虚しさは」

 

 ストライクドラモンが少々ぼやいていたが、こうして僕らの旅の仲間に新たな二体が加わった。

 目指すは木の神殿、少々長い道のりになるが、このあたりを攻めていた究極体を倒したのだ。次に出てくる敵はそこまで強力な個体ではないと思うが……一応、油断はしないでおこう。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 このあたりの地理に詳しい二体の話からするに、深緑の森までにはいくつか集落もあるらしい。といっても、かなり小さい場所なのでこの付近に住んでいるデジモンしか知らないそうだ。

 ひとまずそこを経由しながら森を目指す。

 まっすぐに進めば3日ほどの距離だが、疲れもあるし休憩をはさみながらになるだろう。思った以上に時間がかかりそうだ。

 

「なあ、十闘士の神殿を回っているとは言っていたが、今までいくつ回ったんだ?」

「まだ闇の神殿だけだな。事情があって土と鋼は行く必要が無いんだけど……それでも、残り7つだ」

「先は長いのね。ルーチェモンの軍勢もいるのに大丈夫なの?」

「できることなら鉢合わせたくないけど、この付近の担当はザンバモンだろうし、究極体クラスはしばらく出てこないだろうよ」

「というか、ウチはもう究極体を見たくない……」

 

 マキナの言うとおり、できれば見たくないけどね。

 しかし、ザンバモンを早い段階で倒せたのは行幸だった。あの手合は時間が経てば経つほど厄介な戦術を組み立て、強力な戦力を揃える。

 向こうも早い段階で倒すべきだと短期決戦に来てくれたのが良い方向に作用したのだ。

 

「うう、つかれたです」

「プロットモン、もう少しで集落だから頑張ってくれ」

「はぃ……です」

 

 僕も結構疲れたし、そろそろ休みたいところだが……遠くを見ると、草食恐竜のような姿のデジモンが草食べてる。激戦があったというのに、少し離れるとのどかな風景がみえるのか。

 目の前に見える丘を越えれば次の集落だ。それまでの辛抱なんだが、すべての神殿を回るまでにどれほどの時間がかかることになるのやら。

 時間軸が違うから、こんなことを考えても意味は無いのだけれども……母さんとありあ、元気にしているだろうか。検診がどうなったのかも気になるし、そもそも未来の時間軸は今どうなっているのか――いや、僕らの体がそのまま存在している時点でまだ大丈夫なのだ。

 

「カノンくん、それってどういうこと?」

「決定的に修復不可能になると、僕らが消滅する可能性もあるということ」

 

 たとえば、今地球が滅べば未来において僕らは生まれなくなる。すると、過去にいる僕達も消えるという話。そこいらへんの時間の整合性がどうなっているのかはわからないが……

 でも、そもそも僕達がいた時間と過去が繋がったのは、僕達の時間にあった何かがこの時代に流れたことで歴史データの歪みが発生したからなのであって……うーん、今回の件は色々と複雑な事情が絡んでいるのかもしれない。

 

「そこら辺の話は理解できないからパス」

「そもそも、私達にはなんのことだかさっぱりです」

「ようはルーチェモンをぶっ飛ばせば全部解決ってことだろう」

「ストライクドラモンの言うとおりでもあるんだけど、なんだか釈然と――あれ?」

「どうかしたの、カノンくん」

「いや……ルーチェモンって封印されていたんだよな」

「そういう話だぜ。もっとも、昔話に聞くぐらいだから詳しくは知らねぇけどよ」

「私も詳しい話は全然。でも封印されたっては神殿もあるから間違いないのよね」

 

 ストライクドラモンとライラモンの肯定で違和感がより明確になった。

 そう、ルーチェモンは封印されていたのだ。

 

「封印を破ったのって、誰だ?」

「それは……ルーチェモン自身じゃないの」

「いや、それにしては妙な感じがする」

 

 でも実際にことを起こしているのはルーチェモンの部下。

 部下が生き延びていた? まさか。この世界の時間で、何百年も前だぞ。当時のデジモンの生き残りはいるにはいるらしいが……ルーチェモンの部下の生き残りがいるだろうか?

 人間界へ行けば関係ないかもしれないが、エンシェントワイズモンの能力でも使わない限りこの時代では無理だ。となると、今のルーチェモンの部下はこの時代で結成されたのではないだろうか。

 

「ルーチェモンの騒ぎってどれぐらい前から起きている?」

「たぶん、数年前から。神殿のことを聞くようになったのはここ最近だけど」

「うーん……どうにも違和感がつきまとうな」

 

 しかし気にしていても今はどうすることもできない、か。

 とりあえず丘は越えたしまずは集落で体を休めて――と、そこでストライクドラモンがどこか不機嫌そうな顔をしているのに気がついた。

 

「どうしたんだ、ストライクドラモン」

「なんだかにおうんだよ。ウィルスの気配――それも、どす黒い何かが」

 

 僕も集落にそんな気配がないか集中してみるが――そんな気配は感じられない。

 むしろ神聖系のデジモンの気配があるように思えるのだが。

 

「……すまない、俺の気のせいだったみたいだな」

「全くよ。ストライクドラモンはいつもせっかちなんだから」

「悪かったな、そういう性格なんだよ」

 

 ストライクドラモンとライラモンが言い合いをしているが、彼の知覚に何かが反応した以上、可能性はありそうだ。それに、隠蔽能力を持ったデジモンかもしれない。

 究極体クラスだと力の波動を感じ取れるため、少し神経を研ぎすませてみるが……そのような気配もない。

 

「となると、本当に気のせいなのかね?」

 

 まあ悩んでても仕方がない。とにかく、あの集落へ行くしかないか。

 


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