デジモンアドベンチャー BLAST   作:アドゥラ

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94.うちに秘めるもの

 いろいろと準備を整え、決戦の日の朝がやってきた。

 負傷者は後ろに控えてもらい、戦える成熟期のデジモンたちを中心に防衛ラインを張る。

 完全体を中心とした部隊を3つほど編成し、それぞれが遊撃を行う。マキナもこちらにはいってもらい、敵の戦力を削ぐ。

 

「でもやっぱり数が心配だよね」

「ああ。エネルギーの確保はできたが……それでも戦えるデジモンの数が少ないのには変わりない。まあ、もう一人来るみたいだけど」

「?」

 

 風が吹いたと思ったら、上から一体のデジモンが落ちてきた。腰を落とした姿勢で着地したのは、ストライクドラモン。マキナは驚いて半歩後ずさっていたが……彼は無言でどこか遠くを見ている。

 ふわりとライラモンが飛び降りてきたが……上から来るのはどういうことなんだ?

 

「あ、あはは……疲れた」

「ライラモンさん、今まで何やっていたの?」

「あいつの修行に付き合わされてねぇ……それで、ここまで跳んできたの」

 

 すごい跳躍力だな。それに、この感じはすでに察知しているのか。

 ストライクドラモンはウィルス種のデジモンには敏感だ。おそらくザンバモンの軍が迫っているのだろう。しかし、彼はそれを感知していても暴走していない。だが……一言もしゃべらないのはどういうことだ?

 

「完全に暴走を抑えるのは無理だったから、ターゲットを絞ってそこに集中するように訓練していたのよ。おかげで周りに被害を出さないようにはなったと思うんだけど……戦っても大丈夫かな?」

「うーん」

 

 流石に完全に暴走を抑えるのには時間が足りなかったか。だが、ウィルス種のマキナがいる中でもこちらには反応しないところを見ると、大丈夫ではあるか。

 万が一もあるし、マキナとは逆方向の遊撃にはいってもらおう。

 

「ライラモン、疲れてるところ悪いけどサポートにはいってもらえるか? どうも敵の数が予想の倍以上はいるみたいだ」

「へ――うそ、何あの数」

 

 数にして200は軽く超える。こちらも数は多いが、ほとんどが戦えないデジモン。遊撃メンバーと直接ザンバモンを叩く僕らだけなら15体か。プロットモンは引き続きマキナのサポートだ。

 

「作戦は至ってシンプル。僕とラプタードラモンが大将のところまで突っ込む。その際に、いろいろとばらまくから、みんなは分断された軍団を相手してくれ」

「分かった。君たちも、気をつけてくれ」

 

 パンジャモンがそう言い、立ち上がったデジモンたちも己の役目を果たすために立ち上がる。

 あとは事前に仕掛けておいた仕掛けがどこまで通用するか……とにかく、もうあとには引けない。

 

「作戦開始だ!」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 空へと飛び上がったラプタードラモンと、その背に乗るカノン。敵軍からは要注意すべき相手として伝わっているが、無謀にも突撃してくるようにしか見えなかった。

 

「成熟期のデジモンが二体だけで突っ込んで来やがるぜ!」

「ガハハ! 馬鹿な奴らだ!」

 

 ザンバモンが撤退を選んだということでどれほど強い相手なのかと思ったら、成熟期二体だけで敵陣へと突撃する愚か者。それに完全体のデジモンだって数が少ないではないか。

 後続に控えていた完全体のデジモンを我軍も引っ張り出してきたが、これでは意味がなかったなと漏らす。

 しかし、その完全体のデジモンが前へと飛び出した。

 

「なっ――シャウジンモン!? 貴殿がなぜ飛び出すのです!」

「愚か者ども! 殿がなぜ我らを呼びだされたかわからぬのか! すでに奴らの計略は始まっておる! すぐに動かねばやられるのは貴様達だぞ!」

 

 カッパのような姿をしたデジモン、シャウジンモンがそう叫び前へと突撃する。自分の役目は後に続く部隊の道を作ること。その役目を果たすために飛び出したが――後に続くデジモンたちがこれではどこまで通用することか。

 3日前に戦った精鋭たちがやられたのが痛い。今残っているのは寄せ集めもいいところの連中。雑兵程度にしかならないのがほとんどだ。

 

「――やはり、私が行くしかあるまい」

 

 一人でも多くのデジモンを倒し、ザンバモンのための道を生み出す。

 彼はすでに背後の惨劇を見ていなかった。宙より飛来する、魔力の塊。カノンが投げ落としている闇と火の混合魔力弾だ。押し固め、地面に落ちると同時に炸裂する絨毯爆撃。

 流石にここまでのことは予想外だったが……闇の属性を帯びながら、それは悪意に満ちたものではない。

 

「アヌビモンと同じ浄化の闇か!」

 

 話には聞いていたが、闇でありながら悪性のウィルスデータを浄化する力を持ったデジモンがいるという。アヌビモンはその中でも有名な一体で、デジモンの再生システムを司る存在だ。

 この炎に焼かれたデジモンは暗黒のデータを消去され、健常なデジコアへと戻される。

 

「しかし、やることが殿よりもえげつないッ」

「――!」

 

 と、そこで一体のデジモンがシャウジンモンへと迫る。巨大な爪が彼の喉元へと迫り、とっさに武器で防御するが火花を散らせ押されてしまう。

 

「ぐぬぅ……成熟期のデジモン、であるはずだが」

「――ガア!」

 

 次に回し蹴りを放ち、シャウジンモンの体を浮かせる。それでも空中で回転し、地面へと着地した。彼――ストライクドラモンはこの場で最も厄介な相手を視認し、彼にのみ集中する。

 周りでは他のデジモンたちがカノンの爆撃を逃れて迫ってきていたが、どいつも成熟期だ。

 

「ウィルス……暗黒、潰す!」

 

 ストライクドラモンが吠え、彼の髪の毛に変化が現れた。赤い髪が青く染まり、燃える炎へと変化する。

 吹き出す力の量が増していき、完全体に迫るものへと変化した。

 

「なんだ、この力は――デジコアの鼓動が大きくなっている!?」

「ガアアアア!!」

 

 バーストモードにも近い、限界能力の開放。いや、限界突破ともいうべき力だ。

 彼が一気に加速し、シャウジンモンへと迫る。

 

「こちらも負けられぬのだ! ゆくぞ、若人よ!」

 

 

 

 そして、彼らとは離れた場所。マキナもまたチィリンモンにまたがり戦っていた。こちらもカノンの爆撃により数は減ったが……厄介なことに空中戦ができるデジモンが攻めてきたのだ。

 それにより、空中で戦えるチィリンモンと遠距離攻撃を特異とするマキナが対処しているのである。

 

「もう! ちょこまかと厄介な相手!」

「かーっかっか! それはそちらも同じこと! であればこちらも斬りかかるのみである!」

「あとあんたうるさい!」

「それは聞けぬ相談なり! 我らが大将のため、その首貰い受けるぞ! このカラテンモン、押してまいろうぞ!」

「ホントうるさい!」

 

 マキナが狙いをつけ、カラテンモンを撃ち抜こうとするが彼はそのすべてをよけていく。カラテンモンというデジモンは、相手の心を読み取る能力を持つ。

 あまりにも愚直すぎるマキナの攻撃など簡単に躱せるというかのように、次々に避けていってマキナへと迫った。

 

「かーっかっか! 小娘、討ち取ったり!」

「ッ、ああもううるさいッ!!」

 

 しかし――彼の剣が迫った瞬間、それを銃で弾き攻撃を防ぐ。予想外の展開に一瞬の思考の余白が生まれ、カラテンモンはその腕を掴まれた。

 

「なっ――!?」

「チィリンモン、周りのやつをお願い! こいつはウチがぶっ飛ばす!」

「マキナ!? 何を――」

 

 プロットモンをチィリンモンの背に残し、マキナはカラテンモンを掴みながら地上へと飛び降りた。その際、足にカラテンモンを敷いて。

 そのため地面にカラテンモンが激突し、マキナは彼をクッションに着地した。

 

「――ッ!? こ、小娘がぁああ! 何をするか!」

「ああもうさっきから頭のなかをジロジロとうるさいのよあんたッ! ウチの大事な思い出まで見ようとしやがって――――乙女の純情を軽々しく見やがって、ぶっ潰す」

 

 マキナの目が据わり、彼女から吹き出す闇のオーラが高まっていく。

 プロットモンの聖なる力を利用できた彼女であるが、その本来の適性は闇の力なのだ。あまりにも危険なため彼女の師匠たちはそれを伝えずに修行をつけていたが……内なる力が精神の圧迫により解き放たれた。

 彼女から吹き出す力が鎖の形へと変化し、カラテンモンへと迫る。その凶悪さに萎縮しながらもカラテンモンは対処していくが、その力の圧力におののくばかりで防戦一方となる。

 

「貴様、成熟期でありながら魔王クラスの力を内包しているとはどういうことだ!? あの小僧といい、青いストライクドラモンといいどうなっているというのだ!」

「ああもううるさい。なんであんたみたいな奴にウチの頭の中を覗かれなきゃいけないのよ――ただでさえ、最近は無茶ばっかりするカノンくんにやきもきしているっていうのに、これ以上の心労を与えんなぁあああ!!」

 

 フルバースト。2つの銃口から銃弾が発射されていく、それをすべてよけていくカラテンモンであるが――それは下策だった。

 

「――ッ、な……追尾弾だと!?」

 

 闇の力を込められた弾丸はカラテンモンを捉えて離さない。それをすべて避けるものの一瞬ごとに銃弾の数が増えていく。

 この少女は危険だ。ここで倒さねば必ずや強大なデジモンとなってしまう。それこそ、魔王に匹敵する存在に。だが、マキナの地雷を踏んだカラテンモンにはもうどうすることもできない。

 誰しも心の中には他人に触れられたくない大切な部分がある。それを土足で踏み時にった彼に未来はなかった。

 

「収束――」

 

 マキナが充填したのは光の属性の弾だ。カノンのように同時に発動させることはできないが、光の属性を操ることができないわけではない。故に、そこに込められた力にカラテンモンは驚愕する。

 

「ま、待つのだ小娘! そうだ、うちに秘めるばかりでは良いこともないぞ。あの小僧にその胸の内を伝えてきてやろうぞ――」

「――――倍増」

 

 更にエネルギーが充填され、カラテンモンへと発射された。流石にそれは避けなければいけないと動こうとするが、追尾弾の壁が出来上がり逃げ道は完全になくなっている。なんとか避けようとするが全身に弾丸がぶつかっていき、体の自由が効かなくなる。

 そして、光の巨弾が迫り――先に撃ち込まれた闇の弾丸と反応して大爆発を起こした。

 悲鳴も上げる事すらできずにカラテンモンは消滅してしまう。

 それを見届けたマキナはふらりと腰を落とし、地面に尻もちをつける。

 

「…………はぁ、ウチが暴走してどうすんのよ。でも、厄介なのは一体なんとかできたか――よし、もう一頑張りよ!」

 

 その姿をみて、敵の戦意を削ぐことに成功もしていたが……同時に味方側からもドン引きされていたことは言うまでもない。

 特にチィリンモンはマキナの知られざる一面を見ておののいていた。

 

 ◇◇◇◇◇

 

「カノン、あっちですごい爆発が起きたぞ」

「この魔力反応はマキナだな……あんな大爆発魔法使えたんだ」

 

 ラプタードラモンとしては、そこに込められた力の量の凄まじさやら闇の力の放出量などを言いたかったのだが、よく考えたらカノンも大概だった。おそらく、感覚が麻痺している。

 この程度の闇の力別に気にする必要ないと思っているのだ。

 

「……帰ったら、一般常識からやり直そう」

「なんでだよ」

 

 解せぬ。そう言いながら、カノンは目的地を見る。ザンバモンがにやりと笑ってこちらを見ていた。

 ラプタードラモンも無駄話はここまでだと気合を入れる。

 

「――――今日までの組手の成果、いけるか?」

「ああ。全力で行くぞッ!」

 

 一気に下降しザンバモンへと迫る。それに太刀で斬りかかってくるが――ラプタードラモンの姿が変化し、ザンバモンと鍔迫り合いとなる。

 カノンはザンバモンの股下をくぐり抜け、背後に回りこんで拳を叩き込む。だが、ザンバモンは体を回転させてそれを弾き飛ばしてしまう。

 

「――ッ、やっぱり一筋縄じゃ行かないか!」

「だけど、やってやれないことはない!」

「また突っ込んで来たかと思えば――なるほど、此度の相手はお主か!」

「ああ。そのとおりだ……グレイドモン、いかせてもらうぜ!」

 

 X抗体の解放。デジヴァイスXの力によりラプタードラモンはグレイドモンへと進化したのだ。

 今まで使っていなかったため、自分でも機能を把握しきれていなかったがこの数日の間にカノンは様々な検証を行った。そのおかげもあり、完全体までならどうにか進化可能にしたのである。

 

「でも制限時間はいつもより短いから、気をつけて行けよ! やっぱりこの世界だと負荷が大きいからな!」

「わかっている! 援護を頼むぞカノン!」

「任された!」

「良い――此度の戦いは血沸き肉踊るぞ! こうして出直した判断は間違いではなかった! さあ、いざ尋常に勝負!!」

 




たぶんそろそろマキナさんの正体に気がつく人もいる頃でしょう。
もうちょっとカラテンモンは引っ張るつもりだったが、気がついたら地雷を踏み抜いてこんなことになっていた。


02のプロットの修正もあってデジモンハリケーンを久々に見ましたが……改めて見ると、あの映画にでていたケルビモン(悪)の正体ってダゴモンの海に関係している存在だよなと。ウェンディモンの元ネタでもあるし。
実はデジモン作品で一番危険な世界ってアドベンチャーなんじゃ……

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