デジモンアドベンチャー BLAST   作:アドゥラ

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少し長くなった上に話が進んでないのはご愛嬌。


93.エレメントの意味

 カノンに敗れ、ライラモンに連れられて手当されていたストライクドラモンはずっと自問していた。

 なぜ自分が負けたのか。それも明らかに手加減された状態で。

 悔しさを感じる。情けなけなさも感じる。何よりも、力の差がありすぎた。

 

「くそっ……」

「まったく、いつも突っ走っていらないことして、それで今日は負けたと」

「お前も毎度うるせぇよ! ほっといてくれ……」

「なに? 負けたからいじけるの?」

「そんなんじゃねぇよ」

 

 わかってはいるのだ。自分に足りないものがあることぐらい。それでも強くなりたかった。

 漠然とした思いだったが、自分は強くなりたい。だからこそがむしゃらに頑張ってきた。体を鍛え、進化するためにひたすら強くなろうとした。だからこそ成熟期の範疇を超えた力を持っていたが……

 

「上には上がいるってことね」

「人の心を読むな」

「いや、わかりやすくて。いったいどれくらいの付き合いになると思っているのよ」

「……やりにくいんだよ。俺は」

 

 デジタマから孵り、幼年期からの付き合いであるからこそライラモンには考えていることが筒抜けなのだ。自分はあまり覚えていないが、ライラモンのほうが早く生まれたデジモンで少し彼女に世話をされたこともあるらしい。

 もっとも、ライラモンもその当時は幼年期か成長期ぐらいだったはずだが。

 

「で、何を悩んでいるのよ」

「強くなりたいと頑張ってきていた。同じ成熟期なのにあいつには勝てるとは思えなかったんだ……そんな自分が許せない。勝てないと思ったことが何よりも許せないんだよ」

「いや、意味分かんないし」

「なんだと!?」

 

 思わず食って掛かるが、ライラモンはどこ吹く風だ。

 アホらしいと治療を終えて立ち上がる。

 

「あのさぁ、馬鹿すぎてコメントするのも嫌なんだけど一応言うね。なんで、それが許せないの?」

「だから、勝てないと思った自分自身が許せないのであって――」

「いや、それがわかんないのよ。それって悪いこと? 勝てないと思ったらもっと強くなればいいじゃん」

「ッ、それができたら苦労はしない……」

「結局のところ、また負けるのが怖くなっているんでしょうが」

「――――」

 

 それ以上は言葉が続かなかった。自分自身をみているようで、結局は目をそらしていた図星を当てられてしまったのだ。そして、ライラモンはストライクドラモンとカノンの違いに思い至る。なんとなく、目の前の困難に真正面からぶつかっていく点で似ているなとおも思っていたのだが、決定的に一つ違う部分があった。

 

「うん。そりゃあの子に勝てないわけだわ」

「何が言いたい……」

「たぶんあの子、怖くたって諦めないのよ。負けるかもしれない。そう思ってもその壁をぶち壊していこうとするんだろうね……あんたと違って、強くなること以外に目的があるからだとも思うけど」

「強くなること以外、?」

「うーん、話してみないとわからないけどさ……なんていうか、自分が強いか弱いかには興味がないのかもね」

 

 でも必要だから強くなった。当てはめるとすればそれが一番適切な言葉だろう。

 手加減はしていた。たしかにライラモンにもそう見えたが、離れて見ているとわかるものもあるのだ。

 

「気迫が全然違うのよ。あんたはがむしゃらに突っ走っているだけだったけど、あの子…………頭で考え続けている。鷹って言えばいいのかな。獲物を狙うみたいな感じだった」

 

 ちなみに、デジタルワールドにも少数だが現実世界と同じ生き物がいる。偶然迷い込んだか、デジタルワールドが作り出したデータ体なのかはハッキリしない部分もあるが、えらばれし子供達もその一部を見たことがある。

 そのため実際の生物の知識もデジモンたちは持っているのだ。

 

「結局、強くなって何がしたいの?」

「――――」

「まあ、自分で考えてよね。それじゃあ、私は町の様子をみてくるから」

 

 そう言ってライラモンは去っていくが……ストライクドラモンはその言葉により、動けずにいた。

 自分が強くなって何がしたいのか。いや、そもそもそんなことは考えたことがない。

 

「俺はただ強くなりたかっただけだ」

 

 誰にも負けたくない。されど、そこに目的はない。

 ただ力を追い求めていたというわけでもないのだが、漠然と強くなりたいとしか考えていなかったのだ。努力もし続けていた。されどそこに方向性がなかったのだ。

 

「あいつには、俺には見えていないものが見えているのか?」

 

 力の差はある。それでも、追いつけないほどのものではないと思った。だからこそ、こんなにも悔しいのだ。届くかもしれない距離にいながら勝てないと思わされた。それが悔しい。

 ストライクドラモンは立ち上がり、少し頭を冷やすかとつぶやいて歩き出した。森で精神統一でもしておくかと考えながら。

 

「……まずは、暴走をできるだけ抑えねぇとな」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 さて、ストライクドラモンに発破をかけたのはいいのだが……本当に2日後くるか心配だったりもする。

 ああは言ったが、こっちからできることなんてもう何もないし、彼が自分で気が付かなければいけないことだ。誰かに背中を押されてもいいが、最終的に向き合うのは自分自身。

 

「暗黒を越えてゆけ、ねぇ……」

「カノン? 何その言葉」

「うーんこっちの話」

 

 過去に来る少し前に調べた資料の話だ。ゲンナイさんやバグラモンが回してくる予言やら古文書を調べたりもしているし、その中で面白いと思ったものはいくつか覚えているのだが……デジモンの進化に関して面白い記述が一つ。

 究極体への進化というのはそれはもう特殊なものらしい。ディアボロモンなどの例外もいるが、それはまた別の話として……普通のデジモンが究極体に到達するには、正も負も併せ持った心が必要になるらしい。

 

「通常進化が正しい心によるもの。間違った心を持てば暗黒進化となって、精神さえも蝕む。だけど、それを同時に行ったら?」

 

 ドルモンが究極体に進化したあの日、どちらかと言うと悲しい思い出というか嫌な面が脳裏によぎっていた。その上で、僕はそれを受け入れて前に進んだ。

 思えばそれがきっかけだったのだろう。

 くるりと手をひねると手の中に一本のナイフが握られていた。

 

「カノン、それ…………ピエモンのナイフじゃ」

「話に聞いたダークマスターズの? なんでカノンくんが……」

「――」

 

 クダモンが絶句しているが、別段驚くことでもない。

 怖がる必要なんてはじめからないんだ。それは誰の中にも当たり前に存在するものなのだから。

 

「人もデジモンも関係ないよ。大切なのは、否定しないことだから」

「…………そうだな。否定するばかりでは、何も解決しない。だが、それがどんな力かわかったうえで使っているのか? それとも……」

「わかってはいるし、別に模しているというかわかりやすい形でこれになっただけで特に意味は無いよ」

 

 別に暗黒の力が使えたからっておかしなことじゃない。ただ、体との相性が悪いというか少し引っ張られそうになるから多用するのは危険かもしれないが。

 とりあえずナイフを消し、肩をほぐす。

 

「んー、肩がこった。それにドルモン、僕は結構このナイフ使っていたと思うけど」

「でもそれもだいぶ前だったし……」

「まあそれもそうだけどね。魔法剣があったから使う必要はなかったし」

 

 これからも使う機会がない方がいいシロモノではある。

 さて、そろそろ集まった頃合いかなぁと集合場所に戻ることに。

 マキナたちはまだ訝しげな視線を向けていたが……また無茶した話をすることになるだろうから黙っていようと思いました。というか絶対に怒られるし。

 

「後で詳しく聞かせてもらうからね。いったいどれだけ無茶をしたのか」

「…………」

「カノンって絶対に将来は尻に敷かれるタイプだよね」

「てめぇ、あとで覚えてろよ」

 

 ◇◇◇◇◇

 

 さて、広場に戻ってきたはいいのだが…………え、これだけ?

 

「少ないかもとはおもったが、流石に少なすぎないか? 僕らを入れても二十人いくかいかないかって」

「すいません。何分負傷者が多いもので…………それに、戦うことそのものを怖がるものも多い」

 

 パンジャモンが申し訳なさそうにそう言うが、こちらも無茶を言っているし……

 

「でもあなた達の町なんでしょう! だったらなんで自分たちで守ろうとしないのよ!」

「マキナ、あまり言わないほうが……」

「いいえ、むしろそこまで言ってもらったほうがいいです。負傷とは言っても、2日後の戦いには参加できるものが多い……その多くが、目の前で死を見たことがないものたちばかり」

 

 今までこの世界は平和そのものだったのだろう。それが、ルーチェモンの封印が弱まったことで均衡が崩れた。そして平和な時代も終わりを告げたのだ。

 だとしてもデジモンには元来闘争本能みたいなものが備わっているはずなのだが……それでもこの消極的な姿勢はなんだ? なにかがおかしい気がする……

 

「カノンくん?」

「……この違和感はなんだろう。いくらなんでも消極的にすぎると言うか」

 

 なんというか、ストライクドラモンを見ていて進化しようと頑張っている連中も多いのかとも考えていたのだが……他のデジモンにそんな様子は見られない。

 むしろ少し町を見てきたが……進化の兆しが見えないのだ。

 

「――ここ最近で進化したデジモンは? 幼年期のデジモン以外でですけど」

「それだと、もう何年も前にライラモンが進化してそれっきりですね――あ」

「そういうことかよ!?」

「どうしたのカノンくん?」

「私も何の話かよくわからないのだが……」

「いや、妙な思い違いをしていたと思ってな。くそっ、これじゃあどっちが悪役かわかんないぞ…………」

 

 パンジャモンは気がついたようだが、そうなってくると話が変わる。

 だがその推測が正しいとも限らないし……というかこれだけでパンジャモンが気がついたのも驚きだ。

 

「私は昔旅をしておりまして、今でこそここに根付いていますがいろいろとこの世界の根幹部分も聞きかじっているんです」

「だからか……おかしいとは思っていたんだ」

「どういうこと?」

「そもそもなんで封印が弱まったのかって話だよ」

「そことデジモンたちが消極的な理由って繋がるの?」

「――そうか、リソースか!」

 

 そこでクダモンが気がついた。まさしくそのとおりなのだ。そもそもこの世界は限りあるリソースを用いている。僕らの時代だと容量オーバーになる事態はなかったからいいが……

 

「この時代だとそうはいかない。僕らの時代以上に一体の究極体がデータを圧迫する」

 

 小声でマキナたちにそう言うと、みんなも息を呑んだ。

 デジモンはデジコアがこの世界のサーバーとつながっているのだ。その影響を受け、進化の制限を設けられてしまった……

 

「それじゃああいつらがやっていることは……」

「容量の確保とも考えられる」

「そんな――それじゃあ、ウチらがやっていることって……」

 

 見捨てるのが正しい選択だなんてお思わない。とりあえず、現状を詳しく知りたい。なんとかイグドラシルに接続できないか精神を集中して――ッ

 

「カノンくん!?」

「く、イグドラシルのやつ……頭のなかを覗き込んでやがるッ」

 

 頭を抑えてうずくまるが、それでも奴の行動は止まらない。マキナたちが叫んでいるが……だめだ、音が遠く感じる。頭のなかをジロジロと覗きこまれているようで、とても気持ちが悪い。

 なんとかこっちも情報を引き出そうとするが……駄目だ。この時代だと観測データぐらいしか存在しないみたいだ。それだけにプロテクトも固い。

 

「――――」

 

 なんとか体を起こそうとするが、平衡感覚が失われそうになっている。

 焦りすぎたか……下手を打ったかとも思ったが、観測データがあるのなら……データ使用量のグラフがあるんじゃないか?

 そこに思い至り、なんとか検索していく。その間にもいろいろと見られていくが――奴がマキナとの出会いの日に目を向け――――

 

「てめぇ、それを覗くんじゃねぇぞ」

 

 ――自分でも驚くほど、底冷えする声が出た。同時に、見つけたい記録は見つかった。

 データ使用量…………え? その情報に驚きが生まれ、ばちんと弾ける音ともに接続が切れる。

 地面に腰を打ち付けるが、結構痛い。それに、これはかなり危険な手だったな。もう使わないようにしよう。

 

「か、カノンくん……だよね?」

「ああ。そうだけど、どうかしたか?」

「どうかしたのかじゃないよ。頭を抑えたと思ったら苦しそうな声を上げるし……それに、急に毛の色が黒くなりだしてびっくりしたんだよ」

「黒くなってた……でも変わりないようだけど」

「すぐに元に戻ったからね。カノン、一体今度は何をしたの?」

 

 ドルモンが呆れたように聞いてくるが、まあいつものことか。いや、それだけ無茶しすぎるんだろうけど。

 それにこれ自体は前からやっていた手でもあるし。使うの久々だったが。

 

「イグドラシルに接続したんだけど……記憶を見られた」

「それは大丈夫なのか? 未来の情報だぞ」

「それは平気だと思う。見られたと言っても、デジタルワールドに関してというより……僕の日常の方を中心に見ていた」

 

 とても興味深そうに。

 

「? よくわからないが……あのイグドラシルが、人間の日常を見たがったのか?」

「うん。そうなんだよ。そこがどうにもなぁ……容量も全然平気だったし」

「それじゃあなんでデジモンたちは」

「……原因は別のところにあるのか?」

 

 なんとなく地面に手をついてみるが――あ、そういうことか。

 

「なにかわかったか?」

「もっと話は単純だった……この世界、エネルギーが足りていない」

 

 ドルモンが進化しづらい時点で気がつくべきだった。みんなよくわかっていないふうだったが……どうやら、僕たちはただ単純にルーチェモンを倒せばそれでいいなんてことはないようだ。

 というかそれだったら十闘士のエレメントを集めなくても直接叩けばいいんだから……

 

「つまり、どういうこと?」

「こういうこと!」

 

 土のエレメントを少し解放して、地面に注ぐ。すると、デジモンたちが急に活気のある目になっていった。

 

「え、え!?」

「バランスが崩れてはいるんだろうけど……そもそも根本的にこの世界にはエネルギーが足りていないんだ。つまり十闘士のエレメントは封印に回していた力をデジタルワールドのために使えということなのか」

「だがルーチェモンを倒すためにも必要なのでは?」

「それはその通りだ。だけど、それだけなら十闘士の力を使わなくても、僕にエネルギーを集中させてブラスト進化を使わせればいい」

 

 実際、アポカリモンの時にそれができることを実証したし。エンシェントワイズモンなら気がついているはずだ。となると、十闘士のエレメントを集めるのはこの世界の修復などを行うためにも必要というわけだ。

 

「まあザンバモンを倒して木の神殿に行けばわかることだろうけどね」

「結局は話はそこに戻るのか」

「でも、活気が出てきたよ」

 

 とりあえず、勝機が見えてきたかな。作戦が必要だが――何よりもまず、モチベーション。

 

「よし、作戦会議を始めます!」

 

 まずは第一段階突破、かな。

 




というわけで、ザンバモン戦は次回。流石にこれ以上は引き伸ばさない。

それこそルーチェモンだけだったら制限解除しまくって直接送り込めば済む話なのよ。ただそのままだと流石にカノンたちも刺し違えることになるが。

結局それ以上のことがあるから旅をするわけですしね。

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