ザンバモンを撃退した翌日のこと。
とりあえずテントを張って昨夜は寝て対策の話し合いなどは今日に持ち越したんだが、明るくなると被害状況がよりハッキリとわかってしまう。
「ひどいことするよね」
「ああ。でも僕も魔力がすっからかんだからどうにもなぁ」
それに殺されたデジモンたちも多い。心に傷を負った住人たちも大勢いる。
町を見て回るが、復興には時間もかかるだろうしそれ以上に住人の元気がない。
「すみません。昨夜は助けていただきましたのに大したおもてなしもできませんで」
「いいえ。こちらこそもう少し早く駆けつけていられれば……ザンバモンもまだやってくるでしょうし」
町を案内してくれているのは、この町の長であるパンジャモンである。レオモンそっくりだったので、最初に見た時は驚いたが、よく考えたら色違い系デジモンって結構いるんだった……そもそも同名別個体も数多いし。ヌメモンとかかなりの数がいるんだよね。
話が脱線していくので戻すが、彼も完全体のデジモンで住人を守るために奮闘していたそうなのだが結構な齢だそうで、苦戦していたらしい。
「私含め完全体のデジモンたちはなんとか戦えていたのですが、それも多勢に無勢。成熟期とアーマー体ばかりとはいえあの数では……」
「それはまあ、たしかに」
「私の方はそちらのドルモンさんが来てくださってので、なんとかなったのですが」
そういえば、ドルモンだけ最後は合流できなかったんだよな。ライラモンがズルズルとストライクドラモンを引っ張っていったあとに駆けつけてきたんだけど、流石にもう終わったぞと言ったらショックを受けていた。
「ドルモンは反対方向に行っていたのか?」
「まあね。往生際の悪い連中もいたからぶっ飛ばしながら駆けつけたら出遅れたし」
「なるほどねぇ……で、パンジャモン。この町にはあとどれくらい戦えるデジモンが残っている?」
「それほど多くはありませんね。私を含めて負傷しているものばかりですから。それに、ザンバモンは本当に再び攻めてくるのでしょうか……どうにもそこが納得いきませんので」
「それは間違いないと思う。ああいうタイプの奴は自分で言ったことは本当に実行する。3日後――いや、2日後には必ずやってくるよ」
それが武人というデータを持ったデジモンなのだ――それとドルモンの話からおおよその検討はついた。未来において、タクティモンにデータの一部が引き継がれていたんだろう。彼の口調などとタクティモンのデータ。それにバグラモンたちが言っていたことから推察するに…………
「あいつら僕達がこの時代に来ることを知っていやがったな」
「カノン、顔怖いよ」
「なんか時々含み笑いみたいな顔を向けられると思ったら……通りであったことがあるような気がしたわけだよ」
生まれ変わりというわけではないのだが、これから先に起こるであろう何かも知っている可能性がある。ドルモンにザンバモンの攻略法になることがないか聞いてみたが、タクティモンはどうもあえてその部分には触れないように稽古をつけていたらしい。
「なんか隠しているなぁとも思ったんだけど、こっちの力を上げさせるぐらいにしか…………ごめん」
「いや、いい。となるとわかったうえで隠したか」
自分で思いつけってことだな。当たり前といえば当たり前なのだが、若干腹が立つ。
とにかく次にやってくるとき、ザンバモンを撃つ役と軍団を食い止める、もしくは排除するメンツが必要だな。
「僕の方は暫くの間使えないし、絡め手もどこまで通用するか……」
「私の制限をどうにかして解除できないかためしてみるか?」
クダモンがそう言うが、無理矢理に解除するとデジコアに多大な損傷を与えてしまう可能性が高い。ドルモンはプロトタイプデジモンのため、改造機構が内蔵されているからいいものの、他のデジモンでは危険過ぎる。
そのドルモンにしたって今は地道にやっていくしかない。
「やっぱり僕が直接ザンバモンと戦うしかないか」
「それは危険だよカノンくん」
「確かにそうなんだけど、現状打てる手が少ないんだ」
やってくるのは確実。だが、戦力の増強ができないため限られた手札でどうにか対処しなくてはいけない。
協力してくれる住人を探したいところだが、町の様子じゃ期待もできないかも知れない。
だけど、そこでマキナが目に涙を浮かべて僕を睨んだ。
「なんでカノンくんがそこまでするの! 別にウチだって見捨てるつもりなんてないけど、それにしたって突っ走り過ぎだよ!」
「たしかに究極体相手に戦いを挑むなど正気の沙汰ではないぞ」
「それはわかっているんだけどね……でも、立ち止まれないんだ。どんな壁だろうと、困難な道だろうと。僕はそれを切り開いていく。心のままに動いているだけなんだから」
「まあこれまでだってもっと絶望的な状況は何度だってあったしね。それでも前に進むことがおれたちの力なんだ。だから、来るんなら迎え撃つ」
その様子にマキナは口を閉ざす。心配をかけすぎたなとも思うし、無茶をしすぎるのも自覚している。それでも、僕は――いや、僕たちは立ち止まれない。立ち止まってはいけない。
運命の紋章は間違いなく僕自身の心と特性を表してもいる。”運命を切り開く力”こそが僕達の進化の原動力。ならばこそ、立ち止まってはダメだ。
「ほう、言うじゃねぇかガキが」
と、そこで僕達の目の前に一つの影が現れた。その姿を見たマキナが僕の後ろに隠れ、僕もそいつを警戒する。わかって入るのだが、また暴走しないとも限らないし。
彼――ストライクドラモンは不敵な笑みを浮かべてこちらを睨んでいた。いや、目は見えないのだが……睨んでいるんだよな?
「おいおい、警戒しまくりじゃねぇか。どうしたよ、この俺が怖いのか?」
「いや、また暴走でもされたらまたらないって」
「? 何の話だ」
「ストライクドラモン。常々言っていることですが、君は自分の力を制御する修行をしなさい。昨晩はこちらのお嬢さんに襲いかかっていたんですよ」
「はぁ!? いや、そんなわけが……あ」
どうやら暴走していた時のことは覚えていないらしいが、どうも思い当たるフシがあることに気がついたらしい。その直後、彼の上に何かが落下して彼の頭を蹴り飛ばす。
「はいお説教はまだ終わってないからねぇ!」
「だからって、蹴る奴があるか……」
「たしか、ライラモンだっけか」
「はーい。ライラモンでーす! ごめんね、こいつがまた迷惑かけたみたいで」
「いえ、それはいいんですが」
問題は後ろのマキナである。さっきから銃口を向けているが、そんなに怖かったのだろうか?
いや、怖がっているというより目が据わっている。
「えっと、マキナさん?」
「リベンジ、リベンジよぉ」
「何を言っておるのか」
「マキナは負けず嫌いなところがあってな。ウィッチェルニーでも大変だった」
「そ、そうですか」
意外であるが、奴との再戦をしようとしているのか。だったら後ろに隠れるなと、チョップを入れておく。頭を抑えてうずくまっているが、少し頭を冷やしてもらおう。
ドルモンとプロットモンがえげつないものを見る目を向けてくるが、気にしないことにする。
「で、ストライクドラモンはなんのようなんだ?」
「いてて……いや、面白いことをいうガキがいるからな。ちょっと腕試しをしてみたくなっただけさ」
「無理よ。あんたじゃ勝てないわ」
「なんでライラモンが否定すんだよ!」
「だって昨日、ザンバモンを追い返したのはこの人たちなのよ」
「なんだと!?」
記憶がないのなら知らなくても無理はないが、そもそもこの話伝わっているのか? パンジャモンにそれとなく聞いてみると、一応町中に知らせは届いているとのこと。
それなら昼辺りに作戦会議を行うから、戦えるものは招集してほしい。
「分かりました。どれほど集まるかはわかりませんが、声をかけてみます」
「すいません、いろいろと頼んでしまって」
「いいえ。こちらこそ、町のためにありがとうございます」
そう言うとパンジャモンは去っていったが、ストライクドラモンたちはまだ残っている。
「で、まだ何かあるの?」
「話は一つだぜ。俺も次の戦いに参加させてもらう」
「パスで」
「何だとゴラァ!」
いや、簡単な話だ。
かなりのポテンシャルを有しているが、その実爆弾でしかない。
「ウィルス種混在のメンバーに、暴走の危険性がある君を入れるのはリスクが大きすぎる。内側から瓦解したら意味が無いんだ」
「何言っていやがるんだ。俺がやるのはザンバモンとの戦闘だ!」
「それこそ無謀だよ」
「同じ成熟期のてめぇにできて俺にできないってのか!」
「うん」
「――このやろう、言わせておけばッ!」
そう言って、ストライクドラモンは僕に掴みかかってくるが――それをライラモンが掴んで振り回し、地面に叩きつけた。というか、鮮やかすぎるんだが……なんというかかなりの回数手慣れた感じの技。
「まったくいつもいつも突っ走るんだから! こっちの身にもなってよね!」
「う、うるせぇ」
「そんなんだからいつまでたっても成熟期のままで進化できないのよ!」
「チクショウ…………」
なるほど、無茶をしたらそれを止める役目なのか……だけどみんな、なんでそこで僕の方を向くのかな。
「だって無茶をするのはカノンも同じだし」
「むしろ止める人がいない分たちが悪いよね」
「右に同じだな」
「です」
「お前らなぁ……」
無茶と無謀は違うっての! こっちだって無茶をして勝てる可能性があると判断したから無茶をするのであって、具体的な勝ち筋もないまま挑むのとは違うんだよ。
しかしそれでもストライクドラモンは納得していないのかすぐに立ち上がり、僕に爪を突きつけた。
「なら証明して見せればいいんだろう。俺がお前に勝てば話は早いだろう」
「そういうことでもないんだけど――いいよ。やってやるよ。一回ここでぶっ飛ばしてやる」
「なんでそうなるのかなぁ……」
「カノンも男の子ってことだよ」
「ウチには分かんないや」
そこ、外野は口出さない。
◇◇◇◇◇
そんなわけで、町外れの開けた場所でストライクドラモンと組手をすることに。
魔力もほとんど残っていないので、体内の電気を身体強化にまわして完全な肉弾戦で挑むしかないか。戦っている最中に気がついたんだが、アイギオモンというデジモンは体内に強い電気が流れているみたいなのだ。
マキナたちには言わなかったが、僕が勝負を引き受けたのは今の体の使い方を覚えたいからというのもある。ただ筋トレのように動かすより実戦のほうが身につく。必要なのは戦闘技術だし。
「まあとにかくかかってこいよ。ぶっ飛ばしてやるから」
「んだと、ふざけてんじゃねぇぞ!」
奴の爪が僕を狙い、迫ってくる。なるほど、確かに成熟期の範疇を超えた力を持ったデジモンだ。自信は自らの実力に裏打ちされたものだったらしい。
だが、僕はその爪……いや、腕を掴んで腰を落とし、ストライクドラモンの体を浮かせる。
「なっ――掴まれただと!?」
「真っ直ぐすぎるよ! それじゃあ簡単に対処できる!」
デジモンの進化は様々なものがあるが、パワーアップという面においては大きく分けて2つだ。力そのものが大きくなるパターンと、技などの能力が上がるパターン。
武人系は後者に属し、ザンバモンも剣技などを使ってくるタイプだ。そんな奴に対する方法はいくつかあるが、これも大き分けると……
「それに対処する方法は2つ。自分の有利な性質を活かして技を封じるか、相手を上回るか」
「この、叩きつけやがって――だったら、これならどうだ!」
ストライクドラモンが炎を体にまとい、突撃してくる。そこから繰り出されるラッシュ。少しはフェイントも入っている上に、近づいたら危険だが――身体強化をすべてスピードに回して一気に加速する。
奴の攻撃をかわし、背後に回りこんで拳を叩き込む。
「――ッ!?」
「そのどちらもできないのなら、こうして負けてしまう。僕のする無茶ってのは、この条件を満たすために行うものだ。それができないのなら、ただの無謀になる」
だから策は事前に用意しておく。
たとえボロボロになろうとも、命を削ろうとも、敗北や死を越えるのならば僕は無茶をする。
なぜならば死んでしまえばそこで終わりだからだ。いや、より正確に言うならば――
「僕が死んで、誰かが犠牲になるのが嫌だからだ。ここで倒れたら次は僕の見知った誰かが傷つくことになる。それがいやだから、無茶をしちゃうんだけどね……で、動けるかい?」
「くそ、体がしびれて動かねぇ……」
「これもまた有効策の一つ。相手の動きを封じる――君は完全なパワータイプだし、相手を上回るやり方を模索したほうがいいと思うな」
「ッ――だったら、てめぇはどっちだってんだよ」
「そりゃ簡単。両方だよ」
「この、ふざけてんじゃねぇ」
「ふざけてないよ。最終的には、そこに行き着く。究極体相手になるとパワーと技、両方が必要になるんだ」
そこで、ダークマスターズとの戦いを思い出す。究極体の力とそれぞれのデジモンに合った対処法が必要だった。それほどまでに、究極体ってのは厄介な存在なのだ。
「ってわけで、出直してきな」
「この――――」
それだけ言い残し、この場をあとにする。ライラモンがストライクドラモンに肩を貸しているのが目に入ったが、すぐに視線を外して去る。
マキナたちがなにか言いたそうだが、別段気にする必要もなさそうだ。やり過ぎじゃないのかとかって話だろうし。
「べつに、やり過ぎだなんて思ってないよ。それに、2日後には絶対に参加してくるだろうし」
「え? 戦わせないためにあえてプライドをズタボロにしたんじゃないの?」
「いや、そこまで外道じゃないからね。だったらもっとエグい言葉で心を折りに行くぞ……そうじゃなくて、あれはヒントなんだよ」
「?」
まあ今はわからなくてもいいけど。
とにかく話し合いがある。僕の見立てではこの町で一番のポテンシャルを持っているのはストライクドラモンなのだが……願わくば、気がついてほしいものである。