ドルモンたちのおかげでだいぶ時間を短縮することに成功した。だが、それでも僕たちは未だに目的地の集落にだどりつけていない。時間にして丸一日といったところだろう。できることならザンバモンの軍勢がたどり着く前に到着したいところだったが……ドルモンたちの体力のこともあるため、現在は走って先へと進んでいる。休憩をはさみながら、進化も温存していた。
「っていうか、なんで前の集落のデジモンはザンバモンのこと知っていたの?」
「これから行くところはこの一帯で一番大きい集落。物資とかも集まりやすいし、築地市場みたいなのもあるんだと。だから援軍を送るつもりだったところにあのデジモンだよ」
マキナからの問にすかさず答える。
もしかしたらサイクロモンは尖兵というか援軍を潰すために送り込まれたデジモンなのかもしれない。だとすれば、他の集落にもデジモンが送り込まれている可能性がある。
だが、時間的にもそちらに行くことはできない。
「それに、強いデジモンってわけでもなかった」
他の集落ではなんとか撃退してくれていることを祈るしかない。
相手が戦略を考えた行動をするのならば、大将は後ろにいるはず。全体を見舞わせる位置を陣取る可能性が高い。こういう時、アナライザーがあればとつくづく思う。いや、この時代だとどのみち使えなさそうだが。
「うーん、武人系……」
「どうかしたか、ドルモン?」
隣を走るドルモンが何かを考えているので聞いてみるが……頭をひねるばかりだ。
「いや、なんとなく聞き覚えのある組み合わせがなぁって……なんだろう、何かが引っかかるんだけど」
「ザンバモンの攻略に役立つ情報か?」
「うーん……そういうのじゃないんだよね。でも、気になる」
「悪いけど、今は刻一刻を争うんだ。ルーチェモン復活までの時間を稼ぐためにもザンバモンを迎え撃たないと」
とにかく急ぐべし。足に力を入れてかけていく。
軍団の方は見てから出ないと対策を考えられないが、とにかくでかい魔法を撃ちこんで分散させること。あとはザンバモンの対処を考えなくてはいけないが……虎の子をここで使うことになるかもしれない。
秘策中の秘策だが、出し惜しみできる状況じゃない可能性もある。
「……術式の準備だけはしておくか」
戦闘中に用意できるような代物でもないし、ストックだけはしておくことにする。戦闘のためのリソースも考えると用意できるのは2つまでか。心もとないが、ないよりはいいか。
やがて、集落――いや、あの規模だと町と言っていいだろう――が見えてきた。
「カノンくん! 見えてきたよ!」
「わかっている! 僕とドルモンが先行する。マキナたちはあとから続いて援護しながらだ!」
「わかった!」
◇◇◇◇◇
町は燃え盛り、デジモンたちは逃げ惑っていた。それを追うのはザンバモンの部下であるムシャモンとヤシャモンの軍勢である。彼らはデジモンたちをおいたて、切り刻んで消し去っていく。力の強いものが抵抗し、何度か押し返してもいるのだが――それでも多勢に無勢。状況は悪い。
「くそっ! こいつらキリがねぇぞ!!」
みんなを守るため、壁役に徹していたデジモンたちが一人、また一人と倒れていく。
それでも彼らは立ち向かい、そして敗れる。
「ヒャハハハハハ!! オメェらの中でも強い奴らはいるみたいだが、数が足りねぇな! あのストライクドラモンはいいセンスしているが突っ走りすぎだぜ。向こうのほうで俺たちの軍団と一人で戦っているよ」
「気をつけよ、ヤシャモン分隊長。そのせいで我らが大将が後方にて次の一手を打つために準備しておるのだ」
「はいはい。まったくあの方も用心深いこって」
「我らが主は勝機を確実なものにするため智謀を巡らせておるのだ。しかし、それも我らが抵抗するデジモンたちを排除すれば住むことであるがな!」
そうして、ムシャモンの一体が町のデジモンに斬りかかろうとし――消滅することとなる。
「――――な、に」
「ムシャモン!?」
「敵襲だと、一体どこから――!?」
雷がほとばしり、彼らを焼きつくす。町のデジモンたちには一体何が起きたのか分からなかったが、直後に空から一体のデジモンが降ってきた。上を見ると、珍しい機械の体を持ったデジモンが飛んでいるではないか。
「サイボーグ型……機械都市のデジモンか!?」
「生憎だけど、そんなけったいなところから来たわけじゃないよ」
その言葉に前を見ると――そこに立っていたのは、一体のデジモン。白か緑の髪に三本の角を生やした人型のデジモンだ。町のデジモンたちも見たことがない不思議な雰囲気をまとったデジモン。
「僕はカノン――いや、君らにはアイギオモンって言ったほうが通りがいいかな?」
「君はいったい……」
「なーに。ただの助っ人さ」
それだけ言うと、彼は走り出していく。その方角はザンバモンの率いる軍団が押し寄せてくる方角であった。まさか、本当に助けが? そう思っていたら後ろからこれまた人型のデジモンとその肩に乗った二匹の獣型のデジモンが現れる――いや、二匹はどちらも聖なる気をまとったデジモンだ。
「まったく、ねぇプロットモン。いつもあんな感じなの?」
「そうです。毎度のことでなれたです」
「はぁ……あ、この町の方ですね」
「は、はい……失礼ですが、あなた方は?」
「ハヌモンの集落からやってきた援軍です」
その一言で、なるほどと納得する。あの集落とは交流もあったため、彼がよこした援軍なんだろうとわかったが……それにしては強すぎるではないか。
「あの集落に彼ほどの強さのデジモンがいたとは」
「あ、あはは……」
そう言うと、彼女――
「とにかく、ウチたちも援護に向かいますので、これで!」
マキナたちもあとから続いていく。肩に乗せたプロットモンが吠え――ホーリーリングがマキナの手首へと移動した。クダモンもマキナの銃に入り準備を完了させる。
「いくよクダモン! 発射っ!!」
銃が撃ちだされ、クダモンが銃口から飛び出し――その姿が変化する。ホーリーリングの作用により強化されたマキナの魔法がさらなる進化をクダモンにもたらす。
四肢は大きくなり、背中からは翼が生える。緑色のそのデジモンの名は――
「進化、チィリンモン! マキナ、背中に乗れ!」
「うん! プロットモンもしっかり掴まっていてね!」
「はいです!」
一気に加速していき、戦闘区域へと飛び込んでいく。
すでに被害も大きくなってしまい、大勢のデジモンが倒れた。悲鳴と怒声、そしてあざ笑うような声。
「……ねえチィリンモン、ウチね…………すっごくムカついている」
「ああ私もだ――行くぞ。奴らを吹き飛ばす!」
「あんたら、覚悟しなさいよ!!」
空へと飛び上がり、そのまま一気に流星となり地面へと激突する。その衝撃により、ムシャモンたちが吹き飛ばされ宙へと投げ出された。あまりの衝撃に身動きが取れなくなり、その胸を銃弾が貫く。
チィリンモンの背に乗ったマキナが動けなくなったムシャモンたちを撃ちぬいているのだ。あまりにも早い動き、正確な一撃。さらにホーリーリングで強化された力により暗黒の気をまとうデジモンたちには強烈な効果が現れている。
「さあかかってきなさい! ウチたちがまとめてみんなぶっ飛ばしてあげるから」
◇◇◇◇◇
一方で、先行していたカノンたちであるが――こちらも、ヤシャモンたちを吹き飛ばしながらの進軍である。
彼らをみて、アーマー体のデジモンであることに多少は驚いたが、古代種の生きている時代だから当たり前かとすぐに思考の外へと追いやられている。そもそもこの時代に古代種なんて言葉も無いが。
「何だ何だ! お前ら弱すぎんぞ!!」
「くそっ! ストライクドラモンといい、どうなっていやがるんだ!!」
「合流させるな! ただでさえ手がつけられない相手なのに複数まとめて相手なんてしてられねぇよ!」
(ストライクドラモン? 抵抗しているデジモンたちがいるのか……それに、こいつら)
まるで烏合の衆だ。いや、より正確にいうのならば一体一体はそれほど強くなく、物量で押すタイプのデジモンだ。それにこの戦いかた……
「なるほど、古代だからか!」
「カノン、どういうことだ?」
「情報が古いんだよ! 人間界のデータが流れてきていることは流れてきているだろうけど、予想以上に昔の時代なんだろうな」
デジタル情報でできた世界だから、デジタルワールド自体がかなり近代に生まれた世界かと思っていたが、違うのだ。おそらくはデジタルという概念が生まれた時から――いや、人間の影響をここまで受けているのならば人類誕生と同じかもしれない。その辺りの推察は情報も少ない上に今することではないが。
「プテラノモンのことを考えると、大体の時代の予測は建てられるけど――それでも、こいつらの蓄えている情報量はそれほど多くない!」
カノンが生きている時代のデジモンよりも格段に弱い可能性さえもある。個体差もあるだろうが、彼らではカノンたちの敵にもならなかった。
それもそのはずだ。カノンたちが今まで相手にしてきたのは、いずれも強大な闇の力や規格外の力を持った存在たちだった。そんな奴らと命がけの戦いをしてきた彼らにとって、今更闇でブーストしているとはいえアーマー体や成熟期ごときでは勝てるはずもない。
「ラプタードラモン、ここはお前に任せた! 僕は先行してザンバモンを迎え撃つ!」
「おいカノン! 相手は究極体だぞ!?」
「大丈夫、我に秘策ありだから!」
結局また無茶すんのかよという言葉を背に、カノンは更に加速した。
体から電撃を放出し、向かってくる敵を弾き飛ばしながら突き進み――その先に、一体の武人が現れる。
「ほう……戦況が安定しないところをみると、奴らは失敗したか」
「お前がザンバモンか――」
カノンは目に捉えることで、デジモンの断片的な情報を見ることができる。究極的、ウィルス種。それにデータ量がムシャモンたちの比じゃない。わかっていたことだが、格が違う。
それでも引くわけにはいかない。すでに間に合わず大勢のデジモンたちが倒れた。
「ここでお前を倒さないと、後でどうなるかってね」
「胆力もある。それにこの私を目の前にしてなお立ち向かうその気概――面白いな貴様。名前はなんという?」
「橘カノン……お前らにはアイギオモンって言ったほうがいいか?」
「どちらも聞かぬ名前だが――お前、我軍に入らぬか」
「生憎だけど、そんな気はさらさらないよ――それに、僕の目的の先にはルーチェモンがいる」
「…………なるほど我らが総大将を。カカカ、面白いことを言うな――ならばここで殺すしかあるまい」
「言ってやがれッ!」
横へと飛び、ザンバモンの攻撃を避ける。ザンバモンは下半身が馬のような形で、その上に人型の上半身が付いているデジモンだ。と言っても、ケンタウロス型ではなく、馬の背に人の半身が付いているといったほうがいいだろう。
両手にはそれぞれ剣を持っており、強烈な剣技を放つデジモンだ。
「――なんというか、僕あんたと会話したことあるような気がするんだよね」
「私には覚えがないが」
「まあ気がするだけだよ――つーかなんて馬鹿力」
地面が割れているではないか。これは正面から受け止めきれない上に、スピードも負ける可能性がある。流石に究極体相手では分が悪すぎる――そのままの姿だったら、だが。
カノンの体から電撃がほとばしり、体中を覆い始める。
「何――?」
「ウオオオオオオオオオオオオ!」
手袋の色が黄金にかわり、マフラーが翼のような形へと変化する。
髪が伸びていき、体から放出される電撃の量がどんどん増していった。
「貴様、それは一体――」
「バーストモードッ!!」
デジコアのリミッターを解除し、一時的にであるが潜在能力を開放するバーストモード。それにより、カノンの姿に変化が現れたのだ。もっともこの時代にはバーストモードと言うもの自体が知られていないためにザンバモンには進化とは異なる未知なるパワーアップを行ったようにしか見えない。
その虚を突かれ、飛び上がったカノンの蹴りがザンバモンの顎に直撃する。
「――貴様、いい度胸をしておるわ!」
「さあここからが本番だ。気合入れてかかれよ!」
自分に言い聞かせるように、カノンが気合を入れる。
直後に、二体のデジモンの激突があった。
轟音と衝撃があたりに撒き散らされ、ザンバモンを援護しようとしていたデジモンたちも吹き飛ばされる。
戦いはまだ、始まったばかりだ。
まだ次回に続くよ。そして、プロットモンは仲間のサポートなどの方向性に。メフィスモンの時にもやっていたけどね。