主人公に設定が加われば加わるほど、調べることが多くなっていく。
前回のあらすじ。デジメンタルが体内に入りました。
「……さて、どうするか」
「どうするかじゃないよ! デジメンタル回収しないといけないのにどうしよう……」
なぜ、僕の体に入ってしまったのかはわからないが……物理的に入ったというよりデジメンタル自体が僕の体にインストールされてしまったと考えるべきだろう。
とりあえず取り出せないか集中してみると、すぐに手のひらに出現した。
「ふぅ、これで大丈夫か」
「…………ダメ。デジメンタルの力は外に出てきているけど、大本の部分はまだ君の体の中」
「出力できるってだけで取り出せてはいないのか……困ったな」
「うーん、とりあえず寝床にもどって通信してみないと」
そういうバステモンに連れられ、再び彼女の寝床に戻る。ちなみに、岩壁を封印していたのはマーメイモンが人間に余計なちょっかいを出さないようにするための物だったようだ。
この周辺にも彼女の仕掛けた魔術が色々と仕込まれていて、これが結構面白い。
最初にきた彼女の寝床も、テクスチャを貼っていたアレとか色々と手が込んでいる。
「みゃぁ……やっぱり通信状況がよくない。バステモンは本格的に魔術使っちゃおうと、疲れて頭が弱くなるんだけどなぁ」
「通信、機?」
「なんか…………すごくデジモンっぽいんだけど」
テレビっぽい形のデジモン……幼年期か成長期か、どっちかは分からないがたぶん強くはない。
「こいつはモニモンって言って、通信機の代わりに置いておいたんだけど…………この子ずっと寝てるから静かなの」
「そいう問題じゃないと思うけど」
「ちょっと待ってて。モニモンのリンクをたどって通信を試みるから」
バステモンはそう言うと、モニモンを中心に魔法陣を展開していく。そこに書かれている文字は相変わらず読めないが……あれ? なんとなく、理解できている。
最初に見たときはわけがわからなかったのに、なんとなく力の流れがわかるというか……
「……?」
「きたきた。通信来たよぉ……ホメオスタシス様たち最近忙しいみたいだし、つながってくれるといいんだけど」
「なあドルモン、ホメオスタシスって知ってる?」
「うーん……ごめん。記憶にない」
ドルモンも知らないのか。イグドラシルと合わせて語られているし、神様みたいな存在なのだろうか? それとも賢者みたいな人……いやそもそも人かどうかもわからないか。
その後もバステモンは通信を試みているが、やがてえっという驚きの声と共に魔法陣が消える。
「……むぅ」
「どうしたの?」
「なんか、向こう側も大変みたい。こりゃ一回帰った方がよさそうねぇ。デジタマも持って帰らないと」
「え、デジメンタルは?」
「取り出せない以上、そのままにしておくしかないって。まだ未調整の素体だったから進化の方向が決まっていないものなのに使えたんなら、そこに意味があるんだろうって」
「未調整の素体って……危険なんじゃ」
そうなると速く取り出してほしい。え、大丈夫だよね?
かなり心配になって顔が青くなっているのがわかる。ドルモンも大丈夫なのかと睨んできているぞ。
「大丈夫大丈夫。デジメンタルを使えるようにしたのは君の力だから。君がしっかりしていれば、危険はないよ」
「僕の力?」
「それに、おまけもついてきたみたいだしね」
おまけって何だろうか。バステモンは悪戯っぽく笑うと、僕の顔に手を当てて顔を近づけてきた。直後、僕のおでこに何か柔らかい感触が――
「って、何をするんですか!?」
「むふふー。バステモンからのお別れのプレゼント。きっと役に立つよ」
「いや、意味が分からない……あれ?」
なんだか知識が増えたというか、バステモンが使っていた魔術が唐突に理解できるようになった。それだけでなく、デジ文字も読めるように……どういうことだ?
「ちょっとカノンの頭にバステモンの知識をインストールしたの。デジメンタルが魔力炉の代わりをしてくれるから、魔術も色々使えるよー」
「…………なんか、いきなり危ないものを渡されたような気がする。っていうか渡したよね」
「むふふー。それじゃあ、二人とも。また会おうね!」
それだけ言うと、バステモンの足元に魔法陣が現れて、眠ったままのモニモンと回収したマーメイモンのデジタマを持ちながら――一瞬、まばゆい光に包まれたと同時に、彼女はこの場から消えていた。
あたりには静寂が戻り、この場も普通の洞窟へと変貌していく。
「なんだか、どっと疲れたな」
「そうだねぇ……今のってデジタルワールドに戻ったのかな?」
「たぶんな。疲れそうなことをして……向こうに戻ったらこっちでのこと忘れてないだろうな」
頭が弱くなるって言っていたし。最初、寝ぼけているどころか大事なことを忘れていたのはそういう事だろうし。
「でも、少ししたら思い出すんじゃない?」
「だといいけど。はぁ……帰るか」
「だね」
洞窟から出ると、日が傾いていた。夜になっていないだけマシ……というか案外時間が経っていなかったな。結構濃密な感じだったが。
父さんたちのところへ戻ると、おでこについたマークを母さんが見つけてアレコレ聞いて来てとてもウザかったというオチが付いたが……まあ、それはどうでもいいことだろう。
◇◇◇◇◇
日本に戻り、インストールされてしまったデジメンタルについて考えている。デジメンタル自体はいつでも取り出せるが、特に指向性を持たせないと最初の真っ黒いタマゴのようなオブジェが出てくるだけだった。
デジメンタルというのは通常進化とは異なるらしく、強制進化というか、一時的なパワーアップのようなものらしい。属性や性質はデジメンタルの種類に左右され、デジモンとの相性もあるみたいだ。
「サラマンダモンに進化した感じ、相性はどうだった?」
「うーん……悪くはないけど、良くもない感じだと思う。ドルガモンの時と比べるとなぁ」
「なるほどね。この前みたいに狭い場所でなら優先するけどそれ以外ならドルガモンに進化した方がいいか」
今回のことでこっちの世界にもデジモンがいる可能性は高まったというか、他にもいるんだろう。ダークリザモンみたいにすぐさま襲ってくるばかりじゃないというのが分かっただけでも良かったが……
「…………となると、アイツもデジモンだったのかな」
「アイツって?」
「ほら、ヒーローショーを見に行ったときに会ったアイツだよ」
「見た目は人間だったけど……」
「魔術を使えるデジモンだったんだろうな。人間に擬態する魔術もあるみたいだ。結構難しいみたいだからバステモンは鋭い爪とかを隠す程度しか使えなかったみたいだけどね」
デジモンのにおいまでもごまかしていたんだろう。それでも完全ではないらしいが……
できれば二度と会いたくないが、いつまでもスルーし続けるわけにもいかないか。
「来年からは僕も小学生だし、日中に動ける時間が無くなりそうなんだよなぁ……今のうちにやれることはやっておくか」
「やれることって?」
「うーん。せっかく貰ったんだし、ちょっと練習もかねて街に出てみるか」
デジヴァイスを掌に載せて、魔法陣を展開させる。この間バステモンに反応を示した時はどういった理由なのかはまだ分かっていないが……デジヴァイス自体にまだ使われていない機能が多く存在しているのは分かっている。
まだ使えない機能があるが、習得した魔術を使用して何とか使えないか試してみる。
「んー、近くにはドルモン以外の反応が無いな」
「デジモンが近くにいるか調べているの?」
「ああ。まあいないっぽいけどね。この前のアイツも近くにはいないみたいだし」
あんな強烈な気配だったら引っかかると思ったんだけど……もう周辺にはいないみたいだ。まあいないならいないでいいんだが。
とりあえず外に出てみてアレコレ試してみたのだが、人前で使うには目立つものも多い。それに、術式の構築がやたら面倒である。オカルトとかファンタジーなものではなく、魔力というエネルギーを使って情報の書き換えを行っているというべきか……書き換え前と書き換え後の状態をちゃんと計算しないといけないのだ。
前に調べたコンピューター関連の知識と照らし合わせると、デジモンの使う魔術というのは高級プログラム言語で構成されているのがわかる。やろうと思えば色々と幅広いことができるのだろうが……
「くっそめんどい」
「カノン、顔がひどいことになってるよ」
「分かってる」
身体強化するなら、使われるエネルギー量と強化値、体に負荷がかかり過ぎないように防御も設定しないと行けなかったり、意識をそらす魔術なら盲点に入るように自分の体にステルスをかけるのだが……体を動かしても大丈夫なように設定するのがかなり大変だった。
とまあ、一朝一夕じゃどうにもならない技術であることが判明したのである。これ、魔術を使えるデジモンは最初からサポートされるソフトみたいなのがインストールされているんじゃないか……演算をしないといけないとかひどすぎる。バステモンが疲れるって言った意味が分かった。ウィッチモンだった時にって言っていたが名前の響きからするに魔女を模したデジモンが進化前の姿だったんだろう。
最初から使うための素養があったから色々出来たんだろうなぁ……
「知識をくれただけでも大助かりだけどさぁ……テンプレを用意するしかないか」
「テンプレ?」
「テンプレート。まあ、身体強化の数値をあらかじめ作っておいて、用意しておくみたいな感じかな。いちいち計算しなくてもあらかじめ数値を覚えておけばその通りに使えばいいわけだし」
実際に利用できるのは身体強化とデジモンのサーチ機能ぐらいだけど。サーチ機能の方はデジヴァイスの機能を増幅した形だしなぁ……
三年の間にやることが増えたよ。ハァ……
◇◇◇◇◇
その後は特に大きな事件もなく日々が過ぎていった。ドルモンは相変わらず特撮好きで、テレビを食い入るように見ているし、ヒカリちゃんもドルモンに会いに時々来ていた。ドルモンも悪い気はしないらしく、撫でられると気持ちよさそうだった。
あと、エネルギー効率が上がったのかドルモンに進化しても大食漢じゃなくなっていたのには驚いた。おかげで、この方が良いからと家の中ではドルモンになったままである。
僕の方は他にも魔術を使えないか色々と試してみたが……なぜか電気を発生させる魔術だけはすぐに習得できてしまった。適正でもあるのだろうか?
デジメンタルについても調べているが……どうにも上手くいかない。前みたいにバーコードを読み取るみたいに解析してみたけど……複雑すぎてさっぱりだった。ドルモンのインターフェースに触れて何かできないか試したときには、指向性を僕が入力している形というのは分かったのが収穫だろう。
これでサラマンダモン以外のデジモンにも進化できる可能性が見えてきた。
そんな風に日常が過ぎていったが、ついに僕は小学校に入学する日がやってきた。
……正直なところ、自分でもひくが勉強の方は復習と呼ぶには初歩的すぎるのですが。
憂鬱だなぁ……ドルモンは流石に連れてこれないから家にいてもらっている。一応、自衛の手段は確保したし。
とまあそんなわけで、残り二年。それまで何事も起きなければいいんだけど。
だけど、そううまくはいかないのが世の常である。
選ばれし子供たちがそろう、あの事件の前に起こった出来事。これは僕とドルモンが出会った不思議な少女との思い出だ。
小学校に入学して、周りとのギャップに悩みながらもなんとか慣れようとしていた、梅雨のある日の話。
そう、たしかあの日は梅雨時で珍しく快晴だったけど、一人教室に残ってどうしようか考えていた時のこと、彼女に話しかけられたのはその時だった――――
デジモンの使う魔術は高級プログラム言語。これ、公式設定ね。
そのためチラッと調べてきたけど……無理だわ(笑)
なので無茶苦茶なことはできません。作中でも言っていた以上のことは厳しいという感じに。
デジメンタルについても、D-3ではないですが使用できているのは理由があります。