PCの変換機能が調子悪くなりいろいろとてこずりました。
日の出を感じ、目覚めて集落を見回してみると思ったよりも被害はひどかったようだ。
マキナたちはまだ寝ているみたいだし、とりあえず一人でも見て回ってみることに。
あたりの家は壊されているし、地面は焼け焦げている。それにあちこちデータが崩れてしまって屑データ化している部分も……デジモンの構成情報のかけらみたいなのも見える。
現実世界とは違うが、これは人間で言うところの……
「血痕、ってところか」
こぶしを握る力が強まる。
だが、ここで憤っていても意味はないのだ。
とりあえず集落を直すことから始めよう。幸い全壊というわけではない。残った部分を修復しながら手を加えれば何とか住める形にできるはず。
地下水脈もあるみたいだし……井戸も作っておこう。あとは今後も攻められないようにいろいろと防護のためのものを作っておいて……これは腕が鳴るな。
◇◇◇◇◇
「んぅ……朝?」
ウチは疲れも残ったまま目を覚ました。ウィッチェルニーでの修行で疲れには慣れていると思っていたのだが……精神的にダメージを受けるような出来事は少なかったから、気落ちしていたらしい。
横を見てみるとクダモンはまだ起きていないようでまだ寝ている。ドルモンとプロットモンもまだ寝ているみたいだし――でもカノン君はもう起きているらしい。ただ、寝るときに外したであろうゴーグルだけが置きっぱなしだけど。
「……届けてあげるか」
そういう建前にして、本当は会いたいだけだけど――いや、それも少し違う。
昨日ウチたちはひどい奴だったとはいえデジモンを殺した。ヨウコモンの時のことがあるので強いショックを受けているわけではないし、不思議なんだけど戦うこと自体には忌避感を抱いていない。
「カノン君なら何かわかるのかな」
今、一人でいたくない。だけど寝ているみんなを起こすのは忍びないからカノン君に会って話して気を紛らわせたいのだ。
借りていた部屋からでて外に出てみると……そこにあったのは信じられない光景だった。
確かに昨日はサイクロモンによってこの集落は破壊されたはず。それなのに、ウチの目の前にあったのは集落を超えたナニかだった。
「なにこれ!?」
一体どうなっているというのか。あたりを見て回ってみると傷ついたはずのデジモンたちにもわずかながら活気が戻っており、材木か何かを運んでいるのがわかる。
その一人にぶつかりそうになり、慌ててよけるが相手もすみませんと言いながら頭を下げていた。
「えっと、これはどういうことで?」
「カノンさんでしたっけ? 彼がいろいろと助けてくださったんです」
「ツチダルモン! 材木持ってきてくれー!」
「わかりましたー!」
そういうと、そのデジモンも行ってしまったが……えっと、カノン君はいったい何をしたのでしょうか。
ほかにも見て回ってみると似たような光景ばかりだ。動けるデジモンたちが集落の復興を行っており、江戸時代の長屋……というか城下町みたいなことになってきている。
「発展しすぎじゃないでしょうか」
「おねーちゃんあそんでー」
「あーそーんでー」
「しかもウチはいつの間にか幼年期ちゃんたちになつかれているし……」
気が付いたら彼らの面倒を見ていた。というかいつの間にか日も真上に来ているし……
わかったのはカノン君が何かをやって、急スピードでここまで復興させたということだ。いや、壊される前より立派になっているのではないだろうか?
「カノン君って本当に何者なんだろう」
ウチにとっては命の恩人で、最初の友達。
いつの間にかウチと同じ半デジモンみたいな感じになって彼には悪いと思いつつ、ウチみたいなのが一人じゃないんだってほっとした部分もある。まるで、彼がそうなったのを喜んだみたいではないか。
「……ウチって最低だな」
「なにがだ?」
「うひゃ!? か、カノン君!?」
「おう。とりあえずひと段落したから休憩にきたんだけど……なんか悩んでいる風だな」
「な、なんでもないのよ」
「でも――」
「何でもないって言っているでしょ!!」
「お、おう……」
だめだ。これは彼に知られたくない。というか気配を消していたんじゃないかというぐらいにいつの間に後ろにいたのだろうか。隣には金色の体毛のデジモンがいる。
「えっと……そっちのデジモンは?」
「この人か? この集落の長のハヌモンさん。ちょっといろいろと話をしていたんだけど……水の補給とか準備を終えたら次の集落に向かうぞ」
「――――え?」
いきなり何を言っているのだろうか。
でも彼の眼には何かを決断したような色が浮かんでいた。
「思ったよりもまずい事態になっている――近くにルーチェモンの部下たちが迫っている。それも、軍団がな」
「軍団?」
「ああ。ザンバモンってデジモンが率いている軍団がな……そのザンバモンにしたって究極体だ」
「――――え、なんで……なんでそんな強いデジモンが!?」
この時代には究極体は数が少ないんじゃなかったの?
「数は少ないが、いないわけじゃない。ルーチェモンの部下に究極体がいる可能性を考慮するべきだった……今の戦力じゃ究極体を相手できるかはわからない。それでも、僕はこのまま蹂躙される人々を見捨てることはできない……そこで立ち止まったら、僕は僕を許せなくなる」
それだけ言うと、彼は寝床にしていた家まで向かう。
「無理についてこいとは言わないし、本当のことを言うのならこのままここにいてほしいぐらいだ……この先は、死闘になる」
「……」
「覚悟ができていないのならつらいだけだし、人の心にはきついから」
「それは、わかっている……でもね、戦うことに忌避感がないんだ。それが、少し不安で…………」
「デジモン同士が戦うことは嫌がらないだろう。それと同じだよ。人間とは本能的に異なるんだ」
今もウチは人を殺せと言われれば拒否するだろう。だが、デジモン相手だとそれは嫌ではあるが不可能とは思わなくなる。もちろん、相手がひどい奴だったらの話だけど。
「僕もマキナも、半分はデジモンになっているから感覚で慣れていくしかないんだよ……僕の場合は嫌な慣れもあったからだけどね」
そういうと、彼は自虐的に笑っていた。時折、暗い影のあるような表情になる。悪意があるとか嫌な感じがするというものではないのだけど……
「とにかく、ドルモンたちのところに戻るぞ。話はそれからだ。場合によっては、ザンバモンの軍団とかち合う可能性もあるからな。囲まれるのはまずいしどう動くにしろ話し合いが必要だ」
「うん」
とにかく、一度みんなで考えるんだね。
大丈夫。状況は分かった。今は前に進むしかないんだ。
◇◇◇◇◇
借りている部屋でドルモンたちとひとまず作戦会議を行うことに。さすがに究極体のデジモン相手に真正面から戦うのは得策ではない。
「そもそもあのサイクロモンはルーチェモンの配下ではなかったのか?」
「配下ではあるらしいけど、末端みたいだな。軍団といして動いている奴のほかに単独で暴れているだけに近い連中も大勢いるんだと。そっちはそれほど強くはないけど、この集落みたいに一番強くても成熟期のデジモンまでしかいないと今回のことみたいになったりするらしい」
ただ、戦略上重要な場所でもないから軍団とかは現れないとのこと。
逆にザンバモンが向かっているであろう集落は戦略的にも重要になってくる場所なのだとか。
「ここからだと徒歩で2日ぐらい。ただ、この辺りでは一番大きな集落で物資も多い。それにそこを拠点に森の神殿を攻めやすいんだ」
そこからさらに3日ほどの距離に森の神殿があると思われる。もちろん徒歩での話だし、スピードの速いデジモンに乗っていけばその限りではない。
ルーチェモンの軍には神殿の十闘士も抵抗するだろうし、拠点を用意しておきたいんだろう。
「でもおれが進化できないんじゃ究極体相手は厳しいと思うんだけど」
「そこがネックなんだ。くだんの集落には完全体も複数いるけど、究極体はさすがにいない」
「それじゃあどうするの? ウチたちが加勢するにしても力の差がありすぎると思うんだけど」
本当にそこが厳しい状況なのだ。
方法がないわけでもないのだが……成功するかは未知数だし、失敗したら危険でもある。
「ああ。だから一つだけ方法があるんだ……僕がバーストモードを使う」
「ちょっとカノン!? それは危険だよ!」
「わかっている。でもこれぐらいしか思いつかなかったんだよ。ブラスト進化ができるのが一番いいけど、あれは自由に使える技じゃない。だったらこの中で一番可能性のある僕がバーストモードを使うしかない」
やり方自体はわかっている。問題は僕の体が負荷に耐えられるかどうか。そして、失敗してルインモードになる危険性もあるということだ。
「……だが危険すぎるぞ」
「クダモンの懸念もわかるけど、現状で打つ手がそれしかないんだ」
「…………いや、もう一手ある。しかしそれもどこまで使えるかがわからないな」
「もう一手?」
「ああ。私が進化するという手だ。成功率も低い技だがな」
「それって……」
「ウチがクダモンの制限を解除するんだよ。いろいろ事情があってクダモンは今の姿になっているけど、もともとは究極体のデジモンだったんだ」
「その姿までとはいかないが、成功すれば完全体にまでは進化できるかもしれん」
そんな技があったのか……だけど、成功率はそれほど高くないのだろう。ほとんど博打になっている。
しかしそれは僕も同じか。
「あとはドルモンが進化してくれるのを期待するしかないか……プロットモンはそもそも戦闘に向いていないし」
「面目ないです……」
「いや、気にすることはないよ。でも、マキナはそれでいいのか? ついてくるって体で話が進んでいるけど」
「いろいろ考えたけど、やっぱりおいて行かれるのはいやだよ。それに……ウチもこのまま逃げたくないしね」
「そうか――なら、出発するぞ」
そうして、立ち上がり準備をする。必要なものを集め、現地へ行くために。
そして、集落を出たころ――デジヴァイスが反応を始めた。
ドルモンのほうを見ると、大きくうなずいていた。
「体がこの世界に慣れたみたいだ」
「それでも使えるのは成熟期までだな……ラプタードラモンで行くぞ!」
「合点!」
「なら、ウチたちもスピード出して行こう!」
「道中休憩を挟みながらになるだろうが――私も成熟期でいく」
マキナがクダモンを詰めた薬きょうを銃に装てんし、僕はデジヴァイスを構える。
お互いがそれぞれのアクションを行い――彼らを進化させた。
「クダモン、発射!」
「制限解除――進化、レッパモン!」
「ドルモン進化――ラプタードラモン!」
それぞれの背に乗り、目的地の集落を目指して突き進む。
これから戦うことになる相手は一筋縄じゃいかない存在。いや、下手をすれば負ける可能性もある。
「それでも見捨てるわけにはいかないよな」
「そうだね……それと、渡しそびれたけどこれ!」
マキナがゴーグルを投げて渡してきて、僕はそれをすぐに装着した。
なんか寂しいなと思っていたら……すっかり忘れていたな。
「よし、全速前進!」
オーと、僕らの声が一つになる。
大きな戦いが、始まろうとしていた。
◇◇◇◇◇
カノンたちが目指す集落、そこに一体のデジモンが闇の気配を感じ取って静かに敵を待ち構えていた。
緑色のズボン、体の各部に装着したアーマー。顔を覆う銀色のマスク。竜人型のそのデジモンは迫りくる悪意に反応し自らの故郷を守ろうと立っている。
「――――グルゥ……」
「まったく、アンタのその喧嘩っ早い性格は何とかならないのかしらね」
「……ライラモンか」
その後ろから現れたのは、花の妖精のようなデジモン。リリモンに近しい外見をした、完全体。ライラモンだ。彼女はそこにたたずんでいたデジモンに小言を言うように近づいてくるが、彼はそれを意にも介さずにそのまま立ち続ける。
「どうしたのよ。今日はいつになく真剣な顔ね。いつもならのどかなもんだと家に帰るのに」
「感じるんだ。強力なウィルスデータが近づいてきている。それも、大群が」
「…………それ、本当?」
「ああ。俺にはわかる」
「………………わかったわ、ストライクドラモン。みんなに伝えてくる」
そういうとライラモンは集落のみんなに彼が感じた気配を伝えに行く。
だがそれでもこの気配の主を相手にどうにもならないことは伝えなかった。成熟期や完全体よりも圧倒的な気配を感じたからこそ、彼は迫りくる脅威を少しでも食い止めようとここにいるのだから。
「あまり気負わせるわけにもいかねぇからな……だが、別の方向からもウィルスデータが迫ってくるな」
強大な気配よりは小さいが、どこか異質にも感じる。ウィルスを駆逐する性質のデジモンだからこそ感じ取れた気配だが……迫りくる脅威とは思えない。
「まあいい。なんにせよ俺のやることは変わらない」
邂逅の時は迫っている。世界を変える命運を担う存在たちが、集まる時が。
不穏なフラグやら、新キャラ続々などと色々とやってますが、そろそろメインメンバーを全員揃えないといけませんので。
というわけで、4章十闘士編の本格始動となります。