あと、今回ドルモンさんが不幸な目に遭います。
さて、闇の神殿へ向かうことになったのはいいのだが……思った以上に距離が遠い。かれこれ二日は歩いている。食料を確保しながらの移動になるし、夜は色々と大変だった。マキナの使える魔法などの確認も含めてテントを製作したりなど、色々と道中サバイバルに便利な魔法を開発したりなど、変なところで成長した。
「カノンくーん、まーだーつーかーなーいーのー?」
「そうだなぁ、向こうの方に見える山のふもとに闇の神殿があるらしい」
「うげぇ……結構遠い」
「そう言うな、マキナ。事態を終息させねば人間界やデジタルワールド、ウィッチェルニーなど他の世界も危ういかもしれないのだ」
「そうはいってもねぇ…………というか、結局ウチたちは最後にどうすればいいんだろうね」
「それは闇の神殿に到着してみないことにはなぁ」
しかし、ドルモンはともかくプロットモンは結構疲れているみたいだ。軽いから荷物と一緒に乗せているけど。ドルモンに進化してもらって一気に行く案もなくはないのだが……
「ほげぇ……」
「ドルモン、まだ立ち直らないんだね」
「アーマー進化なら大丈夫なんだけど、やっぱ本来の進化が出来なくなったのがショックみたいで。アーマー進化だって結構エネルギー使うし」
そうなのだ。最初、移動のためドルガモンに進化してもらおうとしたら進化が出来なかったのだ。
色々と考えたり、検証してみたけど……どうもこの世界だから無理という理由らしい。いや、正確には進化できにくくなったみたいだが。
デジモンの進化はデジタルワールドのサーバーを経由している側面がある。そのため、ドルモンの進化系譜は情報として登録されていない。ちなみに、この登録された情報を読み取ることでアナライザーなどは機能している。
まあそんなわけで、ドルモンは非常に進化できにくい状態になってしまった、というわけだ。能力値はそのままレベルの上げ直しみたいな状況になってしまっていると言えばいいだろうか?
デジヴァイスは問題なく起動しているのがまた悲しいというか……
「大丈夫だって。ドルモンのデジコアに蓄積された情報がなくなったわけじゃないんだから」
「それでもショックなものはショックだよぉ」
「しかし、これはまずい事態だな。私もマキナの力を使えば進化できなくはなかったのだが……この状況では成熟期が関の山か。対策を考えねばならない」
「プロットモンは元々進化できないからなぁ……なんか別方向に成長しているらしいけど、どうなんだ?」
「プロちゃんは何も知りませんです」
そう言うと、プロットモンは再び垂れプロットモンになる。いや、歩けよ。
しかし先はまだまだ長そうだなぁ……と、視覚強化をして闇の神殿があるであろう場所を見たとき、僕の足が止まった。
「カノン君?」
「うそ、だろ……」
「どうかしたのカノン?」
「闇の神殿から煙が上がっている」
「――え!?」
「ドルモン、慣れない環境でエネルギー消費がバカにならないだろうけど、頼む」
「分かった。行くよ!」
デジメンタルを取り出し、起動させる。
ドルモンの姿が変化し、ラプタードラモンに進化してすぐに背に乗る。マキナ達も掴んで引き寄せる。一体全体どうなっているかわからないが――
「なんで闇の神殿が崩れてんだよ!」
◇◇◇◇◇
ラプタードラモンに乗り、闇の神殿にまですぐさまやってきたが――着陸したとたん、ラプタードラモンはドリモンにまで退化してしまった。
「みゅう……疲れた」
「ゴメン、予想以上に厳しい環境みたいだな」
「実質戦えるのはカノンとマキナの二人になるな。しばらくは頑張ってくれ」
「結構厳しいなぁ……師匠たちからは鍛えられているけど、ウチって戦闘向きじゃないよ」
「となると、基本僕一人か……」
予想以上のハードモードだった。神殿も崩れているし……煙が上がっていたように見えたのだが、近くに来てみるとそんなことは無かったのが気になるな。それにこの崩れ方、壊されてから結構立っている。
壊れた原因だが……どうやら、外部から強力な攻撃で破壊されたらしい。残滓データからするに、強力な闇の――いや、暗黒の力か。
「どう違うの?」
「基本的には同じだけど、悪意が籠っている。たぶん、ルーチェモンの配下とか言われている連中だろうな」
「封印の解除のためだろうな。うかうかしていられん。他の神殿も見て回らなくては……」
「ああ。結局、無駄骨――――ッ!?」
ここを立ち去ろうとした、その時だった。強烈な闇の力を肌で感じ取る。
マキナ達も同じ力を感じ取ったようで、体を動かせずにいた。
「なにこれ……この強い力はなんなの」
「この力――まさか」
「カノン、ここに何かいるよ!」
「ああ……しかも、一体だけじゃないぞ」
崩れた神殿の中から、何かが現れる。半透明のそれは、そこにいないのにも関わらずに絶大な存在感を放っていた。それが、三体も。
「――エンシェントデジモンが三体、だと!? しかし、姿が……」
「もう死んでいる……魂だけが残留しているのに、このすさまじい力とか……どんだけだよ」
中央にいたのは黒いライオンの様な姿のデジモン。右側には緑色のローブを羽織った鏡のようなデジモン。
左側にいたのは、巨大な岩石に手足が生えたようなデジモンだ。
「エンシェントスフィンクモンに、エンシェントワイズモン。それにエンシェントボルケーモンか」
『待っておったぞ運命の子よ』
「それって、僕のことなのか?」
エンシェントスフィンクモンが静かに、僕たちに語りかけてきた――しかしその視線は、僕だけを射抜いていたが。他の二体も同様に、笑うように僕を見ている。
『オイオイ、こんなガキがお前の言った運命の子なのかよ、ワイズちゃんよぉ!』
『ああ、間違いない。私が来るべき時のために用意したデジメンタルも持っている。彼こそが私が予言した運命の子だ』
『であるのならば、問題は無い。来るべき時が来たのだ、運命の子よ』
「ま、まってくれ! いきなり運命の子とか言われても混乱するだけだ! 順を追って説明してほしい!」
というかお三方だけで納得しないでこの時代がどうなっているのかとか、なんで未来の存在の僕のことを知っているのだとか――いや、そっちはエンシェントワイズモンの能力だろうけど――色々と聞きたいことがあるんだ。
『ならば私から説明しよう。エンシェントボルケーモンはこういった説明には向かない。エンシェントスフィンクモンも口数が足りないからな』
『なんだと!?』
『よさぬか。事実だ』
「……思ったより、フレンドリーな方なんですね十闘士」
『なに、今回だけの特例だ。本来であれば試練を受けてもらいそれを乗り越えたあかしとして褒美を出すところなのだが……私たちの試練に関しては受けてもらう必用もなさそうだ』
「それってどういう……」
『それも含めて説明しよう。まず、私が未来を見通す力を持つことは知っているね?』
「はい。それについては」
『うむ――私たちは封印したルーチェモンがいずれ復活することを知っていた。そのため、封印をより強固にするために十闘士全員の魂をそれぞれの神殿に封印することで楔を打ったのだが……』
そうか、ルーチェモンの配下はその楔を破壊するために神殿を破壊したのか。
マキナやドリモン達もそこは分かっているようで、話にはついてきている。
『それだけでは不十分だった。このように神殿が破壊されることも想定していたし、ルーチェモンの力が噴き出してしまった原因は未来からこの時代へ飛ばされた異物なのだ。そのせいで、私の力をもってしてもそれがどのようなものであるかはわからない。ただ、ルーチェモンの力を増幅させていることだけは分かる』
「そのせいで、封印しているにもかかわらず力が漏れ出しているのか」
『ああ。だからこそルーチェモンを討つ為にある物を作り上げた。それが、君の持っているデジメンタルだ』
「え――」
でも、これは人間界にあったものだ。エンシェントワイズモンが作ったのは聞いていたが、何故人間界に?
『仮にそれがルーチェモンの配下の者や、よからぬ考えを持つ者に見つかると厄介だったのでね。私の鏡を通して人間界に送ったのだよ。私の様な能力を使わなければいけないほどに、あちらの世界とこちらをつなぐことは困難なのだ。この時代においてはね』
「…………まさか、この時代に僕たちを呼んだのは……」
『ああ。私だ。いや、私たちというべきかな。もっとも、少々込み入った事情があるのだが……』
「?」
そこまで言うと、エンシェントワイズモンは少々言葉を濁す。どうかしたのだろうか?
『何といえばいいのだろうな。こと君に関しては時間軸の奇跡というか、言葉では語れない複雑怪奇な運命を持っているのだよ。だからこそ運命の子と呼ぶにふさわしい存在となったのだが……まあ、この旅が終わりを迎えた後に答えを知るだろう』
「なぜそんなふわっとした答えに……」
『私たち以外の思惑も入り混じっているからね、語ることが出来ないと言うべきか』
厄介ごとの上に更に厄介ごとが乗せられるのだろうか。
この時点でマキナは考えることを放棄したのか、ドリモンとプロットモンと遊び始めた。おい、自由すぎるだろう。クダモンが理解してついてきてくれているのが幸いだ……
「しかし、そうなるとデジメンタルは何のためにあるのだ? アレはアーマー進化のためのものと聞いているが」
『たしかにそうだ。だが、そのデジメンタルはもう一つの機能がある』
エンシェントワイズモンがそう言うと、僕の中にあったデジメンタルがひとりでに飛び出してきて光を放ち始めた。まばゆい光に包まれていき、赤と青の二色の色をしたものへと変化する。今までは僕が込めた属性に応じて色を変えていたのに……
そして、大きな音を立てて上下に割れた。
「って割れた!?」
「中には……円盤?」
そう、卵型のデジメンタルが上下に割れて中には円盤が現れたのだ。円盤には十個の穴が開いており、全てが六角形の形をしている。
そしてその中にエンシェントデジモンたちから飛び出した光の球が入っていき、3つの穴が埋まる。それぞれ、闇、土、鋼の文字の様なマークが刻まれていた。
「これって……」
『それは我々十闘士のエレメントだ。運命の子よ、そしてその仲間たちよ。我ら十闘士の神殿をめぐり全てのエレメントを集めるのだ。さすれば、来るべき時に力となるだろう――しかし十闘士もふさわしき相手と認めなければ力を託さない。十闘士の試練を乗り越え、力を手に入れろ』
『そういうわけだ! 精々気張れやガキども! 本当なら俺たちも試練を出すところだが……まあ、ワイズちゃんが認めるってなら俺からは激励で勘弁してやらぁ!』
『ここより一番近いのは木の神殿だ。東へ迎え。荒野を抜け、深緑の森を目指せ。そこに木の神殿がある』
「なんというか、先は長そうだけど」
「やるしかないな。マキナたち、難しい話は終わったぞ」
「ご、ごめんね……ほらウチって学校行っていないしこういうの苦手で」
「何を言っているんだ。ウィッチェルニーでの生活を忘れたか?」
「あ、あはは……むしろ師匠たちの授業の方が厳しいんだろうなぁ……」
マキナは遠い眼をしているが、彼女にも色々と大変なことはあったのだろう。
とにかくお礼は言っておいた方がいいだろうと十闘士たちに向かったが――なぜかエンシェントワイズモンがばつの悪そうな顔をしている。
『……すまない、一つだけ残念な話がある』
「えっと、何でしょうか?」
『エレメントを保管する必要上、少なくともエレメントを集め終えるまではアーマー進化は使えない』
「…………え」
「――――!?」
ドリモンが愕然とした顔をしているが、僕だって冷汗が止まらないんだ。マキナ達も気の毒そうな顔でドリモンを見ているが……やめてあげてくれ。
『デジコアに刻まれている情報自体は残っているため、一度進化できれば二度目以降は容易になるだろう。この世界の未来、君たちに託すぞ――』
そう言って、彼らは消えていった。
色々と言いたいことはあるのだが、これではっきりした。僕たちがこの時代で何をすべきなのか。
「十闘士の神殿をめぐって、試練を突破しろってことだよな」
「ああ。おそらく今回みたいにエレメントをすんなり渡してくれるなんてことはないだろうな」
「なんか本当にゲームみたいな感じだね」
「状況はそう甘くないです。時間との勝負です」
「プロットモンの言う通り、ルーチェモンの配下も動いている。闇の神殿みたいに破壊して回っているんだろうな――3つも破壊されているみたいだし」
「なんで3つ?」
そりゃ簡単な話だよ。
「真実、彼らは幽霊だったのさ。封印のために魂を使ったとか言っていたからな……神殿を破壊されてでもいなきゃ、ここに来れないさ」
「――あ!?」
「そうだ。土と鋼の神殿も破壊されているとみて間違いないだろう。でなければ、他の十闘士も直接現れていいはずだからな」
現在破壊された神殿が3つだから彼らが現れた。煙みたいなのが上がっていたのは、僕に気づかせるためか……彼らが最後に残った力で色々と準備しておいてくれたんだろう。
未来を守るために、頑張ります……だから、見ていてください――
「って、話を纏めないで何とか言ってくれよ、みんな」
「ごめんドリモン、とにかく頑張ってくれとしか言いようがない」
「さ、サポートはするから! 解決策も考えてみるよ!」
「まあなんだ、気を落すな」
「がんばれです!」
「……釈然としない」
色々と前途多難だけど、こうして古代デジタルワールドでの僕たちの冒険はようやく始動した。
道のりは長そうだし、今までの戦い以上に困難な道のりになるだろう。
「それでも、やるしかないよな!」
「そうだね……いつまでも落ち込んでいられないか!」
「乗り掛かった舟だからね。それに、カノン君の妹に会ってみたいし」
「プロちゃんも頑張るです!」
「気合も十分、か。ならば先へ行くとしよう」
「ああ。深緑の森、木の神殿を目指して出発だ!!」
それでもみんながいれば何とかなりそうな気はするんだ。
いまだにわからないことも多いし、問題はたくさん残っている。
だからどうした? これはスタートだ。それで当たり前なんだ。だったら、前を向いて突っ走るだけだ。
こうして、僕たちの冒険が始まった。
出会いと別れの、旅路が。
流石に究極体になられるとパワーバランス崩れまくるからパーティー全体の調整。
アーマー進化すらも封じられてドルモンは大幅に弱体化しちゃいましたが。流石に、成熟期にはすぐに進化できるようにしますけどね。
というわけで、旅の目的を開示しました。