改めて自分の姿を確認するが……背は結構高くなっている。170センチぐらいだろうか? 頭を触ると確かにゴーグルはそのままだったが、角が生えている。
「なんだか不思議な感覚だな。足も変わっているし……なんかヤだなぁ、メフィスモンみたいな感じで」
「あれよりはいいと思うけど」
堕天使型だし、僕もその系統に属するタイプのデジモンになってはいるようだ。あれって表裏一体だし。神人型のデジモンってそこまで大仰な存在ってのも色々とプレッシャーがあるけど。
マキナの方も自分の体を触って確かめているが……あんまりぐにぐにとその大きいのをいじらないでほしい。直視できない。
「……おお」
「なんで感激したような声を上げているんだよ」
「だってウチにこんな夢のナイスバディが」
「シスターの見た目なんだから貞淑にしてほしいんだけど」
「そうはいってもねぇ……ウチの見た目と体の感じってほとんど人間と同じだし」
「パペット型だけどな。瞳が人間とは異なるってのが特徴といえば特徴だけど」
二丁拳銃はそのままだが。
お互いに成熟期のデジモンだし何かあっても戦えそうな感じではあるが――
「マキナ、デジモンの技って使えそうか?」
「どう使えと?」
お互いにやるせない目になり、どうすればいいのかと疑問が浮かぶ。というかドルモンたちはどうやって使っているんだ?
「えっと……なんか感覚?」
「使おうと思えば使えるです」
「デジコアに刻まれた機構のようなものだ。基本システムともいう。まあ、お前たちもデジモンとなっているのならそのうち使えるようになるはずだ。魔法も使えるのだし気にする必要はないだろう」
「クダモンがいてくれて助かったな。疑問で止まる時間があるかもわからないし……それで、この時代のことは分かるのか?」
「デジヴァイスに時間座標を表示してくれ。覚えている限りで答えよう」
デジヴァイスを取り出し、現在時刻と共に時間座標を表示させる……これだけだと僕にはわからないのだが、クダモンはある程度分かるらしい。
頭をひねりながら、何かをブツブツとつぶやいて――ぽん、と手を打った。
「十闘士が関わっていたことから、ルーチェモンが支配していた時代かと思ったが……どうやらそれよりはあとの時代のようだな。おそらく、古代デジタルワールド後期。十闘士以外の究極体が発生し始めた頃か……あまり資料もない時代故に詳しいことは分からないが、それなりに平和だったハズだ」
「ハズ、ねぇ……」
なんというか、空間に暗黒の力が漂っている気もするんだが。マキナも感じ取っているのか、空を見上げるとまゆを顰める。
「なんか嫌な空気が漂っているよね」
「ああ。どこからか暗黒の力が噴き出している感じだ……前に色々とあったから、感じ取れるようになったのかねぇ」
出所までは分からないが、この世界に何らかの異変が起きているのは分かる。
とにかく情報が足りない。まずは情報収集が必要だな。
「ああ、それが良いだろう。地図は分かるか?」
「うーん……ちょっと難しいな。集落とか安定したポイントにつかないと無理かも」
「とにかく歩くしかないな」
「なんか大変なことになっちゃったなぁ……まあがんばろっか」
マキナがそう言い、僕たちは歩き出す。
あたりには集落や町らしき影は見えないし他のデジモンたちの姿もない。アメリカの広々とした大地を思い浮かべれば大体似たような光景が思い浮かぶんじゃないだろうか。
「…………歩くのかぁ」
「歩くんだねぇ」
「二人とも、げんなりした顔をしないでよ」
そうは言うがドルモンよ、目的地もわからないのに歩き続けるのって……つらいぞ。
しかし歩くしかなく、とりあえず適当に進んでみることに。日も高いし……体力が持つかが心配である。
◇◇◇◇◇
もう結構な時間歩いている。
そろそろ疲労も蓄積した頃合いであるが……一向に何も見えず。
「のど乾いたなぁ」
「どこかに集落でもあればいいんだけど、近くには何もなし。地下水でも探すか?」
ソナー魔法でも使って探してみてもいいが……体力に見合わなそうである。
随分と歩いたが、歩いているだけで何も見つからない。太一さんたちも大変だったんだろうなぁ……
「さてと、とりあえず食料の補給をなんとかしなくちゃだけど――」
と、その時だった。
誰かの悲鳴が聞こえてきて、爆発音と金属音が響いてくる。どうやら、戦闘の音らしい。
「ッ――」
「カノン君!?」
「いつも突っ走るんだから! 待ってよー!!」
音のする方向へ走り出し、坂を下る。少し茂みがあって気が付かなかったが、坂の下に緑が多くなった場所があった。それに、遠くには明かりも見える。そう言えばそろそろ日が沈むころあいか……
「まずはあのデジモンたちをどうにかしないとッ」
一体の人型のデジモンが獣型のデジモンたちに襲われているのが見える。悲鳴は人型の方か――それに、獣型は同じ見た目のデジモンで、全員が闇の力を纏っている。
どういう連中かはわからないけど、どっちが悪い奴らかは一目瞭然だな。
「とりあえず、パンチ!」
「――ガァ!?」
獣型の一体をとりあえず殴り飛ばす。見た目は細長い体に赤い体毛。革ベルトなどをつけているが……名前はファングモンか。それと、成熟期。イグドラシルシステムが使えればもっと色々と情報がわかるのだが、あとは属性とかしかわからない……
「だ、誰!?」
「事情はよくわからないけど、とりあえず助太刀にきたよ」
人型の方は、リボルモンというデジモンらしい。西部劇の様なガンマンの格好をしており、体そのものが拳銃になっている。調べなくてもわかるな、こういう姿のデジモンは突然変異型だ。
「とりあえずお前ら、何が目的だ?」
「ゲヘヘヘ」
「シャーッシャシャシャ!」
「話が通じない……」
「そいつらは最近ここら辺を荒らしまわっている夜盗だよ! オレ、この先の集落に帰る途中で、それで」
「わかった。運悪く襲われたってことだよな――まあ、この姿になっての初めての実戦だけど、やるしかないか!」
ファングモンたちが迫り、鋭い爪が襲ってくる。
魔力を解放して加速し、攻撃をかわしていくが……今までの体の感覚とのずれがあって上手く力を扱えない。出力が安定せず、思っていたよりも遠い地点に跳んでいた。
「――グルゥ?」
「ガウガウ!!」
「お前ら吠えることしかできんのか……」
僕を取り囲むように奴らは動いており、それぞれが連携して攻撃して来ようとしていた。うーん……ちょっとマズいかなー。
防御魔法とかは色々と起動準備しておくけど……一斉に来られるとマズイ。
「ガァ!!」
「って思ったそばからかよ!?」
それぞれが互いの隙をカバーするようにとびかかってくる。防御しながら陣形を崩しにかかるが、こちらの攻撃のタイミングで別の個体が仕掛けてくるからやりにくい。
そして、一体が首めがけて噛みついてきた。
「危ない――!」
「ガアアア!!」
奴の牙が迫り、僕の首をへし折ろうとしているが――近づきすぎてくれて、助かった。体から力を放出して攻撃してきた個体を吹き飛ばす。その際、ただ単に魔力を放出するつもりだったのが電撃が飛び出したのが気になったが……
「まずは一体!」
「――!」
続いて、後ろから体を回転させて尻尾を叩きつけようとしてきている奴には――反撃しようとしたら、その一体は横方向へ吹き飛んでいってしまった。
「まったく、いきなり飛び出さないでよね!」
「あ、ゴメン。マキナ達も追いついたのか……」
「カノンは相変わらず無茶するね。まあ、一人でも倒しそうな感じだったけど――でもおなかもすいていることだし、全員でやっちゃおうか」
「プロちゃんは後ろで見ているです」
「私もここは見学させてもらおう。ドルモン、二人の腕鳴らしと体を慣らすためにもここは様子見するほうがよさそうだぞ」
「んー、不完全燃焼。まあいいや、さっさと終わらせてねー」
いきなり出てきてそういう事を言うか……まあそれでもいいが。マキナは銃を構え、奴らを狙っている。リボルモンは何が起きているのかわからないといった風だが……それもそうか。
目まぐるしく変わる状況。自分を襲ってきた奴らがあっさりと吹き飛ばされればそう思うだろう。
「カノン君が吹っ飛ばしたのも起きてきたね……で、どうする?」
「縛り上げてその暗黒の力を誰に貰ったのかとか色々聞きたいところだけど、こいつらしゃべれないみたいなんだよね」
「ガアア!!」
四体が再び連携して攻撃してくる。しかし、今度は先ほどの感覚も合わせて体を動かす。
奴らの攻撃をいなし、背後からマキナの援護が飛んでくる。
「こっちは体が大きくなったけど、能力的にはあんまり変わらないね! カノン君、援護はウチにお任せ!」
「オーケー、こっちも本気出しますか!」
手に力を集め、剣を形作る。属性は炎。
「魔法剣、グレイダルファー!」
ファングモンたちに突撃し、炎の斬撃でもって蹴散らしていく。奴らも反撃してくるが、マキナの銃撃により連携を完全に乱されていた。
そうなればこちらの物。奴らを切り裂いていき、一体。また一体と倒れていく。
「三体目!!」
「――――ガァ!?」
ゴロゴロと地面を転がっていき、ファングモンは残り一体になった。だが、そいつは僕たちの攻撃をかわしながらマキナへと迫っていた。
「アアアア!!」
「キャア!?」
「この――――スタンビートブロウ!!」
危ないと思い、走り出した次の瞬間には脳内にイメージが浮かび上がっていた。その通りに体を動かすと、自然と口から技の名前が出たのだ。
まるで、元から知っていたように。なるほど、これが”技”か。
「――――ッ」
「これで、四体目」
ファングモンたちは地面に倒れ伏し、目を回しているが……どうするか。ふと、腰につけていたシュリンクスが目に入った。元々持ち歩いていたものだが……少々デザインが変わっている。アイギオモンは元々この笛をもっているのか?ゴーグルは見た目もそのままだったし、他の持ち物も同じだったことを考えるとそうなのだろうが……
「んー……まあやれるだけやってみるか」
「カノン君、こいつらどうするの? そのままにしておいてもまたやらかすと思うんだけど……」
「出来るかどうかはまだわからないけど――やれるだけのことはやるよ」
笛を吹き、旋律があたりに響く。それに反応するようにファングモンたちが体にまとっていた闇の力が抜け落ちていき、彼らの姿を変化させていった。
光に包まれて小さくなっていき、彼らは灰色の獣型デジモン――ガジモンになってしまう。
「闇の力を浄化したのか?」
「こいつらの体にあったのは微量だったからね。暗黒のエネルギーで強制進化させられていたのかもしれない。だからこうやって解除できたわけだけど……そうそう上手くいかないかな」
今までのことを覚えているかはわからないが、とりあえずこれで大丈夫だろう。
というか結局今の状況はよくわかっていないし……
「そっちのリボルモン君、いろいろ話を聞きたいんだけどいいかな?」
「は、はい! こちらこそ助けていただいてありがとうございます! お礼に、集落でごちそうさせてください!」
渡りに船。というかうれしい申し出である。
彼の言葉に乗り、近くの集落まで行くことに。道中、色々と話を聞いたがクダモンの予測通りの時代らしい。ただ、色々と気になることもあるのだが。
◇◇◇◇◇
「十闘士の遺跡を破壊している連中、ねぇ」
「はい。ルーチェモンの封印も解けかけて暗黒の力が噴出しているらしいです。それで、今日みたいな凶暴化したデジモンたちが現れたりしていて……」
リボルモンに案内された集落で話を聞きつつ、食事をしていたが……思っていたよりも大事らしい。
この時代はルーチェモンを十闘士が封印してから数百年ぐらいが経った世界。一応、当時の生き残りの長老みたいなデジモンたちもいるにはいるそうだが、十闘士のことも口伝がほとんど。
「それでも、噴き出した暗黒の力によってルーチェモンの配下のデジモンも暴れまわっていて……」
「十闘士の封印を破壊しようとしている、と」
十闘士たちは世界各地に神殿を作り、ルーチェモンの力を封印しているんだと。というか、そこまでしないといけないってヤバいなルーチェモン。流石は七大魔王の一角。
「はい。反抗勢力もいるらしいんですが……各地で厳しい戦いが続いているそうです。ココは辺境の集落ですので、あのような夜盗が現れる程度で済んでいますけどね」
まあ、集落の様子を見たが少しの不安感を感じつつも普通に生活している感じだし。たとえるなら、遠くの災害を知った直後の人々といったところか。この危機を実感するには情報が足りないのだろう。
「あの、ところであなた方はどのような目的で?」
「うーん。その反抗勢力と似たようなものなんだけど、ルーチェモンの封印を解かれるのを止めればいいのかな? ごめん、僕たちもどうすればいいかはハッキリしない感じでさ、とにかく情報をありがとう。できれば一番近くの神殿を教えてくれると助かるんだけど」
「それでしたら、北の方へ行った先に闇の神殿があると聞きます」
「いきなり闇かぁ……普通ならラスボス手前とかじゃないの?」
「マキナ、そんな知識どこから仕入れたんだ……」
「らすぼす?」
「いや、こっちの話。それじゃあ、とりあえずその神殿を目指すことにするよ」
今日はもう遅いので、とりあえずはこの集落に泊まることとなったが。
到達点はいまだ不明ながらとりあえず目的地は見つかった。
でも闇の十闘士か……たしか、エンシェントスフィンクモンだったよな。姿は一度だけ見たことがあるが、どんなデジモンなのだろうか?
というわけで最初の目的地は闇の神殿となります。察しの良い方はどんな旅になるかわかったことでしょう。
流石に道中を長ったらしくやるつもりもないので大きなイベントが無い場合はダイジェスト風味にすると思いますが。