第六台場へ向かう途中、何度も世界の風景が変化している。いや、この場合歴史が変質してしまうのを僕たちは観測出来ているというべきなんだが……
「なんなの、これ」
「過去で歴史が変化しようとしているんだよ。だから、こうしてもしかしたらの風景が見えているんだ」
そのほとんどが荒廃した世界というのが気にかかるが……ただ一つ気になるのは、何故今そうなっているのかだ。
過去が変化した――いや、変化しようとしているのだとしても、”今の時間”がおかしくなる理由にはならない。それはまた別の理由があるはずなのだ。
「僕たちが影響を受けないのは、歴史データにおいて時間渡航することが刻まれているからだとは思うんだけど……とにかく、この変化の影響を受けているポイントを見つけないと――ッ」
外を走っていると、急に元の時間に戻った。人にぶつからないように避けていくが、どうにもピントが合わない。どうやら今現在の時間軸からも僕たちは弾かれつつあるみたいだ。
これはかなりヤバい状況だな……
「あ……」
「マキナ?」
「ううん。なんでもない」
マキナが何かを見ていたようだが……赤ん坊を抱いた母親? マキナの顔が少し寂しそうなのが気にかかるが、深刻な問題というわけでもなさそうだ。
気にはなるけど……
「ごめん、今は刻一刻を争う」
「わかってる。とにかく何とかしないと何だね!」
「うん。とりあえず第六台場は見えてきた――え」
周りの風景がおかしくなる中、第六台場だけは元の姿を保ったままだった。
世界中がどのように変化しても、あそこだけはそのままの姿でそこにある。まるで、そこだけ切り取られたかのように。
「――――なるほど、空間が不安定であるからこそより不安定な現象の影響をうけないか」
「クダモン、わかるのか?」
「ああ。視認してハッキリとな。あそこは何度もゲートが開かれたことにより特異なエリアに変貌している。普段ならば悪いものを引き寄せかねないが、今この状況においては好都合だ。問題は、時間を跳べるゲートを開けるかだが……」
「それなら大丈夫。前にあそこに時間移動してきた奴がいるから……ごめん、僕たちも前に過去から帰ってきたときに出てきたのあそこだったわ」
「少なくとも2回、時間移動に使われたのか……ならばこの現象も納得だな」
呆れたように言われるが……言い返せない。
とにかくすぐに上陸すると、空間が安定しているのがわかる。世界中がおかしくなっているから逆に安定しているのか。
「というよりは、正常空間が切り替わりつつある中形を保っているこちらの方が”異常”ではあるな」
「ごめん、話の半分もわからない」
「カノンも難しい話は後にしてとにかく何とかしないといけないんでしょ」
「です」
「いっぺんに言わないでくれ。わかったよ……とりあえず、この場所からなら原因を探れるかも」
おあつらえ向きに、デジタルワールドが現実世界と融合しているし。おそらく、過去において何かがあった結果デジタルワールドと衝突でもして世界がおかしくなったってところだろう。
時折向こうの世界で見た建物が出現していたりするし、そんな感じだとは思うんだが……とりあえず持ってきていたノートパソコンを起動し、必要なプログラムを起動していく。
「何をしているの?」
「もう一度過去へ行くのは分かっていたからね。色々と準備はしていたんだよ……まあ、使うことは無いといいなとは思っていたけど」
前に経験した時間移動のことを参考にした時間座標を割り出すプログラムを起動する。パソコンにデジヴァイスを接続し、準備は完了した。
「イグドラシルから削り出した基盤がここで役に立つとは……おかげで、どの地点がおかしいかがわかる」
「なるほど、デジタルワールドの歴史すべてを刻んだアレの一部ならば可能な荒業だな。それ以外にもあるようだが……誰に教わった?」
「色欲の魔王と、死を司る賢者だよ」
「リリスモンにバグラモン――それはすさまじいビッグネームだが……連絡をとれないのか? 彼らならばこの状況でも何とかできるかもしれんが」
「無理だね。現実世界に過度な干渉が出来るわけじゃないんだ。それにこの状況だと通信もできないみたいだし――とりあえず、異常地点は見つかったけど……?」
どういうわけか、この時代ととてつもない過去のデジタルワールドに異常地点が見つかった。いや、この時代というよりは異変が起きた時間だな。
過去の方はふり幅が広いのでよくわからないが……このデータからするに…………
「おかしくなっているのは過去で、今現在のはどういう?」
「ふむ。おそらくは、この時代の何かが過去へ飛ばされたからこうなったのだろう。すでに過去で何かが確定してしまったからこそ、異常が起きているのだ。とすれば私たちがやるべきことは一つだな」
すでに起きたことは変えられない。だが、まだ間に合う。歴史が完全に変化したわけでなく、時折元に戻ってはいるのだ。完全に変化したらこの第六台場も変化に呑まれ、僕たちも書き換わってしまうだろう。
今こうして思考てきている以上はまだ手が打てる。だからこそ、やるべきことは一つ。
「過去にさかのぼり、歴史を元あるべき形に限りなく近付ける」
「正解だ。すでに起きた出来事は変えようがないからな。私自身、歴史すべてを把握しているわけではないが出来る限り力になろう。覚えている範囲で修正点を見つけるしかないが……小さな変化ごときではこうも歪まないはずだ。ならば、とても大きな出来事が変化したと考えるのが妥当だろう」
「よし、そうと決まったらさっそく……う?」
その時、胸の奥が苦しくなってきた。
頭の中に何かが聞こえてくるが、ノイズがひどくて聞き取れない。マキナ達が僕を心配する声が聞こえるが……その時、体からデジメンタルが飛び出して目の前の空間に鏡の様なゲートを展開した。
「――――え」
「な、なにこれ!?」
「この鏡は……ッ、橘カノン! そのデジメンタル、誰が作ったものだ!」
「これはたしか、エンシェントワイズモンが作ったって……!」
「気が付いたな……あの存在は未来さえも見通す力を持っていたという。彼が作ったのならばそこには意味があるはずだ……そして、このタイミングでこのようなゲートを作り出したということは――」
「僕たちを過去へ導くため、か……なんかこのパターン多いけど、誰かの思惑があるんだろうな絶対」
毎度毎度のことながら、タイミングが良すぎる。試練と言えば聞こえはいいが、どうも大きな問題が起こるたびに僕が解決するように仕向けられている気がしてならない。いや、実際にそうなんだろうけど。
拒否するつもりはないが、絶妙なタイミングというかこの僕が取るであろう行動を先読みされた感じ……
「なんだかなぁ……」
「とにかく、これで何とかできるんだよね?」
「まあ、そうなるけどね。呼ばれているってことは説明があるって考えてもいいよな」
「そうなることを願うがね」
「でもまあ、説明が無くてもカノンは突っ走るんでしょ。脳筋だし」
「ドルモンくーん、その言葉の意味するところを後で教えてねー」
「……ママさんそっくりです」
プロットモンが何か言っているが、失敬な。僕はあそこまで怖くない。
とりあえず無駄話は後だ。アーマー進化を行い、ドルモンをラプタードラモンに進化させる。プロットモンを抱え、彼の背にまたがりマキナに手を伸ばす。
「しっかりつかまっていろよ!」
「うん! クダモンは薬莢の中に入っていてね」
「承知している。X抗体を持たぬ身では時空の回廊は厳しいからな。マキナも保護魔法を頼む」
「これでも異空間の通過とかは結構いいセンスしているって褒められたから大丈夫!」
「慢心はよくないけどね。それで僕も死んだわけだし……」
「カノン、この状況でブラックな発言は止そうよ」
まあその通りか。とにかく、世界がおかしくなる前に事件を解決しないと。時間の猶予がどれほどかは分からないが、とにかく過去へ跳ばないことには話が始まらない。
ラプタードラモンが加速していき、そしてゲートへと飛び込んだ。
◇◇◇◇◇
「なんか体が圧迫されるッ」
「笑ってろ笑ってろ。ジェットコースターと思って楽しんだ方が後々楽だぞ」
アレ苦手だけど。
「そんなこと言ったってぇ」
「結構きついですー!」
「舌噛むぞ! それに確かこの後過去の僕たちとすれ違うから、あんまり顔みせるなよマキナ!」
「どうして!? 今より小さいカノン君も見てみたい!」
「結構余裕あるなお前! まあいいや、あの時の僕はマキナの顔をはっきり見たわけじゃないから、パラドックスを起こさないためだよ! とりあえずそれっぽいのが見えてきたから頼むぞ!」
「うう、帰ったらアルバム見せてね!」
「分かったから口を閉じる――来るぞ!」
暴風の中と言っていいぐらい、とんでもない空間だからしゃべるのも一苦労。そのため終始叫んでいたのだが――過去の自分たちが前から飛んでくる。
この後、1999年8月4日に行くんだったな。その彼らを見て、笑ってやる。これから大変なことがまだまだたくさんあるが……まあ、頑張れと激励を籠めて。
「…………行っちゃった?」
「ああ。そういえば前にも似たようなことをやったな」
「?」
「こっちの話だよ――ラプタードラモン、一気に行くぞ!!」
「合点だよ! 加速するからしっかりつかまっていてよね!!」
「うわああ!?」
マキナが背中にしがみつき、ラプタードラモンが最高速度にまで達する。
ぐんぐんとスピードが出ていき、やがて光のゲートが見えてきた。
どうやらあそこが終着地点らしい。そのまま、僕たちはゲートを潜り抜けて――体中が、粉々に破壊されそうになった。
「ガッ――!?」
「なに、これ」
デジモンたちは何ともないみたいだが、僕たちの体に異常が起きている。
まるでこの先へ行くことは許されないというかのように。
だが先へ進まなくてはいけない、それにもう後戻りはできないのだ。意識が遠くなりつつある中、僕たちの体はデジタルワールドへ突入したときのように分解され、再び再構築される。
その際、僕たちの体の中のデジコアが強く反応して。
◇◇◇◇◇
体中が痛い。幸い、怪我をしているわけではないが……それにゲートを潜り抜ける際に体に異常な数値を見た。一応視覚に情報取得魔法をかけておいて良かった。なんか体の調子というか感覚がいつもと違う。
起き上がってみると、視点が高くなっていた。それに服装も違うし……なんで上半身素肌の上に布が1枚…………ボロボロのベスト? ジャケット? あと赤いマフラーってこっちはデジタルワールドへ来るといつも出ていたか。
それに手袋なんていつつけたんだ? でもこの格好どこかで見たこともある気がするんだが……思い出せない。
とりあえず起き上がってみると、ドルモンたちもいてとりあえず無事みたいだが……なぜドルモンとプロットモンは目を丸くしているんだろうか。それに、マキナの姿が見当たらず、黒猫を模したフードをつけたシスターみたいな人がいるんだが。体中を触っており、冷汗がだらだらと流れている。結構スタイルはいいのだから気にする必要ない――いや、そう言う理由じゃないだろうけど。あと、クダモンの薬莢が首にぶら下がっているのは何故かなぁ……
「か、カノン……だよね?」
ドルモンが僕に話しかけてくるが、何故そんなにも自身がなさそうなのだろうか。
「何をいまさら。なんかおかしなところがあるのか? いや、なんか服装が違うしありそうだなとは思っているけど……うん、ハッキリ聞こう。今の僕ってどうなっている?」
「えっとね――デジモンになってる」
「……確かに、下半身が山羊だわ」
なるほど、だから視点が違うんだね。あと、やっぱりそっちのシスターさんはマキナなんだよね。
「う、うん……ウチもデジモンになっているみたいなんだけど…………これってどういう事?」
「自分の姿は見れていないけど、元の姿とは全然違っているんだよね?」
「そうだね……カノンもマキナも人間の時とは姿が変わり過ぎていて……匂いは同じなんだけど、あとカノンはゴーグルはそのままだね」
「あ、ほんとだ――って気休めにもならないんだけど」
とりあえずクダモンさん! 説明をお願いします!
「面白いから黙っていようかとも思ったが、そうもいかないな」
「あなた結構お茶目な性格していますよね」
「クダモン、ふざけてないで説明お願い」
「分かったからそう怖い顔をするな。おそらくここは古代デジタルワールドだな。エンシェントワイズモンが関わっている時点でそうだとは思っていたが、十闘士の伝説がいまだ残る時代、イグドラシルも観測しか出来ていなかった太古の世界だ。たしか、その頃はデジモン以外の存在はこの世界に入ることすらできなかったからな。強力なプロテクトがかけられていたと聞く」
「それで、僕たちの姿が変化したのは……」
「この世界に適応するために、体内のデジコアがデジモンの姿に変化させたんだろう。いや、進化と言うべきか? 私は今のお前たちの様なデジモンを見たことがないが……名前は分からないのか?」
「えっと……僕がアイギオモンで、マキナはシスタモン・ノワールだって。それ以上はイグドラシルシステムも使えないからわからないけど」
…………今まで色々なことがあったが、まさかデジモンそのものになるなんて思ってもみなかった。
どうやら、今度の事件は今まで以上に一筋縄じゃいかないみたいである。
ついに登場、アイギオモン。
そして感想でシスタモン・ノワールのことを言及されてひやひやしていた。いや、ヒントを出し過ぎた感もあったけど。
ドルモンたちは意識が飛んだわけじゃないからカノンたちが変化する光景を見ちゃっています。そのため、誰? とはならなかった。
というわけで、4章の舞台は古代デジタルワールドです。どういう状況なのかはまた話の中で判明していく感じで。