カノンが普段何をしているかなど、色々と盛り込んでいます。
波の音が聞こえる。20世紀最後の日、僕は今年は日の出を見るぞと意気込んで外に飛び出したのだが……どうやら位相のずれたどこかへとたどり着いてしまったらしい。
ドルモンたちは寝てしまっており、完全に一人だし……
「なんていうか全体的に暗い場所だよなぁ……」
それに暗黒の力に満ちている。耐性があるとはいえ、なんというかとても気持ち悪い。それに、デジヴァイスが機能していない。ずっと沈黙したままだし……
魔力も上手く練り上げられないし、なんでこんなことになったかなぁ。
「それで、今度は何に巻き込まれたのやら」
漁村っぽいところを歩いているのだが、この町はひどく不快になる。
そこで、町中で看板を見つけることが出来た……けど、デジ文字じゃないか。
「いつの間にデジタルワールドに来ていたんだ? というか、こんなおどろおどろしい場所がデジタルワールドにあったかな?」
バステモンにもそんなことは聞いたことないし、暗黒の力がここまで残っている場所に町があるなんて……でもデジタルワールドならば話が早い。家においてあるポスターにゲートをつなげば帰ることが出来る。
とりあえず看板には――インスマウス?
「どこかで見たような……どこだっけか?」
このデジタルワールドはアメリカのアドレスに重なっているようだが、何というかこのアドレス本当にあるのか? って感じだし……
これかなり変な場所に来ちゃったんじゃないかな。
「むしろ神隠し的な感じだよなぁ……波の音が聞こえる方に行くか」
心情的には行きたくないのだが、なんかあの灯台も気になるんだよな。真っ黒な光を出しているという矛盾しまくった灯台が。
歩いていくが、やはり人の気配は無し。海岸まで降りてくると、やはり人の気配は無いが……
「うげぇ、気持ち悪い」
胸の奥の方が、灯台に近づいたことで強烈な不快感を訴えている。
それに人の気配は無いけど似たような何かは感じる。デジモンのようでいて、人の様な何か。僕やマキナのような感じではなく、また別の生き物にも思えるが……これ本当に生き物か?
それに海の中にもバカでかい気配を感じる。時折、こちらを睨んでいるような気もする――っていうか水平線にデカい影が見える。いやぁ、デカいね。
「怒っているのか何なのかは知らないけど、お前ら何かやらかしそうだよな……もし、僕の目の前で何かやらかしたら覚えておけよ、ぶっ潰すから」
どういう理屈かはわからないが、この世界では僕のうちに眠る何かが暴れ出しそうになる。
むしろ今までは扱えていなかった力が解放され、手には巨大な大剣が呼び出されていた。力すべてをこの剣に集約したみたいな感じだが……
ふと、悲鳴が聞こえたのでそちらの方を見ると――魚の様な人影が見えた。どうやら、僕の剣をみて腰を抜かしたらしい。
「まあ、もう来ないことを願うけど……」
言って聞くような連中じゃないよな。
視認して分かった。こいつらの視線がヒカリちゃんを向いている。いや、紐づけされたデータがヒカリちゃんの力へと向かっていると言うべきか。別次元ではあるが、デジタルワールドだからログをたどることが出来たみたいだ。
まあ何もしないうちに攻撃するつもりもないし、結局僕はゲートを開いて帰っていった。
それよりも新世紀の初日の出が見たかったし。
あの世界が何だったのかは知らないし、後日単語を調べてうわぁと引いたり、これ以上調べるのはやめておいた方がよさそうだと切り上げたりなどといったこともあったが、最終的にこの世界のことは僕の胸の中だけに留めることとなる。一応釘は刺したし、下手に関わるとろくなことにならない予感もしたのだ。
……翌年、ちゃんと対策しておくべきだったかなぁと後悔することとなったが。
◇◇◇◇◇
「デジタルワールド含めて異世界って幾つぐらいあるんですかねー」
「どうかしましたか?」
「いえ、大みそかの時にちょっと色々とありまして」
「また無茶したんでしょう」
新学期。かつての太一さんたちと同じ5年生になった。今日は光子郎さんと共にパソコン部のパソコンの調子を見ることに。我が部もこれだけの設備をそろえたりと小学校のパソコン部だよな? と首をかしげる毎日である。
まあ、教師以上にパソコンに詳しい僕らがこうやって問題が無いか見ることになったりもするんだが。顧問の先生は急用でちょっとだけ外している。
「別に戦ったわけじゃないんだけどなぁ……」
「今までが今までだけに信用できませんよ。何度死にかけましたっけ?」
「はっはっは」
「……笑ってごまかさないでください」
ヤダなぁ光子郎さん。死にかけたんじゃなくて一度本当に死んでますよ。いや、もっと笑いごとにならんけども。
とりあえず作業を早く終わらせようということで、色々と進めていくが……
「光子郎さん、デジモン関連のソフトを入れようとしないでくださいよ」
「あ、あはは……つい癖で」
「まったく。見つかったら厄介ですよ。ゲートセンサーはアドレス打てば出たと思いますけど」
「そうですね……テントモンたち、元気でしょうか」
「元気なんじゃないですか? 向こうも広いですから僕もしばらく見てないですけど」
結構色々と様変わりしている面もあっていざ探すとなると大変なんだよな。パンプモンたちとはこの前会ったけど。あと、偶然オーガモンを見つけた。まあ、その時は別の用事があったから声もかけられなかったが。
「この前カノン君がデジタルワールドに行ったのはどういう理由でしたっけ?」
「この前だから……ちょうどバレンタインか。なんかガーベモンを筆頭に汚物系が暴れていて大変だから何とかしてくれってゲンナイさんに呼ばれたんです」
久々にゲンナイさんに会ったけどびっくりしたね。若返っていやがるの。
光子郎さんも若返っていること自体は知っているし、あれには驚いたことだろう。
あと汚物系に混じってチューモンが暴れていたからずっこけてしまった。なんでもミミさんに会えないことでフラストレーションが溜まっていたとかなんとか。
「なんでミミさんって汚物系に好かれるんでしょうね?」
「本人に言わないであげてくださいね」
「言いませんよ。てか言えませんよ」
後が怖くて。それにあの人今は日本にいないし。
それこそ笑い飛ばそう――と思っていたら、ガラリと扉開いた。先生が戻ってきたのかな? と思っていたら、見知らぬ少女が立っていた。大きな眼鏡をかけており、歳は同じくらいだろうか?
「京君じゃないですか。今日はどうしました? パソコン部はメンテがあるのでしばらく休みのはずですけど」
「ああそっか、すいません。忘れてました」
てへ。と語尾につけておどけてみせているが……何なのだろうか、この子。
「泉先輩、それは分かりましたけどそっちの人は? どこかで見たことがあるような気もするんですが……どこだっけ? 学校では見たことないですけど」
「こちら、我がパソコン部の副部長の橘カノン君。まあ、いわゆる不登校児です」
「人聞きの悪いことを言わないでください光子郎さん。調べ物があるから学校にあまり来ないだけです」
DNAアクセルの件やXデジモンの捜索やらで。特にDNAアクセルの方は研究施設みたいなのを見つけるところまで来れたんだから。いや、もぬけの殻というか廃棄された後だったんだけどね。
Xデジモンも依然として見つからず。もうそもそもいないんじゃないかとさえ思う。
「なんだか落ち込んじゃいましたけど……そっか、隣りのクラスに頭がすごくいいけど全然学校に来ない問題児がいるって聞いていたんだけど、この人が」
「ええ。その問題児が彼です」
「アンタら人を貶して楽しいか!?」
「ごめんごめん。アタシ、井ノ上京。隣のクラスに今年転校してきたの。よろしくね」
「……まあいいか。さっきも説明があったけど、橘カノン。一応部の設立にも関わったから副部長をやらされている。さっきも言った通り、調べ物があるから学校にはあまり来ないけどね」
「うわぁ……問題発言。というか先生たちは怒らないの?」
「もうあきらめていますよね」
「私立に行けばいいのにとさえ思われていますね。厄介すぎて」
自分で言うんだ……と呆れられているが、こっちにも事情があるのだ。最近、クラスメイトの一太郎からもなんでそんなに神出鬼没なんだよとつっこまれるし……自重した方がいいだろうか? 成果も出てないし。
あと、よく神出鬼没なんて知っていたよな……
「っと、そうだコレ渡すの忘れてました」
「……なんですか、これ」
「この前行った場所の土産です。いやぁ、大変でした」
「なんでマトリューシカとポンチョを一緒に渡すんですか?」
にこりと笑うと、光子郎さんも察したのかハァとため息を一つだけついた。
京さんがいるからハッキリとは言えないが、一日で行きましたから。ギガシードラモンのことをみんなにハッキリと言ったわけではないのだが、独自の移動手段があることだけはえらばれし子供たちも知っている。ただ、密入国関連の話題になるとみんな顔をそらしていた当たり、共犯にはなりたくないと見える。
「どうせそのうち、みんなもやるのに」
「不安になるようなこと言わないでくださいよ!」
「なんか、本当に聞いていた話のイメージと違うわね……」
おそらく元クラスメイト達が面白半分に広めた噂が独り歩きしたんだろう。というか僕とまともに会話したことのある奴なんて一太郎ぐらいだし、後でアイツとっちめるか。
しかしそれにしても……井ノ上京さん、だっけか。どこかで見たことあるような気がするんだよなぁ…………
◇◇◇◇◇
その後も各地で調査を続けたりしたが、そろそろ色々な機関に目をつけられそうだなとしばらく活動をおとなしくする。あと、なんか見覚えのある黒いライダースーツの男を一度だけ見かけたこともあったのだが、流石に面倒なことになりそうだったからスルーした。
「というわけで積みゲーの消化もしなくちゃねー」
「カノン、ゴールデンウィークに入ったからって気楽そうだけどいいの?」
「いいのいいの。むしろしばらく気の休まる暇もなかったから」
DNAアクセルの方は調べないといけないなと思い、ゲンナイさんの協力もあって現実世界側の誰かの仕業ということまでは判明したのだが、メフィスモンの件以来何もしてないというのが発覚した。
というより、見つかるのが厄介だと思ったのか表だって何かをすることが無いのだ。元々、研究だけしていたというオチもありそうだが。
「作った本人は何のアクションも起こしていないんだよなぁ……デジモンの協力者がいる可能性が高いってゲンナイさんは言っていたけど」
「ゲンナイさんたちが見つけられないってことは、妨害している奴がいるってことみたいだしね」
プロットモンは昼寝をしているが、ドルモンは僕の隣でプラモを作っている。君、結構多芸になったね。
こんな会話をしながらでもお互いに手は止めない。
「そろそろ昼ごはんの時間だけど……母さんたち遅いな」
「ありあの検診だっけか?」
「まだ1歳にもなっていないからなぁ……色々と心配なんだと思うよ。アイツはアイツで全然泣かないけど」
「………カノンに抱かれているときはね」
「? ドルモン、何か言ったか」
なんかよく聞き取れなかったんだけど。
「別に何でもないよ。自分で作れば?」
「出来るけど、何か材料あったかな――ッ、ドルモン気をつけろ!」
「どうかした――!?」
ドルモンがプロットモンを抱えて飛び退く。
僕も直前まで気が付くことが出来なかった。まさか、この部屋のポスターに設置してあるゲートを魔法でハッキングするような奴がいるなんて!
増大する魔力反応、ゲートを通って何者かがこの部屋に入ろうとしている。
「魔王クラスでも破れないように色々と思考錯誤を重ねた渾身の逸品をいともたやすく、何者だ?」
「気を抜かない方がいいよ、一体どんな奴が飛び出してくるのか」
最初に、頭が見えた。黒い耳の付いた頭で、ずぼっという音とともに頭が床に激突する。そして、下半身は壁に埋もれたかのように出てこない……え?
もう一度言おう。下半身は壁に埋もれたかのように出てこない。
「……えっと、どちら様?」
「痛い……それと、お久しぶりカノン君。ウチだよ。マキナ!」
「――――ま、マキナ!?」
久末蒔苗。かつて、僕とドルモンが出会った少女。そして、アポカリモンとの戦いの時に手紙を送ってくれた子だ。黒い耳の付いた頭だと思っていたのは、黒猫を模したパーカーのフードだったらしい。
そしてゲートから出てきたはいいが……上半身だけで下半身は出てこれなかったと。
「とりあえず、助けて」
苦笑いする彼女であるが、こんな再会になってむしろこっちが苦笑いだよ。
そして、この再会がこれから始まる長い旅路の始まりとなるとは……この時の僕たちは、夢にも思っていなかったんだ。
というわけで02からの先行登場は京さん。いや、カノンもパソコン部だからね。一応。
そしてマキナの再登場。
これから4章の始まりとなります。
4章・遥かなる旅路
今までとは毛色が大分異なる話になるかと。あと、長いです。