ありあが産まれてからしばらく、お台場の復興具合をみんなと見て回ったり、ウィザーモンの命日に花束を供えに行ったりなど色々なことがあった。
どれも騒動とは程遠いことではあったが、大切なことだ。
今日はみんながデジタルワールドへ行くことになっていたので僕も一緒に行こうとおもっちたのだが、本日もまた別行動することに。
「なんでまた時空の歪みが発生しているんだろうなぁ……しかもまた第六台場かよ」
「あそこ呪われているんじゃないの?」
かもしれない。真面目な考察をするならば何度も戦闘やらゲートの展開やらがあったせいで歪みが発生しやすいんだろうけど。
半分ぐらいは僕たちのせいだし、ちゃんと調べないと。
ちなみに、他のみんなは何らかの封印を解くために行ったらしい。ファンロンモンと同種の存在みたいだけど僕も詳しくは聞いていない。向こうで万が一があると困るから僕がこっちにあてがわれたんだけど。
「でも嫌な感じはしないです?」
「うん……確かに何らかの要因で時空が歪んでいるんだけど、別に悪い予感とかは無いんだよな」
時空の狭間かどこかで大爆発でも起きたのか? そうでもしないとここまで妙な歪み方はしないと思うんだけど……第六台場に到着して、様子を見てみるが歪んでいるだけでしばらくすれば沈静化しそうだった。
どうやら僕の見立て通りどこかで歪みを発生させる何かが起きて、その余波でこうなっているらしい。
「とりあえず沈静化したら大丈夫だろう」
「原因は調べなくていいの?」
「うーん……もうどうにもできないだろうな。それに、持続的に歪みが起きているわけじゃないし、原因もまだ残ってはいないみたい」
歪みから原因を探知してみるが……元がなくなっているな。
これは何かが起きた後、みたいだ。それこそアポカリモンの自爆みたいなことが起こった後なんだろう。
誰かは知らないが、何かと戦っていたのか……すまないが、もう手遅れというか僕には手の出しようもない。
「というわけで、しばらく観察を……うん?」
なんか目の前の空間が歪み始めた。水面の波紋みたいにぐにゃりとまがり、何もないはずの場所から何かがはい出ようとしていた。
「なんです!? これなんです!?」
「か、カノンおばけだ!? これ、なんかマズイ感じのアレだ!」
「この前読んだクトゥルフ的な感じのアレなのか!?」
「――――誰がダゴモンじゃぁああああ!!」
と、はい出たナニカが何かを叫びながら僕を殴り飛ばした。ドルモンたちが僕を呼びながら驚いていたが、それよりも魔力強化している僕を殴り飛ばせるこの子の方がびっくりだよ!
「いきなり何すんだ!」
「それはこっちのセリフよ! いたいけな少女に向かってあんな邪神を話題に出すなんて!」
現れたのは、白いパーカーの少女。黒髪で年齢は僕とそう変わらないぐらいだろうか? どこかで見たような顔をしている気もするんだが……誰だ?
それによく見たらパーカーもウサミミがついているし。なんか服装もフリフリが多いというか……なんだろう、この時代を先取りし過ぎている感じの格好をした子は。
「なによその痛い人を見る目は。アタシはね、アンタを倒しに来たのよ橘カノン!」
「……え、僕?」
「そうよ! たまたま開いた時空の回廊、ホント運が良かったわ。ママに今日この日に道が出来ることを聞いておいてよかった! 同い年のアンタを倒してこそ、パパの高くなった鼻をへし折れるってものよ!」
なんかアグレッシブな娘さんだなぁ……親の顔が見てみたい。
そして鼻が高くなっているのは君じゃないのかとツッコミたい衝動に駆られるのはなぜだろう。というかチョップを一発叩き込みたいんだがなぜだろう。
「カノン、なんか力が抜けているね?」
「そりゃぁな……」
「えっと、どうするです?」
「アタシはパートナーデジモンとの2対2を望むわ。だからプロットモンは後ろに下がってもらえると助かるけど」
「……仕方がねぇ、プロットモンは下がっていてくれ。別に悪い奴でもないみたいだし、ちょっと相手すれば満足するだろうし」
「話が早くて助かるわね」
「で、お前の名前は?」
「た…………グロリアよ」
「どう見ても日本人顔だろうが嘘をつくな!」
「しょうがないでしょ! 名前を言うわけにはいかないのよ!」
時空の回廊を通っているってことは別時間の存在だろうし、なんとなく名前を言えない理由は分かったが……だからってグロリアって…………
「ないわー」
「その反応、予想通りすぎてムカつくわね!!」
「いきなり殴ってくるな!?」
「リロード、シャウトモン!!」
「!?」
殴ってきた瞬間、もう片方の手に握っていたものを見て驚愕した。それは、ここにあっていいはずのものではない。僕も実物を見たのは一度だけだし、それも未完成の代物だった。だけどそれは、黒いそれは完成品だった。
僕たちのデジヴァイスよりも大きく、その内部に入った機能はすさまじい。いまだ地球側のスペックが追い付いていないから製造はされていない代物。この前それとなく聞いてみたが、やはりまだ作られていないというのに――
「クロスローダー!? それに、そのデジモンは……」
黒い色の小竜型デジモン、頭にヘッドホンをつけて、三白眼をしたデジモン――アナライザーも機能しない? 現代には存在しないはずのデジモンってことか!? いや、だとしても情報ぐらいは見えるハズなのにプロテクトがかけられているだと!?
「この子がアタシのパートナーデジモンのシャウトモンよ! さあ行くわよシャウトモン!」
「ま――「名前を言うなバカ!」――相変わらずレスポンス速いね。というか本当にやるの? 勝てないと思うけど……」
「なせばなる! それにパパの鼻っぱしを折るためだもの!」
「相変わらず素直じゃないね」
「うるさいわね! 行くわよ!」
「ええ、戦いたくないんだけど……」
「来なさいよ! 臆病風に吹かれたっていうの!?」
「うん」
「ハッキリと言うな!!」
……なんでコントやってんだこの二人。
ドルモンも呆れてえぇ、って顔しているし。
というか戦わないなら帰ってほしいんだが。回廊がいつまでも開いているわけじゃないんだぞ。
「おっと、そうだった。シャウトモン、アタシのことはグロリアと呼んでね」
「なにそのネーミングセンス……まあいいや、グロリア(仮)が最初に突っ込んでね。オレは後から追いかけるからさ」
「分かったわ! ってことで覚悟!!」
「本当に行ったよ……」
少女――グロリア(仮)は手に槍を具現化させて僕に突っ込んできた――ってやっぱり魔法使えるのかよ!
まさかとは思っていたが、シャウトモンにプロテクトをかけたのもこの子か。
「あなたのことは前もって調べてあるからね、カンニングとはズルいんじゃないの?」
「必要だからしているまでだ! それに、戦っている最中にそんなこといっていられないだろうが!』
魔法剣で受け止めるも、地力が負けている? いや、エネルギー効率は彼女の方がいいのだ。僕はまだデジコアを宿してからの本格戦闘はしていなかったから以前とのギャップで力加減が上手くできていない。
それにこの感じ……この子もデジコアが体内にある?
「なんでデジコアが……」
「んー、やっぱり気が付くのねぇ……まあいいや。精々悩んで隙を見せなさい!!」
「なんか外道!!」
「戦っているんだからそれぐらいの作戦は使うわよ!!」
これ加減できないかも。
横を見ると、シャウトモンも嫌々戦っているのかなと思ったが――案外積極的だった。というかさっきとは気迫が違いすぎる。先ほどまでは無かったマイクを持っており、それを棍棒か何かのように振り回してドルモンを追い詰めていた。
「オラオラオラ! どうしたどうした!! このオレに恐れをなしたのかぁ!?」
「なんか性格違いすぎない?」
「あ、その子マイクを持つと性格が変わるのよ。だから気を付けてね」
「早く言えや!!」
剣を苦無の形に変化させて、投げつける。彼女も槍ではじくが、その隙に強化倍率を上げた右こぶしを叩き込む。それでも光のバリアーの様なものが展開されて、逆に弾き飛ばされてしまった。
体をバク転のように回して受け身をとり、すぐに体勢を立て直すが……いきなり突いてくるか!?
「あぶなっ!?」
「ほらほら、どうしたどうした!」
「ちょっと危険なことし過ぎやしませんかね!?」
「大丈夫死にやしないわよ!」
「信用できない気迫ッ」
むしろ鬼気迫ると言う感じなんだが。
ドルモンの方も火の球が襲ってきたりしていて、避け続けているが――流石にむかついてきたな。
魔力の強化ラインを変更する。体から雷がほとばしり、彼女の背後へと加速して回り込む。まだ未完成な高速移動技だが、上手くいって良かった。
「――ッ!?」
「インパクトアタック(仮)!」
拳に魔力を集中させて、強力な一撃を見舞いする。
彼女も防御するが――それを越えて、ダメージが入ったことだろう。横でもドルモンが鉄球でシャウトモンを吹き飛ばして近くの木に激突させていた。
「これで気が済んだか?」
「ぐぬ……ここまでとは予想外だったけど、勝負はまだ終わってないわよ!」
「もうやめようよ……なんというか、君とは本気で戦いたくないんだ」
「…………それでも、アタシは負けるわけにはいかないのよ!! シャウトモン、進化!!」
「分かった。君が、そう言うのなら――進化、オメガシャウトモン・ズワルト!!」
――――え、ズワルトって確か……その思考の一瞬の空白をついてか、漆黒の体をしたデジモンが僕たちの眼前に迫っていた。
「カノン!」
「ッ、ドルモン進化だ!!」
ドルモンの姿が変化していく。この状況、一番適しているのはグレイドモン。姿が変化していき、デジヴァイスXが強く反応する。グレイダルファーによる暴走を引き起こさないためにこちらからのサポートも上手く機能しているみたいだ。
何合か打ち合っているが、問題なく戦えている。これなら一気に勝負を決められそうだ。相手は強いデジモンだが――経験が足りない。明らかに、僕たちの方が圧倒的な数の修羅場をくぐっている。
「よし、行くぞ!!」
「オーケー。この頑固娘に鉄槌を降そう」
「いやそこまでしなくても……」
「生憎、アタシはそこまでされても反省しないわ! もう何十回もパパに怒られているもの!」
「なんだろう、この子の父親に同情したくなってきた……アレ? 涙が…………」
というかこの子、実はそうやってお父さんにかまってほしいだけなんじゃ――僕がそう思ったとき、空間の歪みからバグラモンの右手――の様なものが飛び出してきた。
「――パパ!?」
「アンタのお父さんってどんな人や!? っていうか人!?」
「べ、別にパパなんてカッコいいな、とかもっと甘えたいなとか、いつも素直になれなくてアタシのバカとか思ってないわよ!!」
「ゴメン、そこまで聞いていないというか語るに落ちているんだが」
「い、今のなし!」
といっても――というか君たちその右腕に掴まれていますよ。
「うわあああああ!?」
「やっぱりこうなるのか」
シャウトモンは達観したようにそう言ったが……もしかして、何度もこういったことはあるんだろうか。
そして、彼女らが消えて――歪みもなくなった。どうやら帰れなくなる前に彼女の父親が連れ戻したらしい。何だか気苦労が絶えなさそうな人なんじゃないかと思う。
「……ああ、そうか」
「同化したのかグレイドモン」
「あの子どこかで見たことあるなと思ったら、カノンに似ているんだ」
「そうかぁ? そんなことないと思うけど」
「結構似ていると思ったんだけどなぁ……カノンはそう思わないの?」
「うーん……見たことあるような、ないような?」
結局わからずじまいである。
この時の騒動が後に何か起こる前フリということもなく、結局のところよくわからんイベントの一つという感じで終ることとなった。
ヒカリちゃんたちが紋章を使って封印を解除して完全体以上の進化が出来難くなったという話で驚いてそれどころでもなくなったし。
◇◇◇◇◇
「それでお前たち、何をしていたんだ? いや、シャウトモンは言わなくていい。どうせいつものことだろう」
「えっと……てへ?」
「――――」
「痛いッ!? なんで愛娘にいきなりチョップを叩き落とすのよ!」
「いや、なんとなくこうした方がいい気がして。というか、安易に時間さかのぼるなよマトイ」
「パパがこの前遊園地に連れて行ってくれる約束破ったからよ!!」
「それだけで歴史を変えようとすんなよな!! それに遊園地に連れていけなくなったのもお前がやらかしたことの後始末があったからだろうが!」
「しょうがないでしょうがパパたちに似て巻き込まれ体質なんだからッ!」
「二人とも、ご近所迷惑よー……静かにしないと、撃ち抜いちゃう♡」
「「……すいませんでした」」
「うん、よろしい。それじゃあご飯出来たから手を洗ってきてね」
「結局一番怖いのはママだったか……」
「何か言ったかかしら、マトイちゃん?」
「いえ、何でもないデス」
一体この少女は何者なんだろうなー(棒)
あ、クロスローダーなどのことはこれ以上やりません。
とりあえず、次回で3章は終わりの予定。
4章の大まかなプロットも完成しましたので、そう時間を置かずに投稿できると思います。